大久保 勲の人民元論壇    
     第39号 2009.10.13発行
福山大学経済学部教授
大久保 勲
<目次>へもどる

人民元対米ドル相場は若干上昇に転じるか

 人民元対米ドル相場は、2009年9月9日以降6.82元台となった。人民元対米ドル相場は2005年7月から2008年前半まで三年間、人民元高となり、2008年7月から2009年9月初めまで1年余り安定したが、米ドル安傾向のなかで、今後の人民元相場動向の市場の関心が高まっている。
 2009年年初来の人民元対米ドル相場は極めて安定している。人民元対米ドル相場中間値(仲値)が、6.82元台となったのは、3月20日、3月14日、4月15日、4月23日より5月26日までであり、それ以外はすべて6.83元台であった。
 10月9日の人民元対米ドル相場中間値(仲値)は1米ドルが6.8270元となった。最近の人民元対米ドル相場に関係するニュースとしては、10月8日に米国のFRBが金利を変更しないと発表している。米国の経済活動は回復しつつあるが、金利を低水準に維持して経済回復をしようとの意図である。また、米商務省が10月9日に発表した8月の貿易赤字は307億ドルと7月の319億ドルに対して3.6%減となった。米国の貿易収支の赤字幅が3ヵ月ぶりに縮小した。8月の輸出は前月比0.2%増、輸入は0.6%減となった。ドル安進行と米国以外の経済回復は米国の輸出に有利だが、米国経済の回復に伴う輸入増で、貿易赤字拡大の可能性もあるとみられている。
 9月9日以降の人民元対米ドル相場の6.82元台への上昇には、中国当局の政策の調整が考えられる。9月26日付けの新華網(出所:中国証券報)は、9月24日に中国人民銀行の謝多国際司長が次のように強調したと伝えている。
 「2005年以来、中国は持続的に為替相場改革を行ってきた。特に危機の期間、国際外為市場の波動は巨大で、中国の輸出は大幅に下落したが、人民元相場は安定を維持し、国際貿易投資市場をしっかりと安定させる働きをした。今後、中国は市場の状況と経済情勢に基づいて、為替相場を含むマクロ経済政策を適時に調整する。」
 謝多国際司長の発言は、中国当局が2008年末以来、1ドルを6.83元台で基本的に安定させてきた人民元対ドル相場を、若干調整する可能性があることを示しているとみたい。
 人民元対米ドル相場は、2008年末に6.8346元であったが、2008年9月8日まで、基本的には6.83元台を維持してきた。中国と米国の戦略と経済対話が7月27日から28日までワシントンで行われた。人民元切り上げ問題は取上げられず、順調に閉幕した。そこで8月3日付けの新華網は、「現行の人民元為替相場のメカニズムは、年内あるいは今後12ヵ月は現状維持であろう」と報じた。
 2005年末以降の人民元対米ドル相場の推移を取りまとめると次のようになる。
2005年末相場  8.0702元  前年比 2.56%上昇
2006年末     7.8087元        3.35%上昇
2007年末     7.3046元        6.9%上昇
2008年末     6.8346元        6.9%上昇
 2005年7月21日に、人民元為替相場形成メカニズム改革が行われた。その後、2008年7月までおよそ20%上昇した。2008年7月以降、人民元対ドル相場は安定期に入り、2008年7月から2009年9月までの一年余り、人民元対ドル相場は6.81元から6.86元の間で動いた。特に2008年年末以降は一部6.82元台もあったものの、基本的には6.83元台でかなり安定した動きを示してきた。
 8月3日付けの新華網は人民元対ドル相場は、2008年7月以降、“緩やかな釘付け”状態であったが、2009年年初からは、“見かけは安定だが、実際は下落”即ち人民元はその他の主要通貨に対して下落しているというのである。英ポンド対人民元相場を見ると、2009年年初には1英ポンドが9.9194元であったものが、10月9日には10.9485元となっている。
 8月3日付け新華網は、当面、人民元の直面する客観的環境には次の諸点があるとしていた。
 第一に、中国のマクロ経済の強い回復期待と弱い外需である。中国の輸出は2008年11月以来、月別の輸出額で既に連続8ヵ月前年同月比マイナスとなっており、人民元相場上昇の力が不足している。従って、実体経済から見て、短期的には人民元は引き続き安定を維持するのが最も優れた策略である。
 第二に、人民元切り上げ期待で、国際的投機資金が流入している。米国の研究機構EPFRの数字では、中国株式市場への海外資金は、2009年1-3月には4億ドルの純流出であったが、4-6月に流入が加速し、合計純流入規模は36億ドルに達し、2006年1-3月の32億ドルの最高記録を塗り替えた。
 第三に、米ドル下落の状況の下で、米ドルに“緩やかな釘付け”の人民元は、対米ドルで上昇に転じるべきか、米ドルと共に下落すべきか。米中対話では為替相場問題は焦点とならなかったし、人民元相場切り上げの国際世論の圧力も大いに改善された。米国は米ドルの地位を保証するために、人民元が対ドルで大幅に上昇することを望まない。そこで予測できる短期内では、人民元は引き続き米ドルと同一歩調となる。
 以上のような2009年8月初めの時点での状況に若干の変化が出て来ている。株式市場は国慶節後に、上海総合指数が2900台を回復した。中国の輸出は7月、8月と連続二ヵ月、1000億ドルを超えた。財政収入は、5月から8月まで、連続4ヵ月プラスの増加となった。8月分の社会消費物資小売総額は前年同期比15.4%増で前月比0.2%速くなった。8月分のCPIは前年同期比1.2%下降した。前月よりも下降幅は0.6%縮小した。8月分の一定規模以上の工業増加値は前年同期比12.3%増加し、7月分よりも1.5%速くなった。今年の1-8月の電力使用量は23409.24億キロワット時で、前年同期比0.36%増加し、今年初めてマイナスからプラスに転じた。8月分の全社会電力使用量は3462.23億キロワット時で前年同期比8.22%増加した。8月分の実際に使用した外資金額は74.99億ドルで、前年同期比7%増加した。年初らい初めて単月で前年同期比プラスとなった。
 中国の指導者の発言に見られるように、中国経済の現状はまだ楽観できる状況には無いものの、アジア開銀等が予測しているように、中国の2009年の経済成長率は8%を上回る可能性が出て来ており、また米ドルが弱いため、中国は市場の状況と経済情勢に基づいて、為替相場を若干人民元高にする等の調整を行う可能性が出てきた。
(2009年10月11日記す)


           <目次>へもどる