大久保 勲の人民元論壇    
     第32号 2008.03.21発行
福山大学経済学部教授
大久保 勲
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人民元相場は緩やかな上昇に転じる

(資料)国家外為管理局発表データにより、21世紀中国総研事務局作製
 本稿執筆時点の3月14日の人民元対米ドル相場中間値(仲値)は1米ドル=7.0882元となった。07年末の人民元対ドル相場を1ドル=7.3046元であったので、年初から3%上昇したことになる。07年は年間で6.9%上昇したので、2ヵ月半で3.0%の上昇はかなり速いペースということになる。
 人民元対米ドル相場は06年に3.4%上昇し、07年に6.9%上昇した。07年は10月末から年末までで2.3%上昇した。2ヶ月で2.3%上昇したのは、05年の人民元相場改革以来、上昇速度が最も速かった2ヶ月とされている。1月の中国の貿易黒字額は07年12月の226.9億ドルより減って、194.9億ドルとなった。さらに、2月の輸出額が873億ドルとなり、前年同月比と比べ6.5%の増加にとどまった。原油価格の上昇などで輸入額が同35.1%増の788億ドルと大幅に増え、2月の貿易黒字は前年同月比63.9%減の85億ドルにとどまった。サブプライムローン問題等で、欧米の経済成長が減速すると見られており、中国にとって輸出の勢いを保持するためには、人民元相場が重要になる。人民元切り上げ圧力はあるものの、最近数ヶ月のような上昇速度は続かず、ゆるやかな上昇に転じると見るべきではなかろうか。
 年初来の人民元対米ドル相場の中間値(仲値)は、1月2日7.2996元、1月15日7.2454元、2月1日7.1903元、2月29日7.1058元と上昇の一途を辿っている。今後の相場の動きに注目したいが、2月末から3月中旬までの上昇幅は年初来の高い上昇率に比べて少し落ち着きを示している。
 なぜ、人民元高が進んだのか。中国政府がインフレ対策として元高を容認しているとの見方が広がっている。(3月1日付け『日本経済新聞』)
 中央銀行の周小川総裁は、6日記者会見で人民元相場の適当な上昇は一定程度インフレを抑制する助けになるが、インフレを抑制する決定的要素ではない、と述べた。(3月6日付け『新華網』)
 07年12月に開かれた中央経済工作会議では08年のマクロコントロールの主要な任務は、“経済成長が速すぎる状態から過熱に転じるのを防止し、物価が構造的上昇から明らかなインフレに変わるのを防止しなければならない”とした。
 ところが今年に入って、1月分の住民消費価格総水準(CPI)は、春節と雪災害等の影響で前年同期比7.1%上昇し、1997年以来の月別最高となった。都市部は6.8%、農村部は7.7%上昇し、食品価格は18.2%上昇、豚肉は58.8%上昇した。さらに2月分のCPIは前年同期比8.7%上昇した。うち都市部は8.5%、農村部は9.2%上昇した。食品価格は23.3%上昇し、豚肉は63.4%上昇した。1−2月累計では住民消費価格総水準は前年同期比7.9%上昇した。
 商務部は、人民元相場上昇でホットマネーが中国に大挙して入ってきていると警戒している。2月18日に商務部が発表した1月の外商直接投資(FDI)は112億ドルに達し、前年同期比110%増に近づいた。07年12月のFDIは既に130余億jに達した。(3月4日付け『新華網』)
 国家情報センター経済予測部范剣平主任は、目下人民相場上昇がかなり速いのは、実際にはホットマネーの流入で外為市場の需給バランス大きく失調していることによるのであって、決して正常な経済運営の結果ではない、としている。(3月11日付け『新華網』
 人民元相場は、今後は年初来のような急激な上昇は続かず、次第に落ち着きを見せ、ゆるやかな上昇に転じ、一時的には下落もありえよう。その主な理由としては次の諸点が考えられる。
 (1)中国の物価上昇は、食品類が中心であり、雪害の影響等季節的な要因と原油価格の上昇等国際商品の上昇によるもので、CPIは第二・四半期には落ち着きを見せてくる可能性があること。
 (2) 市場は一般に年間で10%を超える相場上昇を予測しておらず、例えば、交通銀行の研究報告によれば、08年末の人民元対米ドル相場は6.83元ないし6.75元と予測しており(3月11日付け『新華網』)、これは年間で6.5%ないし7.6%程度の上昇であること。
 (3)中国の輸出企業は需要減退に直面しており、人民元相場上昇は中国の輸出企業にとり重圧となっていること。
 (4)人民元相場上昇でホットマネーの流入が加速し、中国の流動性過剰の一つの直接の原因になっていること。              
(2008年3月15日記す) 


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