大久保 勲の人民元論壇    
     第58号 2019.03.24発行
福山大学名誉教授
大久保 勲
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今年の人民元対ドル相場は6元台で推移


 第13期全国人民代表大会第2回会議が終わった。本稿では最初に、今回の会議で、人民元対ドル相場について、どのような発言があったか、取りまとめておきたい。
 李克強総理は3月5日の政府活動報告で、「為替相場形成メカニズムをより完全なものにし、人民元為替相場の合理的な均衡水準での基本的安定を保つ」と発言した。
 国家発展改革委員会が3月5日に行った「2018年国民経済と社会発展計画執行状況と2019年国民経済と社会発展計画草案の報告」では、“主要な政策方向付け”の中で、「為替相場形成メカニズムをより完全なものにし、人民元相場の弾力性を増強し、クロスボーダー資金流動の監督管理を強化し、人民元相場の合理的な均衡水準での基本的安定を保つ」としている。
 中国人民銀行易綱総裁は、3月10日の記者会見で、人民元為替相場についておよそ次のように発言している。第7回中米貿易交渉で為替相場問題について討論した。今回我々は多くの重要な問題について討論した。第一に、相手方の通貨当局が通貨政策を決定する時の自主権をどのように尊重するかについて、双方は話し合った。第二に、我々は、市場が決定するという為替相場制度の原則を双方がどちらも堅持すべきだと、話し合った。第三に、毎回のG20 サミットのコミットメントを双方がどちらも遵守すべきであり、競争性切り下げを行うべきでなく、為替相場を競争性目的に用いるべきでなく、双方は外為市場について密接に意思疎通すべきである、と話し合った。我々はまたIMFの数字透明度基準で数字等を披露することをコミットすべきだ、と話し合った。双方はカギとなる重要な問題について共通認識に達した。
 中央銀行はすでに基本的には為替相場市場への日常の干渉をやめた。為替相場市場の変動と一定程度の弾力性は経済全体にとってよい点がある。昨年、人民元対米ドルの変動率は4.2%であった。ユーロの変動率は7%前後、英ポンドの変動率は約8%であった。これは人民元の相対的安定を反映している。我々は絶対に為替相場を競争性目的に使わない。また為替相場で中国の輸出を増やしたり、或は為替相場を貿易摩擦のツールには使わない。我々は絶対にこのようにしないと約束する。
 易綱総裁の記者会見での発言はおよそ以上のとおりであり、米中経済貿易交渉はまだ決着がついていないが、為替相場問題については、既に合意に達しているとみてよいであろう。
 今年の人民元対米ドル相場をどのように見たらよいであろうか。結論から先に書けば、人民元対米ドル相場は、弾力性は増すものの、年間を通じて1米ドルが6元台で推移し、7元台まで下落する可能性は基本的にない。
 主な理由:
(1)2010年以降、年末相場では、すべて6元台で推移し、2014年以降、年間の平均相場はすべて6元台であった。また、中国側は輸出促進のために、為替相場の操作を行わないとコミットしている。

