大久保 勲の人民元論壇    
     第27号 2007.3.13発行
福山大学経済学部教授
大久保 勲
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過剰流動性対策が当面の重要課題
――人民元相場は緩やかに上昇――


 
グラフ:100米ドル当たり人民元の推移
 
グラフ:100円当たり人民元の推移
 (資料)国家外為管理局発表データにより、21世紀中国総研事務局作製
 
 3月5日、中国人民銀行の授権で中国外貨取引センターが発表した基準値(中間値)は1米ドルが7.7403元であった。2005年7月の為替相場改革以来の最高値となった。国務院系の『経済日報』のサイト「中国経済網」によれば、去る3月1日、ポールソン米財務長官が不満を表明し、ブッシュ政権は中国の人民元相場改革加速を要請する、との趣旨の発言をしたと報じている。他方、同サイトは、全国政治協商会議委員でエコノミストの林毅夫教授が3月4日に、もし弾力的で、小幅で、自主的な原則で調整を行なうとするならば、人民元相場が毎年3%上昇するのは比較的合理的だと述べたと報じている。
 去る2月27日、中国の株式市場が急落し、代表的な株価指数、上海総合株価指数は前日比268.81ポイント(8.84%)安い2771.79となり,下げ幅は1995年5月23日の147.12ポイントを抜き過去最大となった。上海から始まった世界同時株安は、本稿執筆時点の3月5日もまだ収まらず、5日の東京市場の終値は前日比525円安で引けた。米国が圧力をかけようとも、こうした状況で人民元相場を大きく動かすことは出来にくい。
 人民元相場を巡る最大の問題は何か。去る3月2日、国家外為管理局が匯発〔2007〕14号で「2007年度金融機関の短期対外債務管理に関する国家外為管理局の通知」を出したように、不安定な資金が大量に中国に流入していることが問題であり、更には過剰流動性対策が通貨政策の最重要課題だといえよう。
 国家外為管理局が、今回の「通知」を出したのは、「対外債務管理を更に強化し、短期対外債務規模を厳格に統制し、金融機関の短期対外債務調達行為を更に規範化し、国家の経済金融の安全を維持し、国際収支の基本的均衡を促すため」としている。また、「通知」では、特に短期対外債務が急増し、短期対外債務が対外債務残高全体に占める比率が57%程度に達したとしている。短期債務残高の比率が高いことは、不安定な資金が大量に流入していることを示している。「通知」が今回、管理の対象にしているものの中には、「国外機構の預金」、「期間が1年以下(1年を含む)の国外からの借り入れ」、「国外インターバンク借り入れ」等も含まれている。
 中国人民銀行が2月9日に出した2006年第W四半期通貨政策執行報告は、今後一時期、中央銀行は引き続き銀行体系の流動性供給過剰の局面に直面せざるを得ず、過剰流動性対策がなお通貨政策の重要な任務である、としている。
 2002年後半から、中国の国際収支の黒字が大きくなり、外貨準備が急増し、中央銀行は大量の基礎通貨を放出せざるを得なくなり、中国経済の中で流動性過剰問題が突出した問題となり、中央銀行は2003年から多種の通貨政策手段を総合的に運用し、流動性管理を強化してきた。2003年4月には、中央銀行手形の発行を開始した。2003年9月、預金準備率を1%引き上げた。2003年から2006年まで中央銀行手形を発行し、流動性約3兆元を減らした。5度にわたる預金準備率引き上げで、合計3%引き上げ、流動性約1兆元をしっかりと凍結した。2006年に中央銀行は、累計3.65兆元の中央銀行手形を発行した。 前年同期比8600億元多く発行した。年末の中央銀行手形残高は3.03兆元であった。中央銀行の通貨政策執行報告は、今年は引き続き穏健な通貨政策を執行し、更に金融マクロコントロールを改善し、流動性管理を強化し、通貨貸出しの増加を合理的にコントロールし、更に人民元為替相場形成メカニズムを改善する、としている。(2007年2月10日付け『経済日報』)
 もう1つ、今後の人民元相場の特徴としてあげられるのが人民元相場の弾力性が強まることといえよう。
 中国人民銀行が2月9日に出した2006年第W四半期通貨政策執行報告によれば、今後さらに人民元相場の弾力性が強まる。中央銀行の報告によれば、2006年に人民元相場の弾力性は明らかに強まった。2006年にインターバンク外為市場では合計243取引日があった。うち人民元相場は135取引日で上昇し、108取引日で下落した。2006年の人民元対米ドル相場の中間値は一日の最大の上昇幅は124BP(つまり0.0124ポイント)で、一日の最大の下落幅は203BP(0.0203)であった。一日平均の変動幅は40BP(0.0040) であった。2005年7月の為替相場改革から2005年末までの一日平均変動幅の17BP(0.0017)に比して明らかに拡大した。2006年の人民元為替相場は小幅上昇し、年末の人民元対米ドル中間値は年初に比して2615BP(0.2615)上昇した。上昇幅は3.35% であった。為替相場改革以来、2006年末までに人民元対米ドル相場は累計5.99%上昇した。(2007年2月10日付け『経済日報』)
 人民元相場弾力性強化の動きは大きな流れである。2006年8月11日付け『経済日報』は、「徐々に人民元為替相場の弾力性を高めると人民銀行が表明」という見出しで、およそ次のように報じている。「≪人民元為替相場形成メカニズム改革平穏実施1周年≫と題する報告で、人民銀行は次のように表明した。人民元為替相場形成メカニズム改革は予期した効果をあげた。相場改革後、人民元相場変動の弾力性は明らかに増強された。報告によれば、人民元対米ドル相場仲値の一日平均変動幅は2005年の相場改革以後の0.02%から2006年年初来の0.04%に高まった。一日の最大変動幅は0.21%となった。更に人民元相場形成メカニズムを改善するために、各種改革を推進する。
 第一に、市場の需給の相場形成での基礎的作用を更に発揮させ、徐々に人民元相場の弾力性を高め、人民元相場を合理的で均衡の取れた水準での基本的安定を保持する。第二に、外為市場の発展を推進し、外為市場のリスク計量とリスク分担メカニズムを改善し、市場構造と取引方式の複合化発展を促進し、金融機関の自主的値決め能力とリスク制御能力を増強させる。金融機関のリスク制御を奨励する前提で、金融イノベーションを積極的に推進し、企業と個人のために更に豊富なリスク回避商品を提供し、市場投資ルートを広げる。
 第三に、外為管理を改善し、更に貨物貿易とサービス貿易の便宜を促進し、徐々に経常取引の強制売り為替、買い為替制度から自由な売り為替、買い為替制度に移行する。企業が海外進出するのに有利な外為管理政策環境を創造し、短期資金の国境を跨いでの流動の監視体制を改善し、国家金融安定と金融安全を擁護する。」
 中国経済の現状と人民元相場の関係から見て、現在の政策に変更がない限り、おそらく年間で見れば、3%程度上昇していく可能性があるが、単純な上昇曲線を描いていくのであれば、過剰流動性問題の解決は容易ではない。今後、人民元相場は下降局面も上昇局面もあるような相場、つまりリスクのある相場になっていく可能性がある。
 (2007年3月5日記す)
 


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