北京NOW (B)    
  第19号 2006.6.14発行 by 江原 規由
    いよいよ東北地区の出番 <目次>へ戻る
<振興策から3年、変わる東北地区>
 今年5月、遼寧省の三都市(瀋陽、大連、丹東)と吉林省の長春を訪問した。瀋陽では、4月末に会期半年の「花博」が開幕し、郊外の会場には、東北を中心に中国各地から大勢の人が見学に訪れていた。広大な会場では、見学者を乗せた電気自動車が走り、室内バラ園は足の踏み場もないほどの賑わいであった。工業都市瀋陽で「花博」とは、ややミスマッチングな企画のような感じがするが、だからこそ「花博」開催で瀋陽のイメージアップが図れるという。かつて、外に数時間いれば、煤煙でワイシャツの襟が黒くなるといわれた瀋陽は「水」と「森林」の都を強調し、環境都市としてのイメージアップつくりに積極的である。市内は実にハイカラな感じが出てきた。環境と人に配慮していることがわかる。「花博」で新生瀋陽を全国各地、世界へと大いに喧伝するというわけだ。瀋陽の変化や活気を見れば、今東北で何が起こっているかわかるような気がした。
 瀋陽から片側4車線の堂堂たる瀋大高速で大連まで約3時間~中国の高速道路の最高制限速度は120㎞~の近さだ。現在は高速道路を走ったほうが列車に乗るよりはるかに速く大連に着くことができる。将来、高速鉄道(日本の新幹線に相当)が建設されれば、道路より鉄道のほうが早くつけるはずだと思いつつ大連に着く。
 大連では、遼東半島南端の旅順が近々対外全面開放されるとの声をきいた。日本人には馴染みの203高地や水師営は1990年代後半に対外開放されているが、全面開放ともなれば、78年以来の改革開放政策下で未解放の沿海都市は無くなることになる。その意味で、旅順の対外開放は改革開放政策の完結といえるほどの意味がある。その旅順は6月北京で現地日本企業向けに投資商談会を開催している。
 大連から北朝鮮の北方都市、新義州と鴨緑江を挟んで対峙する丹東までは、今年全面開通した高速道路で2時間ちょっとだ。今回は走らなかったが、丹東から瀋陽までは既に立派な高速道路が開通している。遼寧省は各所間の時間的距離が年々縮まっていると実感した。
 丹東は、遼寧省が新たな発展・開発戦略として打ち出した「5点1線」戦略、~大連長興島臨港工業区、遼寧(営口)沿海産業基地、遼西錦州湾沿海経済区(錦州西海工業区・葫蘆島北港工業区)、遼寧丹東産業園区、大連庄河花園口工業園区~を5点とし、この5点を結ぶ1443㎞(西の葫蘆島市綏中県~東の丹東市東港)を1線とする戦略の東端にある。面会した市政府幹部は丹東市の将来の発展に自信のほどを覗かせていた。「いずれ北朝鮮は対外開放する。あの辺が対外開放の拠点になるはずだ」と、満々として流れる鴨緑江の彼方の小島を指差した。北朝鮮が対外開放されれば、「5点1線」と結びつき、丹東は発展の余地がさらに増えるわけだ。
 長春には、丹東に一泊して大連に戻り、その日のうちに入る予定であった。夕方のフライトは2時間遅れであった。空路で1時間半ほどで長春についたが、丹東から直接車で長春に入るのと、丹東から大連に戻り長春に飛ぶのでは、どちらが時間的に近いかといえば、車のほうであろう。東北地区は高速道路が急速に拡大している。東北地区は、鉄道の時代から、今は高速道路の時代へ、そして今後はこれに鉄道のスピードアップ化と航空網の整備で空の至便さが加わろうとしている。これまでにない時間的空間が出現しつつあり、大きな経済効果が期待できる状況にある。
 長春では、M&A方式での外資導入についての会議があった。東北振興策の登場で、今や東北地区での外資導入は急速に伸びている。世界の関心が東北地区に向きつつあることがわかる。中国の外資導入は、目下、M&A方式が主流になりつつある。国有企業改革が進む東北地区でM&A方式による外資導入がどこまで可能かとの筆者の関心から、先の長春会議は主題に「M&A方式による東北地区での外資導入の可能性」となった。
 2003年に「東北振興策」を発表されてから3年が経過した。東北地区のいたるところで、実質的な変化が起こっている。この変化が中国経済の発展に大きく関わりつつあるといってよい。

