大久保 勲の人民元論壇    
     第54号 2017.9.16発行
福山大学名誉教授
大久保 勲
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人民元対米ドル相場中間値11連騰から双方向への弾力拡大へ
今後の上昇は米ドル次第



 人民元対米ドル相場中間値(基準値)は、8月28日から9月11日まで11取引日連騰したが、12日から14日までは下げて、15日はまた上昇した。9月12日現在、人民元は年初からすでに6.6%上昇した。
 人民元対米ドル相場の調整は、遅かれ早かれ起きることとされ、また上昇一方ではなく、何れ双方向への変動を拡大していくと見られていた。
 これまで、人民元対米ドル相場の上昇に対して様々な見方がなされてきた。人民元対ドル相場は、まだまだ上昇するという楽観的な見方や、人民元高は基本的には経済成長がもたらすものだが、中国経済は好調とはいえ、経済下押し圧力も抱えているとする慎重な見方もある。結局、人民元対米ドル相場に最も影響を与える要素は、米ドルの弱さという点では、多くの識者の見方は一致していた。しかしながら、8月28日からの11連騰の間の米ドル指数を見ると、9月1日から8日までの米ドル指数は下げ続けたが、人民元対米ドル相場の上昇幅に比して、米ドル指数の下げ幅は小さかった。これは中国で3000億ドルとも6000億ドルともいわれる巨額の企業保有の外貨が、かなり売られたからだとか、中国経済の良い面が評価されて人民元が買われたのだともいわれる。
 そこで、今後の人民元対米ドル相場の見通しについて考察することとしたい。まず結論から先に記すと、人民元対米ドル相場中間値の動きは、更なる人民元相場上昇は輸出への影響が懸念される等で、引き続き上昇する余地は限られているとみるべきであり、10月18日の第19回党大会に向けて、双方向に変動しつつ若干上昇し、6.4元前後まではいく可能性がある。しかし、党大会後は年末にかけて6.5元-6.6元と若干下落するであろう。ただ、米トランプ政権内部不一致、不安定な北朝鮮情勢等もあり、こうした不確定要素で米ドルがさらに大幅に弱くなる等の場合には、人民元対米ドル相場中間値もその影響を受けることになる。
 まず、最初に8月28日から9月15日までの人民元対米ドル相場中間値(基準値)の動きと米ドル指数の動きについて記しておきたい。


人民元対米ドル相場中間値 米ドル指数終値
8月28日 1米ドル=6.6353元(-226bp) 92.2
 29日 6.6293(-60) 92.33
 30日 6.6102(-191) 92.85
 31日 6.6010(-92) 92.67
9月1日 6.5909(-101) 92.85
 4日 6.5668(-241) 92.6
 5日 6.5370(-298) 92.29
 6日 6.5311(-59) 92.22
 7日 6.5269(-42) 91.54
 8日 6.5032(-237) 91.47
 11日 6.4997(-35) 91.9
 12日 6.5277(+280) 91.88
 13日 6.5382(+105) 92.52
 14日 6.5465(+83) 92.06
 15日 6.5423(-42)
     
  (注) bpとは、為替相場変化の最小単位であり、為替相場の最後の一つの数字の変化を1bpという。
 米ドル指数(u.s.dollar index)とは、米ドルの動きを先進国市場の主要六通貨(ユーロ50.14%、日本円13.6%、英ポンド11.9%等)と比較する指標である。通貨の割合はその国と米国の間の貿易量による。2017年1月3日の米ドル指数終値は103.24であった。9月14日の終値は92.06であった。米ドル指数は年初に比して11%前後下落していることになる。

