北京NOW (B)    
  第14号 2005.9.5発行 by 江原 規由
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「南京市は、M&A方式で、日本企業を誘致したい」
 先日、南京市が北京で開催した外資企業誘致説明会のレセプションの席上、私と同じテーブルにいた南京市の常務副市長が、筆者のところににこにこしながらやってきて、“南京市と日本は特殊な関係にあるが、日本企業の南京市のへの投資を大いに歓迎したい。”といってきた。咄嗟のことであったが、筆者は、“対中ビジネスや対中投資は、沿海から内陸へと全方位に展開しようとしており、南京市のほうが上海より魅力の多いところもあると注目している”と応じた。ちょうど南京自動車が、上海の上海自動車が断念した英国のローバー社をM&Aした時だったので、副市長は、我が意を得たりと思ったのか、“ぜひ南京に来い。南京を案内するから、日本の企業に南京市の魅力をもっと紹介してほしい”という。
写真:陳家宝南京市副市長
陳家宝南京市副市長
 話は遡るが、筆者がこのレセプションに出席したのにはちょっとした経緯がある。今年4月、対日抗議行動が起ったその最中に、南京市のハイテク開発区の責任者が、私のところにやってきて、“日本企業を南京市の開発区に誘致したいので、ぜひ協力を得たい”といってきた。これに対し、“今、対日抗議行動が起っている時に、日本企業に来てほしいとは、うれしいことをいってくれますね”と応じたが、この責任者は、“政治と経済は別ですよ”とあっさりいう。さらに、“南京市は、M&A方式で、日本企業を誘致したいと思っている”とつけ加えた。私のところには、いろいろなところからいろいろな中国の方がやってくるが、M&A方式で日本企業を誘致したいといったのは、南京市が始めてであった。
 筆者は、これからはM&A方式による対中投資が増えてくる、中心になるのではないかと思っていたので、この責任者の言ったことに大いに共感し、その後、南京市に足を運んだ。その際、以前、北京で主催した天津市のM&A案件説明会の紹介やらM&A方式による外資企業受入の可能性につき、彼らと意見交換し、中国でいう「老朋友」になったことからレセプションに呼ばれたようだ。
 レセプションでの話を続けよう。私の席の左隣に、英国国籍の中国人で、中国EU商工会議所の副会長が座っていたが、彼は、中国企業の海外進出について、“ローバーがM&Aされたのは歓迎している。中国企業にはもっとEUに進出してもらいたいと思っている。今、中国企業を誘致すべく、中国政府や企業に働きかけているところだ”と話に加わってきた。私の右隣には、NY在住の米国籍の中国人で、米亜ビジネス発展センターのCEOがいたので、彼に、“中国企業による海外でのM&Aでは、米国ではいろいろと問題になっているようだが”と水を向け、話への参加をそれとなく促した。
 読者にはご存知かと思われるが、中国パソコン大手の聯想(レノボ)が米国IBMのパソコン部門をM&Aしたり、また、最近では中国海洋石油が米国石油企業のユノカルをM&Aしようとして、あと一歩のところで米国議会の横槍が入り、買収断念したケースなど、中国企業の対米進出に米国はやや厳しい態度を取っていることから、筆者は、彼が中国企業の対外展開にどう思っているか聞きたいと思い水を向けたわけである。
 彼は、“資源など戦略分野での中国企業の対米展開には、何かとアレルギーがある。中国に進出した米国企業の利益を守ることが先決かな”という。この2人との会話で、米国と英国とでは、中国の海外展開に対しやや受け止め方が異なるなと改めて実感させられた。
 では、日本はどうか。今年前半の7ヶ月間で、日本企業がM&A方式で中国企業をM&Aした事例は35件あるのに対し、その逆は一件もないのが実情だ。


渤海、内陸、そして東北―――対中ビジネスは全方位へ
 一事が万事とはいえないことは承知しているが、レセプションでの会話は、対中ビジネスの現状そしてその行方を切り取っているといえる。

