大久保 勲の人民元論壇    
     第61号 2021.04.25発行
福山大学名誉教授
大久保 勲
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人民元対ドル相場は6.5元前後からやや強含みに推移か

 人民元対米ドル相場は、2021年1月6日の中間値(基準値)1ドル=6.4604元であったが、3月31日の中間値は1ドル=6.5713元まで下がった。本稿執筆時点の4月21日の中間値(基準値)は1ドル=6.4902元となっている。 
 最初に結論を書けば、2020年6月から2021年2月まで、9か月続いた人民元対ドル相場の上昇の後、人民元対ドル相場は6.57元まで戻ってしまい、これまでの上昇幅を打ち消してしまった。2021年3月には、人民元対ドル相場は弱含みとなっていたが、直近では人民元が対ドルでやや強含みになってきた。米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策が当分変わらないとすれば、米長期金利は1.6%前後で大きく変わらないと見込まれ、中国要因には、人民元を支える要因が多く、人民元は6.5元を中心に、強含みに推移する可能性が大きい。但し、最近の人民元対ドル相場の特徴は、弾力性が増していることであり、為替リスク回避が重要になってきている。

 統計公報によれば、近年の年平均の人民元対ドル相場は、次の通り今の水準よりかなり弱かった。
2018年  1米ドル=6.6174元  前年比  2.0%上昇
2019年  1米ドル=6.8985元  前年比  4.1%下落
2020年  1米ドル=6.8974元  前年比  0.02%上昇
 元相場の変動要因には、米中対立や中国経済の動向等種々あるが、中国が新型コロナウイルス禍から、いち早く立ち直り、先進国との景気格差や相対的な金利の高さが元買いを促してきた。年平均で見ると、2019年の対ドル相場と2020年の対ドル相場は殆ど変わらなかった。
 2021年に入って、米金利の上昇で中国と米国の金利差が縮小してきた。2020年夏には0.5%台だった米長期金利は、2021年に入り一時1.7%台まで上昇し、金利差が縮小した。直近では、米国国債10年債の4月21日終値が1.559%とやや下がっている。
 米中間の金利差が大きいと中国の元建て債への資金流入が大きくなるが、金利差が縮小すると資金流入が弱まってくる。
 米ドルの強さは、米ドル指数(U.S. Dollar Index, DXY)に現れている。米ドル指数とは、ユーロや英ポンド、日本円など複数の通貨に対する、米ドルの為替相場を指数化したものを指し、米ドルの相対的な価値を表している。今年1月以降の月別、米ドル指数最高値(終値)は次のようになっている。
2021年 1月 90.65 (27日)
2月 91.53 (4日)
3月 93.30 (30日)
4月 93.02 (2日)
 直近では4月21日に91.16となっている。ただ、今後のトレンドとしては、米バイデン大統領の景気刺激策等を考えると、ドル高要因も少なくない。
 米ドル指数の動きは以上のようにかなり大きく、米ドル指数が上昇する(米ドルが強くなる)と人民元対ドル相場は下落し、米ドル指数が下落する(米ドルが弱くなる)と人民元対米ドル相場は上昇する。人民元対米ドル相場は、米ドル指数の動きにかなり左右されるが、中国外為取引センター(CFETS)指数に対しては、人民元対米ドル相場はかなり安定している。CFETS指数とは、CFETSが採用した米ドルをはじめとする13種の通貨のバスケットで計算した指数である。
 具体的には、CFETS指数は、2月19日96.31、2月26日96.41、3月5日97.06、
3月12日96.90、3月19日96.78、3月26日97.15、4月2日96.73、4月9日96.56、
4月16日96.38となっている。2月中旬から4月中旬までの約2か月の間、最高が97.15、最低が96.31であり、1%以内の変動にとどまっている。
 2021年の人民元相場はどのように動くか。中央経済工作会議は,金利為替相場改革を深化させ、人民元相場の合理的で均衡のとれた水準での基本的安定を保持しなければならない,と明確に提起した。2021年3月の全人代における李克強総理の政府活動報告で、2021年の主要予期目標の一つとして、人民元相場は合理的で均衡のとれた水準で基本的安定を保持する、とのべた。専門家は、2021年の人民元相場安定の要素として、一に、中国経済の成長速度が世界でトップ、二に人民元資産の吸引力が引き続き上昇、三に、中国の金利は引き続き相対的に高い等をあげている。
 最後に、中国への外資の流入状況を見ておきたい。データの出所によって、数字が異なるが、傾向は把握することが出来る。
2020年に、中国は世界最大の外資流入国となった。2021年1月24日、国連貿易開発会議(UNCTAD)の発表した《2020-2021年世界投資趨勢と展望》によれば、2020年の世界の外国直接投資(FDI)は大幅に下降し、前年比下降幅は42%となった。2020年に中国は1630億ドルで前年比4%増え、世界最大の外国直接投資受け入れ国となった。UNCTADによれば、2020年に中国が吸収した外資の世界に占める比率は大幅に上昇し、19%となった。(2021年1月26日付け『経済日報』)
 中国商務部が2021年1月20日発表したデータによれば、2020年に中国が実際に使用した外資は9999.8億元、前年比6.2%増(1443.7億米ドル相当、前年比4.5%増)、規模は史上最高となった。(2021年1月21日付け『経済日報』)
 外貨準備の規模は基本的に安定している。2020年末現在、中国の外貨準備規模は32165億ドルで、2019年末に比して1086億ドル上昇した。
 国家外為管理局のデータによれば、2020年の直接投資の黒字は1034億ドル、前年同期比78%増加。うち対外直接投資は1096億ドル、前年比12%増。対中直接投資は2130億ドル、前年比37%増。
 注目に値するのは、2020年の中国の債券市場は中国への外資流入の非常に重要な領域であった。外為局の統計では、2020年に外資の域内債券の純増規模は1861億ドルで、年末残高は5122億ドル。
 外資投資は、低リスク債券購入を主として、安定収益追求の特徴がある。2020年に外資による中国国債保有の純増は936億ドル、年末残高は2910億ドル、域内銀行債保有の純増は783億ドル、2020年末の残高は1846億ドル、国債と銀行債の合計残高は外資が保有する中国の債券総量の93%を占める。
 なお、外資の中国債券市場での残高と成約量はどちらも3%程度である。(2021年2月23日付け『経済日報』)
 国家外為管理局が3月26日発表した《2020年中国国際収支報告》によれば、経常勘定の黒字は増加し、GDPとの比は1.9%となっており、引き続き合理的で均衡のとれた区間にある。うち、貨物貿易の黒字は2019年に比して31%増加した。サービス貿易の赤字は44%狭まったが、主として旅行支出が減ったことによる。クロスボーダー双方向への投融資は活発である。外国から中国への各種投資は5206億ドルで、2019年に比して81%増加となっている。中国の対外各種投資は5983億ドルで1.1倍増加した。2020年末、中国の対外金融資産と負債は2019年末に比してそれぞれ11%と18%増加し、対外純資産は2.2兆ドルである。(2021年3月27日付け『経済日報』) 
(2021年4月22日記す)
 


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