大久保 勲の人民元論壇    
     第17号 2006.1.10発行
福山大学経済学部教授
大久保 勲
<目次>へもどる
新しい元相場基準値(仲値)の決め方は元相場にあまり影響が無い
 新年早々、人民元問題が話題となっている。去る1月4日の朝刊に、人民元交換レートを銀行同士で決めることが出来るようになったことと、基準値がこれまでの前日の終値ではなく、取引センターが毎朝、特定の銀行に相場水準を問い合わせ、各行の取引量の加重平均などをもとに基準値を決定し、午前9時15分に公表することになったこと、の二点が報じられた。一部の新聞報道では、制度上は基準値を大きく動かすことも可能になる、とのことであった。しかし、結論から言えば、今回の決定は西側の外為市場のやり方を取り入れ、外為市場の市場経済化が一層進んだことにはなるが、新しい基準値(仲値)決定方式が相場に大きな影響を与えることはない。また、いわゆるマーケット・メーカーといわれる取引の多い銀行が毎朝,外貨取引センターに報告する相場から最高値と最低値を除去したうえ、報告する銀行の取引量等を勘案して、単純に加重平均するのではなく、通貨バスケットを参考にする点も依然そのままであり、当局の裁量の余地がかなりあると見られる。


銀行間直物外為市場人民元取引マーケット・メーカー銀行一覧
表:銀行間直物外為市場人民元取引マーケット・メーカー銀行一覧
資料:中国外匯管理局http://www.safe.gov.cn/News/N449.htm


 具体的に新方式導入後の相場の動きを見てみたい。1月4日には一時、対ドルで1j=8.0670元となり、昨年7月21日以降の最高値を更新した。1月5日には、一時、1j=8.0646元となった。5日の終値は8.0657元であった。切り上げ後の上昇率は0.55%となった。6日は9営業日ぶりに反落した。ノン・デリバラブル・フォワード(NDF)は、1年物の先物は1j=7.7元程度とのことで直物に比して約5%上昇した水準にある。

 これからの動きを知るためには、先ず今回の変更の内容を正確に理解しておく必要がある。中国人民銀行は去る1月3日、「中国人民銀行の銀行間外為市場を更に改善することについての公告」中国人民銀行公告[2006]第1号を出した。その内容は以下の通りである。

