大久保 勲の人民元論壇    
     第25号 2006.12.2発行
福山大学経済学部教授
大久保 勲
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人民元対米ドル相場は引き続き緩やかに上昇
 本稿執筆時点の11月24日の人民元対米ドル中間値(仲値)は、1米ドルが7.8526元となり、2005年7月に切り上げ後、3.2%上昇した。去る10月31日の仲値は1ドルが7.8792元で2.8% 上昇、9月29日の仲値は、1米ドルが7.9087元で2.5%上昇していた。
 
グラフ:100米ドル当たり人民元の推移
 
グラフ:100円当たり人民元の推移
 (資料)国家外為管理局発表データにより、21世紀中国総研事務局作製
 
  人民元の対米ドル相場は、これから年末に掛けて引き続き緩やかに上昇を続けるであろう。緩やかに上昇をつづけると考える理由を以下にまとめておきたい。
 第一に、中国の貿易黒字の増加である。2006年1-10月に中国の輸出入総額は14249.5億ドルに達し、前年同期比24.1%増となった。10月末までに2005年の年間輸出入総額を超えた。うち輸出は7792.9億ドルで26.8%増加した。輸入は6456.6億ドルで20.9%増となった。貿易黒字は10月末で1336.3億ドルとなった。2005年の中国の貿易黒字は1019億ドルであったので、10月末で昨年より317億ドルも多いことになる。
  中国の商務部の予測では、2006年の中国の輸出総額は9600億ドル、輸入は8100ドルで、貿易黒字は1500億ドルを超える、となっている。《中国対外貿易情勢報告》によれば、中国は今後とも貿易黒字を保持するとしている。これは海外から中国への工場移転、中国自身の工業化の速い発展、中国国内の消費需要の相対的不足等の要素によるもの、としている(2006年11月12日付け『経済日報』)。中国は故意に貿易黒字を増やしているのではないと主張している。
 第二に、中国は人民元の為替相場形成メカニズムの改革を続けており、中国当局による管理の度合を弱めて、主として市場の需給で人民元相場が動く方向に向かいつつある。
  このことを示す最近の報道には次のようなものがある。10月25日付け『経済日報』によれば、中国人民銀行呉暁霊副行長は、去る10月24日中国金融派生商品大会でおよそ次のように述べている。「人民銀行は以下の面で条件を創造し、金融派生商品の発展を促進する。金利の市場化を緩やかに推進する。目下中国の金利市場はまだ完全には市場化されていない。したがって、金融派生商品の発展は一定の制約を受ける。主導的でコントロール可能で漸進的という原則にもとづいて、人民元相場形成メカニズム改革を推進する。人民銀行は外国為替の供給管理を絶えず改善し、外国為替の合理的な需給が市場に表れるようにし、(為替相場形成面で)市場の需給に更に大きな働きをさせ、通貨バスケットを参考にする度合を徐々に弱める。」
  2005年7月に、人民元が切り上がるまでは、人民元は「需給に基づく、単一の管理された変動相場制」であった。切り上げ後、「通貨バスケットを参考にして」という表現が加わった。これによって投機筋を撃退したかったわけであろう。しかし、人民銀行呉暁霊副行長のいうように、通貨バスケットを参考にする度合を徐々に弱めることは、主として需給によって、人民元対米ドル相場は形成されることになる。そうであるならば、巨額の貿易黒字は人民元相場上昇のための牽引力となる。
  中国の金融面での今後の基本的方向は金利の市場化と為替相場の弾力化である。従って、銀行業務から言えば、銀行のリスク管理がますます重要になる。中国銀行業監督管理委員会の唐双寧副主席はおよそ次のように述べている。「中国の金利市場化と人民元相場形成メカニズムを更に改善することで、銀行業の直面する市場リスクが明らかに増大するであろう。特に、顧客に代り域外の理財業務を行なうようになると、中国の銀行業は直接に国際市場での金利、為替の変化等がもたらす市場リスクに直面することになる(2006年10月18日付け『経済日報』)。
  人民元相場そのものは、年率で3%程度の上昇を続けているが、為替相場が主として需給によって動くとすれば、必ずしも単純に上昇するだけではなく、相場が下落することもありうることになる。そのために、企業や個人のために、為替リスク回避手段が徐々に整備されつつある。人民銀行が去る11月14日に出した2006年第三・四半期《中国通貨政策執行報告》によれば、引き続き2006年第三・四半期に、一連の人民元相場形成メカニズム改革関連措置を講じた。域内金融機関の外貨預金準備率を引き上げ、管理された変動相場制を更に改善した、とある。
 人民元相場形成メカニズム改革関連措置とは何か。国家外為管理局ホームページによれば、例えば10月20日に匯発〔2006〕52号が出されている。これは、「外為指定銀行の顧客との先物売買為替業務と人民元・外貨スワップ業務についての外為管理問題の通知」である。
  また、人民銀行は通貨政策執行報告の中で、対外金融投資のルートを広げ、国境を跨ぎ資金が流入することに対する監督管理を強化し、国際収支の基本的均衡を促進するため、一連の外為管理を改善する政策措置を講じた、としている。これらの措置には、経常取引の外為管理の一層の改善、外資流入管理の規範化、域内適格機関投資家(QDII )の域外投資業務の積極推進等が含まれている。
  さらに、国家発展改革委員会は去る11月9日に《外資利用”十一五“計画(規画)》を出した。この計画の中でも、「人民元相場形成メカニズム改革を絶えず推進する」としている。
 人民元対米ドル相場は、緩やかに上昇しているが、目に見える人民元対米ドル相場の変化よりも、市場化に向けての体制整備面の変化のほうが大きいといえよう。
 (2006年11月26日記す)


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