大久保 勲の人民元論壇    
     第34号 2008.11.28発行
福山大学経済学部教授
大久保 勲
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人民元対米ドル相場は当分の間安定的に推移か

100米ドル当り人民元の推移、100円当り人民元の推移のグラフ  (クリックすると別ウィンドウが開きます)
 本稿執筆時点の11月24日に中国外為取引センターが中国人民銀行から授権されて発表した中間値は次の通りとなっている。
 人民元対米ドル 1ドル=6.8304元
 人民元対ユーロ 1ユーロ=8.6121元
 人民元対日本円 100円=7.1714元
 人民元対香港ドル 1香港ドル=0.88119元
 人民元対英ポンド 1英ポンド=10.1486元
 これに対して、7月21日の中間値は次の通りとなっている。
 人民元対米ドル  1ドル=6.8271元
 人民元対ユーロ  1ユーロ=10.8264元
 人民元対日本円 100円=6.3903元
 人民元対香港ドル 1香港ドル=8.7549元
 人民元対英ポンド 1英ポンド=13.6122元
 7月21日の中間値と11月24日の中間値を比較すると、人民元対米ドル相場と人民元対香港ドル相場は殆ど変わっていない。これに対し、人民元は日本円に対して下げ、ユーロと英ポンドに対して大きく上げている。
 去る10月30日の中国経済網は『広州日報』の記事として、“手中の外貨は出来るだけ早く人民元か米ドルに換えたほうがいい”として、およそ次のように報じていた。
 「人民元対米ドル相場は相対的に安定しているので、日本円以外の通貨は人民元に対して大幅に下落している。7月15日以来の3ヵ月あまりで、オーストラリアドルは人民元に対して35%前後下落した。ユーロ、英ポンド、カナダドルの対人民元相場も20%前後下落した。過去3ヵ月間、人民元対米ドル相場は6.80~6.8650の間で変動しており、最大の変動幅も1%を超えていない。しかしながら、人民元は他の通貨に対して大幅に上昇している。7月15日以来、ユーロ対人民元の中間値は10.8537元から10月29日の8.6121元となり、19.75%下落した。英ポンドと人民元の中間値は13.6132元から10月29日の10.9558元まで下落し、19.52%下落した。」
 金融危機が起きてから、為替相場の変動が大きい。そうした中で、2兆ドル近い外貨準備を保有する中国の通貨、人民元は米ドルに対して相対的に安定している。外貨準備も、貿易黒字も引き続き増えており、人民元資産は相対的に安全な投資領域との見方がある。ただ、米ドルに対して円高となっており、人民元も日本円に対して弱くなっている。
 人民元対米ドル相場は、2005年末が1ドル=8.0702元で前年末比2.56%上昇、2006年末が7.8087元で前年末比3.35%上昇、2007年末が7.3046元で前年末比6.9%上昇した。そして11月24日現在、6.8304元なので前年末比6.9%上昇と既に2007年1年間の上昇率と同じになっている。
 結論を先に書けば、金融危機が収まらない中で、人民元対米ドル相場は、当分の間、安定的に推移することになろう。
 11月19日付けの『中国証券報』は、9月末現在、中国の保有する米国国債が5850億ドルとなり、中国が日本に代わって米国国債の最大の保有国となった、と報じた。中国は9月に残高を436億ドル増やしたが、日本は128億ドル減らし、5732億ドルとなった。英国が第三の保有国で3384億ドルとなっている。
 10月27日付けの『経済日報』によれば、中国人民銀行周小川総裁は10月26日全人代常務委員会で報告を行ない、今年後半の金融マクロコントロールは弾力的に行なうと述べた。具体的措置として、
  1. 流動性の供給を保証する。9月と10月に連続2回基準金利と預金準備率を引き下げた。(注)常務委員会直後の、10月29日にも、9月、10月で3回目の利下げを発表している。
  2. “三農”に対する政策支持を大きくした。
