青山 周の「中国環境論」 第4号
       日本経団連 アジアグループ長 青山 周 
2008.5.21 発行
          
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中国環境ビジネス学試論2
1. 中国における環境ビジネスの特殊性
 中国では、5ヵ年計画で導入すべき環境・省エネ・省資源の技術を国家が指定するといった具合に、国家主導で環境政策を進めようとしている。中国のこれまでの環境政策や省エネ政策に排出権取引など若干の手法が海外から取り入れられているが、政策の中で「市場」の「出番」はほとんどない。
 省エネでは、エネルギー消費の大きい約1000社を重点企業に指定し、エネルギー会計監査報告の作成と監査法人の監査を義務付けた。 1同報告には、エネ設備投資計画やその予算、設備投資によるエネルギー節約量の報告なども含まれている。他方、こうした重点企業を取り締まる側である省・自治区・直轄市に対しては、省エネ・環境専門の予算を設置するよう中央政府は奨励している。こうした政策は企業の行動を規制するルールという性格よりも上からの指令に近い。中国では、日本のように国と企業が別個のアンパイヤとプレーヤーであるという意識が乏しい。
 日本の環境や省エネ政策といえば、政府は法律や制度を作るだけで、あとは企業が守ればいいと考えられている。官僚にとって大切なのは法案づくりと予算獲得であり、環境省の場合はこれに環境基準づくりが加わる。予算をとったり法律や環境基準を策定したり改編したりすると、それは行政の担当者の功績として勲章のように扱われる。政府はさらに法律を施行するために政省令の制定など法律のための法律づくりを行う。ルールメーカーである。制度定着のための仕事といえば、やっとの思いで獲得した予算を補助金として企業や自治体などに供給するくらいである。プレーヤーである企業に法律違反があって明るみにされたならば、マスメディアの批判を浴び、そのあと場合によってはその企業の製品は市場において排除され、株価も低落する。こういう形で市場の洗礼を受けるのである。地球温暖化への対応を見ても一目瞭然で、温暖化問題とはとても関係のなさそうな道路整備までが政府予算に計上されながら、主体となって対策を進めている企業を対象とした補助金は基本的にはゼロである。なぜなら、日本は市場経済国だからだ。補助金、政策金融、優遇税制は制度導入の初期段階における「呼び水」以上ではあってはならないのである。これに対して中国の環境政策は国家主導の計画経済的手法で行われている。
 こうした中国においても市場の役割は次第に高まりつつある。2007年11月に公布された改正省エネ法において省エネ製品の普及が取り上げられているように、製品レベルの対策が重視されてきている。2 こうした政策の変化を受けて、環境にやさしい製品、エコプロダクツのビジネスが急速に興隆している。中国において環境ラベルが導入されたのは1994年。WTO加盟で政府調達手続きの透明化が進んでいるが、政府調達額は2002年の1009億元から2007年には4000億元、日本円で6兆円と、5年間で4倍増となった。 3今、こうした中国の政府調達が急速にグリーン化している。日韓中の3カ国で環境ラベルやグリーン購入について協議が行われている。省エネラベル認定製品リストには、多くの日本企業の製品が並んでいる。しかし、省エネ製品の政府調達に関して国務院弁公庁が2007年7月に出した通知は「政府が強制的に省エネ製品を購入する制度を構築することに関する通知」であり、省エネ製品の購入は奨励ではなく、強制であり義務である。4 
 2007年2月、中国の社会科学院都市発展・環境センターの潘家華研究員は加工・製造、輸送など製品のライフサイクル全体で消費された総エネルギー「embodied energy」に関する研究報告を取りまとめ公表した。 5研究の結果、2002年の中国のエネルギー総消費量の16%にあたる2.4億トン(標準炭換算)、2006年にはエネルギー総消費量の25.7%にあたる6.3億トン(標準炭換算)が海外へ輸出される製品のために消費されていることが明らかになったという。社会科学院の研究者はWWFやイギリスのTyndall Centerの支持を受けてこうした研究成果を公開したが、その趣旨はアメリカなど先進国の消費者は中国において製造や輸送段階でエネルギーを大量につぎ込み、CO2を大量に排出した製品のメリットを享受しているというものである。中国の多大な貿易黒字も世界第1位に躍り出た温室効果ガスの排出もすべてアメリカなど先進国の消費者が中国の商品価値を享受しているせいであり、中国はそうした製品を輸出するためにエネルギーを消費しCO2を排出しているのだという「言い訳」の論理である。こうした主張は自分たちの貿易構造の歪みを言い訳することに重点を置きすぎて、実は海外市場の動きや世論の変化に追いついていない。
