大久保 勲の人民元論壇    
     第29号 2007.5.21発行
福山大学経済学部教授
大久保 勲
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変動幅拡大で人民元の大幅切り上げを期待することは出来ない

 中国人民銀行は、5月18日に公告を出し、5月21日から、銀行間直物外為市場の人民元対米ドル相場の変動幅をこれまでの0.3%から0.5%に拡大すると発表した。これは5月22日からワシントンで開かれる閣僚級の米中戦略対話の直前というタイミングで発表されたが、人民元為替相場形成メカニズム改革の大きな流れの中での制度的な前進に過ぎない。中国の為替政策が変わったわけでなく、人民元相場を弾力化させるという既定路線に沿ったものであり、変動幅拡大で人民元相場の大きな切り上げを期待することは出来ない。
 周小川中国人民銀行総裁の為替政策に関する最新の発言は、5月17日午後閉幕した2007年アフリカ開発銀行理事会年次総会後の記者会見における発言である。周小川総裁は、「中国はいま、弾力的な為替相場政策を漸進的に推進しており、従うべき政策フレームワークは、市場の需給を基礎とし、通貨バスケットを参考に調節する、管理された変動相場制度である。従って、私は人民元相場がますます弾力的になると信じている。つまり市場の需給関係をますます反映するようになる」と述べている。

写真:周小川中国人民銀行総裁
 2007年5月17日午後閉幕したアフリカ開発銀行理事会年次総会後の記者会見における周小川中国人民銀行総裁
 http://www.gov.cn/gzdt/2007-05/18/content_619230.htm

 以下、中国人民銀行のサイトに基づいて、変動幅拡大についての情報を詳細に記し、中国当局の政策意図理解の参考に供することとしたい。
 中国人民銀行は5月18日、銀行間直物外為市場人民元対米ドル変動幅拡大について公告を出した。それによれば、「市場の需給を基礎とし、通貨バスケットを参考に調節する、管理された変動相場制度を更に完全にし、外為市場の発展を促進し、金融機構の自主的な相場決定とリスク管理能力を高めるため、中国人民銀行は銀行間外為市場の人民元対米ドル取引相場の変動幅を拡大することを決定した。関連事項について次のように公告する」として、「2007年5月21日から、銀行間直物外為市場の変動幅を0.3%から0.5%に拡大する。すなわち、毎日の銀行間直物外為市場の人民元対米ドル取引相場は中国外為取引センターが対外公布する当日の人民元対米ドル中間値から上下に0.5%の幅の中で変動することが出来る。本公告公布後、銀行間直物外為市場の人民元対米ドル以外の通貨取引に係る変動幅と銀行の対顧客米ドル公表相場の値幅の管理方法は不変であり、引き続き2005年9月23日に中国人民銀行が発布した、銀発(2005)250号の規定により執り行う」としている。
 最後に、「中国人民銀行は、国内外経済金融情勢に基づいて、市場の需給を基礎とし、通貨バスケットを参考にして、人民元相場の正常な変動を維持し保護し、人民元の合理的で均衡の取れた水準での基本的安定を保持し、国際収支の基本的均衡を促進し、マクロ経済と金融市場の安定を維持し保護する」と記している。
 また、中国人民銀行の関係責任者が銀行間直物外為市場変動幅拡大について記者の質問に答える形で、およそ次のように記している。
Q:変動幅拡大はどのような考えで行なわれたのか。
A:2005年7月21日、人民元相場形成メカニズム改革実施後、中国は市場の需給を基礎とし、通貨バスケットを参考にして調節する、管理された変動相場制度を作り上げ、自発的で、コントロール可能で、漸進的という原則を貫徹し、企業、個人、金融機構が変動相場制度に対して、適応する過程が必要なことを考慮して、中国人民銀行が1994年に開始した0.3%の変動幅を従来通り保留した。同時に、市場の発展状況と経済金融情勢に基づいて、為替相場変動幅を適時に調節することを表明していた。
人民元相場形成メカニズム改革後、中国人民銀行は一連の措置を講じ、外為市場を積極的に育成し発展させ、外為市場建設に実質的進展があった。同時に、中国経済は平穏でかなり速く成長し、金融体制改革は更に深化した。これらはすべて、人民元相場形成メカニズムを更に完全にするために有利な条件となった。国際経験から見ると、新興経済体は固定相場制度から変動相場制度に移行する過程で、大部分が相場の変動幅を徐々に拡大する過程を経てきた。目下、為替相場改革から既に三年目に入り、企業、個人と金融機構は基本的に管理された変動相場制度に適応してきたので、適時に銀行間直物外為市場の人民元対米ドル相場変動幅を拡大することは、外為市場を更に発展させ、人民元相場の弾力性を増強し、企業のリスク管理能力と競争力を養い、金融機構が自主的に相場を決定し、リスク管理能力を育成し、マクロ経済運営の柔軟性を高めるために有利である。
Q:人民元相場は大幅に変動するか。
A: 銀行間直物外為市場の人民元対米ドル相場の変動幅拡大は、人民元相場形成メカニズムを更に完全なものにするための一つの制度建設の措置であり、決して人民元相場の大幅な変動を意味せず、まして大幅切り上げを意味しない。現在の為替相場制度によれば、人民元相場には市場の需給と国際主要通貨間の相場の変化に基づいて、双方向に変動する能力がある。中国では既に銀行間外為市場にマーケット・メーカー制度を作った。マーケット・メーカーの主要な職責は市場のために流動性を提供し、外為市場の需給を調節することである。これは外為市場の相場の過度の変動を回避するために有利である。しかも、目下、人民元はどの通貨にもペッグしておらず、通貨バスケットを参考にして調節している。これは人民元相場の波動性を平準化するのに有利である。
為替相場等経済のテコの資源配置の中での基礎的作用が絶えず強まるにつれて、外為需給関係が更にきちんとなり、国際収支調節の市場メカニズムが徐々に健全になり、国際収支は基本的均衡の方向に発展し、人民元相場安定のために経済的基礎を定めることになる。我々は引き続き、積極的にマクロ経済政策を協調させ、各種改革を緩やかに推進し、外為管理を改善し、人民元相場安定のために良好な政策環境を提供し、人民元相場を合理的で均衡の取れた水準での基本的安定を保持する。

 (2007年5月20日記す)
 


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