大久保 勲の人民元論壇    
     第20号 2006.5.8発行
福山大学経済学部教授
大久保 勲
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人民元相場は当面平穏に推移
 胡錦濤主席の訪米でも、予想されたとおり人民元相場には変化はなかった。人民元相場問題は、無事に胡錦濤主席の訪米を乗り切り、当面平穏に推移するであろう。
 去る4月19日、胡錦濤主席は米国シアトルで“相互の合作を深め、共同発展を促進しよう”と題して地元経済界の人達に講演をしており、その中で人民元相場問題にも触れているが、何も目新しいことは言わなかった。中国は人民元為替相場問題を高度に重視していること、中国は引き続き人民元相場の弾力性を増加させること、金融機関のリスク管理能力を高めること、人民元相場を合理的で均衡の取れた水準で基本的に安定させること等発言には従来と特に変わる点は無い。
 今後の方向は、国際収支の基本的均衡を促進し、人民元について、徐々に資本取引の交換性を実現することである。といっても資本取引の全面的交換性実現までのタイムテーブルは現状では確定していない。まだ何年もかかる話である。
 国家外為管理局によれば、2006年度資本取引外為管理工作会議で今年の外為管理工作の重点を確定した。資本流出入の均衡管理を実施し、徐々に資本取引の交換性を実現する。2006年の資本取引外為管理工作の総体的考えは、資本流出入の均衡管理を実施し、国際収支の基本的均衡を促進し、監督管理方式と手段を改善し、資本市場開放を更に深化させ、徐々に資本取引の交換性を実現する。短期資本流動の監督コントロールを強化し、投機的資金の流入を防ぎ、統計監視調査と警戒を強化し、国家経済金融安全を守る。(2006年4月12日付け『経済日報』)
 国際収支の均衡を促進するため、外為管理政策が調整された。中国人民銀行ホームページによれば、4月13日付けで中国人民銀行公告(2006)第5号が出された。


画像:中国人民銀行公告(2006)第5号のページの一部
中国人民銀行公告(2006)第5号のページの一部


 公告は、外為体制改革を深化させ、貿易投資を簡便化し、更に外為市場を育成し、国際収支均衡を促進するため、国務院の批准を経て、一部の外為管理政策を調整する、として、およそ次のような内容となっている。1.企業の外為勘定開設の事前審査を不要とする。2.外貨購入のための外為指定銀行限りの権限を拡大する。3.個人の外貨購入は年度総額管理とする。4.条件に合う銀行が域内機構と個人の人民元資金を集めて、一定限度内で外貨を購入し、域外の固定収益類商品に投資することを許可する。5.条件に合う基金管理公司等証券経営機構が一定限度内で、域内機構と個人の保有する外貨で、域外で行なわれている株式を含む証券投資を行なうことを許可する。6.保険機構についても域外証券投資を許可する。限度は総資産の一定比率とする。
 また、4月13日付け中国人民銀行公告(2006)第5号に基づいて、国家外為局は4月14日付けで、匯発(2006)19号を出した。匯発(2006)19号の主な内容はおよそ次の通りである。1.経常取引の外為勘定開設の事前審査を取り消した。2.限度額を引き上げた。従来は、前年度の経常取引外為収入の50%か80%であったが、今後は前年度の経常取引外為収入の80%と経常取引外為支出の50%の合計となった。前年度経常取引の実績がない場合は、従来は20万ドルであったが、今後は50万ドルとなった。3.輸入の支払に必要な外貨は事前に購入して、外貨勘定に入金することが出来る。サービス貿易については、5万ドル以下、個人の場合は5千ドル以下の場合は、契約書或いは支払通知書で外貨を購入することが出来る。外為指定銀行限りで、10万ドルまでの外貨購入が出来ることとなった。個人の外貨購入は年間2万ドルまでとなり、身分証明書だけで購入できることとなった。
 およそ以上の通りであるが、中国人民銀行が4月14日に発表した外貨準備は3月末時点で、8751億ドルと世界一となった。2005年末外貨準備高は8189億ドルで、前年末比2089億ドル増加となっていた。
 国際収支の均衡達成も容易ではない。2006年1−3月の輸出入は3713億ドルで、前年同期比25.8%増えた。1−3月の中国の輸出額は1973億jで、前年同期比26.6%増となり、増加幅は8.3%落ちた。しかし、短期に貿易収支を均衡させることは難しく、2006年1−3月も、貿易黒字は233.1億ドルとなった。ただ、米国等世界の主要国の金利が上昇し、中国の輸出の伸び率が下がる可能性があるとの見方もある。資金が先進国に向かい、中国が吸収する外資にも一定の影響があるともいわれる。
 去る4月中旬、温家宝首相は国務院常務会議を開き、本年1−3月の経済情勢分析を行なっている。会議は目下の経済運営の中でのいつくかの問題がかなり突出しており、高度に重視する必要があるとした。主として、固定資産投資増加が速すぎること、通貨供給量が多すぎること、貸し出しが速過ぎること、対外貿易の構造的矛盾が依然突出していること等を指摘した。
 会議が今後の重点として挙げた中には、固定資産投資コントロールを強化すること、貸し出しをコントロールすること、対外貿易方式の転換を推進すること、具体的には、高いエネルギー消耗、高い汚染と資源性製品の輸出を抑制し、先進技術、カギとなる設備と資源類商品の輸入を奨励すること等が含まれている。(2006年4月15日付け『経済日報』)
 そして、中国人民銀行は4月28日から金融機関の貸出基準金利を引き上げた。金融機関の1年もの貸出基準金利を0.27%引き上げ現行の5.58%から5.85%とした。その他の期間についても相応に調整が行なわれた。ただし、預金金利の引き上げは行なわれていない。
 統計によれば、1−3月の全社会固定資産投資は前年同期比27.7%増、増加速度は前年同期よりも4.9%速まった。地区別に見ると、全国で投資増加幅が35%を超えた省は16省あり、業界別では製造業30業種のうち、投資増加幅が40%を超えた業種が16ある。(2006年4月28日付け『経済日報』)
 米国等の金利が上昇していること、中国の外為管理政策が調整され、外貨を民間に保有させるようにしていること、差し当たり人民元切り上げの政治的圧力はあまりかからないと見込まれること等々から、人民元相場は当面平穏に推移するであろう。
 (2006年5月7日記す)


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