 市場の需給を基礎とした、通貨バスケットを参考にした管理された変動相場制度を改善し、外為市場の発展を促し、外貨取引方式を豊富にし、金融機関の自主的な相場決定能力を高める為、人民銀行は銀行間直物市場を更に改善し、人民元相場の仲値形成方式を改良することを決定した。
一、 2006年1月4日より、銀行間直物市場において相対(あいたい)取引方式(以下OTCと略称)を導入し、同時に取引所による仲介取引方式を保留する。銀行間外為市場の取引主体は集中授信、集中競売方式(現行方式)を選択してもよく、また双方授信・双方清算方式を選択し、相対取引を行なうことが出来る。同時に銀行間市場でマーケット・メーカー制度を導入し、市場に流動性を提供する。
二、 2006年1月4日から、中国人民銀行は中国外貨取引センターに対し、毎営業日の午前9時15分に当日の人民元対米ドル、ユーロ、日本円および香港ドルの仲値を対外発表し、当日の銀行間直物外為市場(OTC方式と現行の取引所方式を含む)および銀行カウンター取引相場の仲値とする権限を与える。
三、 OTC方式導入後、人民元対米ドル仲値の形成方式をこれまでの銀行間外為市場での現行の取引所方式で決まった終値で確定する方式から、中国外貨取引センターが毎日、銀行間外為市場開始前にあらゆる銀行間外為市場マーケット・メーカーへ相場問い合わせを行い、すべてのマーケット・メーカーの報告した相場を人民元対米ドルの仲値の計算のサンプルとし、最高値と最低値を除去し、残りのマーケット・メーカーの相場を加重平均して、当日の人民元と米ドルとの仲値とする。加重平均は、中国外貨取引センターがマーケット・メーカーの銀行間外為市場での取引量および相場状況等の指標を綜合して確定する。
四、 人民元対ユーロ、日本円および香港ドルの相場の仲値は、中国外貨取引センターがそれぞれ当日の人民元対米ドル仲値と午前9時の国際外為市場のユーロ、日本円および香港ドル対米ドル相場から裁定して確定する。
五、 本公告公布後、銀行間直物外為市場人民元対米ドル等通貨取引相場の変動幅と銀行の対顧客の米ドル公示相場値幅は現行規定通りとする。すなわち毎日の銀行間直物外為市場米ドル対人民元の取引相場は中国外貨取引センターが公布した米ドル取引仲値の上下0.3%の幅の中で変動し、ユーロ、日本円、香港ドル等米ドル以外の通貨対人民元の取引相場は中国外貨取引センターが公布した米ドル以外の通貨取引仲値の上下3%の幅の中で変動する。銀行の対顧客米ドル公示相場は最大の売買差が中国外貨取引センターが公布した仲値の1%の非対称性管理を行なう。電信売相場と電信買相場の差が当日の取引仲値の1%を超えず、且つ売相場と買相場が形成した区間に当日の取引仲値が含まれていればよい。銀行の対顧客現金売相場と現金買相場の差は取引仲値の4%を超えてはならない。銀行は規定の幅の中で当日の米ドル公示相場を調整してよい。
 中国人民銀行は国内外の経済金融情勢に基づいて、市場の需給を基礎とし、通貨バスケットを参考にして相場を変動させ、人民元相場に対して管理と調節を行い、人民元相場の正常な変動を守り、人民元が合理的で均衡の取れた水準で基本的に安定し、国際収支の基本的均衡を促進し、マクロ経済と金融市場の安定を守る。
中国人民銀行
2006年1月3日
 
 以上が公告の全文である。国家外為管理局のホームページに、1月3日付けで、中国人民銀行スポークスマンが記者の質問に答える形での問答が出ている。参考になる部分が多いので、主要な部分を以下に記しておきたい。
 
一、 OTC方式とは何か、これまでの方式とどこが違うのか?
答: OTC方式は、銀行間外為市場取引主体が相互に信用を与えることを基礎として、自主的に相対で相場を出し、相対で清算する直物外貨取引である。
 OTC方式と取引所仲介方式の違いは、一に信用の基礎が異なる。OTCでは双方が信用リスクを負担する。取引所方式では、取引所を取引の相手とし、取引所が市場取引者の信用リスクを負担する。二に、相場形成メカニズムが異なる。OTC方式では双方が値決めをし、取引所方式ではコンピューターで取引相場が決まる。三に、清算のやり方が異なる。OTC方式では取引双方が行い、取引所方式では中国外貨取引センターが責任を負って集中清算する。
 
二、 なぜOTC方式をやりながら、取引所方式を残すのか?
答: OTC方式は国際外為市場の基本制度である。世界の直物外為市場の大部分の取引はOTC市場に集中している。 米国を例に取ると、OTC方式による成約が取引き全体の90%以上を占める。OTC方式はコストが低く、信用リスク分散等の優れた点がる。
1994年に中国が外為管理体制改革を実施したが、信用の基礎が弱く、従来の外貨調整センターが地域ごとに分割されていた条件下で、直接OTC方式を導入することは現実的でなかったので、人民銀行は取引所に集中する方式をとった。2004年には銀行間外為市場の成約量は2090億ドルに達し、1995年の3.2倍となった。
 2005年7月21日、人民元相場形成メカニズム改革は順調に実施された。人民元相場改革の総体的な目標は、市場の需給を基礎とする、管理された変動相場体制を作り、人民元を合理的で、均衡の取れた水準で基本的に安定させることである。従って、外為市場の広さと深さを拡大し、多種の取引方式を併存させ、市場の需給関係の変化を充分に反映させることが、人民元相場形成メカニズムを改善するための重要なポイントである。
 OTC方式の導入初期に、中小金融機関は短期のうちに信用を受けることには一定の困難があることを考慮すると、中小金融機関の外為取引の需要を満たすために、銀行間直物取引所方式を保留することはなお必要である。
 