<北と重化学工業の時代へ>
 今の中国経済の特徴として、ビジネス拠点が北に拡大していること、重化学工業化していることが指摘できる。即ち、目下、ビジネス圏として最も注目を受けているのが環渤海経済圏で、南の珠江デルタ経済圏(80年代)、上海を龍頭とする長江デルタ経済圏(90年代)のあとを受けている。また、重工業と軽工業の比率が2000年の59:41から2004年は68:32と重工業が軽工業を凌駕している(新華文摘 2006・1)。この2つの特徴が交差するところが東北地区(遼寧省、吉林省、黒龍江省)といえる。東北振興策が地域発展戦略として登場したのが2003年10月。それから2年半余が経過した。東北地区が「東北現象」(産業構造が非効率で経済が立ち遅れている状況)といわれる持病と旧弊から抜け出し、中国経済の2つの潮流を受け止められるのか、今、東北振興策の真価が問われている。
 78年に始まる改革開放政策以前、中国東北地区は遼寧省だけで広東省の2倍以上の経済規模を誇り、共和国の長子(長男)と称せられるほど中国経済をリードしていた。それが今日、広東省の60%余と遅れをとっている。この現状を打開すべく、地区経済・産業の改造を目指す壮大な「Scrap&Build」戦略として登場したのが東北振興策であった。
 現在の東北経済は、中国経済におけるプレゼンス(GDP比率)はむしろ低下傾向にあるが、成長率において全国平均を大きく上回っている。高成長率を目指す東北経済には可能性と不確実性が同居しているといってよい。

主要指標から見た東北地区の経済力(2005年)
表:主要指標から見た東北地区の経済力(2005年)
出典:全国および各省発表の統計公報、11次5ヵ年規劃綱要より作成

<進む企業再編>
 東北経済の最大の特徴は、国有企業が集積し中国を代表する重化学工業拠点であるということだ。そこで培われた「親方日の丸」的体質が、広東省や上海地区経済とは対照的に、社会主義市場経済と民営化の波に乗遅れ、「東北現象」を温存させてきたわけだ。
 2005年8月、東北地区の2大製鉄大手、国営の鞍山鋼鉄集団公司と市営の本渓鋼鉄(集団)有限責任公司が合併した。国営と市営の合併という従来では考えられなかった行政の壁を乗り越えた合併は、中国鉄鋼業史上の快挙(国家発展改革委員会指導者の言)と注目された。2004年にも、遼寧省の遼寧特殊鋼集団公司と黒龍江省の北満特殊鋼集団公司が省を超えた合併で中国最大の特殊鋼企業を誕生させている。行政の壁や省壁を超えた合併はこれまでにほとんど事例がなかった。東北地区に経済効率性を追求しようという姿勢が出てきたということである。
 また、吉林省でも、2006年1月長春楡樹大曲集団が競売方式で長春市の民営企業家に落札され民営企業に改編されている。王岷象徴は「旧体制、旧観念を打開しなければいけない。1年余の間に省内816国有企業・国有控股企業(政府がマジョリティを占めている企業)を断固再編する」と表明したが、2006年1月までに813社の再編が終了、8.8万人が退職、39.3万人が労働関係を変更、14万人余が転職、金融債務約100億元(1500億円)を処理したという。再編の結果、国有資本の比率は34.1%へ低下したとされる。
 さらに、瀋陽市では、2005年5月、陳政高市長(当時、現書記)が市内24国有企業に対し今年6月までに、業界、地区、所有制、あるいは控股、参股(マジョリティでない株式参入)の別を問わず、再編を終了するよう指示を出している。この再編を徹底するため、国有企業改革工作指導小組を成立させ、かつ6名市政府幹部に再編責任を負わせるなどの徹底ぶりである。筆者が2005年9月、陳市長に面談した時、再編は済んだも同然と胸を張った。今、東北地区では国有部分が少なくなり、非公有部分が増えつつあるといえる。
 東北地区では、こうした合併やM&A方式による業界の再編(「Scrap&Build」)は今後も大胆に推進する方向にあり、東北現象からの乖離を目指した積極策が奏効している点で、東北振興策の成果が出つつあるといえる。

<カギは外資>
 東北振興は中国地域発展戦略(沿海大発展~西部大開発~東北振興~中部崛起)の第3弾に位置している。年率2桁に近い成長を遂げてきている中国の経済発展を大胆に集約すると、沿海地区が外資を導入し軽工業を発展させ輸出拡大を図ったことで実現してきたといえる。ビジネス圏の北上と経済の重化学工業化の中で、Scrap&Buildを経つつある東北地区に再び中国経済の表舞台に踊り出る「時」が回ってきたとみられる。しかしながら、沿海発展の大発展に比べ一つ足らないものがある。「外資」である。
 昨年、「関于促進東北老工業基地進一歩拡大対外開放的実施意見」(36号文件)が発表された。ここでは、外国投資者によるM&A方式など各種方式での国有企業の改造・再編への参入、即ち、外資による国有企業のM&Aを奨励し不良債権、株式の購入を認めることが明記されている。手術に輸血が必要なように、国有企業の改造・再編に外資を取り入れようという姿勢を明確に表明したわけである。
 東北地区では、M&A方式による外資受入はまだ多くはないが、国内外での招商引資(投資商談会)の開催や各都市での大型展示商談会ないし博覧会の開催(瀋陽市の中国国際装備製造業<重工業>博覧会、長春市の東北アジア投資貿易博覧会、ハルビン市のハルピン交易会など)を通じ、内外資の導入に本腰を入れている現状ある。例えば、2006年4月、「遼寧省資産重組(M&A)訪日団」が来日した。来日目的は、バブル経済崩壊後に相継いだ吸収・合併・資本参加・株式取得などの手法で企業を再編・活性化した日本の経験を吸収し、遼寧省の産業再編に役立たせるためというものだが、M&A方式による対中直接投資の可能性を探ることでもあった。この訪日団が持参したパンフレットにはM&A案件(被M&A企業)が列記され、添付されているフロッピーディスクでその詳細を紹介するといった念の入れようだった。

