大久保 勲の人民元論壇    
     第19号 2006.4.4発行
福山大学経済学部教授
大久保 勲
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胡錦濤訪米でも人民元相場には著変なし
 上海外為市場で3月31日、1時1ドル=8.0168元まで上昇し、昨年7月下旬の切り上げ後、初めて8.01元台をつけたと報じられている。最近、人民元の上昇ペースが上がっている。4月の胡錦濤国家主席の訪米を控え、中国当局が米国への配慮から人民元の対ドル相場を高めに誘導するとの観測が浮上している。来る4月20日に予定されている米中首脳会談で人民元相場が焦点になるのは確実とされている。しかし、結論を先に記せば、胡錦濤訪米でも人民元相場には著変なし、とみたい。
 対中貿易赤字の拡大に直面する米政府は四月、多国間、二国間双方の枠組みを活用しながら中国に貿易政策の見直しを集中的に迫る方針、と報じられている(4月3日付け日経)。


画像:「3月20日開催の中国発展高層論壇」を伝える人民網
「3月20日開催の中国発展高層論壇」を伝える人民網(people.com.cn)


 一方、最近の中国の新聞報道で、胡錦濤訪米を意識した報道が目に付くようになってきた。具体的には、例えば、3月28日付けの『経済日報』は、周小川人民銀行総裁が3月20日に国務院発展研究センター主催のフォーラムで行なった“中国の貿易バランスと為替相場関連の問題”についての発言と、人民銀行スポークスマンの為替相場と貿易バランスについての単独インタービューに、ほぼ1ページ全面を割いている。周小川総裁の発言には次の内容が含まれている。
為替相場改革を行って8ヶ月来、中国は積極的に外為市場を育て発展させてきたが、中国の各種企業と金融機関が変動相場制によりよく適応するには外為市場学習と適応の時間が必要である。
貿易バランスのためには、中国は一つの発展途上の大国経済として、就業圧力が大きく、金融系統が尚脆弱であり、漸進的で、コントロール可能な方法で調整するしかない。
中国政府は既に内需拡大、貯蓄率引き下げ、市場開放、為替相場変動および輸入拡大等の政策の組み合わせで、国際収支バランス改善を図っている。こうした措置を徐々に実施することで、中国は貿易の基本的バランス実現に2−3年かかると予測している。しかし中国のエコノミストには、中国が全世界に対する大体の貿易バランスを実現しても、米国は巨額の貿易赤字を抱えている可能性があり、中米双方でバランスさせることは難しいと懸念している。問題は中国側には無い。
米国側は双子の赤字削減面で、貯蓄率引き上げ面で、動きがたいへん鈍い。
米国の一部の人士は為替相場がバランス調整のカギだと信じている。中国内部にも為替相場の作用が最大だと信じているものがいる。ただし、この種の見方は統計上検証されておらず、中国の多年にわたる貿易と実際の有効為替相場の数字はこの観点を支持していない。したがって、単に、かつ過度に為替相場調整に依存して経常取引のバランスを実現させるという見方は決して頼りにならない。
IMF規則では、各国は自己の為替相場制度を自主選択できることになっている。したがって、どのような相場体制も“為替相場操作”と定義づけることは出来ない。
中国の貿易バランスを見る場合、何年間かの数字を見るべきであり、1年だけを見るべきではない。
もし似たような国家の対外債務水準が同じでなく、外商直接投資残高水準が同じでなければ、外貨準備も同じで無いであろう。対外債務は返済せねばならない。直接投資は配当がいるし、撤退するかもしれない。ホットマネーがあれば、機をうかがって流出する。これらの要素は皆、外貨準備の数量の基準に影響する。一人当たりの尺度で見れば、中国の外貨準備は多くない。
 人民銀行スポークスマンとの単独インタービューでは、次のような発言もある。
 「今後、中国は人民元相場形成メカニズムを更に改善し、外為市場を発展させ、人民元相場の弾力性を増加させ、金融機関の相場自主決定能力とリスク管理能力を高める。現在のメカニズムで、市場の変化に基づいて、人民元には自主的に上下に変動する余地と能力があり、したがって、今後、人民元為替相場は当局が一度で調整をすることはなく、外為市場の需給と国際主要通貨間の相場の変化に基づいて自主的に変動する。」
 3月24日付け『経済日報』では、“わが国(中国)の対外貿易は総体としてバランス”との見出しで、次の点を指摘している。2004年の貿易黒字は輸出入総額の2.8%に過ぎず、2005年の黒字が輸出入総額に占める比率は7.1%であり、比率は実際に決して高くない。2005年の黒字増の原因としては、一に国家のマクロコントロール政策で投資が緩慢となり、輸入需要がある程度下降したこと、二に周辺国家の対米、対欧貿易黒字が産業移転で中国に移転した。三に原油等の大幅値上げで、輸入需要が抑制された。四に国内生産規模が拡大し、輸入需要が減少した。今後、商務部は貿易バランス改善の為に、一に輸出貨物原産地管理を強化し、中国の輸出の虚の部分を減らす。二に重点製品の輸入を奨励する。三に輸入促進体系を改善する。
