大久保 勲の人民元論壇    
     第50号 2015.04.07発行
福山大学名誉教授
大久保 勲
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2015年の人民元対米ドル相場上昇幅は2%前後か、変動幅拡大は当面なし

1.はじめに
 毎年、国家統計局の統計公報には、年末の人民元対米ドル相場と年間の上昇幅が発表されていたが、2014年の場合は、人民元平均為替相場1米ドル=6.1428元と前年比0.8%上昇、と発表された。
 人民元対米ドル相場中間値は、1994年1月に外為体制改革が行われ、それまでの公定相場と外貨調整センター相場が一本化され、1米ドル=8.7元となり、
 1997年10月以来、8.2770元から8.2800元の間で安定的に推移し、2005年7月21日、人民元為替相場形成メカニズム改革が行われ、1米ドル=8.11元となった。その後の相場の動きは次の通りである。        
2005年末 1米ドル=8.0702元  対前年末比  2.56%上昇
2006年末      7.8087元         3.35%上昇
2007年末      7.3046元         6.9%上昇
2008年末      6.8346元         6.9%上昇
2009年末      6.8282元         0.1%上昇
2010年末      6.6227元         3.0%上昇
2011年末      6.3009元         5.1%上昇
2012年末      6.2855元         0.2%上昇
2013年末      6.0969元         3.1%上昇
2014年末 6.1190元         0.3%下落



 注:中間値から一日に変動できる幅を示す変動幅は、1994年1月から上下に各0.3%、2007年5月から上下に各0.5%、2012年4月から上下に各1.0%、2014年3月から上下に各2.0%となっている。


 年末相場でみると、人民元は米ドルに対して上昇を続けたが、2014年年末相場は0.3%下落した。しかし、上述の通り、中間値の年間平均値は0.8%上昇したという。2014年はなぜ年末相場ではなく、平均値にしたのか。説明はないので、よくわからない。しかし、中国は人民元国際化を鋭意進めており、また2014年3月より、変動幅が上下に各2%と拡大されたので、年末相場よりも平均値のほうが、より適切と判断したのかも知れない。
 それでは、2015年の人民元対米ドル相場は、どのように推移するか。結論から記せば、人民元対米ドル相場中間値の平均値上昇幅は、2%前後か。変動幅拡大は、2015年には、恐らく無いであろう。
 人民元相場変動要因には、政策意図、国際収支、人民元需給、人民元国際化、
中国の経済成長の鈍化、FRBによる利上げ等経済環境、通貨環境の影響、等々が考えられる。順を追って考察していくこととしたい。

2.中国政府の政策意図
 2015年3月に開かれた全人代における李克強総理の政府活動報告では、「人民元為替相場を合理的な均衡水準に保持し、人民元相場の双方向への変動の弾力性を強める。人民元の資本取引の交換性を緩やかに実現し、人民元の国際的使用を拡大し、人民元のクロスボーダー支払システムの建設を速め、人民元の世界清算サービス体系を完全なものにする」となっている。
 政府活動報告では、また「今年の経済社会発展の主要目標の一つは、輸出入増加が6%前後であり、国際収支の基本的均衡である。外商投資産業指導目録を修訂し、サービス業と一般製造業の開放を重点的に拡大し、外商投資制限類項目を半分にする」となっている。
 人民元相場の変動幅をさらに拡大する必要があるか否かも市場で広範に関心を集めている。このことに対し2015年3月、全国政協委員、中国人民銀行副総裁の易綱は、「人民元の変動幅の弾性は既に過去よりもずっと大きくなった。目下、人民元の変動幅を調整する切迫した必要はない」と語った。 (2015年3月6日付け『経済日報』)