 まず、2010年以降の人民元対米ドル相場の動きを振り返ってみたい。
2010年末が6.6227元で前年末比3.1%上昇、
2011年末が6.3009元で前年末比5.1%上昇、
2012年末が6.2885元で前年末比0.2%上昇、
2013年末が6.0969元で前年末比3.1%上昇、
2014年末が6.1190元で前年末比0.4%下落、
2015年末が6.4936元で前年末比5.8%下落、
2016年末が6.9370元で前年末比6.4%下落、
2017年末が6.5342元で前年末比6.2%上昇、
2018年末が6.8632元で前年末比4.8%下落。
 近年、為替相場の弾力性が増しており、年末の相場の比較だけでは必ずしも適切に相場の動きをフォローできない。中国の国家統計局は、2014年分以降、毎年の統計公報で、年間の平均相場を発表している。それによれば、2014年以降の年間平均相場は次の通りとなっている。
2014年、年間人民元平均相場1米ドル=6.1428元、前年比0.8%上昇
2015年、年間人民元平均相場1米ドル=6.2284元、前年比1.4%下落
2016年、年間人民元平均相場1米ドル=6.6423元、前年比6.2%下落
2017年、年間人民元平均相場1米ドル=6.7518元、前年比1.6%下落
2018年、年間人民元平均相場1米ドル=6.6174元、前年比2.0%上昇。
 人民元相場変動要因には、政策意図、国際収支、人民元需給、人民元国際化、中国経済の基本面、FRBによる利上げ等経済環境、通貨環境の影響、等々が考えられる。
(2)中国の経常収支は、ほぼ均衡している。
 一般に、一国の為替相場が均衡しているかどうかの最も核心的な指標は当該国の経常勘定が均衡しているかどうかである、とされる。
 中国の国際収支の現状はどうなっているか。国家外為管理局は、2019年2月15日、2018年第四四半期及び年間の国際収支平衡表の初歩的数字を発表した。2018年は経常勘定と非準備性金融勘定が黒字となり、準備資産は増加した。米ドルで計算すると、2018年は中国の経常勘定は491億ドルの黒字、うち貨物貿易黒字3952億ドル、サービス貿易赤字2922億ドル、資本と金融勘定黒字408億ドル、うち資本勘定赤字6億ドル、非準備性金融勘定黒字602億ドル、準備資産189億ドル増加となっている。経常勘定は第一四半期が赤字、第二四半期以降は黒字となっている。
 2018年1-6月期に、中国の経常収支の赤字とGDPの比はマイナス0.4%で、国際警戒ラインのプラスマイナス4%以内よりも遥かに低い。中国の2018年1-6月の経常収支は赤字で、外為市場が強烈に反応した。8月6日の人民元相場は6.85まで下がった。4月の平均相場6.27と比べて、8.5%切り下がった。オフショア人民元相場は7近くまで下がった。  前回、経常収支が赤字になったのは1998年1-3月期であった。アジア金融危機爆発後で、当時中国政府は人民元を切り下げないと宣言し、経常収支が赤字となった。2018年前半、貨物貿易はなお1000余億ドルの黒字であったが、サービス貿易は約2000憶ドルの赤字となった。これが経常収支赤字の主な原因である。国際収支経常勘定の黒字がGDPに占める比率は2007年のおよそ10%から2018年1-6月のマイナス0.4%まで下がり、基本的に均衡した状態にある。
 2018年年間で見るとどうか。2018年の中国のGDPは900309億元、2018年の平均相場6.6174元で換算すると、136052億ドル。491億ドルの経常収支黒字は、GDP の0.36%となる。
(3)FRBは2019年の利上げ見送りを決定した。
 FRBは3月20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、2019年中の利上げを見送り、9月末で資産縮小も停止する方針を示した。
(4)米ドル指数は年内でみれば、あまり上昇しないと見込まれる。
 米ドル指数(u.s.dollar index)とは、米ドルの動きを先進国市場の主要六通貨(ユーロ50.14%、日本円13.6%、英ポンド11.9%等)と比較する指標である。通貨の割合はその国と米国の間の貿易量による。
 人民元対米ドル相場は短期的には米ドルの強さの影響が大きい。米ドル指数が上昇することは、米ドルが他の通貨に対して相対的に強くなることを意味する。米経済は、FRBが 2019年中の利上げを見送り、9月末で資産縮小も停止する方針を示しており、海外経済に下振れ懸念がにじみ、景気への警戒モードに転じている。 
 2018年6月末以降の米ドル指数(終値closing)は次の通りである。
2018年6月29日   95.63
8月31日   95.10
10月31日   97.12
12月28日   96.39
2019年1月31日   95.55
2月28日   96.21
3月22日   96.55
(5) 今年の中国経済は前半よりも後半に上向く可能性がある。
 ・李克強総理の政府活動報告で、GDP成長率は6~6.5%を目標とした。李総理は記者会見で、およそ次のように述べた。「中国経済は確かに新しい下降圧力に遭遇している。中国は経済成長の予期目標を適度に下げる。用いたのは区間コントロールの方式であり、昨年の経済増加速度と相互につながっているだけでなく、我々は経済運営が合理的な区間から滑り出すことはないと表明しており、市場に対して安定の信号を出したといえる。」
 ・2018年の統計公報によれば、年間最終消費支出のGDP増加に対する寄与率は76.2% ,
 総資本形成の寄与率は32.4%、貨物とサービスの純輸出の寄与率はマイナス8.6%となっ
 ており、米中貿易摩擦の影響は避けられないものの、中国経済に対する寄与率が最も高
 いのは、モノとサービスの消費となっている。
 ・減税費用引き下げ総額は2兆元近く、前年の大規模な減税費用引き下げに比して更に
 50%以上増加し、空前の規模の大きな減税費用引き下げを行う。
 こうしたことから、1-3月期は6.3%前後と低いが、1-6月期は6.35%から6.4%、年間では6.4%前後と上向いてくるとの予測も出てきた。
 (2019年3月24日記す)
 


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