 欧州では地球環境問題に対する関心が急速に高まっており、製品ごとにその製品を生産し輸送するために要するCO2排出量を表示する制度がイギリスを皮切りとして導入される。 6環境にやさしくない製品を市場から淘汰する制度である。潘家華は地球温暖化問題に関して非常にセンシティブになっている欧州市場に対して中国製品の環境配慮のなさを意図に反して宣伝してしまうこととなった。中国の中で最も環境に詳しく海外事情に通じているとされている専門家ですら、このように「市場」に疎い。中国において「市場」に対する理解はまだまだこれからの課題であることがこうした実例からも容易に理解できる。
 計画経済的手法で、エネルギー消費効率の悪い火力発電所や生産過剰に悩む業界の小規模工場が計画を決められて、順次、ダイナマイトで爆破され、市場から強制退去させられている。7 しかし、こうした「淘汰」による対策はサステイナブルではない。自国の産業や企業の裾きりを続けて改善を図り続けることには無理がある。これは単に成績の悪い生徒を次々に切り捨て学校から退学させているだけに過ぎない。猛スピードで退学させていたら、生徒が底をついて、気がついたら教室から誰もいなくなってしまうはずだ。ひどい工場を整理した上で次にやるべきことは、生き残った企業の省エネ向上と環境対策である。これにより、個別企業の水準の底上げを図らなければ、経済や産業全体の状況は改善されない。そして、こうした良い生徒を育成するにはアメとムチによる優勝劣敗の原理を導入しなければならない。これは計画経済による上からの指令のやり方ではなかなかうまくいかない。いい企業は市場原理の中からでないとなかなか生まれるものではない。
 こうした意味から考えると、中国において「市場」を通じた環境政策はこれから切り開いていく新しい政策空間であるといえよう。
  
2. 対中環境協力、政策対話の特殊性
 改革・開放政策によってこの30年間に中国は年平均10%近い経済成長を遂げた。こうした成長の中で環境と共生できる発展へと中国政府は政策を転換させようとしている。中国における環境ビジネスは既述のとおり、中国の環境問題、環境政策、さらに中国特有のビジネス環境や特性によって規定される。その中で、環境政策については、改革・開放の中で海外との政策対話や環境分野における国際協力を通じて、次第に「国際標準」とも言うべき世界の常識を身につけ、政策を進化させてきた。
 中国の国際的な対話は、以下のように分類される。 8
① 先進国との対話、環境協力
② 国際機関との政策対話
③ 周辺地域との対話、協力
 先進国との対話、環境協力については、日本との関係がもっとも緊密であると言えるが、日本はODAを中心に国内の公共事業の延長線的に下水処理場の整備や日中友好環境保全センターなどのように、プロジェクト中心でハコモノ中心、技術協力も現場の専門家や実務者の研修を得意とする。これに対して欧州諸国やアメリカ、オーストラリアなどでは中国政府との政策対話やキャパシティ・ビルディングを通じて技術協力を行い、これによって中国の政策形成へ影響を及ぼし、自国の政策理念への理解や普及、中国の行政や専門家との人脈作りに注力している国が多い。
 中国政府も先進国との対話や協力に熱心に取り組んでいる。中国政府のスタンスは基本的に先進国の経験を学習し、自国の政策に取り入れるとともに、実際にモデル事業を中国国内で実施し、その成果を見ながら普及を図っている。歴史的に見るならば、中国のキャパシティ・ビルディングと適応に一定の役割を果たしてきたと評価できるだろう。
 中国の環境政策形成において特に重要な意義をもつものが国際機関との政策対話である。