 第一は、「対中ビジネスでは、内陸・沿海周辺都市が非常に元気いい」という視点。
 今、紹介した南京は大都市だが、内陸・沿海周辺都市といえる。現在、対中ビジネスの拠点が、東から西へ、南から北へ、つまり、沿海から内陸へ、華南・上海から華北、東北へと拡大している。
 このうち、南から北という縦軸では、特に、環渤海経済圏(北京、天津、河北省、山東省、遼寧省)が、このところ対中ビジネスの拠点として注目され、日本企業の進出が目立ちつつある。筆者は、環渤海経済圏の中堅都市に進出している日本企業、そのほとんどが中小企業だが、これまで40社ほど訪問し、“なぜ、日本ではあまり馴染みのないここに進出したのか、現在はどうなのか”と質問をしてきている。進出の切っ掛けは、各社いろいろあるが、決まって帰ってくる回答があった。“政府関係者が親身に面倒を見てくれる、無理も聞いてくれる。労働力不足も電力不足もない。町ぐるみで大切にしてくれる。日本食やゴルフ場にはやや不自由するが、地方都市には、上海や深*にはない居心地のよさがある”、という点だ。こうした訪問から、筆者には、中国には多くのビジネス機会を提供できる地方都市予備軍があると感じることが出来た。
 この点、特に注目したいのは、中国で交通機関の発展が目覚しく、時間的距離が日々縮まっているという事実だ。高速道路網の総延長距離では、中国は既に世界第二位となっており、航空路も空港の整備や路線が拡張され、鉄道は高速化が急ピッチで展開している。例えば、山東省の泰安市。孔子の故郷に近く、中国の名山として内外に有名な泰山の懐にある中堅都市だが、驚くような広大な開発区を有している。どうしてこんなところにこんな大きな開発区があるんだろうと驚くほどだが、泰安には、将来、北京―上海間高速鉄道(日本的にいえば新幹線)が停車する予定となっており、そうなれば、北京と上海から時間的距離が縮まり、大きな発展の可能性が出てくるわけだ。大きな開発区の存在は将来的ビジネスの拡大を先取りしているといえる。こうした高速鉄道は、今後大都市間で何本も建設される予定にあり、その沿線都市は大きなビジネス交流の可能性が出てくる。先ごろ、伊勢丹が泰安市に近接の済南市(山東省の省都)に進出したが、こうした一件からも、交通の至便さが予想される内陸の発展の可能性が窺われる。時間的距離が縮まるという視点を日本から見れば、中国に一日経済圏が拡大しつつあるということにならないか。正に、「時は金なり」、ビジネス圏の拡大ということになる。
 縦軸では、もう一点注目できそうだ。それは、環渤海経済圏に隣接している中国東北地区だ。重化学工業が集積している中国東北地区の振興策が国家戦略として登場したことから、中国東北地区にも大きなビジネス交流の可能性が出てきたわけだが、筆者は、上海や華南地区といった中国南部の軽工業と東北地区の重化学工業との連携、即ち、南北でのビジネス交流が今後進むのではと見ている。その点では、瀋陽市は時流を先取りしているようだ。毎年、南方の民営企業と軽工業のメッカである温州市と商談会を開催しており、かつ3万人以上の温州商人が瀋陽市で経済活動をしているといわれている。中国東北地区は、新たな経済・ビジネス交流の道を探っており、今後の対中ビジネスを考える上での大きな視点といえよう。
 対中ビジネスが東から西、すなわち沿海から内陸に広がっているという視点では、先日、筆者が新彊のウルムチ市のフォーラムに参加した時のことを例にとろう。フォーラムでの挨拶で、新彊の指導者が、“新彊はもはや、対中ビジネスの孤島ではない。今後、環境ビジネスなどを大いに展開し、市場を中央アジアからEUに拡大する。新彊発のビジネスを大いに展開したい。外資企業にも魅力になるはずだ”と力説していた。ここでも交通網の整備やスピードアップ化で沿海からの経済的アクセスが身近になっていることが、彼にこういわしめてと思われるが、同時に、中央アジアからヨーロッパへという新しい市場の開拓を外資企業といっしょにやろうという発想も出てきたというわけだ。この点、日本の積水化学が地元企業をM&Aして新彊に進出し、中央アジア向けビジネスを展開しつつあることは大いに注目に値しよう。