三、 銀行間外為市場のマーケット・メーカーとは何か。なぜOTC方式の導入と同時にマーケット・メーカー方式を導入するのか?
答: 銀行間外為市場のマーケット・メーカーは、銀行間外為市場で人民元と外貨の取引を行なう時に、市場のメンバーに持続的に売値と買値を提供することを引き受け、自身の売買行為を通じて、市場に流動性を提供する銀行間外為市場メンバーである。マーケット・メーカー制度は国際外為市場の基本的な制度である。
 外為市場の発展につれて、大機構は市場での人民元対外貨の為替相場の主要な出し手となる。OTC方式、取引所方式と銀行カウンター取引方式の間の価格(相場)伝導メカニズムを作り、人民元相場形成メカニズムをさらに改善する。
 
四、 新しい人民元相場仲値の形成方式はどのようなものか?いつから実施するのか?
答: 2006年1月4日から中国人民銀行は中国外貨取引センターに毎営業日午前9時15分に当日の人民元対米ドル、ユーロ、日本円と香港ドルの仲値を公布し、当日の銀行間直物外為市場(OTC方式と取引所方式を含む)および銀行カウンター取引相場の仲値とする権限を与える。(人民元対米ドル仲値形成方式は公告と同じ)
 
五、 なぜ人民元相場の仲値形成方式を改善しなければならないのか?
答: 2006年1月4日から銀行間直物相対(あいたい)外為取引が始まった。銀行間外為市場の取引主体は、OTC方式か取引所仲介方式を自主的に選んで、直物外為取引をする。取引方式の多様化で、銀行間仲介取引市場の終値には広範な代表性がなくなる。新しい市場フレームワークのものとでは、マーケット・メーカーは銀行間外為市場流動性の主要な提供者であり、市場リスク分散の主要なルートである。マーケット・メーカーの出す相場が外為市場の需給の変化を集中的に反映している。
 
六、 人民元相場仲値形成方式の改善後、人民元相場の変動区間管理にはどのような変化があるか?
答: 現行規定どおりである。
 
七、 新しい仲値形成方式の下で、人民元相場には大幅な変動が出現するか?
答: 人民元相場改革の総体的目標は、市場の需給を基礎とした、管理された変動相場体制をつくり、人民元相場を合理的で均衡の取れた水準で基本的に安定させることである。人民元相場の大幅な変動は、中国の経済金融にかなり大きな衝撃を与える可能性があり、中国の根本的利益に符合しない。新しい人民元相場仲値形成方式は、わずかに仲値の生成方式を変えただけであり、銀行間直物外為市場の人民元対米ドル等通貨の変動幅と銀行の対顧客米ドル公示相場の売買差は現行規定通りであり、人民元相場に大きな変動は出現し得ない。
 
八、 銀行間直物外為市場にOTC方式を導入し、人民元相場仲値形成方式改善はどのような重要な意義があるか?
答: 一に、多種の取引方式を併存させて、外為市場の深化発展を促進する。二に、人民元相場仲値の代表性を高める。マーケット・メーカーの報告する相場は、マーケット・メーカーが当日の予想売り為替、買い為替、為替持高および国際外為市場の動きを見て判断するものであり、人民元相場が市場の需給を基礎とするのに有利である。三に、外為市場の相場形成とフィードバックメカニズムを育て、金融機関が主体的にリスク管理を進め、国際収支調節メカニズムの建立を促進し、外為市場の需給を徐々にバランスさせ、国民経済が外部の衝撃に対応する弾力性を増強し、資源配置の効率を高めるのに有利である。四に、金融機関特にマーケット・メーカーの相場自主決定能力等核心となる競争力を高め、金融機関が企業と個人の為に、さらに豊富で多様な為替相場リスク管理のツールを提供することを奨励するのに有利である。
(2006年1月9日記す)


           <目次>へもどる