 10取引日連騰した時に、これは2011年初以来、と報道されたから、大変珍しいことと言える。しかも、1日に200bp以上相場が動いた日は、近年まではほとんど無かったとされており、11取引日の間に、3取引日も200bpを超えた動きをしたということは、たいへん激しい連騰ということになる。
 8月に人民元対米ドル相場の上昇幅は2%に達した。これは2005年7月以来最大の一か月あたりの上昇幅である。しかも人民元対米ドル相場中間値は月末時点で見ると、連続6か月上昇を続けている。
 最近6か月の月末時点の人民元対米ドル中間値は、3月6.8993元、4月6.8931元、5月6.8633元、6月6.7744元、7月6.7283元、8月6.6010元となっている。             
 9月に入って、中国国内で、今後の人民元対米ドル相場の動きについて、いくつかの見方が新聞やネットで紹介されているので、ここで紹介しておきたい。
 中国人民大学金融・証券研究所副所長の趙錫軍氏は、中国経済の基本面、市場需給の変化、市場の今後の人民元に対する予想の変化、および米ドルの受ける圧力から看て、今後人民元にはまだ上昇の余地がある、としている。
 中国金融40人論壇高級研究員(国家外為管理局国際司元司長)管涛氏は、人民元相場だけについていえば、急上昇の後、遅かれ早かれ調整が起きる、と表明している。また、年初来、人民元が下げ止まり上昇に転じたのは、国内経済が安定に向かい、米ドルが下げ、中米金融政策の差が縮小する等基本面が改善し、更にクロスボーダー資金流動管理が強化改善した影響による、としている。
 瑞銀証券中国チーフエコノミスト汪涛氏は、最近の人民元の上昇幅は市場の予想を超え、米ドルの下げ幅よりも明らかに大きい。これは国内企業のドル売りを受け、人民元相場市場の情緒が高まっている等の要素が影響している可能性が大きい。最近の人民元相場上昇の後、中国外為取引センター(CFETS)人民元相場指数は昨年末の水準に戻っただけである。米ドルが再度大幅に弱くならない限り、人民元が対ドルで引き続き上昇するとは言えない。
 今回の人民元の上昇を推進したのは、8月に市場の人民元相場に対する予想が明らかに変わり、外貨準備が増加したこと、最近数か月企業のドル売りの比率が上昇したこと、FRBが二度利上げしたが、中米の金利差はある程度拡大したこと、19回党大会を前にして市場の情緒が人民元を押し上げていること等による、としている。
 2017年1月6日のCFETS人民元相場指数は95.25、9月8日のCFETS人民元相場指数は95.16でほぼ同水準になっている。
 中金公司チーフエコノミスト梁紅氏によれば、輸出商の保有する米ドルは3000億ないし6000億ドルと見積もられ、これを企業が売りに転じたことが人民元相場が2%以上上昇した主な原因の一つとしている。
 ・中信証券チーフエコノミスト諸建芳氏は、次のようにみている。今回の人民元相場上昇は中間値形成メカニズムに、逆周期因子を導入した背景の下で、人民元対米ドル相場は、米ドル名目実効相場をフォローしている可能性が大きい。人民元中間値形成メカニズムに逆周期因子を導入以来9月1日までに、人民元対米ドル相場中間値は3.8%上昇した。同時期に、米ドル名目実効相場は3.7%下がった(米ドル指数は4.5%下がった)。従って、米ドル名目実効相場が再度強くならない限り、人民元対米ドル相場の上昇態勢は逆転しえないと予想される。今回の人民元対米ドル相場上昇の中で、中央銀行の人民元バスケット相場は依然,相対的安定を保持しており、これも人民元対米ドル相場が名目実効相場をフォローした結果である、としている。
 国際決済銀行(BIS)が発表している米ドル名目実効相場(月平均)は次の通り、2017年年初から大きく下げ続けている。   
 2017年1月125.39、 2月123.52、3月123.06、4月122.11、5月 121.64、 6月    119.99、7月112.25。
 九州証券チーフエコノミスト鄭海清氏は、米国トランプ政府の内部不一致が大きくなり、米国経済回復は段階的に先が見え、欧州経済の回復は力強いことから、米ドル指数はさらに弱くなり、これに反して、中国経済は徐々に安定的にL型の後半に入り、資産価格バブルのリスクは徐々に解消し、中米基本面の対比から、人民元がさらに強くなる、としている。
 中国人民大学財政金融政策研究センター塗永紅研究員は次のようにみている。人民元はまだ上昇の趨勢にある。為替相場を決定する短期要素と長期要素は同じではない。長期から看ると、経済成長速度によって決まる。短期は市場の情緒によって決まる。投機とか突発事件等で短期に相場が変動する。但し、短期変動は長期の趨勢に回帰しうる。毎年、10-12月期は貿易の増加が最も速く、貿易黒字が拡大し、増加した外貨が比較的多く、人民元はまだ上昇するであろう。
 中国人民大学国際通貨研究所学術委員孫魯軍氏は、年初来、国内経済はある程度好転したが、周期的要素の影響のほか、主としてなお固定資産投資とりわけインフラと不動産投資増加がけん引している。金融政策の引き締め、ますます厳しくなる不動産コントロール政策、および強い監督管理、レバレッジを減らす政策環境と資本流出等の要素の影響で、国内経済にはなお一定の下降圧力がある、としている。
 また、人民元対米ドルの今後の動向については、人民元相場が双方向への変動が常態化するとみている。これまでのように上昇一方あるいは下落一方の態勢は出現しえない。当然ながら、短期的に看れば、人民元対米ドルはおそらくまだ一定の上昇の余地がある。人民元相場の転換点の出現については、国内経済の基本面等の要素のほか、更に米ドルの動向に注目すべきである、としている。
 民生銀行首席研究員の温彬氏は、人民元上昇の原因は、中国経済の基本面が好くなりつつあること、GDPが市場の予想を超えたこと、米ドル指数が弱くなり、非米ドル通貨が上昇したこと、中国が資本管理を強化したことで、資本流出が緩和したこと、同時に、人民元相場形成メカニズムがさらに好くなり、逆周期因子が導入されたことも重要な作用を起こした、としている。
 
  〈2017年9月15日記す〉


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