北京NOW (B)    
     第4号 2004.10.28発行 by 江原 規由
    台頭しつつある外資見直し論 <目次>へ戻る
 今年1−9月、中国経済は9.4%の高い経済成長を遂げた。中国は、実質的世界1位の経済成長率を遂げているといっても過言ではない。この驚異的ともいえる経済成長に大きく貢献しているのが外資である。うち、外資系企業に至っては、未曾有のほぼ50万社(批准ベース)が対中進出を果たしており、中国の貿易総額の約57%強、固定資産投資額の10%強、工業付加価値額の約26%、税収の20%強を占め、約7500人を雇用している。今や、外資なくして、中国経済は成り立たないといってよい。こうした膨大な外資受入れを可能としたのは、78年来の改革開放政策と92年のケ小平の南巡講話にあるといってよい。
 
2004年01-09月 外資利用状況
(合同=契約、合資=合弁、美元=米ドル)
 
2004年01--09月 外商投資企業輸出入状況
(出口=輸出、進口=輸入、美元=米ドル)

 改革開放政策が打ち出された当時、中国は国家建設のための資金が大いに不足していた。銀行の融資額が預金額を大幅に上回る状況にあり、預金不足を補うため、外資(中心は直接投資)の導入が図られたわけである。ところが、改革開放四半世紀を経た今日、中国における外資見直し論が台頭しつつあるようだ。いわく、「今や、中国は世界第2位の外貨準備を保有しており、国家建設に関わる資金は豊富だし、銀行預金額は融資額を大幅に上回っている。資金不足を補うために、外資を導入するといった状況ではなくなっている」(注)というのだ。
 今年8月、商務部の薄熙來大臣は、山東省煙台市に、同部副大臣2名、局長20数名と10数名の対外経済関係専門家を招集し、中国の対外経済関係や内外貿易の一体化などにつき、持ち時間15分の意見発表をさせた。ここでのもっぱらの関心は、「現在中国における外資は多いのか、少ないのか。一体中国にとっての理想的な外資規模はどのくらいか」という点であったという。こうした動きをもって政府サイドで外資見直論が始まったというわけではないが、若手経済学者の間などでは、「中国経済における外資のこれまでの貢献は認めるものの、今後、例えば中国企業の発展機会が奪われないか」、といった、いわば、現下の「外資導入性善説」に意義ありとする論調が増えつつあるのは事実だ。その代表は、今年7月、ある媒体に載った「外資がもたらすラテンアメリカ化への懸念(外資引進"拉美化"之憂)」という一文である。なぜ、「憂」なのか。いわく、
@ 国内企業に比べ外資系企業が税制的に優遇されている
A 直接投資総額がGDPの40%を超え、既にその比率が先進国やアジア諸国のそれを大きく上回っている
B 外貨準備の異常な増加は人民元の切上げを早めることになる(外資の中国貿易総額に占める比率は57%強で貿易収支の黒字に大きく貢献している)
C 外資の独資化が進行しつつあり、また外資の中国企業に対する経営支配(株式マジョリティ化など)が増えれば、外資による企業や市場の独占化に繋がる
D 外資企業の技術に甘んじ、自主開発能力が失われる
E 環境汚染型外資企業の対中進出による環境問題の誘発
などを指摘している。
 今のところ、こうした指摘が広範に支持を得ているとは言い難い。しかしながら、外資と中国経済の現在および今後の関係を見る上で、極めて示唆に富んでいることは確かだ。すなわち、現実的には、外資系企業の所得税率が15%であるのに対し、国内企業は33%と2倍以上の開きが存在し、最近その格差是正を求める声が高じていること、昨年来、人民元レート調整への国際的圧力に直面していることなどがある。また、今後に目を転じると、外資が新たな分野に、そして新たな進出形態で対中進出を図ろうとしている点に、"拉美化"の指摘が重なってくる。新たな分野とは、今後、中国経済を牽引すると期待される重化学工業分野への外資の進出が本格化する状況にあるという点で、この点で特筆すべきは、重化学工業のメッカ中国東北地区の産業再生化〜「東北振興」〜が国家戦略となり、その実現に外資導入への期待が高まっていることが指摘できる。経済の重化学工業化が進めば、資源エネルギー問題や環境問題と対峙することになる。また、対中投資では、今後M&A方式が主流となることが確実な情勢だ。そうなれば、外資による中国企業に対する支配的関係が進むと思われる。現に、2002年10月以降、中国政府は法制度を整備したり、国有企業の株式市場への上場を積極化するなどM&A環境を急速に整えつつある。中国の外資導入は増えこそすれ減ることはまずあり得ない状況にあるといってよい。"拉美化"論は風化しないということだ。
 中国は世界一の直接投資受入国である。そのことが、中国経済のみならず、世界経済の発展にとっても大きなプラス要因であることを疑う人は極少数なはずだ。"拉美化"的論調が風化しない状況にあるだけに、中国に外資見直論が台頭しつつあるという事実に目を向けないと、やがて「外資警戒論」へ、そして「外資脅威論」に発展しかねない。その意味で、最近の外資見直論の台頭は、そうならないための「転ばぬ先の杖」ということかもしれない。



 (注) 2004年初の社会科学院世界経済研究所議事録(中国経済時報 2004年10月20日)


  
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