大久保 勲の人民元論壇    
     第28号 2007.5.09発行
福山大学経済学部教授
大久保 勲
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貿易黒字増加で人民元上昇圧力が強まる


 
グラフ:100米ドル当たり人民元の推移
 
グラフ:100円当たり人民元の推移
 (資料)国家外為管理局発表データにより、21世紀中国総研事務局作製
 
 4月30日の人民元対米ドル相場中間値は1米ドルが7.7055元であった。2005年7月に人民元が2%切り上がった後、丁度5%上昇したことになる。3月末の人民元対ドル相場は1米ドルが7.7342元であった。
 報道によれば、ドイツで6月に開く主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)でまとめる経済声明の原案が4日明らかになった。世界経済安定には、貿易黒字が1部の国に偏る「不均衡」是正が最優先課題と指摘し、中国に通貨・人民元の一層の柔軟化などによる黒字縮小に取り組むよう求めている。2006年の中国の貿易黒字は前年より7割強多い約1755億ドルに達した。主要国が一致して不均衡是正を求めることで、中国に人民元改革継続を促す国際的な圧力を強める。(07年5月5日付け『中国新聞』)
 2007年の貿易黒字はどのような見通しになっているか。通関統計では、07年1-3月の輸出入総額は4577.4億ドルで、前年同期比23.3% 増加した。うち輸出は2520.9億ドルで27.8%増、輸入は2056.5億ドルで18.2%増であった。3月分の貿易黒字は68.7億ドルで、2006年3月以来、初めて100億ドル以下となり、貿易黒字拡大の勢いは明らかに収斂した。今年1-3月の貿易黒字は、2006年の第三、第四四半期の規模を下回る。通関統計によれば、1-3月の一般貿易輸出入は1997.4億ドルで、27.4%増えた。同期の加工貿易輸出入は2115.8億ドルで、18.8%増加した。(07年4月12日付け『経済日報』)
 それでは2007年の貿易黒字は、前年比減少に転じるのであろうか。最近出された予測では、楽観は決して許されない。国務院系の日刊紙『経済日報』の中国経済網によれば、最近、『2007年4月―12月分中国輸出入情勢分析と予測』研究報告が中国科学院予測研究センターから出された。報告によれば、2007年に中国の輸出入増加速度は縮小し、貿易黒字は引き続き増加する。2007年に輸出はおよそ11996.1億ドル、前年比23.7%増、輸入は9455.8億ドル、19.5%増となる。貿易黒字の増加速度も下降し、およそ2540.3億ドル、前年比42.8%増となる。(07年5月6日付け『中国経済網』) しかし、この予測は前年比755億ドル増えて1755億ドルの貿易黒字となった2006年に比して、さらに2007年には2006年比785億ドル増えるとの予測である。
 貿易黒字だけでなく、短期対外債務も大幅に増えている。国家外為管理局が4月19日明らかにしたところによると、中国の2006年末の対外債務残高は3229.88億jに達した。前年末より419.43億ドル、増加率にして14.9%の伸びである。うち中長期債務残高は1393.60億ドルで、前年末より11.6増加した。短期債務残高は1836.28億ドルで、同17.6%増である。短期債務が対外債務全体の56.9%も占めている。決していいことではないが、外貨準備高が大きいので、当面大きな問題にはならない。
世界一の外貨準備高は、3月末には12020億ドルとなり、前年同期比37.36%も増えた。1-3月に外貨準備高は1357億ドル増えて、前年同期よりも795億ドル多く増えたことになる。3月だけを見ると、外貨準備増加は447億ドルで、前年同期比233億ドル多く増えたことになる。
 貿易黒字の積み上がりと短期を中心とする対外債務の増加で、外貨準備高は更に大幅に増加することが見込まれる。
 中国人民銀行の人民元相場に対する政策には特に変化は見られない。第一四半期の通貨政策委員会は、人民元外貨政策の協調と銀行体系の流動性管理を強化しなければならない、とした。今回の会議では、中央銀行は各種の通貨政策の手段を総合的に運用し、流動性管理を強化し、金利市場化改革を緩やかに推進し、人民元相場の弾力性を増強すべであるとした。会議はまた、今後の通貨政策について、引き続き自主的でコントロール可能で、漸進的という原則に基づいて、管理された変動相場制度を改善し、市場の需給が人民元相場形成の中での基礎的作用を発揮するようにし、人民元を合理的で、均衡の取れた水準で基本的安定を保持する、と表明している。(07年4月3日付け『経済日報』)
 中国人民銀行胡暁煉副総裁は去る4月14日ワシントンで行なわれた国際通貨基金(IMF)国際通貨と金融委員会大臣級会議で発言した。その中で、IMFが監督機能を強化する時には、一国内部の経済安定持続成長に外部安定を擁護する基礎的作用があることを重視すべきであると指摘し、経済のバランス失調を解決するために為替相場の作用を誇張することは出来ないとし、外部安定は内部安定と協調することにより、はじめて真の意義の持続安定が実現すると指摘した。(07年4月16日付け『経済日報』)