 中国は共産党という官僚機構が統治している国であるが、中国から見ると国際機関は国の上に君臨する超国家官僚機構である。様々な国から中立的立場から各国を相対的に評価できるという「魔力」もあって、中国の政府は国際機関との協力に熱心に取り組んできた。
 中国ととくに長い交流の歴史を持ち、良好な関係を築いてきた国際機関の筆頭は世界銀行である。 9世界銀行は発展途上国のプロジェクトや財政を支援するために融資業務を行う機関である。世界銀行は国際援助機関として、発展途上国の経済発展に向けた政策立案、政策遂行制度の構築を支援する。政策支援に当たっては、まずその国の政治、経済、社会の理解が必要であるとともに、当該国の行政や専門家との対話が必要となる。こうした「援助」機能を有しているが、こうした「援助」の後に行われるのは基本的には金融機関としての融資である。最近では、世界銀行は単なる開発金融だけでなく、新しい市場の創設に役割を果たそうとしている。世界銀行は炭素基金、コミュニティー開発炭素基金、バイオ炭素基金などの基金を次々と立ち上げたが、これらは途上国に対して資金と技術の移転を促進する世界でも初めての試みであり、中国との政策対話を通じて案件形成で実績を上げている。
 世界銀行はこれまで20年以上にわたり各分野の専門家を募り、中国との政策対話を行い、その結果を英文のレポートにまとめては公表している。こうした政策対話に基づく知的枠組みの下で作成されたレポートは世界銀行、中国政府の両者にとって大きな意味合いを持っている。
 中国政府にとっては、①世界銀行という中立的な機関が中国の現状や政策を分析して、諸外国と比較できるにしてくれるので、自国の特質や問題を認知できる、②世界銀行との政策対話を通じて、グローバル・スタンダードが理解できる、③政策対話を通じて、外国の専門家との間にネットワークが構築される、④国際機関という中立的立場で中国を他国と比較できるように分析結果を英語でとりまとめ、世界に向けて情報発信してくれる、(中国自身が中国のことを説明しても単なる宣伝や自己弁護ととられてしまう)、などの利点があげられる。
 世界銀行にとっては、①政策対話を通じて研究や政策立案を行う中国の行政や専門家との間にネットワークが構築でき、世界銀行の活動空間の拡大が図れる、②政策対話を通じて中国の行政・専門家にグローバル・スタンダードを理解してもらうことによって、世界銀行の対中業務の円滑化につながる、③中国の行政や専門家から直接情報を得られる利点を活用して、シンクタンク能力を向上できる、④世界銀行の次の担当者が学ぶべきテキストとなる。担当者が交代するたびにゼロから学習する無駄を避けることができる、といった特長を有している。
 世界銀行は自らの活動の拡大と円滑化のためにこうした知的枠組みの「プラットフォーム」を活用しているのである。重要なことは、このようなプラットフォームの上で、世界銀行やその他の金融機関、中国政府や専門家、プロジェクトを遂行する事業会社などがそのメリットを享受していることである。
 中国と政策対話を行っているのはアメリカに本部のある世界銀行だけではなく、欧州に本部があるOECDも積極的である。中国において環境政策を国家の基本政策として遂行させるには中国側のカウンターパートである国家環境保護総局の権限強化が重要であるという勧告内容を含む『OECD中国環境評価報告』を2006年11月にOECDは公表した。 102008年3月の機構改革で国家環境保護総局は国家環境保護部への昇格を果たした。国内のオピニオン・リーダーから昇格を求める声は早くから出ていたが、OECDが指摘した環境政策への勧告と国家環境保護総局の考えが多くの領域において一致していたことは見逃せない。総局から部への格上げはOECDとの政策対話の影響力の一端を示す象徴であろう。海外と真っ向から利害が衝突する通商・外資政策と異なり、環境分野は外の政策が国境を越えて浸透しやすい分野であり、こうした点において政策対話の影響力は大きいといえるだろう。
