大久保 勲の人民元論壇    
     第51号 2015.08.13発行
福山大学名誉教授
大久保 勲
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元安誘導か相場形成メカニズム市場化改革の一環か

 中国が8月11日、12日と2日にわたって、人民元対米ドル中間値(基準値)を大きく引き下げたことで、中国経済が厳しい状況になって、習近平政権は元安誘導していると、大きく報じられている。
 人民元相場は固定相場ではなく、需給に基づく、単一の管理された変動相場である。ところが、当局による管理の度合いが強く、変動相場とは名ばかりであった。
 毎取引日の朝、中国人民銀行から授権された上海の中国外為取引センターが、中間値(基準値)を発表していた。中間値は、相対的に安定した動きを示していたが、実際に銀行間外為市場で取引される相場とは乖離が生じていた。
 もともと、中国人民銀行は、人民元相場形成メカニズム改革の方向として、市場化をあげていた。相場は人民銀行が決めるのではなく、市場の需給や、世界の外為市場動向を反映して、市場が相場を決める方向に向かわせようとしていた。
 一日の変動幅を、上下に各2%に拡大し、相場が双方向に動く余地を広げていた。7月下旬に、国務院弁公庁は、《輸出入安定増加を促進することについての若干の意見》を出した。中国の輸出入を安定的に増加させるには、人民元相場を合理的で均衡の取れた水準で基本的に安定させねばならないとした。このため、人民元相場市場化形成メカニズムを、より完全なものにしなければならないとし、双方向への更なる変動幅拡大が必要としていた。
 8月11日、中国人民銀行は、次のような声明を出した。

中国人民銀行の人民元対米ドル相場中間値値決めを完全にすることについての声明
 人民元対米ドル相場中間値の市場化程度と基準性を増強するため、中国人民銀行は人民元対米ドル相場中間値の値決めを完全にすることを決定し、2015年8月11日から、マーケットメーカーは毎日銀行間外為市場が開く前に、前日の銀行間外為市場の終値を参考にして、外為需給状況及び国際主要通貨為替相場の変化を総合的に考慮して、中国外為取引センターに中間値の相場を提供する。

 こうして、8月11日には、人民元対米ドル相場中間値は前日比約2%,12日には更に1.6%近く下がったために、中国が元安誘導に転換したと、大きく報道されるようになった。
 中間値決定方式が変更になったため、慣れるためには、しばらく時間が必要であり、短期的な混乱は避けられない。しかしながら、これは改革の大きな方向の一環であり、長期的には、中国経済の安定的成長のための重要な一手であると見るべきであろう。
 中国人民銀行は、新しい方式への理解を得る為、8月11日と12日に、一問一答の形で解説を行っている。ご参考までに、その全文を掲げておくこととしたい。