 去る3月に、周小川人民銀行総裁も記者会見で似たような発言をしている。貿易不均衡問題についておよそ次のように語っている。「一定の時間をかけて調整と解決を行なうことが必要である。経済構造調整政策の実行は、主要な手段の一つであり、まずは内需拡大、特に消費内需の拡大とサービス業の発展を行なわねばならない。このほか、中国企業が海外に打って出て、対外投資を拡大するのを支持する必要がある。経済構造調整策で国際収支均衡に効果をもたらすには、少し長い時間が必要であろう。但しこれが主要な政策である。為替相場政策を補助的政策とすることで、一定の価格のテコの作用を引き起こすことが出来、輸出入バランスを調節することができる。このほか、外為管理強化で、効果を高める作用がある。」(07年3月13日付け『経済日報』)
 周小川総裁も、胡暁煉副総裁も、貿易黒字を減らすために、人民元切り上げは主要な政策ではない、と言いたいのである。
 中国経済は貿易黒字と対外債務の増加で、過剰流動性の問題を抱えている。そのため、今年に入って、預金準備率の引き上げや基準金利の引き上げが続いている。中国人民銀行は4月5日、預金準備率を0.5%引き上げ10.5%にすると発表した。4月16日に実施した。預金準備率を引き上げるのは1月と2月に続いて、これが3回目であった。2006年以来、6回目の預金準備率引き上げである。3月には融資と預金の基準金利を0.27%引き上げた。この預金準備率引き上げは銀行体系の流動性管理強化が目的で、銀行体系の流動性過剰問題は、既に中国経済の突出した問題となった。(07年4月6日付け『経済日報』)
 更に、中国人民銀行は4月29日、預金準備率を0.5%引き上げ、11%にすると発表した。5月15日から実施する。預金準備率の引き上げは今年に入ってから4回目である。2006年以来7回目である。中央銀行は、今回の引き上げは銀行体系の流動性管理を強化するためのものである、と表明した。(07年4月30日付け『経済日報』)
 過剰流動性を吸収するため、インターバンク市場での債券発行も増加している。中国人民銀行は4月26日、3月分の金融市場運営の数字を発表した。数字によれば、3月分のインターバンク市場債券発行量が大幅に増加した。中短期債券が主である。1-3月の債券発行量は前年同期比37.47%増加した。主として中央銀行手形と政府性金融債券発行量が増加した。(07年4月27日付け『経済日報』)
 しかしながら、過剰流動性を吸収しきれず、貸出も増加している。人民銀行が4月12日に発表した数字では、1-3月の貸出増加が速まり、広義の通貨M2供給が前年同期比17.27%増となった。狭義の通貨M1の供給は19.81%となった。増加幅は前年同期比7.14% 高くなった。金融機関の人民元貸出の増加は速まった。3月末現在、全金融機関の各種貸出人民元外貨残高は25.28兆元で前年同期比15.74%増加した。全金融機関の人民元各種貸出残高は23.96兆元で、前年同期比16.25%増加した。増加幅は前年同期比1.52% 高かった。
今年1-3月の人民元貸出増加は1.42兆元で、前年同期比1678億元増えた。(07年4月13日付け『経済日報』)
 貸出増加が速すぎることもあり、1-3月の国内総生産(GDP)増加率は、11.1%となった。増加速度は前年年間よりも0.4%速くなった。前年同期比0.7%速くなった。2003年から2006年までの増加率は10.0%、10.1%、10.4%、10.7% であった。経済成長が速すぎる。
 温家宝首相は国務院常務会議を主宰し、1-3月の経済運営状況を分析した。会議は、目下経済運営中に、いくつかの突出した矛盾と問題があると指摘した。主な問題点として、食糧増産と農民増収の困難が増えていること、エネルギー節約、汚染物排出を減少させる任務が重いことの他に、貸出増加が速すぎ、固定資産投資が再度増加に転じる可能性があること、貿易黒字が引き続き増加していることが指摘された。
 今後重点的に行なわねばならないこととして、農業生産と農民増収促進、エネルギー節約、汚染物排出量の減少、固定資産投資コントロール強化、物価水準安定、民生問題の解決等の他に、過剰流動性の矛盾をしっかりと緩和すること、貸出の速すぎる増加を抑制すること、資本とりわけ短期資本が国境を跨いで流動することに対する監督管理を強化すること、外為管理を改善し、対外投資のルートを広げること、資本市場の健康な発展を促進すること、金融コントロールと監督管理を強化し、各種の金融リスクを防止すること、貿易黒字の速過ぎる増加を有効に抑制すること、不合理な輸出優遇政策を整理すること、加工貿易に対する監督管理を厳格にすること、先進技術設備とカギとなる部品等の製品輸入を積極的に拡大すること等があげられた。(07年4月20日付け『経済日報』)
 中国経済が直面する問題は、人民元切り上げの外圧にどのように対処するかだけでなく、根本的に中国経済の健康で持続的な成長のために、解決すべき多くの問題を抱えていることがわかる。
 (2007年5月6日記す)
 


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