3.国際収支
 2015年3月に、全国政協委員、中国人民銀行副総裁易綱は次のように認めている。
 「今年、中国は国際収支の基本的均衡を保持する自信がある。国際収支の経常収支はかなり大きな黒字を保持し、輸出は輸入より大きく、経常収支と資本・金融収支を加えるならば、全体としてみると、今年は完全に国際収支の基本的均衡を保持することが出来る。」(2015年3月6日付け『経済日報』)
 人民元対米ドル相場に切り下げ圧力がかかっても、中国は管理された変動相場制度を実行しているので、切り下げの幅はあまり大きくならない。短期的に人民元相場に過大な変動があれば、中央銀行が介入する可能性も排除しない。欧州中央銀行と日本銀行が量的緩和を速め、ユーロと日本円相場を低く抑えており、米国経済の基本面が強く、FRBが量的緩和の力を弱めているので、米ドルの動きは他の通貨よりも強い。(2015年1月27日付け『経済日報』)
 2014年の年間貨物輸出入総額264334億元で前年比2.3%増であった。うち、輸出143912億元、4.9%増、輸入120423億元、0.6%下降。輸出入差額(輸出マイナス輸入)23489億元、前年比7395億元増加であった。
 税関総署が2015年2月8日発表した数字では、今年の1月分の中国の輸出入総額 2.09兆元 前年比10.8%下落、うち輸出 1.23兆元、前年同期比3.2%下落、輸入0.86兆元、19.7%下落、貿易黒字3669億元、前年同期比87.5%拡大となっている。
 税関総署が3月8日発表した数字では、今年の2月分の中国の輸出入総額は1.7兆元、11.3%増。うち、輸出は1.04兆元、48.9%増、輸入6661億元、20.1%下降。貿易黒字3705億元であり、前年同期の貿易赤字は1373億元であった。
 以上の通り、2015年1~2月の輸出入取引では、貿易黒字が前年同期比よりも拡大している。
2014年の国際収支状況を見ると、中国には13148億元(2133億米ドル)の経常収支黒字、5939億元(960億米ドル)の資本と金融収支の赤字があり、国際準備資産は7209億元増加した。中国の外国為替は供給が需要よりもはるかに大きい。このことは人民元相場が上昇しないことを意味する。(2015年2月5日付け『経済日報』)
 2014年の資本と金融取引の赤字は、1999年以来、2回目で、1回目は2012年の318億ドルの赤字であった。(2015年2月16日付け『経済日報』)
 経常収支の黒字がGDPに占める比率は既にかなり小さいので、人民元相場は既に均衡区間に入ったとされる。ここ1-2年の相場の実際の変動から見て、人民元対米ドル相場には、大幅上昇の基礎的条件がない。(2015年12月10日付け『経済日報』)
 国際収支の角度から見ると、2015年の経常収支とGDPの比はかなり大幅に上昇し、資本勘定はなお黒字を保持し、人民元はなお上昇の余地がある。大口商品の価格下落の効果が十分に顕現するにつれて、経常勘定の黒字とGDPの比が引き続き上昇し、昨年の2.2%から今年は3%に上昇すると見込まれる。(2015年1月6日付け『経済日報』)

4.人民元需給
 2015年、中国経済が下降圧力に直面し、米国の利上げの予期がかなり強い背景の下で、資本流出圧力は依然存在する。このほか、中国は既に明確に緩やかに人民元資本取引の交換性を推進しており、資本市場の双方向への開放拡大も大勢の赴くところである。(2015年3月6日付け『経済日報』)
 中国では、年間で外為の供給が需要より大きく、外貨準備が増加するという基本的な枠組みは変わっていない。中国経済の成長速度はなお引き続き世界でかなり高い水準にあり、このことが中国の国際資本特に中長期資本の吸引力を保持するのに有利になっている。
 2014年の銀行の買為替売為替の数字から見ると、1-3月期は買が売りを1592億ドル上回った。4-6月期は買が売りを290億ドル上回った。7-9月期は売りが買いを160億ドル上回った。10-12月期は売りが買いを465億ドル上回った。中国は大規模な資本流出に直面しているのか。国家外為管理局管涛国際収支司長は、これらの問題に自身の見方をおよそ次のように示した。
 2014年8月から銀行の買為替売為替は連続5か月売りが買いを上回り、人民元対米ドル相場も11月、12月と持続的に弱くなっているため、一部の市場関係者は大規模な資本流出の心配をした。これに対し、管涛は、目下、資本流出の圧力はコントロールできる、としている。年後半に一定の資金流出圧力がかかったが、年間で外為の供給が需要より大きく、外貨準備が増加するという基本的な枠組みは変わっていない。11月と12月に需給の不足分は9,10月の2、3百億ドルから1百億ドル前後に収斂した。
 中国の2014年7-9月期の国際収支平衡表中の“純誤差脱漏”項目がマイナス632億ドルとなったことを、資本の隠れた流出と見る向きがあったが、管涛は次のように表明した。
 純誤差脱漏の方向と資本流動の方向は必ずしも必然的に繋がりのあるものではない。2009年から中国の純誤差脱漏はずっとマイナスであった。但し2013年になる前は、2012年に流出の圧力がかかったのを除いて、その他の年に中国は全て資本流入、人民元上昇の圧力に直面した。
 資金流出は、人民元相場に対して一定の切り下げ圧力がかかる可能性がある。2014年の実際の状況から見ると、人民元対米ドル相場は年間では切り下がったが、その他の主要通貨に対しては、依然として強く、総合的にみると、人民元相場の2014年の動きは、やはりかなり強かった。2014年に、国際決済銀行が作成した人民元名目と実際の有効相場指数はどちらも史上最高となり、年間でそれぞれ6.4%と6.2%上昇し、2005年の為替相場改革以来累計でそれぞれ40.5%と51%上昇した。(2015年1月23日付け『経済日報』)