M&Aなき対中ビジネスはない 
 第二点目は、「対中ビジネスの新潮流としてのM&A」について。
 中国は、世界にも類にない52万社(批准ベース)という外資企業の受入れているが、今度は、中国企業の海外展開を積極的に推進しようとしている。そのいずれにおいても、M&A方式が主流になりつつあるといえる。今後の対中ビジネスを考える上で、この点は非常の重要な視点だ。M&Aには企業をそっくり買収するケースや株式参加するやり方や技術、人材、市場と株式交換するやり方など極めて多彩なやり方がある。
 まず、中国国内におけるM&Aの状況について見てみる。冒頭で北京で天津市のM&A案件説明会を開催したと記したが、これは、天津市の国有企業のM&Aリスト、すなわち、部分売却や100%の売却、或いは株式参加を要望する天津企業や資産に関する説明会であった。政府の責任者が、いわば国有企業の身売りリストを公開しかつ自ら説明まで引き受けてくれるという、つい最近まで考えられないような説明会であったことから、参加した北京の日本企業には大きな反響があった。現在、中国企業間のM&A事例は枚挙に暇がない状況だ。同時に、中国は、こうしたM&A市場を外資企業にも大きく開放しようと急ピッチで環境整備を進めている。まだ、M&A環境が不透明でリスクが高いのも事実だが、中国政府は、株式市場の整備を試行錯誤しつつ大胆に進めているなど、M&A方式での対中投資や対中ビジネスを拡大しようとしている姿勢は評価できるといえる。今後の対中ビジネスではM&A方式を十分研究する必要がある。
 中国企業の海外展開の実績についてだが、東京近郊のある県のミッションが筆者を訪問した例を上げよう。このミッションから、“中国企業を地元に誘致したいのだが、現状はどうか”との質問を受けた。この県以外にも、中国企業の誘致に関心をもっている地方自治体は多くなりつつあることを、筆者は身をもって経験しているが、米国やEU諸国、アジア諸国に比べると、中国企業の対日展開は圧倒的に少ないのが現状だ。中国は、目下、中国企業の対外展開を国家戦略として積極的に推進しつつあり、今年、各国別の優先進出分野リストを発表するなど、国をあげて支援する姿勢にある。こうした中国企業の海外展開の流れをどう受けるかは、今後の対中ビジネス展開上のキーポイントといえよう。
 蛇足になるが、EUやアジア諸国などで中国企業の誘致を主目的とした事務所を中国に設置するなど国がこの数年増えてきており、中国企業の海外展開に積極的に応じていこうという姿勢が目立ってきている点は注目に値しよう。毎年9月に、福建省アモイで開催される投資商談会では、中国企業の誘致を目指す外国ブースの参加が毎年増えて来ている状況だ。
 中国の海外展開で注目すべきは、中国企業が中国に進出した外資企業と提携して、或いは合弁企業が、海外展開するケースが出てきつつあるということだ。現在、中国には、52万の外資企業が進出しているわけであり、パートナーはいくらでも探せる状況にある。中国企業が、こうした外資企業と組んで対日進出するといった、これまでにない新しい展開が出てくるのはそう遠くないはずだ。日本の資本の入った中国企業が、或いは日中合弁企業が対日展開するということである。その意味で、今後中国は、外資企業にとって対外展開する拠点としても魅力を増す可能性があるということになる。

 最後に、対中ビジネスの視点をもう1点付け加えたい。それは、対中ビジネスの相手は、中国に進出している外資系企業でもあるという視点だ。中国の対外貿易額の57%が中国に進出している外資系企業に依っているなど、中国経済に占める外資系企業のプレゼンスは極めて高い状況にあることから、対中ビジネスでは、中国に進出している外資系企業の動向を研究することが極めて肝要ではなかろうか。





    
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