大久保 勲の人民元論壇    
     第22号 2006.7.24発行
福山大学経済学部教授
大久保 勲
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人民元相場は、7元台定着か
  2005年7月21日に人民元の対米ドル相場が2% 切り上げとなってから、ちょうど1年経った。国家外為管理局のホームページで、人民元の対米ドル仲値(中間値)をみると、7月21日は100米ドルが798.97元となっている。1米ドルが7.9897元となる。人民元相場は、一日の変動幅を徐々に拡大しながら、緩やかに切り上がっている。この一年間で約1.5%切り上がったことになる。
 
グラフ:100米ドル当たり人民元の推移
(資料)国家外為管理局発表データにより、21世紀中国総研事務局作製
 
 去る7月22日付け『日本経済新聞』は、「上海外為市場で21日、人民元は一時、1ドル=7.9815元を付け、ちょうど1年前の切り上げ後の最高値を更新した。切り上げ後の上昇率は累計で1.6%にとどまるが20,21日の両日だけで0.26%上昇」と報じている。新聞にそう書かれると、なるほどと思ってしまうが、国家外為管理局のホームページで見ると、仲値は、7月10日に、1ドル=7.9908元となっている。ところが7月19日の仲値は、1ドル=8.0024元となっている。確かに、19日の相場に比べれば、20日、21日で大きく切り上がっているが、仲値で7月10日と比べれば、21日は0.02%も上がっていない。必ずしも最近、切り上げ幅が大きくなっているわけではない。
 しかしながら、7月6日から7月21日までの12営業日に、8元台は7月19日と、20日の二日間だけである。人民元相場は7元台定着とみてよいであろう。
 人民元相場は最近確かに弾力性を増している。例えば、今年5月末の相場は、1米ドルが8.0188元で、4月末よりも23ポイント高まったが、5月の人民元相場の一日の最大の変動幅は168ポイントとなっている。これは昨年7月21日以降の最大の変動幅である。
 中国人民銀行通貨政策委員会は、6月中旬に2006年度第二四半期例会を開いた。会議で、人民元については、「引きつづき、主導的で、コントロール可能で、漸進的という原則で、管理された変動相場制を改善し、人民元相場形成の中で市場の需給の基礎的作用を発揮させ、人民元の合理的で、均衡の取れた水準での基本的安定を保持する」としている。当局の基本的政策に変更はない。
 中国の税関統計では、2006年1−6月の輸出入総額は7957.4億ドルで、前年同期比23.4%増となった。うち輸出は4285.9億ドルで、25.2%増、輸入は3671.5億ドルで、21.3%増となった。614.4億ドルの黒字である。
 6月末の外貨準備高は9411億ドルで、前年同期比32.37%増えた。1−6月に、外貨準備高が1222億ドル増えている。前年同期比212億ドル多く増えたことになる。うち、6月分の外貨準備は161億ドル増えたが、前年同期比では39億ドル少なく増えた。
 今年1−6月で見ると、貿易黒字も大幅に増え、外貨準備高の増加も著しい。しかし、もう少し丁寧に見ると、1−6月の中国の輸出入は前年同期比でみると、輸出増加速度が7.4%下落し、輸入増加速度が7.3%速まっている。外貨準備も上述のように、今年6月の増加は161億ドルだが、昨年6月は200億ドル増えている。金融統計によれば、6月末の金融機関の外貨預金残高は1610億ドルで、前年同期比2.6%下降している。こうした微妙な変化がこれからどうなるかフォローする必要がある。
 中国人民銀行が6月25日、《2005年国際金融市場報告》を初めて出した。報告によれば、2005年に、中国の外為市場で8種の外貨対外貨取引が累計521億ドルあった。中国の中での為替取引は増えつつあるが、世界の外為市場で毎日約2.4兆ドルの取引があることと比べれば、中国の外為市場の取引量は極めて小さいことになる。中国当局にとって、コントロール可能な外為市場である。
 今後、人民元相場はどの程度の速度で切り上がっていくのか。中国当局としては、中国の経済貿易の実情を無視して切り上げをすることは出来にくい。例えば、7月5日付け『経済日報』によれば、目下紡績業輸出企業の平均利潤率は3%に過ぎず、ワイシャツ一枚の輸出で平均0.3米ドル稼げるだけ、とのことである。こうした点からは、人民元を大幅に切り上げることは難しい。
 税関総署綜合計画司張麗川司長は、中国の対外貿易領域の突出した問題点を指摘している。それによれば、2005年の中国の輸出は既に世界第三位で、世界の輸出総額の7.3%を占め、国際市場の圧力に直面している。労働力コストと資源コストの圧力も徐々に上昇している。環境と資源圧力も輸出増加を制約する主要な要素となっている。中国の対外貿易発展の外部環境はますます厳しくなっている。反ダンピング関税や、多くの国際貿易紛争に対処せざるを得ない。対外貿易がバランスを失する現象も激しくなっている。(2006年6月24日付け『経済日報』)
 増え続ける外貨準備の増加を抑えるために、中国当局は為替管理面でも様々な努力をしている。“走出去”(対外投資)もその一つである。2006年1−3月の中国の非金融類対外直接投資は26.8億ドルで、前年同期比280%増加したという。2005年の中国の外資の実際利用額が724億ドルで、前年同期に比して、19.24%増えたのに比べれば、2005年の非金融類対外直接投資は69億ドル(前年同期比26%増)とまだまだ少ない。中国の輸出は多くの問題を抱えているとはいえ、2006年の輸出入は15%以上増加すると見込まれ、年間の輸出入総額は16000億ドルないし、17000億ドルに達するとの予測も出ている。
 結論とすれば、引き続き流入する外貨が多いので、人民元相場は、徐々に一日の変動幅を拡大しながら、切り上がっていくことになる。中国当局は、中国経済への影響を回避するため、少なくとも年内は実質的に人民元相場管理の手綱を緩めないであろう。
(2006年7月23日記す)


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