 こうした浸透性の強さは中国自身が海外のことを学習し吸収しようとしていることの表れであるが、中国主導の審議会的な役割を持つ組織も活動している。中国環境・発展国際合作委員会は地球環境サミットが開催され、中国政府が環境問題に目覚めた1992年に設立された。 11海外で活躍する環境分野のオピニオン・リーダーと中国行政機関の現役あるいはOB、専門家をメンバーとして中国の持続的発展に関する重要課題に対して意見を中国政府に提出することが職責である。毎年1回、全体会議が開催されるほか、課題ごとの分科会もあり、国務院に対して毎年の会議ごとに建議を提出している。持続的発展という環境と経済の両立を中国の政策に取り入れる上でこの中国環境・発展国際合作委員会は非常に重要な役割を果たした。同委員会が第16回中国共産党大会直後の2002年11月の全体会議で提出した建議には、中国政府の環境と発展に関わる各機構に対して、持続可能な発展を内在化させ環境と経済の総合的手段を構築する手段を強化すること、環境友好・資源節約の道筋を通じて持続可能な経済体系を構築すること、公布されたばかりのクリーナープロダクション促進法や各地で実行されている循環型経済の実践を評価すること、などが盛り込まれている。 12経済政策に環境政策をビルトインさせようという提案が党大会直後のタイミングで提案されたことは特筆に価する。2002年からのしばらくの期間におけるこの委員会の活動は特にめざましい。グリーンGDPや戦略環境アセスをはじめ、のちに国家環境保護総局が制度化をめざす最先端の政策案のインキュベーターの役割を果たした。
 以上のような先進国、国際機関との交流はいわば中国が進んだ知識や政策を取り入れる窓口の役割を果たしてきたが、中国が水平的関係で、あるいは中国がリード役となって国際協力を進めるケースが急増している。とりわけ、最近、注目されているのが中国と周辺地域との環境対話や環境協力である。例えば、2008年春、メコン開発に関する首脳会議が開催されたが、首脳会議に先立って関連大臣会合として環境担当大臣会議が2008年1月ラオスにて開催され、環境分野での地域協力について話し合われた。 13中国は中央アジアでは上海協力機構や中央アジア地域経済協力(CAREC)、東南アジアについてはASEANといった具合に多国間の協力を行っており、近年、中国が中心的な役割を果たすようになってきている。こうした国際情勢を受けて、環境分野における地域協力においても中国がリード役になっている。
 
3. エッジボール論
  卓球で言う「エッジ・ボール」は相手のテーブルの端を当たって、どこに飛ぶかわからないボールであるが、有効打である。テニスのネットインに当たる。中国は開放政策の下、国内体制を維持しながら、海外に通用する制度の構築をめざし、漸進的な改革を進めてきた。今の中国では到底できない制度改変―例えば、国政レベルでの普通選挙、人民元の完全自由兌換など―は卓球でいえば、中国が拒絶反応を示すアウトボールである。その反対に、中国自身がすでに改革してしまった分野に海外からボールを打ち込んでも単なる「ヨイショ」にすぎず、意味がない。そこで、現在の中国と関わりを持ちつつ、中国の制度の改善を望む人はエッジボールを狙うこととなる。エッジボールを有効に打ち込むには、中国という対戦相手のボールの特徴やテーブルの位置などを正確に把握していく必要がある。すなわち学者・研究者といった専門家の知見が必要となる。しかし専門家だけではたとえいい意見や建議を行ってもなかなか取り上げられる可能性は小さい。国際協力やグローバルビジネスにつながり、様々な具体的なベネフィットをもたらすこととリンクして初めて中国にとって魅力的かつ現実的な提案となる。こうした点において、世界銀行やOECD、中国環境・発展国際合作委員会などは確実にエッジボールを中国に打ち込んできたと言える。
 翻って日本はどうであろうか。日本と中国の間にはかつて経済援助のフォローをするために日中経済閣僚会議が開催されていたが、ながらく中断したあと、日中ハイレベル経済対話が開催されている。 14対話は大臣同士の会議であるが、専門家の議論やニーズを踏まえて下から積み上げた対話となっていないため、お互いの関心事項を大雑把に意見交換する話し合いに過ぎず、政策対話で実務関係を積み上げて強化していく対話となっていない。ODAや民間協力については、日中両国の関係者が集う「日中環境協力フォーラム」も開催されているが、これも進捗や案件紹介といった発表会の域をなかなか脱することができない。 15また、企業との接点も欠如している。
