大久保 勲の人民元論壇    
     第38号 2009.5.10発行
福山大学経済学部教授
大久保 勲
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人民元相場は当面大きくは上昇しない

 5月1日の人民元対米ドル相場中間値(仲値)は、1米ドルが6.8250元となり、2008年11月25日の6.8247元以来の元高相場となった。さらに、5月4日は6.8225元となり、前週末よりも25BP(BP=Basic Point、0.0025)高くなった。人民元対米ドル相場はこれから上昇するのであろうか。
 人民元対米ドル相場は、2008年末は1ドルが6.8346元であった。4月1日から5月4日までの中間値(仲値)は、6.8250元から6.8370元の間で変動していた。4月に入って6.83元台だった相場は14日、15日の両日に6.82元台となった。4月23日以降は6.82元台となっている。
 代表的株価指数である上海総合指数は、3月末に前年末比30.3%上昇した。国際金融危機で一時は1664まで下げたが、5月4日には2559.91まで上昇しており、順調に上昇しているといえよう。そうであるならば、人民元対米ドル相場も、しばらく続いた6.83-6.84元台での動きから再び上昇に転じるとの見方があってもおかしくない。
 中国経済情勢は全体として好転しつつあるとの見方が一般的であろうし、世界的な金融危機が収まらない中で、中国経済への期待が高まっている。しかし、結論から言えば、中国経済回復の基礎がまだ固まっているとは言えず、差し当たりは慎重な見方をすべであろう。最近の相場動向を見て、中央銀行の外為政策に基本的変化があったとは判断しにくい。
 5月4日の新華網は、5月4日付けの『中国証券報』に掲載された「4-6月の経済予測分析報告」(マクロ経済情勢分析予測課題組)を報じている。示唆に富む点が少なくないので、主なポイントを以下に紹介しておきたい。
 国家統計局によれば、消費はGDPを4.3%引き上げた。投資や純輸出よりも高い。
しかしながら、経済回復の基礎が固まっていない。国内生産能力過剰の矛盾が日ごとに突出している。調整圧力がかかるのは、まず輸出需要減少により、技術がかなり先進的で、付加価値の高い生産能力である。この種の生産能力は、内需では消化できない。国際経済環境の好転を待たねばならない。
 一部の経済指標はまだ下がっている。3月分以来、発電量が旬ごとに下落している。
 3月上旬の一日あたり発電量は前年同期比 +1.4%
 3月中旬                -1.3%
 3月下旬                -2.1%
 4月上旬                -4%
 デフレ圧力が存在する。1-3月は消費者物価が前年同期比-0.6%であり、6年来、四半期ごとでは初めてマイナスとなった。工業品工場出荷価格は4.6%下降した。これにより企業利潤が減少し、財政収入にもマイナスである。輸出が引き続き大幅に下落している。外商直接投資の増加速度が下落している。1-3月の輸出は-19.7%であった。実際に使用した外商直接投資は前年同期比マイナス20.6%であった。輸出価格は11月以来、連続5ヶ月マイナスとなっている。
 中国経済の自力成長力は依然不足している。4-6月の経済成長は小幅回復するが、国際金融危機が引き続き蔓延し、世界経済衰退の基本的情勢が変わらないという環境のもとで、中国経済回復の基礎はまだ堅固ではない。4-6月の経済成長率は7%前後というのが初歩的予測である。
 4-6月の主要経済指標は喜ばしいものとそうでないものとが相半ばしている。第一に、工業生産は緩やかに上昇している。4-6月に工業の在庫調整は基本的に終了する。固定資産投資の増加速度がかなり速く、投資と関連のあるセメント、鋼材、環境保護設備等の需要が増加する。4-6月に規模以上の工業生産は7.1%増となる。固定資産投資が引き続き増加する。4-6月に投資を促進する有利な条件が多い。政府投資の力が大きくなる。地方債発行による地方のインフラ投資が増える。全社会固定資産投資の名目増加が27.6%となる。価格要素を除くと実際の増加速度はさらに高い。家電下郷、農機具下郷、自動車下郷など政策等の要素が消費の安定増加を促す。   その一方で、就業が良くないこと、農民の増収が困難なこと等が消費増加を制約する。社会消費物資小売総額は14%前後増となり、実際の増加は15.5%前後となる。輸出下落は改善が難しい。IMF春季報告では2009年の世界の経済成長率は-1.3%で、うち先進国は-3.8%となっている。WTOは2009年の世界貿易は-9%としている。貿易保護主義がある。