中国人民銀行スポークスマンが、人民元為替相場中間値の値決めを完全にすることについて記者の質問に答える     (2015年8月11日)
1. なぜ、今の時期を選んで、人民元対米ドル相場中間値の値決めを、より完全にしたか?
 目下、国際経済金融情勢は複雑であり、米国経済は回復の過程にあり、市場はFRBが年内にも利上げすると見込んでおり、そのため米ドルは引き続き強含みとなり、ユーロと日本円は弱くなる傾向にあり、いくつかの新興経済体と大口商品生産国の通貨は切り下がり、国際資本流動の波は大きくなっている。この複雑な局面は、新たなチャレンジをもたらした。中国の貨物貿易は引き続きかなり大きな黒字を保持し、人民元の実質実効相場は世界の多くの通貨に対してかなり強くなっており、市場の予想とは一定の乖離が生じている。従って、市場発展の必要に基づいて、人民元相場中間値の値決めを、更に完全なものにしなければならない。
 2005年の為替相場形成メカニズム改革以来、人民元相場中間値を基準相場として、市場予想を導き、市場相場を安定させるために、重要な作用を発揮してきた。但し最近、人民元相場中間値が市場相場と乖離する幅がかなり大きく、その持続時間もかなり長く、中間値の市場の基準としての地位と権威性に影響してきた。目下、中国の外為市場は健康に発展しており、金融機構の自主的な為替相場決定とリスク管理能力は増強している。人民元相場の予想は分化し、人民元相場中間値の値決めを完全にする条件は熟しつつある。マーケットメーカーの値決めを適正化し、中間値形成の市場化程度を高めるために有利であり、市場相場の実際の変動区間を拡大し、相場の外為需給調節作用を更によく発揮させることになる。
2. なぜ8月11日の人民元対米ドル為替相場中間値は8月10日の中間値に比して、2%近く変動したか?
 8月11日の人民元対米ドル相場中間値は、8月10日の中間値と比較して2%近く変化していることに気がつく(切り下げの方向)。この現象は以下の二つの面の要素と関係がある。一に、人民元相場中間値の値決めを完全にした後、マーケットメーカーは、前取引日の終値を参考にして値決めする。過去には、中間値と市場相場の差は一回だけ修正した。二に、最近発表された一連のマクロ経済金融数字で、市場の人民元相場の予想に分化が生じ、マーケットメーカーは市場の需給の変化に更に関心を持つようになり、今日の中間値は前日の終値6.2097元の基礎の上に、およそ0.0200元切り下がった。人民元相場中間値をより完全なものにした後、市場では、ある時間をかけて、適応と慣らしが必要である。人民銀行は密接に市場を監視し、市場の予測を安定させ、人民元相場中間値の形成方式が秩序をもって完全になるようにする。
3. 今後、為替相場改革をどのように推進するか?
 今後、為替相場形成メカニズム改革は、引き続き市場化の方向に向かって邁進するであろう。市場の需給の為替相場形成メカニズムの中での決定的作用をさらに大きく発揮させ、国際収支の均衡を促進する。外為市場の発展を速め、外為関係商品を豊富にする。外為市場の対外開放を推進し、外為取引時間を延長し、適格な域外主体を引き入れ、域内外一致した人民元相場の形成を促進する。外為市場の発育状況と経済金融情勢に基づいて、人民元相場の双方向への変動の弾力性を増強し、人民元相場の合理的で均衡のとれた水準での基本的安定を保持する。市場相場の作用を更に発揮させ、市場の需給を基礎とする、管理された変動相場を完全にする。
 目下、クロスボーダーの資本流動の複雑な国際情勢の下で、人民銀行、外為局は現有の法律法規の要求に基づいて、クロスボーダー資金の異常な流動リスクを適切に防止し、銀行のクロスボーダー人民元外貨業務に対して、規則に合致しているか特定の検査を行い、銀行内部の管制と外部の監督管理を行い、反マネーロンダリング、反テロ融資、反脱税等の有効措置を運用し、地下銀行等違法、規則違反行為を厳粛に処罰し、資本流動が規則に合致し、秩序あることを保証する。