 日中間で環境・省エネ分野の協力を進めようという機運の盛り上がりを受け、経済産業省は中国の国家発展改革委員会、商務部などと日中省エネルギー・環境総合フォーラムを過去2回開催した。2007年9月に北京で開催された第2回フォーラムには日中双方合わせて約1000名が参加した。中国は環境・省エネに関係する省庁幹部、官庁所属の研究機関・大学の研究者・専門家や地方政府・企業の幹部がこぞって参加したのに対して、日本側の政府関係者は、経済産業省から海を越えて40人を超える幹部等が出張して参加したが、そのほかはというと、駐中国大使館以外では国土交通省から住宅関係の幹部1名が参加しただけだった。省エネ・環境の総合フォーラムという名前にもかかわらず、環境省からの参加者もなく、学者・研究者の参加者もほとんど皆無であった。
 日本には専門家・研究者による知的交流をベースとして、そうした英知を政策に結びつける枠組みが欠如している。例えば、大学共同利用機関法人人間文化研究機構の支援の下、早稲田大学アジア研究機構現代中国研究所、京都大学人文科学研究所付属現代中国研究センター、慶応義塾大学東アジア研究所現代中国研究センター、東京大学社会科学研究所現代中国研究拠点、東洋文庫現代中国研究資料室、人間文化研究機構総合地球環境学研究所中国環境問題研究拠点の6つの研究機関で「現代中国地域研究」を2007年から5年計画でスタートしたが、幹事拠点の早稲田や総合地球環境学研究所は中国の持続的発展や環境保全を研究の柱に据えており、中国の環境問題は6つ研究機関が連携をとりつつ協働していく上での最重要研究テーマとなっている。 16日本の学者・研究者の英知を結集したプロジェクトが始まったが、行政はもちろん、これだけの企業が中国でビジネスをしており、中国の環境問題に関心を寄せている中、行政や企業の関係者に名前すらほとんど知られていない。学者・研究者・専門家の知見やネットワークを政策にとりあげ、制度インフラを整えてビジネスを促進するという発想が日本には永らく欠如してきた。
 知的交流をベースとして、行政が制度インフラを構築し、グローバル企業がその上で中国ビジネスを展開するという良好な循環を創出することが今の日本には求められている。
 
4. 「環境」をキーワードとする中国ビジネスを学問する
 環境ビジネスは一般には、生産現場での環境や省エネ対策を行うビジネスと考えられている。環境エンジニアリング、環境ソリューションといったビジネスである。
 筆者はこうした狭義の環境ビジネスをもう少し広げて考えることを提唱している。
 環境エンジニアリングはB to B(企業→企業)のビジネスである。環境ビジネスにおいても、B to C(企業→消費者)がある。環境にやさしいエコプロダクツ、グリーンプロダクツである。企業から消費者の手には代金と引き換えに商品が手渡される。消費者の視点から言えば、広告・宣伝を通じたヴィジュアル・アイデンティティ、商品を通じたプロダクト・アイデンティティ、さらに企業イメージから来るコーポレート・アイデンティティといった三つのイメージによってブランドが成立する。 17試論1で述べたように、第11次5ヵ年計画で初めて登場したブランドが、中国の市場の成長とともに重要な市場戦略の「武器」となっている。こうした中で、中国政府は工場対策としての環境政策を強力に進める一方で、環境にやさしい製品の開発・普及に着手し始めた。環境・省エネ・省資源に役立つ製品であれば、外国企業も堂々と販売して構わない。環境の価値は中国共産党や政府だけのものでない。中国の消費者にも広く受け入れられる価値として急速に普及している。中国における広い意味での環境ビジネスにおいて、エコ・ブランディングは重要な戦略となっている。
 中国において上からの環境政策が現政権で次々と本格化する中、次なる環境政策として「市場」を通じた政策や制度が策定され、次第にその比重を高めていくはずである。悪い企業を取り締まり、切って棄てるだけが環境政策ではない。良い企業を市場の中で育成する政策が今後中国において肝要となっていく。こうした中国の政策の流れのなかで、中国における日本企業のエコ・ブランディングは中国の政策転換を促進していくこととなるのである。さらに日本企業のエコ・ブランディングは中国の政策転換だけでなく、中国の市場をも変容させる力を有している。日本企業のすぐれたエコプロダクツの普及は、中国の企業や消費者の環境マインド向上に一つの刺激を与えるだろう。
