北京NOW (B)    
  第17号 2006.2.1発行 by 江原 規由
    M&A――中国経済の最前線 <目次>へ戻る
 現在、中国はGDPで世界第6位(2004年)注1の規模を誇っている。孫悟空の「天空を騒がす」ではないが、中国経済のプレゼンスの向上は、人民元の切上げ、環境問題、Made in Chinaの氾濫、有人宇宙船の打上げなどなどで、悟空同様大いに「天空」、いや世界を騒がせている。では、21世紀の孫悟空が世界を騒がすとしたら、それは何か。中国企業の海外展開、中国語で言う「走出去」ではないだろうか。今や、実質世界第一位の直接投資受入国となった中国にとって、受け入ればかりでなく打って出る「走出去」の時期が到来したといってよいであろう。

 中国は、21世紀早々、「走出去」を国家戦略としたが、商務部によれば、2005年末時点での中国の対外直接投資額は500億ドル超、進出企業数は1万余社で、2002年から2005年までの4年間(累積179億ドル)に年率平均36%と急増しているという。対中直接投資残高が6000余億ドルで、中国に進出している外資系企業が55万近い状況と比較すれば、「走出去」はまだまだ少ないが、その今後を展望すると、「斛斗雲」(キントウン、日本では「金斗雲」とも書く)は既に用意されており孫悟空は世界のどこにでも行ける状況にある。まず以下に、2005年の中国企業の対外投資の主要例(未成功例を含む)を見てみる。

写真:連想によるIBM買収で握手する両首脳(柳伝志とJohn Joyce)
連想によるIBM買収で握手する両首脳(柳伝志とJohn Joyce)
(写真は、it.sohu.comのページより)

<2005年の中国企業の主要対外展開事例>

 ①南京自動車による英ローバー社のM&A
 ②連想によるIBM PC部門のM&A
 ③ハイアールによる米国家電大手(Maytag)のM&A(未成功)
 ④中国石油天然ガス集団公司によるPK石油(PetroKazakhstan)のM&A
 ⑤中国海洋石油有限公司による米ユニカル社のM&A(未成功)
 ⑥中国石油天然ガス集団公司によるシリアの石油会社のM&A
 ⑦上実集団によるロシアでの不動産開発の受注
 ⑧北京華聯(嘉徳置地)によるシンガポール西友のM&A
 ⑨中国網絡通信集団による香港電訊盈科のM&A
 ⑩中移動による香港華潤万衆のM&A

<中国企業の対外展開はM&Aが主流>

 上記事例はいずれも大型案件だが、そのほとんどがM&A方式注2による「走出去」となっている。実際、商務部によれば、2005年1月から11月までの中国の対外直接投資額の54.7%がM&A方式とのことだ(主要分野:資源開発、自動車、通信など)。そのM&Aの対象は、石油を中心とする資源関連、世界の老舗であるケースが多い注3。このことは、中国経済のアキレス腱そのものを表している。例えば、中国の石油の輸入依存率は既に40%に達しおり、海外石油資源に依らない限り持続的経済成長は達成できないこと、Made in Chinaが世界に氾濫しているとはいえ、世界に通用する自社ブランドがほとんどないことから、熾烈化する国際競争を勝ち抜くためには世界に通用するブランド(先進技術、経営技術、人材、世界市場を含む)を有する老舗企業や海外の石油資源をM&Aするのが一番手っ取り早いわけだ。 

<経験不測からのTake off>

 「蛇呑大象」(蛇が像をのむ)。中国企業が世界の名門をM&Aするのを形容した言葉である。白髪三千条といった誇大表現を常套とする中国とはいえ、「蛇呑大象」などと不可能なことを敢えて比喩とするところに、中国企業の対外展開の難しさが見て取れる。実際、上記事例でも未成功事例が目立つ注4。例えば、中国海洋石油有限公司による米ユニカル社のM&Aでは、M&A金額として最高額を提示したにもかかわらず、米国議会の横槍りで断念。ハイアールによる米国家電大手(Maytag)のM&Aでは、買収まであと一歩のところで、突然、ハイアールより高い買収額を提示する外国企業が出たことから断念。また、成功事例でも、連想によるIBM PC部門のM&Aでは同じく米国議会の横槍りが入り一筋縄にはいかなかった。海外でのM&A案件は、成功率が20%~30%という見方注5があるほど、成約自体もその後の経営も思うように行かないのが現状だ。特に中国企業は、M&Aに経験がまだ浅いことなどから未成功事例は多い。それにもめげず、M&Aを追求する中国企業は少なくない。例えば、上記米ユニカル社のM&Aが未成功に終わった中国海洋石油有限公司だが、2006年早々、南太西洋石油有限公司(SAPETRO)との間で同社がナイジェリアで所有する深海油田の45%の作業権益に関する売買協議を成立させている(経済日報、1月10日)。また、ローバー社のM&Aだが、当初上海汽車が名乗りをあげ成約寸前までいって断念、南京自動車はその跡を受けて実現させたものだ。中国企業のM&Aの意図は、資源、ブランド、技術、人材の確保、海外市場の開拓(市場占有率の向上)などが指摘できるが、今後も、中国企業による飽くなきM&Aの事例、即ち、「拉圾中淘宝」(ごみの中に宝を掘り当てる、中国企業の海外でのM&Aを比喩)が積み重ねられていくことだけは確かだ。

<近年の中国企業による大型M&A未案件例>
 ①中国五礦集団によるカナダNorandaのM&A
 ②中国移動によるパキスタン電信のM&A
 ③南海空港によるハンガリー航空のM&A

