大久保 勲の人民元論壇    
     第43号 2011.05.11発行
福山大学名誉教授
大久保 勲
<目次>へもどる

今年の人民元対米ドル相場の上昇は5-7%前後の可能性

 来る5月9日から、ワシントンで米中戦略・経済対話が開かれる。今回も米政府が人民元改革を提起する見通しとなったと報じられている。予定通りというべきであろう。米中戦略・経済対話が開かれる前には、いつも人民元対ドル相場が上昇する。
 2010年末に1ドルが6.6227元だった相場が、4月29日には6.4990元となった。4月には、1ヵ月間に人民元対ドル相場の上昇幅は0.9%前後となった。2010年末から4月末までに1.9%上昇したが、4月だけで0.9%上昇した。しかし、5月に入って、5月3日6.5002元、5月4日 6.5013元、5月5日6.5025元と落ち着いてきた。
 4月の上昇速度から、今年の上昇幅は年間で7%前後という見方が増えてきたようだ。1ヵ月で、0.9%も上昇したことは、これまでになかったことである。やはり、この上昇は米中戦略・経済対話を控えて、米側の圧力をかわすための政治的な動きの可能性が大きいと見たい。
 相場の急激な上昇から、中国で、今年の人民元対ドル相場が、年間で7%あるいは7%以上上昇するとの予測がでてきた。その主な理由は、一に米ドルが国際市場で引き続き弱くなっていることがあげられる。米国は、現行の量的緩和策を引き続き堅持するので、量的緩和策が終わる前には、米ドルが強くなるのは難しいであろう。二には、国内のインフレ抑制の必要に基づくものである。中国のインフレは、輸入型インフレがインフレの主因である。中国の輸入のトップ三つは、原材料、石油と鉄鉱石である。従って適当に人民元切り上げを速めることは、輸入型インフレ抑制に役立つことになる。
 米国のガイトナー財務長官が5月3日の講演で「インフレリスクが人民元相場の上昇圧力を高めている」「中国にとって人民元切り上げで資産バブルを防ぐほうが容易だ」などと指摘したと報じられている。
 中国側としても、人民元を切り上げていく必要がある。中国人民銀行が4月14日に発表した数字では、2011年3月末現在、国家外貨準備高は30447億ドルとなり、前年同期比24.4%増となり、初めて3兆ドルを突破した。外貨準備高は、増えれば増えるほどいいわけではない。
 5月5日の中国経済網によれば、国家発展改革委員会経済研究所財政金融室張岸元・主任が、2003年以来毎年増加した外貨準備で、すでに発生した為替相場の上昇による損失が、2010年末現在で2711億ドルに達すると計算している。
 中国は、経済成長速度が緩やかとなり、インフレが懸念され、ある程度痛みをともなっても人民元を切り上げていかざるを得ない情勢になってきたといえよう。
 人民元相場上昇加速の背景に、実際に暗にほのめかしているのは為替相場政策の考え方の変化である。4月16日、中央銀行の周小川総裁は、ボアオフォーラムの期間に、為替相場でインフレ対策をすると表明した。この一日前に、経済貿易情勢報告会で、中央銀行の胡暁煉副総裁も、為替相場の弾力性を増強して、輸入型インフレ圧力を弱めると述べた。中央銀行通貨政策委員会の夏斌委員は、「目下の状況下では、人民元上昇が速すぎるのは、中国経済と社会安定に不利だが、長期的に見れば、徐々に切り上げることは必要である。具体的な操作の上では、為替相場の変動幅は拡大しなければならず、一度に切り上げる状況も排除しない」と表明した。 
 今年3月の全人代後の、温家宝首相記者会見で、温家宝首相はおよそつぎのようにのべた。「我々は引き続き人民元の相場形成メカニズム改革を堅持して動揺しない。1994年から計算するならば、大きな人民元相場改革は既に3回行なった。現在、1994年と比較して、人民元の実際の有効相場は57.9%上昇した。われわれの改革は、主として米ドルに釘付けから改めて、市場の需給に基づいて、通貨バスケットを参照して、管理された変動相場制度を実行することである。我々は市場の需給の変化に基づいて、さらに人民元変動の弾力性を更に大きくすることである。但し同時に、われわれはこの種の改革はやはり漸進的であることを考慮しなければならない。なぜなら企業の引き受けることの出来る能力と就業に関係してくるからである。我々は社会の安定全体を保持しなければならない。(2011年3月15日付け『経済日報』)
 インフレ対策としても、外貨準備対策としても、人民元を切り上げていかねばならない。ある程度の痛みを伴っても、人民元を切り上げていくとすれば、今年の上昇幅はどの程度になるであろうか。
 2005年以降、年間の人民元対ドル上昇幅は、最高が2006年と2007年のそれぞれ
6.9%の上昇である。漸進的な相場上昇幅は、7%を超えない水準ということか。なお、2009年は0.1%、2010年は3.0%の上昇であった。
 今年1-3月輸出入総額8003億ドルは、前年同期比29.5%増となった。うち、輸出3996億ドル、26.5%増、輸入4007億ドル、32.6%増で、貿易赤字が10億ドルとなった。
 痛みを伴う人民元切り上げでも、おそらく7%前後以上は難しいであろう。

(2011年5月5日記す)


           <目次>へもどる