 そのほか、中国にすでに進出してモノづくりに励んでいる日本企業の環境リスク対策は利潤につながるものではないが、企業活動に不可欠であることから、「環境」をキーワードとしたビジネスという範疇に入れることができると考える。中国国務院の新聞である経済日報や国家環境保護部が名指しで環境基準違反を指摘した日本企業がある。インターネットで環境にやさしくない企業のランキングで上位入りしてしまった日本企業などもある。こうした企業は実際には環境関係でのコンプライアンスに欠けていなくとも、情報化が急速に進展する中国においては臨機応変の対応を迫られる。中国の中央政府あるいは地方政府では、機関ごとにスポークスマンを置いたり、緊急時対応の法律に従い、政務公開や記者発表など着実に体制を整えている。日本企業においては万全の予防策に加え、不幸にも緊急事が発生した場合の体制や対応方法など、日ごろから準備しておくべきであろう。とくに環境に関わる事案となると、環境にやさしくない企業として中国社会から大きな指弾を受け、場合によってはブランド価値を揺るがしかねないので、中国においても日本国内同様、細心の注意が求められる。
 以上のように考えるならば、今まさに「環境」を切り口とした中国ビジネスを学問の対象にすることが求められているといえる。
 

  ※ 本稿は執筆者個人の見解であり、所属機関の公式見解を示すものでない。
*1 拙稿「環境ビジネスのターゲットは『1000社企業』」『エコノミスト臨時増刊』2007年12月17日号、112-115頁。
*2 新しい中国の「エネルギー節約法」については以下を参照。
http://www.gov.cn/flfg/2007-10/28/content_788493.htm
*3 政府調達と環境保護については、以下を参照。
http://www.zhb.gov.cn/tech/lsxf/xgxx/mtxx/200803/t20080305_119016.htm
*4 通知については以下を参照。
http://hzs.ndrc.gov.cn/zfcg/t20070816_179454.htm
*5 潘家華の基本的考え、WWFなどのコメントについては、以下の記事を参照。
http://space.clfr.org.cn/?action-viewthread-tid-6845
*6 Heather Green and Capell, “Carbon Confusion” BUSINESSWEEK, MARCH 17, 2008 pp.52-55.
*7 拙稿「中国の省エネは本気だ 浪費する工場は爆破・解体」『エコノミスト臨時増刊』2007年12月17日号、98-102頁。
*8 拙稿「中国の産業構造高度化と環境保全」『化学経済』2008年4月号、22-30頁。
*9 World Bank, “China and the World Bank  a Partnership for Innovation,” 2007
*10 OECD, “Environmental Performance Reviews CHINA,” 2007
*11 中国環境・発展国際合作委員会については以下を参照。
http://www.cciced.org/2008-01/04/content_9478952.htm
*12 2002年の年次大会については以下を参照。
http://www.cciced.org/2008-01/13/content_9524820.htm
*13 http://www.zhb.gov.cn/hjyw/200801/t20080131_117817.htmを参照。
*14 「第一回日中ハイレベル経済対話 プレス・コミュニケ」
http://www.cciced.org/2008-01/13/content_9524820.htm
*15 中国環境問題研究会『中国環境ハンドブック 2007-2008年版』蒼蒼社、2007年5月、453頁。
*16 毛利和子「現代中国と環境研究」『天地人』第1号、2008年1月、2-3頁。
*17 日本総合研究所『地球温暖化で伸びるビジネス』東洋経済新報社、2008年1月、第4章「地球温暖化とエコ・ブランディング」(井上岳一)、68-98頁。
 
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