大久保 勲の人民元論壇    
     第56号 2018.08.24発行
福山大学名誉教授
大久保 勲
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2018年末に人民元対ドル相場が7元を超える可能性は低い



1.はじめに
 中国の人民元相場と株価(上海総合指数)が注目されている。今年1月13日発行の第55号に、“2018年の人民元対米ドル相場はいくらになるか”と題して書いた。その中で、今年の人民元対ドル相場は1米ドルが6.35元と6.80元の間とした。
 8月23日現在で見ると、人民元対米ドル相場基準値(中間値)で人民元がもっとも強くなったのが4月2日で6.2764元、人民元がもっとも弱くなったのが8月16日で6.8946元となった。
 年初の予想よりも、上下に0.1元近くはみ出したことになる。今年末に、人民元対ドル相場はいくらになるか。結論を先に書けば、年末に1米ドルが7元を超える可能性は低い。これまでの相場の推移を見ると、1ドル=7元は心理的なボーダーラインと思われる。
 市場が付和雷同的な動きに左右されて、中国当局が想定するボトムラインを超えて大きく下げるようなことがあれば、中国当局は人民元相場安定のために具体的に動くことになる。
 この点について、8月11日付け『経済日報』は、中国人民銀行が8月10日発表した「2018年4-6月期中国通貨政策執行報告」の中で、「為替相場の弾力性を保持すると同時に、必ずボトムラインの思惟を堅持し、必要な時はマクロで周到かつ慎重な政策で、外為需給に対して逆周期調節を行い、外為市場の平穏な運行を守る」としている、と報じている。
 逆周期調節とは聞きなれないが、2017年5月27日付け『経済日報』に“人民元中間値の値決めに逆周期因子を加える―外為市場に存在する可能性のある付和雷同的反応を緩和する”という見出しで、およそ次のような報道がある。「この度、工商銀行をはじめとする外為市場自律メカニズム為替相場工作組が中間値の値決めモデルに逆周期因子を増加させることを提案した。その主要な目的は、市場の情緒的な順周期変動を適度にやわらげ、外為市場に存在する可能性のある付和雷同的反応を緩和することである。」
 いま、人民元対ドル相場の値決めは、終値+通貨バスケットの動き、により行われているが、必要な時は、中国経済の基本的動向を勘案し、付和雷同的下げを緩和する、ということである。
 以下、人民元対米ドル相場の動きを見るうえで、参考となる事項について取りまとめておくこととしたい。
 
2.人民元対ドル相場の推移
 年末相場で見ると、2007年末に7.3046元になったが、それ以降は以下の通り6元台である。 
 
2007年末 7.3046元  前年末比  6.9%上昇
2008年末 6.8346元   6.9%上昇
2009年末 6.8282元   0.1%上昇
2010年末 6.6227元   3.0%上昇
2011年末 6.3009元   5.1%上昇
2012年末 6.2855元   0.25%上昇
2013年末 6.0969元   3.1%上昇
2014年末 6.1190元   0.1%下降
2015年末 6.4936元   5.77%下降
2016年末 6.9370元   6.4%下降
2017年末 6.5342元   6.16%上昇


 中国人民銀行は8月10日、「2018年4-6月期中国通貨政策執行報告」の中で、コラムの形で市場の最近の人民元相場の変化に対する関心に応えた。報告は、弾力性のある為替相場メカニズムは変動相場の”自動安定器“の役割を発揮し、目下市場の予想は平穏で、相場が上がるとの見方と下がるとの見方があり、クロスボーダー資金流動と外為需給は総体として均衡している、としている。
 報告は、人民元対米ドル中間値は、2017年に年間で6.2%上昇した。2018年1-3月期は更に3.9%上昇した。4-6月期は5.0%下落した。2018年1-6月に1.2%下落した、としている。
 6月末の人民元対ドル相場基準値は1ドル=6.6166元となっている。本稿執筆時点の8月23日の基準値は6.8367元で、8月1日の基準値6.8293元とほぼ同水準となっている。
 米ドル指数は8月1日が94.68、8月22日は95.10となっており、人民元対ドル相場と米ドル指数とは大いに関連がある。この問題をもう少し詳しくみたい。
 
3.人民元対米ドル相場基準値と米ドル指数との関連
 2018年に入って、各月の米ドル指数が最高となった日と指数を並べると以下のように、1-3月は米ドル指数が弱く、4月以降米ドル指数は強くなってきた。傾向的には、米ドルが強くなれば、人民元対ドル相場は弱くなる。米ドルが弱くなれば、人民元は強くなる。従って、今後の人民元対ドル相場は主として米ドル次第となる。
 2018年1月以降の各月の米ドル指数が最高となった日と指数
 1月9日     92.51
 2月7日     90.37
 3月20日    90.42
 4月26日    91.56
 5月28日    94.84
 6月29日    95.63
 7月19日    95.17
 8月15日    96.71
 