5.人民元国際化
 2014年の人民元国際化の軌跡を点検すると、中国とスイス、スリランカ、ロシア、カザフスタン、カタール、カナダ、タイ等多くの国が通貨スワップ協定に署名または期限延長の署名をした。中国と通貨スワップ協定を結んだ国は28か国に達し、総金額は3兆人民元を超えた。2015年3月には、スリナム中央銀行と協定を締結し、協定締結国は合計29か国となった。
 2014年、人民元はまた韓国ウオン、シンガポールドル、ユーロ、英ポンドとニュージーランドドルとの直接取引を実現した。この前に実現した、日本円、オーストラリアドル、マレーシアリキッド、ロシアルーブルを加えて、人民元と直接取引できる米ドル以外の通貨は既に9種類となった。
 注目されているのが、人民元オフショア取引センターの発展が速いことである。2014年一年間に、中国と英国、ドイツ、フランス、韓国、カナダ、オーストラリア、ルクセンブルグ、カタール、マレーシア、タイ等の中央銀行と人民元業務決済協定を結んだ。これにより人民元決済範囲に、アジア、欧州、北米、大洋州及び中東地区を取り込んだ。
 統計によれば、クロスボーダー人民元決済金額は2009年に35.8億元、今は既に16兆元を突破した。
 中国の輸出入貿易の2割近くがすでに人民元決済を採用している。
 上海・香港相互株式投資制度が2014年11月から正式に始まった。域外の基金が上海証券取引所に上場している株式に投資することが出来、総額度は3000億人民元である。また大陸の投資家が香港の株式を購入することが出来、額度は2500億人民元である。
 英国、オーストラリア、カナダの関係機関は既にオフショア人民元債券を発行した。2014年10月21日、英国政府は初めての3年物30億元の人民元主権債券をロンドン証券取引所に上場した。これは中国以外が発行した最大の人民元債券である。2014年11月現在、海外人民元”点心債”債券発行残高は既に5000億元を超えた。
 英国は既に人民元を初めて英国の外貨準備に入れた。統計によれば、今までに、既に30を超える中央銀行と通貨当局が人民元を外貨準備に入れた。
 2015年1月22日、中国スイス両国中央銀行は合作備忘録に署名し、人民元適格域外機関投資家(RQFII)のテストをスイスまで拡大することに同意した。投資額は500億人民元となっている。 (2015年1月28日付け『経済日報』
 SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)
の報告によれば、人民元は既に2014年11月、カナダドルとオーストラリアドルに取って代わって世界で5番目の支払い通貨になり、米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円の後にぴたりとついている。(2015年1月29日付け『経済日報』)
 人民元の国際的影響力を高める過程で、為替相場は決して決定的要素ではない。しかし、相場の相対的安定を保持することは必要である。人民元の国際化が速まるにつれて、更に市場化した金利と為替相場市場の建設が必要である。目下、人民元国際化のカギとなる一歩は、IMFのSDRのバスケット通貨に入れるかどうかである。目下、バスケットの通貨は、米ドル、ユーロ、日本円と英ポンドである。
資本取引の交換性について、対外経済貿易大学金融学院長丁志傑は、次のように述べている。完全に放任した開放はかなり大きなリスクを生む可能性があり、やはり漸進式推進が必要である。基礎的準備が必要であり、その中には、金利と為替相場の市場化改革、資本市場の広さと深さの引き上げ、資本流動の監視測定能力等々が含まれる。この基礎の上に、慎重に、控えめに資本勘定を開放すべきである。(2015年2月3日付け『経済日報』)
 2015年3月の博鰲フォーラムで、中国人民銀行周小川総裁は、「今年は外国為替の管理に関する法令を徹底して整理できるかもしれない」と述べ、人民元の資本取引の規制緩和に意欲を示した。(2015年3月30日付け『日本経済新聞』)

