北京NOW (B)    
     第10号 2005.5.1発行 by 江原 規由
    対日抗議行動一考 <目次>へ戻る
 4月25日、中国のTV局から呼び出され、対日抗議行動に関するインタビューを受けた。質問は4問あったが、日中間の経済交流の発展は両国にとって重要だという点に絞って話して欲しいという。当方も今回の対日抗議行動で日中間の経済・ビジネス交流に影響がなかったとはいえないが、今後の交流の進展に支障をきたさなければよいと思っていたので、これをよしとして大いに受けることにした。このインタビューには今回のデモがこれ以上日中間の関係を悪化させたくないとする意思が働いているとの印象を受けた。 
 
 同日の21時45分から放映された同番組には、8名がインタビューに答えていたが、うち、日本人は2名。中国人の中には、1972年当時、日中友好協会副会長をされていた肖向前氏が日中国交に至る裏話を交え、日中両国間の交流の歴史を語り、また外交学院の江瑞平主任が中国政府の立場を代弁していた。その他、中国社会科学院と商務部の知日派の各位がそれぞれの立場を代表した見解を披露した。読者には、本番組の詳細につき、http://www.cctv.com/news/china/20050428/101008.shtmlにアクセスし、今回の事態への知日派の見方を参考いただければと思う。
 
 <経済関係に影響なし>

 この番組は、今年4月のインドネシアでのアジア・アフリカ会議(50周年)での小泉総理と胡錦涛主席会談以後、事態改善に向けた中国側の姿勢を受けて組まれたものといってよい。すなわち、一連の抗議行動が日中経済関係へ波及するのを抑えたいとする姿勢を強調するものであった。胡錦涛主席のインドネシア入り直後の23日には、薄煕来商務部長が日中経済交流の重要性を強調する談話を発表し、かつ記者のインタビューに答え、「中国と日本はアジアにおける2大重要国家である。経済の国際化が進展する今日、相互補完関係を内在する両国が経済協力関係を発展させることは、両国の経済発展にとって客観的要求であり、双方の根本的利益に合致する」と語っている。

 では、経済交流の現場はどうか。16日に上海で日本総領事館などに被害が出るなど、抗議行動がピークに達した頃、筆者が南京のある投資誘致責任者の訪問を受けた時のことを例にとろう。訪問の用件は、日本企業に同開発区を紹介し進出の労を図って欲しいとのことであった。同責任者は同地区への投資上のメリットや優遇措置につき紹介し、今後M&A方式の企業進出を今後積極的に展開していきたいと熱心に語り、これほど世間を騒がせている事態については、一言も触れることはなかった。彼らの訪問と同時期に、山東省のある市からも来客があったが、こちらの用件は日本へ研修生を派遣したいのでよろしくとのことであり、やはり抗議行動については一言もなかった。
 目下、日中関係はかつてないほど険悪な状況ではあるが、経済交流の現場はその巻き添えを喰っているかといえば、必ずしもそうではないという事例として、今の2つのケースを紹介して置きたい。


 <抗議行動の間接的要因>
 今回の対日抗議行動の背景には歴史問題に加えいくつもの間接的要因がある。その点につき、以下に私見を述べてみたい。


 マイナス・イメージの醸成:
 過去3年間に、記念行事として、①日中国交回復30周年(2002年)、日中友好条約締結25周年(2003年)、終戦60年(2005年)などがあり、事件としては、チチハル毒ガス事件、西安学園祭事件、珠海買春事件、尖閣列島問題、潜水艦問題、シベリア天然ガス開発問題、トヨタ等コマーシャル問題、靖国参拝問題、円借打切問題、東シナ海天然ガス開発問題、教科書問題、国連常任理事国入り問題など、国交回復以後短期間にこれほど中国で日本がマスコミを賑わしたことはなかった。総じて、圧倒的に日本のマイナス・イメージのほうが衆目に晒されていた。


 ファッション感覚での参加:
 デモにはある目的意識をもって、或いはもたされて参加した人(核なる人々)とは別に、インターネットでデモ情報を共有し、かつ携帯電話でデモ現場から参加を呼びかけ、それによって参加した人も多かったとされる。後者は目的意識(反日など)は強くないが、人数的には大多数であった。彼らには、抗日意識というより、皆が参加するからといったファッション感覚で、あるいはピクニック感覚で参加したという側面があったと推測できる。投石など暴力行為の多くは彼らであったと推測される。こうした若者のファッション感覚的行動パターンは、このところ中国で常態化しつつある。また、公安や武警には、スト参加者には手を出すなと指示があったとのことであり、投石などが放任されたかたちとなりデモはエスカレートしていった。


 相対的プレゼンスの低下:
 中国における欧米のプレゼンスの向上が目立つ反面、最近、日本のプレゼンスは相対的に低下傾向にある。例えば、日本は2003年まで11年連続中国最大の貿易パートナーであったが、2004年にはEU、米国に次ぐ第三位に、また対中投資では、韓国に追い越され第4位に後退している。対外貿易、対中直接投資における相対的プレゼンスの低下に加え、在中外資企業人気調査で上位50傑に日本企業は2社しか入っていないなど日系企業に対する中国人の評価、見方が大きく変化していることも今回の対日抗議行動と無縁ではない。一方、中国の世界経済におけるプレゼンスが向上する中、アセアン諸国とのFTA締結の積極化など、日本への対抗意識が今回の一連の抗議行動にも内包されている。極端に言えば、経済ナショナリズムの表れでもある。


 人民重視の姿勢:
 格差拡大、腐敗の蔓延などの経済矛盾に対し、人民の不満が昂じており、現政権には、このままでは、不満が爆発しかねないとの危機感がある。現政権は、格差是正、農民の所得向上、腐敗対策などで極めて思い切った対応をとるなど、かつてない、人民重視の姿勢をとっている。ストに参加した人民を阻止し流血となった場合、人民の非難を免れず、人民の現政権への支持を失いかねない。驚異的な経済成長により、中国は、今や、人民の意見を無視して、党や国家が独走できる権力国家ではなくなりつつある。現政権は、人民重視の社会を実現するため、和諧社会(経済社会の矛盾を最小限化し、成長の果実を人民各層がバランスよく分かち合える社会、すなわち、「人民のため」の社会)の建設を人民に約束している。人民に気配りしないと、人民の不満の矛先が、対日から自らに向けられないとも限らないということである。


 外資見直し論的風潮:
 外資見直し論を要約すると、改革開放路線で外資導入に踏み切ったのは、主に外貨獲得のためであったが、今日、外貨は元レートの調整圧力になるほど十分な水準となった。一方、外資企業は優遇され、中国で大いに儲けていながら、雇用面や技術移転などで、期待するほどの成果をあげていない。中国における外資の適正規模はどのくらいか、外資の中国への貢献度を再確認する必要があるというもの。90年代初頭まで、中国にとって外資といえば日本との印象があったが、今は、EUそして次は韓国との期待がある。中国経済における貢献度という視点で見ると、相対的に存在感が薄れつつある日本企業を横目で見つつ、アジアで地位浮上を図りたいという側面が、最近中国にはあると推測される。

 日本に対しては、不満ばかりではなく期待もある。ただ、なかなか応えてくれないという苛立ち感の存在も無視できない。日本人個人は好きだが、会社組織は好きになれないという声をよく耳にする。一事が万事とはいえないが、中国人には日本観、日本人観に複雑な心境があることは間違いない。

 中国の対日観と中国人の対日観は必ずしも同じではない。現段階では今回の対日抗議行動が中国世論を代表しているとは断じていえないということである。





     
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