大久保 勲の人民元論壇    
     第42号 2011.01.10発行
福山大学名誉教授
大久保 勲
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人民元対米ドル相場の回顧と展望

 人民元対米ドル相場は、2010年に3%以上上昇した。2011年には、人民元対米ドル相場はどの程度上昇するであろうか。2005年7月21日の人民元対米ドル相場2%切り上げを含めて、人民元対米ドル相場の推移をまとめると次のようになる。
2005年末相場   8.0702元     前年末比 2.56%上昇
2006年末      7.8087元            3.35%上昇
2007年末      7.3046元            6.9%上昇
2008年末      6.8346元            6.9%上昇
2009年末      6.8282元            0.1%上昇
2010年末      6.6227元            3.1%上昇
 人民元対米ドル相場は、2008年後半以降、2010年6月19日までは、ほとんど変わらなかった。2010年になってからの人民元対米ドル相場についての要人の発言をまとめると、およそ次のようになる。
 2010年3月の全人代の記者会見で、中国人民銀行周小川総裁は次のように述べている。
 「人民元為替相場形成メカニズムは、絶えず変化し、改善の過程にある。2005年7月以来、中国は市場の需給を基礎とする、通貨バスケットを参考にした、管理された変動相場制を実行してきた。為替相場は、合理的で均衡の取れた水準で、基本的安定を保持している。ただし特殊な段階がある。危機の条件下で、特殊な為替相場形成メカニズムを含む、特殊な政策をとることである。これは危機に対応する一連の政策の中の、一つの組成部分である。」(2010年3月7日付け『経済日報』)
つまり、周総裁は、人民元を切り上げないとは言っておらず、リーマン・ショックから抜け出せていない2010年3月時点では、特殊な段階の特殊な政策をとっている、と説明したのである。
 また、2010年3月の全人代での温家宝首相の記者会見では、温首相はおよそ次のように述べている。
「第一に、私は人民元が過小評価されていないと考える。第二に、国際金融危機が発生し、蔓延している期間に、人民元相場は基本的安定を保持して、世界経済の回復に重要な貢献をした。第三に、一国の為替相場形成メカニズムは一国の経済が決めるものである。為替相場の変動も、経済の総合的状況が決めるものである。第四に、人民元は引き続き市場の需給を基礎とし、管理された変動相場制度を堅持する。われわれはさらに人民元相場形成メカニズム改革を推進し、人民元相場が合理的で均衡の取れた水準での基本的安定を保持するようにする。」(2010年3月15日付け『経済日報』) 
 中国人民銀行は2010年6月19日スポークスマン談話を発表し、人民元相場形成メカニズム改革を更に推進し、人民元相場の弾力性を増強する、と表明した。しかし、為替変動幅は従来通り上下に0.5%のままであり、また、談話の中で「国際収支は均衡しつつあり、当面、人民元相場には大幅な変動と変化の基礎は存在しない」としていた。
 2010年10月20日から実施された利上げは10月22日から韓国で開くG20財務相・中央銀行総裁会議 をにらみ、人民元批判を回避する狙いもあるとの見方があった。
温家宝首相は2010年10月6日、およそ次のように指摘した。「中国の大変多くの輸出企業は利潤率が小さく、2%から3%しかない。最高でも5%しかない。もし人民元為替相場が20%から40%切り上がるならば、中国の輸出業が大量に倒産し、労働者は失業し、農民工は郷里に帰り、社会はとても安定しにくい。中国経済が危機になることは、世界にとって絶対に好いことではない。」(10月10日、新華網)
2010年10月8日、ワシントン訪問中の周小川中国人民銀行総裁は記者会見で、中国は人民元を急速に切り上げることはない、と述べた。(2010年10月11日、新華網)
2010年9月3日付け『経済日報』は、王信川記者の名前で、“人民元相場変動よりも更に重要なのは相場形成メカニズム”と題して、人民元問題について、基本的な中国の立場と2005年7月21日以来の推移を,凡そ次のようにまとめている。
・ 2005年7月21日以来、中国は市場の需給を基礎とする、通貨バスケットを参考にして調節を行う管理された変動相場制を実施してきた。
・ 2005年の相場メカニズム改革初期に変動幅は上下に0.3%であった。
・ 2007年5月21日から変動幅は0.3%から0.5%に拡大された。
・ 中央銀行の関係責任者が最近次のように表明した。人民元相場を合理的で均衡の取れた水準で基本的に安定させることは、更に人民元の相場メカニズム改革を推進するための重要な組成部分である。当面、人民元相場には大幅な変動と変化の基礎は存在しない。
・ 関係専門家は次のように認めている。人民元相場がまず服務すべきは中国自身の
経済運営の必要と経済利益である。
人民元対米ドル相場中間値は2010年12月31日1米ドルが6.6227元となり、9取引日連続で上昇した。2005年7月21日の為替相場制度改革以来の新記録となった。
 人民元相場の分析は”政治“の角度と市場の角度で行なわれるが、政治が主である。
 2011年は人民元の国際化が更に進み、外為市場での人民元の需要が更に増加する。香港で人民元債券が歓迎されており、香港での人民元取引は一日当たり、30億香港ドルである。2011年には一日当たり47億ドルに増加するとの予測もある。2011年には人民元対米ドル相場は6.20に迫り、6を超えるとの予測もある。年間で5%超上昇の可能性もある。(2010年12月31日『中国経済網』出所:12月31日付け『中国証券報』)
 報じられているように、人民元相場は政治的要素で動く部分がかなり多い。2011年も米国を中心とする欧米からの人民元切り上げ圧力が決して小さくないであろう。一方、中国の経済発展と共に、人民元の国際化も進んでおり、人民元に対する需要も高まっている。こうした中で、人民元は相場の弾力性強化で上下に変動しつつ、少しずつ切り上がっていくことになる。問題は、切り上げの輸出産業に対する影響である。米国の望むような大幅な切り上げは中国にとって難しい。しかし、2011年の切り上げ幅は、2005年以来の経緯を見ると、3%では小さすぎるように見える。最近の中国国内からの報道でも5%の上昇を見込むものが増えている。
 2011年1月4日朝、発表された中心相場(仲値)は1米ドルが6.6215元と更に上昇した。人民元対米ドル相場上昇の主因は、米ドル相場動向、人民元に対する国際的圧力、さらには2010年6月19日以降の相場弾力化とも言われる。また、1月4日まで10取引日連続上昇の状況から、人民元対米ドル相場は新しい上昇期に入ったとの見方も出てきた。
 ところが、1月5日から4取引日連続で、人民元は米ドルに対して下落し、1月10日の公表相場中間値は1ドルが6.8349元となった。これは米景気回復期待で、米ドルが強含みとなってきたことによるものと思われる。しかしながら、これは2010年6月19日以降の人民元相場弾力化の流れに沿うものであり、人民元対米ドル相場の基調が変わったわけではない。2011年の切り上げ幅は3~5%、場合によっては5%を超える可能性もある。そうであるならば、輸出産業には明らかに影響が出てくる。中国は為替面からも、12月の中央経済工作会議が提起した“経済構造の戦略的調整”を迫られることになる。
(2011年1月10日記す)


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