6.経済環境、通貨環境の影響
 人民元対米ドル相場を下げる要因としては、経済環境から見ると、中国経済成長の減速への懸念がある。通貨環境から見ると、FRBの利上げの問題がある。さらに、金利差の問題がある。中国と米国の金利差の縮小懸念は、人民元対ドル相場の下げの要因となる。
 長期的にみると、実体経済は通貨の対外価値を決定する要素である。経済が新常態に入り、2014年の中国の成長率は7.4%に落ちた。ただし、これは世界の主要国の中で依然として最高であり、市場が人民元の長期に上昇する確信を維持するのに有利である。(2015年2月5日付け『経済日報』)
 2014年全体を見ると、人民元対米ドル中間値は0.3%下落した。直物相場は2.4%下落した。これは2010年に為替相場改革を再度行ってから、初めての年間での相場下落である。人民元相場を下押しする要素は確実に存在するが、米ドル相場動向、国際収支、人民元国際化等の面から見て、人民元はなお2015年に総体的安定を保持すると見込まれる。
 中国経済の基本面は依然として穏健であり、人民元国際化の加速と、今注目されている“一帯一路”戦略の推進等は、人民元相場の総体的安定保持を支えるであろう。
 ”一帯一路”戦略の推進に連れて、2015年には人民元貿易決済の範囲が引き続き拡大され、更に多くの人民元オフショアセンターが出現するであろう。人民元がますます国際市場で受け入れられるという事実は、一面で人民元相場が安定を保持するとの市場の確信を反映している。(2015年1月6日付け『経済日報』)
 2015年には、BRICS国家開発銀行やアジアインフラ投資銀行が成立すると見込まれており、中国は主要な株主として、人民元が投資と貸付の主要な通貨となる見込みであり、このことが人民元の国際化を更に推進するであろうし、また人民元が引き続き比較的強い相場を保持し、市場の信頼を維持する必要がある。(2014年12月30日付け『経済日報』)
 金融は現代経済の核心である。近年、中国は積極的に経済貿易外交から金融外交に向かい、国際金融秩序に対する影響は日々に拡大している。今後、中国は国際的に、とりわけアジアと新興経済体での金融に関する発言権がますます重くなる。
 中国は2006年に外貨準備が最も多い国になった。2013年には世界で貨物貿易が一位になった。2014年には、資本純輸出国になった。中国は経済領域での国際的発言権を徐々に拡大し、国際経済新秩序の重要な力になる。
 中国は貿易大国であるが、国際金融領域での発言権はずっとかなり弱かった。アジアインフラ投資銀行創設メンバーとして、本稿執筆時点で、すでに41か国が名乗りを上げた。中国は積極的に自信をもって金融外交を展開し、国際金融秩序を改善しようとしている。
 2015年の相場動向については、かなり多くの業界人士が、人民元対米ドル相場はなお基本的に安定するが、双方向に変動し、強くなったり弱くなったりとの特徴が更に突出するであろうとしている。
 もし人民元が米ドルと共に、その他の通貨に対し切り上がれば、中国の輸出競争力を削ぐことになるであろう。もし人民元が各国の通貨につき従って切り下がれば、短期的には輸出に有利であろうが、中国の低コストの優位性がなくなってきた厳しい現実を根本的に変えることは出来ない。
 2014年11月の利下げも、2015年2月の預金準備率引き下げも、2015年2月末の利下げも、国内経済の穏健な運営が目的であった。
 2014年に、人民元は米ドルと香港ドルに対して2.4%切り下げたほか、主要な経済体のほとんどすべての通貨に対して切り上げた。
 もし実際の有効為替相場で計算すると、2014年に人民元は累計で5.9%切り上がり、中国の輸出増加に対して実質的な不利な影響を及ぼした。年間で輸出はわずかに4.9%増加した。増加速度は最近5年来の低さであった。
 人民元相場の相対的安定を保持することは、中国の中長期の戦略的利益に符合する。次に、中国の経常収支の黒字のGDPに占める比率は2%前後の合理的水準にあり、人民元相場は総体として合理的な区間にある。第三に、中国の経済成長はなお世界の主要経済体の前列にあり、人民元と人民元資産はなおかなり強い吸引力を備えている。(2015年.3月20日付け『経済日報』中国銀行国際金融研究所 高玉偉)
 
以上
 (2015年3月30日記す)


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