北京NOW (B)    
     第8号 2005.3.1発行 by 江原 規由
    「和諧社会」の実現と対中ビジネス <目次>へ戻る
 1978年以来、高度成長をひた走ってきた中国は、その果実を手にした一方、数々の矛盾をも噴出させてきている。このままではいけないという意識が、現政権(胡錦涛―温家宝)内部に大いに盛り上がってきている。ではどうするか。目下、現政権がしきりと強調するのが「和諧社会」の実現だ。日々、この言葉が載っていない新聞や雑誌はなく、各所で研究会や勉強会が盛んだ。時の政権はキャッチフレーズ好きである。現政権には、この「和諧社会」のほか、「科学発展観」、「以人為本」(人民本位)などがあり、前政権(江沢民―李鵬)には「三个代表」(中国共産党は、@人民の利益、A生産力の向上、B先進文化を代表すること)などがあった。いずれも極めて抽象的であるが、最新の「和諧社会」もその御多分に漏れていない。ただ、現政権が、「どんな問題を抱え、何を重視し、どう考えどう対処しようとしているか」を知るには、実に便利なキャッチフレーズだ。


「和諧社会」を築くため、瀋陽市内をパトロールする夫婦の警官
『瀋陽日報』2月3日より

 「和諧社会」とは、現政権の言い方を借りれば、大多数の人民が20数年来の改革と成長の成果を分かち合える社会を実現するということになる。2000年までにGDPの4倍増を達成し、2020年までに再度4倍増を達成すると公約するまでに経済大国化した中国だが、今や、格差、失業、腐敗、公害、事故多発・治安問題や社会保障の立ち遅れなど成長に伴う負の要因の肥大化に直面している。その現実を直視し成長の果実をどうしたら広範に分かち合えるかにつき、政権の施政への反省を含め真摯に取り組もうとの意思表明をしたということである。その背景には、これを放置すれば、人民の不満が昂じ抑えきれないとの現政権の判断がある。突き詰めれば、そこまで中国社会が成熟しつつあるということでもある。    
 では、「和諧社会」を対中ビジネスの視点でとらえるとどうなるか。外資企業は儲けすぎていないかということになる。中国企業が享受できない優遇措置(税法上の優遇など)を得て、利益をほしいままにしているという声が企業経営者や若手経済学者の間に根強く存在している。筆者が、上海でタクシードライバーに、「上海は世界のビジネス・センターであり、儲かっているでしょう」と聞いたところ、「儲けはお上と外資企業がもっていってしまい。我々には入ってこない」との回答であったが、人民にも外資企業が儲けすぎているとの思いがあるということだ。中国は外貨がなかったから、改革開放政策で外資を大いに導入した。今、中国は外貨準備で世界第二位となった。外資は儲けるばかりで、中国が期待している技術もノウハウも移転しない、労働条件の改善も外資の利益増に比べ見劣りしている。と思っている中国人は多い。「和諧社会」の実現とは、現政権がこうした声にも耳を傾けるということである。このことは昨今の所得税統一(外資企業と中国企業の所得税を同一にするということ)論議の先鋭化などに象徴的である。最近、商務部も外資の適正規模につき、討論、研究をしている。幸いというべきか、当たり前というべきか、外資の中国経済における貢献を評価するとの結論に達したと発表したが、外資見直し論が払拭されたわけではない。外資にとっての「和諧社会」とは、お上ばかりに顔を向けず人民の声にも耳を傾けることがこれまで以上に求められているということである。
 次が、「和諧社会」の実現過程で対中ビジネスがコスト高になる可能性があるという視点を指摘したい。この点では、「民工荒」(出稼ぎ労働者不足)との関係で見てみることにする。華南、上海などでは、数十万単位で出稼ぎ労働者が不足している状況だ。なぜか。現政権は、「和諧社会」の実現に不可欠な所得格差の是正に熱心である。その中心は「三農問題」(農業、農村、農民問題)で、核心は「民工」の大多数を占める農民(農村)の所得の向上にある。結果、農民(農村)の所得は確実に向上してきた。こうして農民の所得が向上したことや農村部での雇用機会の創出などで、農沿海都市部への出稼ぎ農民が減少し、「民工荒」の一因を形成しているといわれる。「民工」不足は「民工」賃金上昇を生む。現政権が「和諧社会」の実現に向け積極的な政策を発動すればするほど、低賃金の出稼ぎ労働力に頼っていた外資企業の経営を悪化させるとも限らない状況だ。低廉、豊富かつ良質な労働力に魅せられて対中進出するという神話が崩れつつあるともいえる。格差是正は外資にとって歓迎すべきことではあるが、今後の対中ビジネスで儲けるには、発想の転換が必要であろう。例えば、労働集約的ビジネスは沿海に拘らず、内陸に拠点を移すのも一考であろう。脱線するが、ある地方都市に進出している日本企業を訪問した時、その企業の総経理は、「ここは、上海、華南など沿海地区と違い、地元の労働力は豊富で、一生懸命働いてくれる。民工荒の問題はなく、離職率も低い。それに地元政府も懇切に対応してくれる。地元の雇用の創出に貢献し社会貢献することが、今後の対中ビジネスには欠かせないと思ってやっている」といっていた。そういう意識で対中進出している日本企業は少ないないということである。
 「和諧社会」の実現過程は、経済活動、社会生活のあるゆる分野で、これまで当たり前とされてきた環境や条件を加速的に変えると思ったほうがよい。これまで以上に、社会貢献、福利の充実など労働条件の改善、現地化の一層の推進などが求められ、対中ビジネスは多方面でコスト・アップにつながることが確実な状況である。そうした状況の中で、如何に対中ビジネスで成功するかを考える時が来たということを、「和諧社会」は問題提起しているということである。


              



     
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