 3月23日付け『経済日報』で、人民銀行呉暁霊副行長が、最近、“2006中国金融情勢分析、予測および展望専門家総会”で次のように述べた、と報じている。
 「中国の外貨準備増加がかなり速く、人民元為替相場問題が社会の関心の的となっており、呉暁霊副行長は、三つの措置で外為管理を改善すると述べた。一に、引き続き外貨の“流入に寛大で、流出に厳しい”外為政策を調整し、外貨準備増加が速すぎる政策の源を解決する。二に、更に外貨資金運用方式を改善し、外貨を国で収蔵するのでなく、民間で収蔵する方式に変える。三に、徐々に資本流出入のルートを広げて、対外投資を穏当に推進し、完全な“出ていく(外に投資する)”外為管理促進体系を構築する。
 為替相場の弾力性は、国際収支構造の調整に助けとなる。但し、為替相場の大幅な変動は経済の平穏な発展には不利であり、呉副行長は、人民銀行は外為政策を調整し、合理的な需要を放出し、非正常な外為供給をコントロールし、新しい為替相場形成メカニズムの為に、良好な経済環境を創造する、と述べた。
 呉副行長は、金利、為替相場の市場化程度が徐々に強まるにつれて、中央銀行は市場にリスク管理の手段を提供するために、金利スワップを試験的にやることを研究推進する。徐々に外貨/外貨、人民元/外貨の金融派生商品を世に出していく。
 呉副行長は、企業と金融機関は資金コストの変化に適応し、金融派生商品を運用して、リスクの管理とコントロールを学び、自らの伝統的な経営観念を改め、市場リスクに対応する経営能力を増強し、徐々に管理された変動相場制に適応し、日々に激烈となる国際競争環境に早く溶け込むべきだ、と述べた。
 温家宝首相は3月14日の記者会見で再切り上げを否定した上で「元は市場の変化に基づいて自ら上下に変動する余地と能力がある」と発言した。温家宝首相の政府活動報告では、「管理された変動相場制度を改善し、人民元の合理的で均衡の取れた水準での基本的安定を保持する。」と従来通りの表現である。
 去る2月22日の『経済日報』に、“人民元為替相場切り上げ期待が徐々に弱まる”との見出しで、次のような記事があった。
 「2005年7月21日以来、新しい人民元相場形成メカニズムの運行は平穏で、人民元相場は下がったり上がったりしており、弾性が強くなっており、国際主要通貨間の相場の変化を反映し、市場の需給を基礎とし、通貨バスケットを参考にして調整を行なう規律を体現している。中央銀行が公布した数字によれば、2005年12月31日までに、人民元の対米ドル相場仲値は最高が8.0702元となり、最低が8.1128元となった。うち67取引日に切り上がり、46取引日に切り下がった。最大の一日の切り上げ、切り下げ幅は万分の7であった。
 外貨準備は2005年末現在、8189億ドルで前年末比2089億ドル増え、前年末比34.3%増加したことになる。増加幅は前年比17%下降している。2005年1−3月が492億ドル、4−6月が519億ドル、7−9月が580億ドル、10−12月が499億ドル増えた。
 外貨準備の増加幅が下降していると報じられているが、2004年末の外貨準備高は6099億ドルで、2003年末比2067億ドル増えている。分母が大きくなったから、増加幅は小さくなるわけで、増加額ではほとんど変わらない。
 最近、国家外為局資本項目司鄒林司長は次のように興味ある発言をしている。「政府は資本流出を積極的に奨励し、総体として資本流出と流入はバランスを保つべきだ。QDII(適格域内機関投資家)を推進することを考慮するが、目下のところは研究段階である。中国は近い将来、資本取引の基本的な交換性を実現することを計画している。ただし、完全な交換性はなお長期目標である。どのように国内資金を海外市場に入れるかは中国政府が関心を持つ重要な問題である。資本取引と経常取引の双方が黒字で既に経済がアンバランスとなっている。」
 専門家によれば、外為局がQDIIを推す意図は人民元切り上げ圧力の軽減である。目下、人民元の切り上げ期待がある程度強まっている。(2006年3月2日付け『経済日報』)
 中国は、調和の取れた社会を目指す一方で、雇用の維持のためには高い成長率が必要になる。人民元については、米国からの批判も強い。人民元相場が市場の需給に基づいて決まる方向に進みながら、内外の状況に配慮していかねばならない。最近の人民元相場の上昇が加速されているとはいえ、若干の上がり下がりを繰り返しながら、徐々に強くなっていくと思われ、相場が大きく変化することは無いであろう。
 胡錦濤訪米で人民元相場問題は議論されることは確実であろうが、相場自体には著変なし、とみたい。

 (2006年4月3日記す)


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