大久保 勲の人民元論壇    
     第16号 2005.12.28発行
福山大学経済学部教授
大久保 勲
<目次>へもどる
人民元相場は徐々に弾力性を増し、かつ平穏な動きが続く
 最初に結論を書いておきたい。人民元相場は当面、大きな変化は無い。外貨準備が多すぎるので、当局による市場への介入を出来るだけ減らし、市場の需給で相場が動くようにしている。当局は人民元の対米ドル相場が緩やかに上昇するのは中国にとって有利であり、容認している。
 
1.人民元相場形成の中での“市場の需給”の重視
 去る12月21日付けの『経済日報』に、中国人民銀行通貨政策委員会が開かれた記事が出ていた。その報道の内容も特別なものではないが、人民元相場に直接関係ある部分を以下に紹介しておきたい。
 「中国人民銀行通貨政策委員会2005年度第四・四半期例会が最近北京で開かれた。次の段階の通貨政策は、引き続き穏健な通貨政策を行なうべきだとした。総体としてみて、当面の金融運行は良好であり、新しい人民元相場形成メカニズムは平穏に運行し、人民元相場の弾力性が徐々に強まっている。相場形成の中で、市場の需給が基礎的作用を発揮するようにし、人民元相場を合理的で均衡の取れた水準で基本的安定を保持するようにする。」
 この市場の需給の重視については、過去にも人民銀行関係者の発言がある。
 例えば、11月に、人民銀行副行長兼上海総部主任の項俊波氏は、今後人民元相場の変動は主として市場の需給によって決まるのであって、当局が相場水準に対して一度に調整することはしない,と強調した。
 また、中国人民銀行蘇寧副行長は、およそ次のように述べている。中国は国内外の経済情勢の変化にもとづいて、引き続き人民元相場形成メカニズム改革を推進する。特に、相場形成の中での市場の需給の基礎的作用をさらに発揮させなければならない。
   (2005年11月16日付け『経済日報』)
 市場の需給で人民元相場を形成するようにすることは、当局が相場形成に介入し、結果として外貨準備を積み上げることを出来るだけ回避しようということである。去る9月末現在、外貨準備は7690億ドルとなり、前年末比1591億ドルも増えている。
 ところで、12月中旬に連日のように人民元は高値を更新した。上海外貨取引きセンターの人民元相場は12月13日、1ドル=8.0751元で取引きを終えた。上昇率は累計で0.43%となった。12月14日には、1ドル=8.0746元で取引きを終えた。上昇率は累計で0.44%となった。12月19日には、対ドルで続伸し、1ドル=8.073元で取引きを終えた。7月21日の切り上げ後の最高値を5営業日連続で更新した。
 米ドル現金買入価格は既に8元を突破した。11月25日、中国銀行等主要な外為指定銀行は米ドル現金買入価格を7.9997元とした。国家外為管理局のスポークスマンは、これは現行の為替相場管理の関係規定に符合し、銀行の正常な市場行為だと述べている。
 
2.人民元相場形成メカニズム改革に対する中国人民銀行の見方
 このように徐々に人民元が強くなっていくことをどのように理解したらよいのか。12月5日付けおよび同6日付けの『経済日報』に、中国人民銀行が書いた『人民元相場形成メカニズム改革問答』の一部が出ている。特に目新しい内容ではないが、人民銀行の基本的な考え方が理解できるので、その一部分を以下に紹介しておきたい。


 ・人民元相場形成メカニズム改革は、中国の経済金融の発展にどのような影響があるか。
 人民元相場形成メカニズム改革の実行と、人民元相場水準の適度な引き上げは、中国のマクロ経済、企業と人民生活に対し、総体として有利な影響がある。マクロ経済の面からみると、人民元相場を適度に引き上げると、米ドルで計算した中国のGDP,一人当たりGDPは相応に上昇し、中国人民の富が相応に増加する。為替相場の上昇は、輸入拡大に有利であり、適当に輸出を減らすのに有利であり、中国の当面の貿易黒字と外貨準備増加が速過ぎる状況を変えることが出来、従って徐々に輸出入の基本的均衡と外為収支の均衡を実現し、資源の使用効率を高め、人民元の切り上げ圧力緩和にも有利であり、通貨政策の独立性を強め、金融コントロールの主体性と有効性を高め、経済総量の均衡を促進する。長期的にみて、人民元相場形成メカニズム改革は、内需を主とする経済の持続的発展戦略実現に有利であり、需給構造と産業構造を改善するのに有利であり、経済成長方式の転換促進と資源の最適化配置に有利であり、国民経済全体の効果と利益を高める。


 ・人民元相場形成メカニズムの改革は中国の外貨準備にどのような影響があるか。
 中国では過去には輸出で獲得した外貨を銀行に売らねばならなかった。輸出企業が手元においた外貨は少なく、外貨資金は外貨準備となった。人民元相場形成メカニズムの改革後、中央銀行は市場での外貨の買いを減らせるであろう。外貨資金が以前よりも多く企業の手元にある。個人も企業も外貨で対外投資が出来る。