中国人民銀行スポークスマンが人民元相場の関係問題についてさらに記者に答える  (2015年8月12日)
1. なぜ8月12日の人民元対米ドル相場中間値が8月11日の中間値と比べて1.6%近い変動があったのか?
 8月12日の人民元対米ドル相場中間値と8月11日の中間値の変動は1.6%近い(切り下げの方向)。主な原因は8月11日に公布した7月分金融統計数字であり、新しい数字への分析と人民元対米ドル相場中間値を更に完全にした基礎の上に、マーケットメーカーが値決めを行った。
 外為市場は日中変動するので、もし前日の終値(closing rate)が前日の中間値と比べて、変動がかなり大きいならば、当日の人民元相場中間値は相応に前日の人民元相場中間値と比べて、一定の幅の変動がある。8月11日の銀行間外為市場終値は6.3231元であった。8月11日の中間値6.2298元と比べて1.5%切り下がった。これはマーケットメーカーが8月12日に人民元中間値の相場を提供する時の重要な参考になる。同時に、マーケットメーカーは外為需給と国際主要通貨相場の変化の要素を総合的に考慮し、さらに一歩進んで最終的な値決めをする。管理された変動相場制度の下では、人民元相場中間値の変動は正常なものであることがわかる。中間値の市場化程度が高いことが体現されているだけでなく、市場の需給が相場決定の中で決定的な作用を形成していることの反映でもある。当然ながら、人民元相場中間値の値決めをより完全にしたのち、マーケットメーカーが値決めをし、市場取引を行って探索し、併せて外為市場の需給均衡点を探し求めるには、一定の時間が必要である。臨時的なものが人民元相場中間値の変動を大きくする可能性がある。短い慣らしの時期が過ぎたのち、外為市場では日中の相場変動及び、これによりもたらされる人民元相場中間値の変動は徐々に合理的な平穏に向かうであろう。
2. 人民元対米ドル相場中間値は市場均衡相場に近づくか?
 市場関係者が言うように、中間値の値決めの調整は、ねじれを減らすのに有利であり、明らかに人民元対米ドル相場中間値が市場均衡相場に近づくのを助ける。管理された変動相場制度のもとでは、市場相場は基準相場としての人民元相場中間値をめぐって変動すべきであり、市場相場と中間値の乖離は、市場自身の修復機能を通じて修正することができる。2014年7-9月期以来、中国の貨物貿易の黒字は引き続き高位にあり、米ドルはその他の国際通貨に対して切り上がった。この二者の人民元相場に対する影響は同じではなく、マーケットメーカーの予想は明らかに分化した。その結果、人民元相場中間値と市場相場は持続的で大幅に乖離した。この度の調整によるマーケットメーカーの値決めは、中間値の形成に外為市場全体の需給を更に参考にして行うため、メカニズム上、中間値と市場相場の持続的な大幅な乖離を防止し、中間値の値決めの合理性を高めた。将来の人民元相場中間値は、主として市場均衡相場を参考にして形成し、同時に引き続き基準相場の市場相場を指導する作用を発揮させ、更に両者の関係を合理化する。
3. 人民元は持続的に切り下がるだろうか?
 国際国内経済金融情勢から見て、目下のところ、人民元が持続的に切り下がる基礎は存在しない。一に、中国経済の成長速度は相対的にかなり高い。今年1-6月、複雑で厳しい国際国内環境と各種の困難チャレンジに直面しながら、中国経済はなお7%成長した。世界を横断的に比較して、なおかなり高い成長を保持した。7月分の通貨供給量と貸出総額のかなり大きな変動は臨時的であり、コントロールできると見るべきである。中国はなお穏健な通貨政策を堅持し、最近の主要な経済指標は、落ち着きを見せ、よくなりつつある。経済運営には積極的変化が出現し、人民元相場が安定を保持するために、良好なマクロ経済環境を提供している。二に、中国の経常収支は長期に黒字であり、2015年1-7月の貨物貿易黒字は3052億米ドルに達した。これは外為市場需給の主要な基本面の要素を決定しており、人民元相場を支持する重要な要素でもある。三に、近年、人民元国際化と金融市場の対外開放が速まっている。域外主体の貿易投資と資産配置等の面での人民元の需要が徐々に増加しており、人民元相場安定のために新しい動力を注入した。四に、市場はFRBの利上げで米ドルはかなり長い期間強くなると予想しており、市場はこれに対し既に消化中である。将来、FRBが利上げすると、一時的には衝撃が走った後、市場はさらに理性的な判断をすると信じる。五に、中国の外貨準備は潤沢であり、財政状況は良好で、金融体系は穏健で、人民元相場が安定を保持するために有力な支えを提供している。
 中国は、市場の需給を基礎とする管理された変動相場制を実行しており、為替相場の変動は正常なものであり、これに対し客観的にみるべきである。将来、人民銀行は人民元相場形成メカニズムを更に完全にし、相場の正常は変動を擁護し、人民元相場の合理的で均衡のとれた水準での基本的安定を保持する。
 
  (2015年8月13日記す)


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