北京NOW (B)    
     第9号 2005.4.1発行 by 江原 規由
    いよいよ民営企業の出番 <目次>へ戻る

 <長足の進歩>

 今、中国経済の脇役であった民営企業に主役をもとれる舞台が用意されようとしている。今年2月、中国政府は「個人・私営企業注〔1〕等非公有制経済発展の奨励、支持および指導に関する若干の意見」注〔2〕(以下、「若干意見」と略す)を公表した。非公有制経済とは、民営企業とほぼ同意語ではあるが、この「若干意見」よって国の独占業種などが初めて民営企業に開放された。1949年の中華人民共和国成立以来、中央政府の名義で民営企業に関する政策的文書が発表されたのは、今回が初めてである。国家発展改革委員会の調査によれば注〔3〕、民営企業には、30業種で参入制限があるとされ、また、沿海のある省では、国有企業は80余業種に、外資企業60余業種に参入しているのに、民営企業は40余業種に過ぎず、かつ外資に開放されていながら民営企業に開放されていない多くの業種もあるというのだ。さらに、同調査は、中国国内銀行業の56%が民営企業への貸出しを拒否(同70%以上の資金は国有企業向けとされる)しているとしており民営企業の置かれている不利な状況を明らかにしている。今回の「若干意見」の公表により、中国の民営企業は1978年の党11期三中全会以来27年目にして中国市場における「差別扱いの日々」から「差別無き地位」を得たことになる。中国市場は、国有、外資そして民営の文字通り三者鼎立の競合時代に入ったと見るべきであろう。
 まず、以下に、「若干意見」が公表されるまでの民営企業の苦節27年を振り返ってみる。

【若干意見が公表されるまでの経緯】



1978年 党11期3中全会で党の活動方針の重点を経済建設とすることを決定(改革開放路線) 個人企業14万戸、私営企業0





1988年 第7期全人代第一回会議で憲法修正案が採択、「民営企業は公有制経済(国有企業など)を補充する」などが条文に追記される。 個人企業1453万戸(2468万人)、私営企業90600社(164万人)



1997年 党15期大会で民営企業の地位が社会主義経済を「補充するもの」から「重要な構成部分」へ格上げされる。



1999年 第9期全人代第二回会議で憲法修正案が採択、「民営企業は社会主義市場経済の重要な構成部分である」と規定される。





2003年 党第16期3中全会で「社会主義市場経済体制を完全にするための若干の問題に関わる決定」が採択、法規によって民営企業の参入を禁じていたインフラ、公共事業およびその他の業種・分野への参入が許可される



2004年 第10期全人代第二回会議で憲法修正案が採択、「公民の合法的な私有財産は侵犯を受けない」と規定される



2005年「若干の意見」で「民営企業に影響のある体制的障害を取り除き、平等な市場での主体的地位を確立する」ことになった。

2004年11月、杭州で開催された第2回中国民営企業家大会
http://www.zj.xinhuanet.com/newscenter/2004-11/06/content_3170795.htmより

 2003年末時点の個人企業数は、2353万戸(4637万人)、私営企業数は、301万戸(4299万人)であり、また、民営企業のGDPに占める比率は約30%。雇用では、都市部の新規労働力の約70%を民営企業が担っているという。中国経済で既に主要な地位を占めているわけである。国有企業の株式化を主とする民営化が急速に進んでいることや、発展の遅れているサービス産業の発展、就業圧力の緩和、そして「三農問題」(農業、農村、農民を指す)への対応(所得向上など)などで民営企業の役割に大きな期待がもたれているだけに、民営企業の中国経済に占める地位は今後も急速に向上していくものと予想される。裏を返せば、経済の持続的かつ安定した発展に、国家が民営企業の力を借りていこうという意思表明を、「若干意見」でしたということでもある。


 <新規分野への参入>
以下に、これまで民営企業の参入を排除ないし難しくしてきた分野注〔4〕への民営企業の参入事例を紹介する。
今年3月11日、天津濱海空港を中国初の民営企業である「奥凱航空」所有のボーイング737-900型飛行機が離陸した。国有航空会社(AirChina、東方航空、南方航空の大手3社および上海航空、山東航空、海南航空、深圳航空など地方大手)が独占していた航空業界に民営企業が初めて参入した記念すべき日となった。現在、同社が所有する機材は一機のみ。今回のファーストフライトでは天津―長沙(湖南省)―昆明(雲南省)を飛んだ。今後機材や路線を増やす予定だが、天津発とすることで、当面大手航空会社との直接競争を避けたいとしている。航空燃料やパイロットの確保、離着陸認可の取得など民営企業に閉ざされていた鉄の扉を開いてのファーストフライトであったと、同社の劉会長は述懐している注〔5〕。現在、民営航空会社は、奥凱航空を含め3社あり、6月には春秋航空会社がファーストフライトを予定している。
 このほか、今年3月、インドネシアから民営企業の光彩能源有限公司が国有企業と共同してインドネシアから20万バレルの原油を輸入し、広東省恵州の馬鞭洲港に接岸したなどの事例や風力エネルギー、太陽エネルギーなど国の新エネルギー開発に全国の民営企業が参画する予定にあるなどの事例が指摘できる。
 総じて、交通、資源・エネルギー、環境分野といった21世紀の中国経済の行方を左右する重点分野で民営企業の参画が始まったということになる。


 <原罪の重荷を下ろせるか>
 とはいうものの、民営企業が「差別無き地位」を、「若干意見」の発表後、すぐ手に入れられるというわけではない。その実施には、例えば、地方政府が国有独占業種の事業入札などで、関係者との利害関係をうまく処理し、民営企業に公平な舞台を提供するまでにまだまだ時間がかかるとの見方が多い。一方、民営企業でも独占業種のルールを熟知するのに時間が必要であろう。
 民営企業自身の問題もある。いわゆる、民営企業の「原罪」である。そもそも社会主義経済下では、民営企業の存在はなじまないわけだが、78年にそれまでの政治重視から経済優先の国家運営に移行したことから、非公有経済が徐々に形成されてきたといえる。その過程で、不正な手段で成立した民営企業も少なくないといわれている。例えば、法制度の未整備をよいことに、経営層が国有企業を自分たちの都合のよいように民営化したなどという事例には事欠かない。中国経済の中で重きを置けば置くほど、その「成立ち」と「身持ち」が世論に問われるわけである。
 経済で成功を収めた民営企業の経営者は、既に政治協商会議(日本の国会に準じる)などで重責を担っている人は少なくないが、今後さらに政治との関係を深めていくことが予想される。その際、目下人民が最も関心をもち、政治不信の源泉にもなっている腐敗に手を染めたら、中国経済の発展の一大事であり、対中ビジネスにも少なからぬ影響が出てこよう。そうならないためにも、「若干意見」が民営企業にとって21世紀の中国経済の行方を見極める「バイブル」であってほしいものだ。




                
注〔1〕 私営企業とは従業員8名以上の民営企業のことで、それ以下を個人企業(中国語では個体企業という)と称される。
注〔2〕 非公36条ともいわれる。非は非公有経済の「非」、公は公有性経済の「公」のこと。全文で36条あることからこう呼ばれる。
注〔3〕 経済日報(2005年3月11日)
注〔4〕 今回開放された独占業種のほかでは、これまで民営企業に開放されてはいたものの厳しく制限されていたインフラ、公共事業、社会事業、金融、国防など
注〔5〕 中華工商時報(3月14日)





     
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