大久保 勲の人民元論壇    
     第4号 2004.12.15発行
福山大学経済学部教授
大久保 勲
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2005年は人民元相場問題がますます
注目される一年となろう
  中国の温家宝首相が11月28日、ラオスのビエンチャンで記者団に対し、人民元制度の変更について、現況では新しい政策を打ち出すのは難しいと述べたこともあり、近いうちに人民元切上げが行われる可能性はほとんど無くなってしまった。
 2004年も間もなく終わろうとしているが、この一年、人民元問題はにぎやかな議論を巻き起こした。人民元に関する多くの書籍が出版された。しかし、どうも人民元問題の本質はあまりよく理解されていないように感じる。
 中国国内でも、個人の外貨預金が減って、人民元預金が増えた。多くの人が人民元切上げを期待したわけだ。外商直接投資もかなり増えたが、この中にも人民元切上げを期待した資金の流れがかなりあるようだ。
 中国の外貨準備高が去る9月末現在で5145億ドルとなり、年初より1112億ドルも増えた。普通の市場経済の国であれば、通貨が切上げに追い込まれて当然といえる状況である。われわれは無意識のうちに、中国も市場経済の国と思ってしまう。中国のパソコンメーカーがIBMのパソコン部門を買収するような時代になったのだから、中国が市場経済の国だと思っても不思議ではない。しかし、中国はまだまだ市場経済の国とはいえない。だから、中国政府は自国に不利益になる人民元切上げを断固阻止する。それでは、中国は、人民元切上げを拒んで何もしていないのか。決してそうではない。中国の輸出入は2004年に1.1兆ドルに達すると見込まれ、日本を追い越して、米国、ドイツに次いで世界第三位の貿易国となることが確実となっている。中国が世界経済の動きと無縁であるわけがない。
 本稿執筆中の12月14日、米国は今年5回目の利上げを決めるかもしれない。
 去る10月29日から、中国は0.27%の利上げをした。今回の利上げは、一に金利市場化への準備であり、二に人民元為替相場を一定程度自由に変動させるための準備、との見方がある。12月14日に、もし米国が利上げをすれば、2004年6月以来5度目の利上げとなる。そうなれば米国の相次ぐ利上げで、ホットマネーの動きにもある程度変化が出てくることになるかもしれない。
 中共中央政治局が去る12月1日に開いた会議で、2005年には穏健な財政政策と通貨政策を実行する、とした。アジア通貨危機の影響を受けて、中国は1998年から積極的財政政策を実施した。積極的といえば聞こえはいいが、7年近くの間に長期建設国債を9100億元も発行した。12月3日から開かれた中央経済工作会議でも、穏健な財政政策と通貨政策を実行しなければならない、とした。北京の学界では、中国の金利は近いうちに上昇する兆候はなく、金利上昇があるかどうかは、今後3ヶ月ないし5ヶ月見る必要があるとの見方も出ている。当然、米国の金利動向も影響するが、米国金利がどんどん上昇する可能性はあまり大きくなかろうとの見方もされている。しかし、仮に人民元為替相場を7〜8%切上げるとすると、貿易収支はかなり大きな赤字となり、通貨政策もかなり緩め、マネーサプライも増加させなければならなくなる、との予測がある。従って、2005年のマクロコントロールは人民元為替相場が“綱”だと説く学者もいる。
 9月末現在で5145億ドルにも達した外貨準備高をもった中国としては、外貨準備の増加が外為管理の主な目的ではなくなってしまった。手元にある近着の中国紙によると、中国の域外投資も手続きが簡素化されて、地方政府の権限も拡大している。海外に移住した人が国内の資産を海外に持ち出すことも出来るようになり、相続した遺産も海外に持ち出すことが出来るようになる。つまり合理的、合法的で,規則に合致する外為需要を出来るだけ満足させ、出来るだけ手続きを簡素化する方向に向かいつつあるといえる。海外留学する場合の学費や生活費として外貨を購入できる限度も拡大された。最近は、出入国の際の人民元紙幣の持ち出し、持込みの限度額まで拡大されることとなった。
 それでは、現時点で人民元問題はどのように考えればよいのか。
 現行の為替相場制度を改革することは中国政府の既定の方針であることは確かだが、どのように改革されるのか、その方向について人々は異なる理解をしている。中国の為替相場改革の目標は公式にいえば、およそ次のようになる。
 “人民元為替相場形成メカニズムを完全にし、人民元相場の合理的で、均衡の取れた水準での基本的安定を保持する。有効にリスクを防止する前提で、選択的且つ段取りをつけて、国境をまたぐ資本取引の制限を緩め、徐々に人民元の資本取引の交換性を実現する。”
 これはどのような意味か。いま人民元の対米ドル相場は1米ドルが8.27元から8.28元の間に固定された状況になっている。中国当局としてはもっと柔軟性を持たせたい。次に、為替相場水準が主として市場の需給関係で決まるようにしたい。第三に、更に市場経済体制に相応しい為替相場メカニズムを作り上げたい。
 国家外為管理局の関係者も、改革の既定方針は為替相場形成メカニズムに対する改革であって、為替相場水準を調整することではないと述べた、と報じられている。改革は基本的安定を保持する前提のもとで進めなければならず、大きな変動を防止しなければならない。したがって、人民元相場改革は人民元切上げと同義語ではない。外為管理局スポークスマンによれば、為替相場メカニズムを完全にすることの核心は、為替相場形成の市場化程度を高めることであり、為替相場の弾力性を増加させることであって、簡単に為替相場水準を調整することではない、としている。したがって、人民元相場水準を単に切上げるといったやり方は賢明なやり方ではない、としているとのことだ。
 長期的に見れば、為替相場の柔軟性を増した後、つまり変動幅を拡大した後、相場は上昇する可能性もあり,下落する可能性もあり、一つの方向に変化することは不可能であると見るべきであろう。国際市場の金利動向も影響してくる。人民元と外貨の金利差も縮小したり反転する可能性もある。金利動向次第で、市場資金の流れる方向に変化が生じる可能性もある。
 為替相場改革の時期については、外為管理局のスポークスマンは、以前に次のように表明したことがある。改革の進行過程は中国の経済発展水準、経済運行状況、国際収支状況およびその他の一連の改革措置によって決まり、必ず緩やかに推進する。
 為替相場形成メカニズムを改革するために、中国にとって行うべき準備作業はまだ大変多い、とされている。一つの鍵となる要素は、つまり現在の金融市場の主体が将来の更に柔軟な相場メカニズムに適応出来なければならないが、今の国有銀行にはこの面で大変多くの欠陥が存在するとみられている。中国が金融改革を鋭意進めているのも、WTO加盟五年後の2006年12月をにらんでのことだが、海外からの人民元切上げ圧力に耐えるためにも、金融改革はゆるがせに出来ない。残り少ない2004年には人民元切上げはないと確信してよかろう。そうだとすれば、将来中国が人民元相場の変動幅を拡大するにしても、あるいは単純な切上げに追い込まれるにしても、2005年の為替相場形成メカニズムがどうなるか。一層注目される一年となることは間違いないようだ。

                                                     (2004年12月14日記す)

資料1:国家外貨管理局スポークスマンの外貨管理についての記者会見(2004年12月10日)

資料2:中国外貨管理局による各国通貨と米ドルの換算表(2004年12月)
     http://www.safe.gov.cn/Statistics/zsl_0412.htm より
                            (人民元=CNY)