北京NOW (B)    
  第15号 2005.11.2発行 by 江原 規由
    キャッチフレーズから覗く中国経済の現状 <目次>へ戻る
 中国はスローガン好きのお国柄だ。農村や古工場には今もかつてのスローガンが消し去れることなく掲げられているが、くすんだ白色の活字を見ていると、当時の世相が髣髴とされ一瞬タイムスリップしたのではないかと錯覚してしまうほどだ。スローガンは時の政権の中国人民へのメッセージや要求であったが、今もその役目に変化はないようだ。変わったことといえば、世界を意識したスローガン~今風にキャッチフレーズといったほうがいいかもしれない~が出てきたことだろう。キャッチフレーズをみれば、中国の政治、経済、社会がわかるといっても過言ではない。
 
<キャッチフレーズいろいろ>
  それでは、現在のキャッチフレーズは何か。以下に、胡錦涛―温家宝の現政権になってから目を引く代表例をあげてみよう。
 (順不同)
「以人為本」(人民本位)
「緑色GDP」(成長の付け<環境汚染、腐敗など>を差し引いたGDP=GDPのプラス付加
価値部分)
「循環型経済」(人的、物的資源の有効活用)
「女性経済」(内需を支える女性の経済・社会的役割向上) 
「節約型社会」(省エネ社会)
「和階社会」(調和のとれた社会)
「小康社会」(誰もが豊かさを実感できる社会)
「和平崛起」、(平和精神に基づく中国のプレゼンス向上)
「紅色旅游」(共産党聖地観光の薦め)
「科学発展観」(科学に準拠した発展、問題解決) など
 これらのキャッチフレーズは内部関連しているものが多い。例えば、「以人為本的科学発展観是規劃(第11次五カ年規劃)的本質、核心、意味中央堅持科学発展観統領経済・社会発展全局」(人民本位とする科学発展観は第11次5カ年計画の本質、核心であり、党中央は科学的発展観を堅持し経済・社会発展全局をみていく)注1。キャッチフレーズの後には実行、建設などがつくが、そのいずれにも共通するキーワードは、「世界の中の中国」を意識しつつ、「人」と「環境」を重視する発展を目指す姿勢だ。中でも「科学発展観」はこれらキャッチフレーズの要に位置するといってよい。
     
<要は科学発展観>
 10月11日、5中全会(注1参照)が閉幕し、第11次5カ年規劃(2006年~2010年)が発表された。この5ヵ年規劃で最も目を引くフレーズが「科学発展観」であった。政治報告に立った胡錦涛総書記は「11―5規劃は発展こそ硬道理との戦略思想を堅持し、科学発展観で全局を統領する」と強調した。「科学発展観」は、胡錦涛―温家宝の現政権の指導概念になりつつあるといえよう。
 では、「科学発展論」を経済成長の視点からみるとどうなるか。ひと言でいえば、成長主義は止めようということにほかならない注2。即ち、科学発展論とは、高成長を可能とした26年来の改革開放政策の付け(環境破壊、腐敗、格差といった成長に伴うコスト)を清算するための方法論といってよい。上記キャッチフレーズに当てはめれば、経済は「循環型」や社会は「節約型」を目指そうということになる。人間に喩えれば、入社後四半世紀余り(改革開放26年)、がむしゃらに仕事をしてきて社会的地位は得たが運動不足で贅肉もつき健康状況が気になる。このままだと生活習慣病になりかねない。ダイエットの必要を痛感する年代になったことを自覚したことが、即ち「科学的」であるということにほかならない。国家のダイエットなしに、現政権の人民への公約である「和階社会」や「小康社会」は実現できないということになる。
 また、科学発展観には、世界を意識するという視点もある。このことは、中国の資源・エネルギー問題に象徴的だ。自国の経済成長のためにもはや国内資源では賄いきれない石油など資源やエネルギーを大量に海外に頼る現状に、「中国は世界の資源を買い漁っている」と中国警戒論すら出ている。中国としては、世界を意識した成長という視点を意識せざるを得ない状況だ。さもなければ、「「和平崛起」は実現できないし、「世界の中の中国」どころか世界から孤立しないとも限らない。中国経済のダイエット(資源浪費型産業構造の調整など)は急務というわけだ。
 ダイエット成功にはかなりの時間と精神力がいるものだが、中国には11-5規劃の期間中に、「科学発展観」という新ダイエット・メニューで大いにスリムな体になってもらいたいと思わずにはいられない。

図:中国語のキャッチフレーズ1


図:中国語のキャッチフレーズ2

上図は、いずれも人民網
http://finance.people.com.cn/GB/1045/3754611.html
より。
注1  2005年10月開催された中国共産党第16期中央委員会第5回全体会議(5中全会)閉幕時発表資料に
よる。
注2  緑色GDPを成長の目安としようということ



    
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