大久保 勲の人民元論壇    
     第30号 2007.7.25発行
福山大学経済学部教授
大久保 勲
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人民元対米ドル相場は、年末にかけて切り上げ加速か

 2005年7月21日に人民元対米ドル相場が2%切り上がってから2年が経った。7月20日の人民元対米ドル相場中間値は1米ドルが7.5712元であった。7月23日の中間値は7.5642元となった。丁度2年で人民元対米ドル相場は、6.7%切り上がったことになる。
 2年間で6.7%切り上げは、大方の期待を下回る水準だったといえよう。この間、高度経済成長が続き、貿易黒字はますます大きくなり、外貨準備は1兆3千億ドルを超え、物価は上昇し、通貨政策は手詰まりになってきた。それでは、これから年末にかけて人民元対米ドル相場はどうなるか。結論から先に書けば、今年末時点の人民元対米ドル相場は、2005年7月21日の切り上げ後の水準から見ると、9%ないし10%の水準に達する可能性もある。

 この2年間、巨額の貿易黒字と、持続的に流入するホットマネーを中国当局が積極的に吸収することで、過剰流動性問題が生じたが、人民元切り上げは抑えられてきた。しかし、もう少し詳しく見ると、切り上げから1年間は、通貨供給量は増えたが、人民元はあまり上がらなかった。最近1年間は、通貨供給量は若干減ったが、人民元切り上げが少し速まった。この6月末の消費者物価指数は前年同期比4.4%と高い水準となった。これまでとってきた預金準備率の引き上げと、0.27%という小幅な金利引き上げでは、物価上昇を抑えることは難しく、過剰流動性を減らし、人民元の切り上げ加速で物価安定を図ることが必要になってきたといえよう。
 以下、最近の中国経済の特徴を一つ一つ具体的に見ていくこととしたい。


1. 通貨供給量
 2006年6月末現在、広義の通貨M2残高は32.28兆元、前年同期比18.43%増となった。前年同期よりも2.76%も高い水準であった。2007年6月末現在、広義の通貨M2残高は37.78兆元で前年同期比17.06増となった。この2年間の人民元相場動向を見ると、最初の1年間よりも、最近の1年間のほうが、人民元切り上げが加速されている。7月20日付けの中国経済網によれば、「2005年7月から2006年6月まで、広義の通貨M2は平均18.22%で増加し、同時期の人民元切り上げはわずかに1.4%であった。2006年7月以降、M2の増加速度は落ちて、2007年6月末は17.06%となった。一方この間の人民元切り上げは明らかに速まり、5%前後上昇した」となっている。


2. 過剰流動性対策
 広義の通貨M2の伸び率が前年比若干落ちたとはいえ、過剰流動性は大きな問題だ。7月初めに開かれた中国人民銀行通貨政策委員会2007年度第二期例会でも、中央銀行は流動性管理を強化し、金利市場化改革を緩やかに推進し、人民元の弾力性を強化すべきだとした。過剰流動性対策として、特筆すべきは6月末の人民代表大会常務委員会第28回会議で決まった財政部の1兆5500億元の特別国債発行であろう。特別国債発行で2000億ドルの外貨を購入し、政府が設立する投資会社の資本金に充てるが、特別国債は人民銀行が過剰流動性吸収に使うことが出来る。
 6月13日に開かれた国務院常務会議でも当面、穏健な財政政策と通貨政策を堅持し、実施しなければならず、通貨政策は穏健な中で適度に引き締めなければならない、とした。国務院常務会議が通貨政策は“穏健な中で適度な引き締め”でなければならないとしたのは、中央政府は当面の通貨金融全体の情勢に対して基本的な判断の変化を説明しており、過剰流動性問題の重視程度を更に高めたものとみられている。


3. 消費者物価指数
 国家統計局が6月12日発表した統計では、5月の全国住民消費価格総水準(CPI)は、前年同期比3.4%上昇した。CPIは連続3ヶ月3%以上となった。5月のCPIは三つの明らかな特徴がある。一に、農村の上昇幅が都市を超えた。都市は3.1%上昇し、農村は3.9%上昇した。二に、食品の上昇幅が非食品よりも高かった。食品価格が8.3%上昇し、非食品価格は1.0%上昇した。三に、消費物資がサービスよりも上昇した。消費物資は3.9%、サービスは1.7%であった。
 7月19日に国家統計局が出したCPIは、前年同期比4.4%となり、32ヶ月来の高い数字となった。


4.預金準備率と金利の引き上げ
中央銀行は年初来、5回預金準備率を引き上げ、3月と5月に金利を引き上げたが、7月20日、人民銀行は今年3回目の預金と貸出の基準金利引き上げを発表した。上げ幅は期間1年で0.27%となっている。1年もの定期預金の上限金利は3.06%から3.33%に上がった。期間1年の貸出の基準金利は6.57%から6.84%に高まった。人民銀行サイトによれば、今回の利上げは、貸出と投資の合理的な増加に有利であり、物価総水準の基本的安定に有利である、としている。


5.経済成長率
 国家統計局が7月11日に出した公告によれば、2006年の国内総生産(GDP)は修正され、修正後のGDPは210871億元で、1464億元増加した。不変価格で計算すると、前年比11.1%増加したことになる。7月19日に発表された4-6月期のGDPは前年同期比で11.9%増となった。


6.貿易黒字の増加
 中国税関総署は7月10日、1-6月の貿易黒字が前年同期比で83%増の1125億ドルにたっしたと発表した。6月の黒字額は前年同月比85%増の269億ドルと単月ベースで過去最大となった。


7.外貨準備の増加
 人民銀行は7月11日、6月末の外貨準備高が前年同期比で41.6%増の1兆3326億ドルになったと発表した。今年1-6月の外貨準備の増加は前年同期より1440億ドル多い。対外経済貿易大学金融学院丁志傑副院長によれば、「外貨準備増加の原因は、貿易黒字の拡大が最大の原因であり、次に人民元切り上げ期待の中で、かなりの域外のホットマネーが各種の合法的、非合法的ルートで域内に流入してくることである。別の面では、国内の個人、企業と金融機関が外貨保有にあまり積極的でなくなり、手中の米ドルを大量に売却している。しかもこの減少がますます明白になっている。これらの要素がすべて中国の外貨準備の持続的増加につながっている。」(2007年7月11日、中国経済網)

 (2007年7月23日記す)
 


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