 ・人民元切り上げは国内資金需要状況に影響があるか。
 人民元切り上げは主として国内資金需給の構造に影響を生じ、資金総量には影響しない。
 人民元切り上げは、中国の貿易黒字と資本流入を減らす助けとなり、中国の目下の外貨準備増加が速すぎる状況を変える助けとなる。人民元の切り上げは、企業の輸入コストを引き下げることが出来、企業の輸入増加に有利である。人民元の切り上げは、付加価値が低く、競争力が劣る輸出企業には不利な影響があるであろう。従って、社会の資金が付加価値が高く、競争力の強い企業に移転する。
 人民元相場形成メカニズム改革後、国際資本の人民元切り上げ期待はある程度減少した。加えて、最近、米連邦準備制度理事会(FRB)の金利引き上げで、国際金融市場の金利がある程度高くなっており、人民元切り上げで外資の流入が減るであろう。
 ところで、この米ドル金利の引き上げは今後どうなるか。FRBは12月13日、フェデラルファンドの誘導目標を4%から4.25%に引き上げた。これは2004年6月以来、連続13回目の0.25%ずつの金利引き上げである。市場では、FRBはグリーンスパンが出席する最後の会議となる次回2006年1月31日の会議で4.5%に引き上げるとの予測がある。あるいはグリースパン議長の後任としてバーナンキ大統領経済諮問委員会委員長が出席する3月28日の会議で4.75%に引き上げられるのではないかとの予測もある。フェデラルファンドの誘導目標引き上げは、円安をもたらし、人民元に対する切り上げ圧力も緩和している。
 
3.今の相場をどう見るか
 人民銀行は11月9日、≪2005年第三四半期中国通貨政策執行報告≫を出した。その中で、「7月21日以来、新しい人民元相場形成メカニズムの運行は平穏で、人民元相場は合理的で均衡の取れた水準で基本的安定を保持している」と記している。
 中国人民銀行が11月9日に出した通貨政策執行報告では、人民元為替相場改革後、人民元相場が合理的で均衡の取れた水準で基本的安定を保持し、正常に変動するにつれて、当面、人民元切り上げ期待は初歩的に弱まる兆しを呈している、としている。
 ≪報告≫は、人民元切り上げ期待が初歩的に弱まる兆しを呈しているのは、具体的には次の三方面である。一に、域内人民元先物市場と域外ノンデリバラブルフォワード(NDF)価格が金利平価で計算した先物相場水準に収斂しつつある。域内人民元先物市場1年先物取引価格は10月31日に1ドル対7.7950元で、域外一年先物NDFは7月22日最高時の1ドル対7.7100元前後から10月31日には1ドル対7.7920元と狭まった。二に、銀行のカウンターでの先物売り為替買い為替契約が、ネットで買い為替からネットで売り為替に変わった。8月分の銀行カウンターでの先物ネットの売り為替契約は8.37億ドルだったが、9月分はさらに12.36億jに拡大した。三に、外貨の流入速度がある程度緩慢となり、外貨準備の増加速度が明らかに遅くなった。(2005年11月10日付け『経済日報』)
 
中国国際收支統括表
 
注:2005年は上半期。
 
4.国際収支均衡を目指す中国
  11月27日,国家外為管理局は初めて2005年上半期の《中国国際収支報告》を出した。報告によれば、2005年上半期は経常項目、資本と金融項目とも黒字であった。経常項目の黒字は673億ドル、資本と金融項目の黒字は383億ドルであった。6月末の外貨準備は7110億ドルとなっているが、既に9月末7690億ドルと公表されている。
 2005年上半期、中国経済成長率は9.5%で、推測によれば、うち純輸出によるものは、約3.6%であった。輸入の支払い能力から見ると、中国の外貨準備は14.3ヵ月分の輸入額に相当する。債務償還能力から見ると、6月末の外貨準備の短期対外債務に対する比率は503.2%であり、国際的に公認の100%の警戒ラインよりもはるかに高い。デット・サービス・レシオつまり元利返済額の対財・サービス輸出比率は2.1%で国際的に認められている15%の警戒ラインよりもはるかに低い。総じて言えば、最近の中国の国際収支危機のリスクはかなり小さい。ただし、依然として少なからず問題がある。具体的には、貨物貿易の輸出増加がかなり速く、輸入増加が相対的に緩慢で、貿易黒字が大幅に増加し、貿易摩擦の増加が多く、対外貿易の質と利益を更に高めるべきであり、高いエネルギー消費、高い汚染製品は引き続き抑制すべきである。短期対外債務等ゆれがかなり大きな資金流入の増加がかなり速く、いったん情勢に変化があれば、集中的に流出するリスクが存在する。外貨準備の増加がかなり速く、これによる通貨政策、インフレおよび資産バブル等の面への影響に注意すべきである。
 外為局国際収支分析小組は今後採るべき政策の方向は次の通りになるだろうとしている。貿易構造調整を促進し、引き続き輸出増加を保持すると同時に、積極的に輸入を拡大し、貿易黒字を減らし、外資利用の質を高め、資本流出のルートを広げ、国境をまたぐ資金流動の監督管理を強化し、外為市場建設を速め、人民元相場形成メカニズムを完全にする。(2005年11月28日付け『経済日報』)
 国際収支問題と関連して、中国は増えすぎる貿易黒字を決して望ましいものとは考えていない。低付加価値、価格競争力が手段の対外貿易増加方式は、中国の輸出製品構造不合理、貿易摩擦頻発をもたらし、中国の対外貿易の長期的発展に不利、とみている。加工貿易方式による輸出のハイテク製品がなお絶対多数を占めている。その上、外商投資企業がハイテク製品輸出の主力である。サービス貿易については、2005年上半期は赤字が39億ドルで前年比33%減少した。これは5年来、初めての減少である。
 サービス業の赤字は主として運輸、保険等の領域に集中している。黒字は主として、観光その他商業サービス(中継貿易、リース、コミッション等を含む)領域である。
 一般に言えば、先進国家のサービス業はその国の経済総量の60%以上であるが、中国は40%に満たない。2004年に中国のサービス輸出は輸出総額の9%に過ぎない。(2005年11月28日付け『経済日報』)   
 (2005年12月28日記す)


           <目次>へもどる