大久保 勲の人民元論壇    
     第48号 2014.07.04発行
福山大学名誉教授
大久保 勲
<目次>へもどる

最近の人民元相場動向


中国人民元の対米㌦レート(中間値)変動の推移(2005.7.1~2014.7.1)
 (資料)中国外滙管理局


 2014年6月17日の人民元対米ドル相場中間値は1米ドルが6.1529元となっている。2013年統計公報によれば、2013年12月31日に人民元対米ドル中間値は1米ドルが6.0969元で、対前年末比3.1%上昇となっている。2014年に入って、1月13日の人民元対米ドル中間値は6.0950元で2014年の最高値であり、2005年の為替相場改革以来、人民元が最も強くなった。
 2014年1月27日付け「経済日報」は、塗永紅氏の署名入りで、“人民元は過度に上昇するか”と題して、およそ次のように記している。
 「2013年後半以来、人民元上昇速度がある程度速まった。市場は人民元相場がいつごろ均衡するだろうかとの疑いを持っている。
 党の18期3中全会後、市場の予想は一致している。人民元を上昇させた主な原因は三つある。一に、市場は中国経済の先行きがよくなると見ている。二に、中国の輸出が回復し、比較的安定した貿易黒字が出ている。三に、主要な先進国の低金利政策と中国の金融政策が鮮明な対比を形成したことにより、人民元が中長期均衡相場からずれて短期的に上昇することとなった。
 要するに、基本経済面から見て、人民元には中長期的に上昇する基礎がある。但し、このように大幅に上昇するのは異常であり、ホットマネーの影響を排除しない。過去2年間、人民元相場の上昇は速すぎ、上昇幅も大きすぎ、中国の輸出に巨大な圧力となった。中国の外貨準備はまだ増加しており、外国為替は供給が需要より大きく、2014年には人民元には疑いもなく、引き続き上昇の動力がある。
 筆者は、次のようにみている。当面の市場の需要を、人民元相場の長期趨勢と短期”調整過剰“現象をはっきりと分けなければならない。前者は貿易、投資が決定し、後者は資本流動が決定する。中国が更に資本規制を自由化し、人民元の国際化を推進することにより、国際収支の中での資本流動の規模は絶えず拡大し、短期的人民元相場がおそらく均衡相場を逸脱し、過度に上昇する問題の出現が避けられない。」
 しかし、その後、人民元対米ドル相場中間値は、人民元が米ドルに対して下落していった。1月30日には、1米ドルが6.1050元となった。2月28日には6.1214元となった。
 2014年1月中旬以降、人民元対米ドル相場が下げ続けていることに対して、2月28日の「中国経済網」は、中国人民銀行、中国外為取引センターの資料をもとに、なぜ下げたのか、まだどのような影響があるか、について明確な分析を行っている。
 まず、人民元相場が下げた国際的要因として,次の諸点をあげている。
国際的要因
 (1)米国連邦準備銀行のQE政策退出で米ドル相場が段階的に強くなり、国際資本が大量に米国に回流
 (2)ウクライナ政局騒乱でロシアの銀行システムが影響を受け、投資家が新興市場国の資産を投げ売り
国内的要因
 (1)中央銀行がホットマネーをコントロール
 (2)地方政府融資プラットフォームの債務償還ピーク
 (3)実体経済成長エネルギー不足
 (4)金融機関等の米ドル資産需要増加
人民元相場下落の国内経済への影響として、次の諸点をあげている。
 (1)外貨準備について、中国の外貨準備の価値増加
 (2)企業債務について、米ドル建て債務が増加し、利潤は下降
 (3)金融リスクについて、市場金利上昇、国際資本流出で、銀行等金融システムの債務安全性に影響
 (4)輸入企業について、大豆、天然ガス、鉄鉱石、石油等の価格上昇
 (5)輸出企業について利潤上昇
 (6)株式市場 について、A株下落傾向
 結論としては、基本面からみて、人民元下げの可能性は段階的であり、人民元の趨勢的な下げの可能性は比較的小さく、長期的方向はやはり人民元は対米ドル上昇。 
2014年2月24日付け「経済日報」の“大家談”欄で、交通銀行首席エコノミスト連平氏は、“人民元相場の趨勢的下げはありえない”として、およそ次のように述べている。
 「最近、人民元相場の変動が広く関心を呼んでいる。ある人は、人民元は持続的に下げるだろうと心配する。こうした心配には及ばない。人民元の為替相場市場に直接影響する要素は国際収支であり、深層の経済要素は成長、金利差と国際競争力である。目下、中高速成長と金利差が比較的大きいことで、外資の直接投資(FDI)等中国への資本流入の圧力はなおかなり大きい。国際環境の改善と輸出能力の増強で貿易黒字はかなり高い水準に保持されている。このことにより、2014年の人民元相場が趨勢的な下げを形成するのは難しく、双方向に変動し、小幅上昇の可能性がかなり大きい。」
 これまでの人民元相場形成メカニズム改革の動きを振り返ってみると、2005年7月21日、中国は市場の需給を基礎とし、通貨バスケットを参考に調整を行う、管理された変動相場制度を始めた。変動幅は2005年7月から上下に0.3%、2007年5月から上下に0.5%、2012年 4月から上下に1%となっていた。
更に2014年3月17日から変動幅は2%に拡大された。変動幅拡大は、人民元相場の市場化に有利である。