 人民元相場は依然上昇している。1ユーロは12月31日に9.6590元、3月31日に9.0323元であった。100円は12月31日に7.5650元、3月31日に6.9630元であった。中国の輸出製品構造と似た一部の発展途上国の通貨は大幅に切り下げた。中国製品の価格優位は明らかに下降し、輸出競争力が低下した。広州交易会の成約が下降している。化工が-45.7%、機械設備が-28.9%等と減少している。昨年後半以来、輸出税還付率は6回引き上げたが、4-6月の輸出は-20.2%前後、輸入は-25.5%前後と予想する。第五に、価格指数はさらに下落する。CPIは-1.3%、PPIは-7.5%と予想する。
 2008年の人民元外為取引についてまとめた報道があった。新華網によれば、国家外為管理局は4月24日、《2008年中国国際収支報告》を発表した。報告によれば、国際金融危機に直面して、2008年の人民元外為取引はさらに活発となり、人民元相場には、いくつかの特徴があらわれた。
・ 人民元の対米ドル双方向の変動がさらに明らかになった。
 2008年に人民元は対米ドル仲値に対して6.9%切り上がった。うち2008年1-6月に6.4%上昇し、7-12月に0.36%上昇した。2008年後半から、人民元対ドル仲値相場の切り上げ速度は著しく緩やかとなり、双方向への変動の特徴がさらに突出した。1米ドルが6.80元と6.87元の間で反復変動した。2008年後半の126取引日中、人民元対米ドル仲値を日ごとに比較してみると、56日が切り上がり、69日が切り下がった(1取引日は前日と同じ)。
・ 人民元対その他主要通貨では切り上がるものもあり切り下がるものもあった。
 1-6月は人民元対米ドル以外の通貨仲値は総体としてかなり平穏であった。但し、年後半は国際市場の影響を受けて、人民元対日本円、ユーロと英ポンド仲値は大幅に変動した。7月から12月まで、人民元対日本円は人民元が14.8%切り下がった。人民元対ユーロは人民元が12.1%切り上がった。人民元対英ポンドは人民元が38.5%切り上がった。人民元対英ポンド中間値は年末前の二取引日に初めて1ポンドが10元を突破した。
・ インターバンク市場取引相場の弾性が引き続き強まった。
 2008年に、人民元対米ドル直物取引相場の一日当たり変動幅は106BP(0.0106)で、2007年の一日当たり変動幅86BP(0.0086)よりもさらに拡大した。うち、10月分の一日あたり変動幅は150BP(0.0150)で、2005年7月21日の外為相場改革以来最大の変動幅の月となった。そのほか、2008年には5取引日の直物相場変動幅が300BPを超えた。2月13日の変動幅は411BPとなった。これは2005年7月21日以来、一日当たり最大の変動幅となった。
・ 人民元先物相場は切り上げから切り下げへ
 米ドルの対人民元先物相場は切り下がるだろうとの予測があった。2008年3,4月の間、域内外の一年もの先物米ドル相場のディスカウントは6000BPないし8000BPとなった。人民元切り上げの期待がかなり強かったが、このあと先物のディスカウントは絶えず収縮した。9,10月には域内外の1年もの先物の米ドルはプレミアムに転じた。人民元切り上げの期待が逆転した。12月初めから域内外の先物市場の人民元対米ドル相場の切り下げの趨勢が年末まで続いた。
・ 域内市場の対域外先物相場への影響がさらに強まった。
 7月中旬に、人民元相場仲値の急速な上昇が止まり、徐々に緩やかとなるにつれて、域外のNDF(ノン・デリバラブル・フォワード)市場の米ドルデイスカウントも縮小し、9月16日にはディスカウントからプレミアムに転じた。10月末から11月初めにかけて、人民元は再度120余BP切り上がった。域外の一年もの米ドル対人民元NDFは3000BP近いプレミアムから800BP前後まで下落した。12月1日、人民元仲値は156BP下落した。1年もの米ドル対人民元NDFプレミアムは一時2000余BP,まで激増した。
                     
(2009年5月5日記す)


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