  3. 金融機関が小企業に対する貸出を強化するよう指導した。
  4. 災害地区に対する貸出需要を積極的に支持した。
 周小川総裁は、今後の金融マクロコントロールについて語った時に、国境を跨ぐ資本流動の監督管理を強化し、資本の大規模な流動が経済に対して大きな衝撃を与えることを防止する、と述べた。人民元相場の基本的安定を保持し、引き続き主体的で、コントロール可能で、漸進的という原則で、人民元相場形成メカニズムを改善し、相場の弾力性を増強させる、と述べた。
 周小川総裁は、中国の中銀総裁として、ホットマネーの動きに注目し、ホットマネーが大量に流失することのないように、監督管理を強化している。中国の外貨準備は世界一多く、米国債保有高も世界一となったが、経済成長率が明らかに減速し、不動産市場がさえず、株式市場も依然低迷し、金融危機の影響が中国経済にもマイナスの影響を与えつつあるなかで、人民元対米ドル相場を今春までのペースで引き上げる情勢にはない。しかし、ホットマネーが大量に流出する可能性は低いといえよう。
 中国は既に4兆元の景気対策を発表し、株価対策も次第に効を奏して、現状では2000ポイントをはさんで上下に動いているが、早くも2000~2300ポイントへの期待が高まりつつある。
 中国は金融サミット直前の11月9日、積極的財政政策と適度に緩やかな通貨政策を実行し、内需を拡大し、成長を促進する10項目の措置を発表した。具体的には、(1)低所得層向けの賃貸住宅の建設等保障的な居住安定プロジェクトの建設加速(2)農村メタンガス施設建設強化等農村インフラ建設加速(3)鉄道、道路、空港等重大なインフラ建設加速等であり、上述のプロジェクト建設のため、2010年末までに約4兆元の投資が必要である。建設加速のため、2008年末までに中央の投資を1000億元増加し、明年の被災地復興基金を200億元繰り上げ、地方と社会投資を動員し、総規模を4000億元とする、としている。
 景気対策について、既に具体的な動きが出ている。最近の報道では、中国で九つ目の原子力発電所を福建省福清市に建設することとなり、投資総額は1千億元近いという。
 金融危機の影響もあり、外貨準備は9月の増え方が最も少なかった。少し詳しく記せば、9月末現在、外貨準備高は19056億ドルとなり、前年同期比33%増に近づいた。1~9月の外貨準備は3773億ドル増加し、前年同期比100億ドル多く増えた。7,8月の外貨準備はそれぞれ360億ドル、390億ドル増えた。9月は約214億ドル増えた。
 これまでの外貨準備の増え方を振り返ると、2000年末に中国の外貨準備は1656億ドルであった。2006年2月末には日本を超して世界一となった。2006年末、1兆ドルを超えて、10663億ドルとなった。2008年6月には1.8兆ドルを超えた。
 9月末現在、外貨各種預金残高は1742億ドルで、前年同期比9.37%増えた。1~9月に外貨預金は134億ドル増えて、前年同期比155億ドル多く増えた。9月の外貨預金は1.75億ドルと若干減少した。
 外貨準備はなぜ増え方が減っているのか? このことについて、10月17日の『中国経済網』はおよそ次のように報じている。
 7~9月の中国の外貨準備増加額は、1~3月、4~6月に比してかなり大幅に下降した。この現象の主要な原因は国内の住民、企業が外貨を人民元に交換する意向が低下し、同時に今回の金融危機の影響のもとで、国際資本の流入が減少し、流出が増加していることである。1~3月の外貨準備増加額は1539.49億ドル、4~6月の増加は1266.51億ドル、7~9月は967億ドルであった。中国社会科学院国際金融研究センター張明秘書長は、外貨準備増加額が3ヵ月ごとに減少しており、特に9月に大幅に下降したのは、主として短期国際資本が今、退出していることによる、と述べている。           
(2008年11月24日記す) 


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