4.外貨準備高の推移
 外貨準備高の動きも無視できないが、最近の状況は以下の通り落ち着いてきている。

2016年末 残高  30,105億ドル 前年末比  3,198億ドル減少
2017年末  31,399億ドル 前年末比  1,294億ドル増加
2018年1月末  31,615億ドル 前月末比  216億ドル増
2月末  31,345億ドル 前月末比  270億ドル減
3月末  31,428億ドル 前月末比  83億ドル増
4月末  31,248億ドル 前月末比  180億ドル減
5月末  31,106億ドル 前月末比  142億ドル減
6月末  31,121億ドル   前月末比  15億ドル増
7月末  31,179億ドル  前月末比  58億ドル増


5.人民元相場指数
 中国人民銀行は8月10日、「2018年4-6月期中国通貨政策執行報告」を出したが、その中で、人民元対バスケット通貨の実効相場をくらべるCFETS指数は2017年年間で0.02%上昇した。2018年1-3月期に2.0%上昇した。4-6月期には1.1%下落した。2018年1-6月期に0.9%上昇した、としている。
 具体的に中国外為取引センター(CFETS)人民元相場指数を見ると、次の通り。

2017年 12月29日  94.85
2018年  7月 5日  95.07
 8月17日  92.78


 直近のところでは、CFETS人民元相場指数は2017年末よりも下げている。
 人民元対ドル相場中間値は、2018年7月に大きく下げるとともに、CFETS相場指数も大きく下げている。人民元相場が対ドルで急速に下げて、CFETS相場指数は下げ過ぎの感がある。早晩、調整が行われることになるであろう。
 なお、CFETS通貨バスケットは、2017年1月から24種の通貨で構成され、主な通貨の重みは、米ドル0.2246、ユーロ0.1634、日本円0.1153となった。
 
6.国際収支動向
 8月9日付けの『経済日報』は、経常収支の赤字について、およそ次のように報道している。
 「国家外為局が最近発表した数字では、中国の1-6月の経常収支は赤字で、外為市場が強烈に反応した。8月6日の人民元相場は6.85まで下がった。4月の平均相場6.27と比べて、8.5%切り下がった。オフショア人民元相場は7近くまで下がった。
 前回、経常収支が赤字になったのは1998年1-3月期であった。アジア金融危機爆発後で、当時中国政府は人民元を切り下げないと宣言し、経常収支が赤字となった。
 今年前半、貨物貿易はなお1000余億ドルの黒字であったが、サービス貿易は約2000億ドルの赤字となった。これが経常収支赤字の主な原因である。
 注目に値するのは、中国の経常収支が赤字になると同時に、資本収支は黒字となり、純資本流入額は経常収支の赤字よりも大きく、外貨準備は明らかに増加している。目下、外為市場は実際上、超過調整状態にある。
 中国はサプライサイド構造性改革と国際産能合作を通じて、質の高い発展を推進し、対外依存度は大幅に低下した。国際収支経常勘定の黒字がGDPに占める比率は2007年のおよそ10%から今年1-6月のマイナス0.4%まで下がり、基本的に均衡した状態にある。第二に、国際収支の構造がさらに合理的になった。経常収支と資本収支が同方向に発展せず、過去に長期に存在した“双子の黒字”から“一つの黒字、一つの赤字”になった。
 過去長い間、中国の消費需要はかなり低く、その結果貯蓄が多すぎ、投資が過熱し、生産能力が過剰で、国外市場に頼らざるを得ず、その結果大規模な黒字となった。
 改革の推進に連れて、中国の医療養老業界が快速で発展し、住民の可処分所得が絶えず高まり、消費は既に経済成長の主要な動力となった。輸出に供することのできる製品が相対的に減少し、輸入の増加がかなり速く、必然的に経常収支の黒字が減少し、はなはだしきは赤字まで出現した。
 つまり、中国の国際収支が基本的に均衡したことは、サプライサイド構造性改革が明らかに成果を上げ、投資と消費、商品需要と供給の間で基本的に均衡が実現し、インフレ、就業、為替相場がみな適度な水準にある。
 国際貿易保護主義が台頭する大きな環境の下で、中国はサービス業務の対外開放の力を大きくし、サービス貿易の競争力を高め、国際収支構造をさらに改善することは、人民元相場安定のために有力な保障を提供することになる。」(原文出所: 経済日報、作者:中国人民大学国際通貨研究所副所長 塗永紅)
  以上
 (2018年8月23日記す)
 


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