<外資企業との連携>

 注目すべきは、このところ中国企業がM&Aに新たな対応をとりつつあることだ。即ち、第3国と連携してM&Aするケースが指摘できる。上記事例でいえば、中国石油天然ガス集団公司がシリアの石油会社をM&Aしたケース。同集団公司がインドの石油天然ガス会社(ONGC)の子会社と共同で、シリアにあるペトロ・カナダ社との合弁会社(Al Fu-rat社)の株式(38%)の買収に成功したもの(中国証券報、2005年12月22日)。さらに、同中印2社は、現在ロシアの石油企業であるUdmurtneft社のM&Aを実現させる見込みとの報道もある(21世紀経済報道、2006年1月23日)。かつて、玄奘三蔵が孫悟空を供としインドに仏典を求めて命がけの旅に出たが、M&Aの成否に企業の命運をかけインドをあてにするという点で、かつての壮大なロマンがよみがえったといったら言い過ぎだろうか。アジアの新興経済大国どおしがM&Aで手を結びつつあるということである。今後、資源・エネルギー分野に限らず、中国企業が第3国企業と連携して「走出去」する事例は確実に増えてこよう。

 なぜか。単独でのM&Aはますますコスト高になるからだ。中国とインドは資源・エネルギーの多くを海外に依存しており、競合するM&A案件は少なくない。自ずとM&A物件の買値がつり上がることになる。実際、中印両国はアンカラとカザフスタンの石油資源のM&Aで競合し、中国は高い買い物をさせられている。今後も増えるであろう海外資源のM&Aを見越した時、また、第3国との競合に打ち勝つためにも注6、中-印(中-外)連携は、中国にとって背に腹は変えられない選択ということになる。

 蛇足だが、このところ海外の証券市場に上場する中国企業やその予備軍が増えている。上場して集めた資金注7で外国企業をM&Aするというシナリオも出てきている。海外上場も「走出去」といえるが、2005年、無錫尚徳が民営企業で初めてニューヨークの株式市場に上場するなど、中国の民営企業にも上場で得た資金で経営拡大やM&Aを行なう環境が整ってきている。

 第3国との連携についてもう一点指摘しておきたい。M&Aに限ったことではないが、「走出去」の経験不測を補うために中国企業が外資企業と連携するという選択肢である。中国には現在、55万近くの外資企業(認可ベース)が進出しているが、中国企業にとって「走出去」のパートナーはいくらでも探せる状況といってよい。今後、中国経済の国際化がさらに進展すれば、外資企業が中国企業と連携して海外展開するケースは増えよう。また、欧米を中心に、中国企業の進出を積極的に受けていこうとの姿勢も目立ってきている注8。外資企業にとって、中国は「世界の工場」であると同時に、「海外展開する拠点」になる可能性を秘めているということである。

<M&A、中国経済最前線>

 「M&Aを意識しない対中ビジネスはない」といって過言ではない。「走出去」におけるM&Aだけでなく、むしろ、中国国内でのM&A、即ち、外資企業による中国企業のM&A注9、中国企業による中国企業のM&Aなど、M&Aは実に多彩だ。中国政府は、M&Aを中国の直接投資導入の切り札として、その環境整備(国有企業改革の積極的推進、関連法整備、証券市場の整備など)を着々と推し進め、かつ海外での中国企業によるM&Aを積極的に支持している。

 現在、M&Aは双方向になりつつあるといえる。外資企業に国内企業をM&Aさせる。同時に、M&Aで外資企業と資本関係を構築して、海外展開(M&A)するというのが、中国経済の世界戦略となるのではないだろうか。米国議会の横槍りでユノカル社の買収を断念した中国海洋石油有限公司に米国企業が資本参加していたとしたら、果たして、ユノカルはどうなっていたであろうか注10

『脚注』
注1 2005年には第5位になったとされる。
注2 M&A方式には100%買収のほか、参股(株式参加)、控股(株式のマジョリティ確保)、株式交換などのやり方がある。また、まず、合弁し、その後増資などで吸収合併という方法もある。
注3 上記大型以外の事例を勘案しても同じことがいえる。
注4 その要因として、①中国企業の資金不足、超債務負担による財務リスクの存在、②相手側の政治要因・社会的干渉などの非政治的要因、③中国企業に対する偏見から生じる経営リスク、④文化・管理モデル等の相違から生じる管理システム不整合リスクなど。
注5 経済観察報、2006年1月23日ー1月30日、国際経済合作、2005年第11期など
注6 Udmurtneft社のM&AにはマレーシアのPetroliam National Bh社とロシアのOAO Russneft社も名乗りを上げているとのことで、第1次応札価格結果(競格)は2月末に出る予定。
注7 1993年~2005年11月までの12年間に中国企業が海外上場によって集めた資金は547.5億ドルで、その額は2005年の対中直接投資(実行ベース)にほぼ匹敵する。また、2005年1月~11月末まで上場総額(198.8億ドル)で、2003年と2004年の2年間の上場総額の2倍に達している(経済日報 2005年12月15日)
注8 例えば、イタリアには、2005年9月末時点で長安汽車(自動車)、安徽江淮汽車、華為集団、ハイアール、中国遠洋運輸集団など、民営企業を含む中国を代表する15社が進出済となっている(中国経貿、2005.10.1)
注9 外資による中国企業のM&A分野は自動車、物流、金融、製造業、商業小売、公共事業などが中心。
注10 連想がIBMのパソコン部門を買収したときは、同社の株式20%弱を提供している。


    
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