 ここで、2005年の為替相場形成メカニズム改革以来の、人民元対米ドル相場の推移を振り返っておくこととしたい。2005年7月21日の人民元対米ドル相場2%切り上げを含めて、人民元対米ドル相場の推移は次の通りである。
 2005年末 1米ドル=8.0702元  対前年末比  2.56%上昇
 2006年末      7.8087元         3.35%上昇
 2007年末      7.3046元         6.9%上昇
 2008年末      6.8346元         6.9%上昇
 2009年末      6.8282元         0.1%上昇
 2010年末      6.6227元         3.0%上昇
 2011年末      6.3009元         5.1%上昇
 2012年末      6.2855元         0.2%上昇
 2013年末      6.0969元         3.1%上昇
(出所)各年度統計公報
 2014年2月28日の人民元対米ドル相場は1米ドル=6.1214元であったが、3月31日には6.1521元と人民元が下落した。4月30日には6.1580元となった。
 人民元対米ドル相場が下落を続ける中で、3月23日付け「経済日報」は同紙記者張忱氏の署名入りで、“為替相場の短期の変動を過分に憂慮する必要はない”と題して、およそ次のように記している。
 「短期的にみて、中央銀行が常態式外為介入から退出するにつれて、人民元相場はますます市場の需給状況によって決められる。基本面から見て、最近の人民元相場が下に向かって変動するのは長期的趨勢にはなりにくい。目下、中国経済成長は中高速段階に入った。成長速度は他の国に比して比較的高く、外貨準備は十分にあり、財政金融リスクはコントロール可能で、外部からの衝撃を抑える能力はかなり強く、人民元相場には大幅下落の基礎は存在しない。もし短期の現象を長期の趨勢とみなすと、誤った判断を下すことになるであろう。」
 5月に入って、人民元対米ドル相場はさらに下落し、5月29日には1米ドルが6.1705元となった。人民元対米ドル相場が下落を続ける中で、5月27日付け「経済日報」は、“人民元為替相場中間値弱くなる”との見出しで、およそ次のように報じている。「 5月26日、人民元対米ドル相場中間値は6.1699となり、連続4取引日下落し、8か月来の低い相場となった。最近、米ドルが強くなり、人民元相場に一定の圧力となった。米FRBの量的緩和策縮小の問題が影響している。年初来、銀行の売為替買為替の黒字が月を追って減少する状況が明らかになり、4月分の黒字は3月に比して75%減少した。国内の個人部門に米ドルを保有していたいとの願望が上昇し、銀行へのドル売り希望が減少した。過去に、人民元が上昇を続ける背景の下では、個人部門の銀行への米ドル売りが比較的多かった。」
 6月3日には6.1710元まで下落したが、6月10日には6.1451元まで上昇した。6月10日付けの「経済日報」は、“人民元相場が連続2日反騰”との見出しで、およそ次のように報じている。
 「6月9日、人民元対米ドル相場中間値は6.1485となり、今年3月27日以来の高値となった。一日前の取引日の中間値は6.1623で138BP上昇した。最近18か月来、最大の上昇幅となった。二日間で累計223BP上昇した。
 人民元相場が最近2取引日上昇したのは最近発表された経済数字と関係がある。5月分の中国製造業購買担当者指数(PMI)は50.8%であった。4月分に比べて0.4%上昇した。既に連続3か月上昇している。先週末発表された5月の対外貿易の数字も人民元相場に対して支えとなった。予想を超えた対外貿易の黒字は最近の人民元相場下落の予想一定の影響を与えた可能性がある。」
 今年3月の全人代における政府活動報告は、輸出のレベルアップと貿易均衡を推進し、輸出入目標を7.5%前後とした。しかし、1-4月の輸出入総額は前年同期比マイナス3.1%であった。国務院弁公庁は5月4日付けで、各省、自治区、直轄市人民政府、国務院各部委員会、各直属機構宛てに、“対外貿易安定増加を支持する若干の意見について”を出した。いわば国を挙げて輸出入増加に取り組むことになった。
 6月8日税関総署から発表された5月の輸出入の数字は、前年同期比プラス1.5%、うち輸出は1-4月のマイナス4.8%に対し、5月はプラス5.4%となった。輸入はまだマイナス2.9%だ。5月の貿易黒字は2204億元と前年同月比70.3%拡大した。
 これから人民元対米ドル相場はどうなるか。既述の通り、人民元対米ドル相場は2005年から2013年まで、対前年比下落した年は一回もない。人民元が弱い通貨では、人民元の国際化は進めにくい。しかし、人民元対米ドル相場が上昇の一途をたどるならば、中国へのホットマネーが増えてしまい、結果として外貨準備がさらに増えてしまう。
 今年3月に人民元対米ドル相場の変動幅が上下にそれぞれ2%に拡大されたことにより、上下への変動が従来以上となるものの、今年末には、昨年末の1米ドル=6.0969元に近づくか、あるいは年初に予想したように、5元台になる可能性も皆無とは言えない。
 
(2014年6月17日記す)


           <目次>へもどる