北京NOW (B)    
     第6号 2005.1.1発行 by 江原 規由
    対中ビジネス関係での付加価値について <目次>へ戻る
 日中関係につき、「政冷経熱」と言われて久しい。これを対中ビジネスの視点から見た場合、「冷」と「熱」といった相反する関係をどう説明したらよいか。結論を先に言えば、日本の対中ビジネスには最大の付加価値がついていないのではないかと思えてならない。
 一例をあげよう。2004年12月ドイツのシュレーダー首相が訪中したが、首脳会談での両国友好関係の確認もさることながら、ドイツ企業を引き連れ商談活動を行なうなど大いにマスコミを賑わせた。さらに、シュレーダー首相は、現政権が国家発展戦略として注力している「東北振興」の現場である東北地区(長春)を訪問し、VWと第一汽車集団の合弁事業のテープカットを行なうなど、各地で中国におけるドイツのプレゼンスの向上に努めた。東北振興は21世紀初頭の大プロジェクトであり、ドイツ首脳の現地訪問は、ビッグなビジネスチャンスを先取りしたともいえよう。こうしたケースはドイツばかりではない。これまで米国、フランスなどの首脳の訪中でも、政治や外交が対中ビジネスを創出・支援するケースはあたりまえのように行なわれ、中国側もこれを大歓迎、評価している。例えば、フランスの大統領が訪中すれば、北京―上海間の高速鉄道(日本的に言えば新幹線)建設はフランスに決まったという噂がまことしやかに世間を駆け巡ったりするといった具合である。
 翻って日本はどうか。「武士は喰わねど高楊枝」といったところがあり、欧米に比べると政治と経済(ビジネス)の棲み分けが目立つ。首脳の訪中に企業が大挙して同行するということはない。中国における日本のプレゼンスは相対的にではあるが、改革開放後の80年代や90年代初頭に比べ明らかに低下している。この点で、対中ビジネスおいて欧米諸国に比べハンディキャップを負わされているとする在中日本企業は少なくない。ハンディキャップ事例はほかにもあるが、神社を引き合いに出すのは不謹慎なのでここでは遠慮しておく。
 これまでの日本の対中ビジネスにおける付加価値というものを挙げるとしたら、まず、「円借」ということになろう。これをほぼ四半世紀やってきたわけであり、中国にどう感謝・評価されたかは別として、対中関係、ひいては対中ビジネスにおいて多少ではあるが付加価値になっていたことだけは間違いない。あえて喩えれば、「円借」は対中ビジネスの「保険」みたいなところがあったと思う。保険とは普段あまり意識されないが、事が起こって初めて役立つというものである。現在、「円借」の見直しが進められているが、これにより日本の対中付加価値が減じられ対中ビジネスや対中関係に影響が出るようなことがあっては、折角の保険が一大事である。
 それでは、今、日本にとって対中関係や対中ビジネスで付加価値をつけるとしたら何が考えられるか。「市場経済国」注〔1〕の地位承認というのが指摘できる。中国は目下、「市場経済国」としての承認を各国に求めているが、日本はまだ未承認だ。現在ほぼ30ヶ国が中国を「市場経済国」として認定済であるが、米国、EUなど先進国はこれを承認していない。中国にとって肝心な国々が未承認であるため、例えば、未承認国は中国製品に対し容易に反ダンピング措置注〔2〕が採れるなど、中国には不利な状況に置かれているとの判断がある。今や、世界第4位の貿易大国になった中国にしてみれば、「非市場経済国」の「非」の字をぜひとも取り、国際貿易での差別待遇を排除したいところである。中国は、この「市場経済国」の地位獲得を第二の「WTO加盟」と位置付けているほどである。2003年まで11年連続で中国最大の貿易相手国である日本が、先進国に先駆けて中国を「市場経済国」として認定するとしたら、「政冷経熱」の「冷」を暖める上で、大きな意味があるように思える。

 次に、対中ビジネスにおいて今後大きな付加価値となりつつある、M&Aと中国経済の重化学工業化について論じてみたい。
M&Aは中国では并購。『中国并購報告》(2001-2004)が出版されている。
http://ma.mergers-china.com/research.htm

 M&Aについては、中国国内における、
@ 外資系企業による中国企業のM&A
A 中国企業における中国企業のM&A
B 中国企業による中国内外資系企業のM&A
などがあり、かつ海外における、中国企業の外国企業のM&Aなどがある。M&Aには、買収や株式参加など多様な形態があるが、目下、中国ではこれが急展開中である。例えば、2004年中国の代表的M&Aケースを見ると、世界最大ビールメーカーのABブッシュ社によるハルビンビール社(中国国内4位のビールメーカー)のM&Aや連想集団によるIBMコンピューター部門のM&A、天津中邁集団による河南黄河?電集団のM&Aなど枚挙に暇なしの状況だ。中国政府は、国有企業改革の促進剤として、また外資導入の切り札としてM&A方式を大いに進めたい意向にあり、関連法規の制定や資産評価基準の明確化、株式市場の整備などM&A環境つくりに注力している。中国の対外投資のほぼ40%(2003年)がM&A方式であることや、今年1―10月、中国市場でのM&Aは821件、取引総額で前年比44%増(422億米j)と大幅な伸びとなっていること注〔3〕など、今後の対中ビジネスはM&Aを抜きには語れない時代に入ったといってよい。
 中国経済の重化学工業化については、特筆すべきは、重化学工業の集積地である東北地区の振興が国家戦略となり、現政権が強力に後押ししていることから、今後加速化することが期待されている点だ。現政権は、中国の持続的高度成長には重化学工業の発展が不可欠との判断で、外資企業の進出を大いに歓迎する意向であり、また外資企業の関心も高く、遼寧省などでは海外からの経済ミッションが急増しているという。2000年までの中国の高度成長を支えたのは、主に軽工業と外資にあったといってよく、21世紀に入り、重化学工業の発展にどう外資企業を呼び込むかというのが、78年来の改革開放の第二ステージの主要課題との認識がある。外資系企業にとって、重化学工業への参入は、現状ではリスクは大きいが、中長期的にはビジネスチャンスにつながる可能性が大きい。前述のシュレーダー首相の東北訪問の事例、また重化学工業分野ではないがABブッシュ社によるハルビンビールのM&Aのケースなどに、中長期視点での東北振興策にビジネスチャンスの可能性が秘められているといえる。
総じて、M&Aも重化学工業も対中ビジネスの大いなる「奇貨」注〔4〕となりうるということである。さて、2005年は終戦60周年である。日本の対中ビジネスでマイナスの付加価値がつかないよう、ここはひとつ神頼みしたい。




                
注〔1〕 この「市場経済国」の地位とは、冷戦時代の産物である。当時、西側諸国は中国、旧ソ連、ベトナム、ポーランドなど社会主義国を「非市場経済国」としてブラックリストに載せて通商上差別待遇した。また、中国はWTO加盟に際し、加盟後15年以内の「非市場経済国家」扱い(加盟議定書第15条)を呑んだ経緯がある。米国にしてみれば、対中貿易で有利な「反ダンピング」カードを手放す必要はない道理だ。  もどる>>
注〔2〕 1979年8月から2003年末までの中国製品に対する各国各地の反ダンピング調査案件数は559件。最近の立件ベースでは、対中アンチダンピング案件が最も多い国は、インドで、以下、米国、EU、そしてアルゼンチンの順となっている。  もどる>>
注〔3〕 11月8日付 The Standard    もどる>>
注〔4〕 秦の始皇帝にまつわる故事による。現代風にいえば、先行投資なり機会の先取りという意味。   もどる>>





     
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