『代表的なM&A方式の外資受入事例事』
 2004年:世界最大手のビールメーカー(AB社)による国内第4位のハルビンビールのM&A
 2005年:中国製薬大手の哈薬集団の外資企業の出資受け入れ など

 注目すべきは、東北企業がM&A方式で外国企業のもつ技術、研究開発力、ブランド、市場を確保する逆M&A事例が出ていることだ。

『代表的な逆M&Aケース』
 2004年:瀋陽機床(工作機械)集団が200万ユーロでドイツの工作メーカーを買収
 2005年:ハルビンの哈量集団が980万ユーロでドイツの機械関連メーカーを買収 など

 36号文件では、条件のある企業の海外展開を奨励するとしており、直接投資はM&A方式を中心に双方向で展開していくことになろう。因みに、黒龍江省は第10次5ヵ年計画期(2000年~2005年)に省内企業110社が19ヶ国に海外展開したという。このうちM&Aによるものが何件あったかは定かではないが、今後増えることは間違いない状況だ。

<省内・省際・南北連携へ向けて>
 経済の民営化は中国経済の趨勢だが、国有企業の改革・再編を通じた民営化やM&A方式などによる国有企業の外資企業化による非公有経済化が進みつつあるとはいえ、まだまだ東北経済の弱点に違いない。この点、東北地区が珠江、長江、環渤海の三大経済圏の民営企業との経済連携~「南資北調」(北が南の資本を調達すること)~を急展開しつつある点に注目したい。瀋陽市のケースを例にとろう。2004年には、同市から180余の市代表団(延3000人)が両経済圏に赴き招商引資(1707項目、総投資額980億元)を実施したとされるが、導入した南資の70%が中国の民営企業のメッカである温州市からのものであったという(21世紀経済報道 2005年1月27日)。民営製造業の多くは軽工業かつ中小企業だ。今後、北の重化学工業と南の軽工業との南・北経済交流が大きく進展するビジネス環境が醸成されつつあるということだ。
 南北連携に加え三省間の域内連携が進みつつある。各省では地区・都市間連携を積極的に推進しようとしている。代表的なのを上げると次の通り。

遼寧省: 5点一線戦略、大瀋陽(瀋陽を核とした省中部の瀋陽、鉄嶺、撫順、本渓、遼陽、鞍山、営口の7都市間連携)、大大連、
吉林省: 長春東北アジア総部経済基地、圖們江区域開発
黒龍江省: 哈大齊工業走廊(ハルビン、大慶、チチハルの3都市の工業の連携) など

 こうした経済連携は省際での連携へと発展する可能性を秘めている。例えば、ハルビンー大連間鉄道沿線都市(ハルビン、長春、四平、鉄嶺、瀋陽、撫順、鞍山、遼陽、盤金、営口、大連)および錦州、葫蘆島、本渓、丹東、吉林、遼源、松原、大慶、チチハルなど3省内都市の経済連携が進めば、珠江デルタ、長江デルタ、環渤海経済圏に続く第四の東北工業経済圏(①ハルビン、チチハル、長春、瀋陽、大連を核とする大企業主体の機械装備製造業<重工業>集団、②大慶、吉林、瀋陽、錦州、遼陽、撫順、大連を核とする石油化学工業集団、③吉林中部および黒龍江、遼寧省の一部都市を主体とする野農産品加工・製薬企業集団、④長春、吉林、四平、ハルビン、瀋陽、大連の大企業を主体とする自動車部品企業集団)の誕生が期待できる。
 現在、東北地区は道路、鉄道網の整備を急ピッチで展開中である。これが省際の産業連関を、今後一段と加速することになると期待される。既に、東北地区の幹線たる大連―ハルビン間には片側四斜線の区間もある堂堂たる高速道路が開通しており、また、省都のハルビン、長春、ハルビンは環状道路網と周辺都市との交通ネットワークが整備されている。加えて三省を縦貫する鉄道の高速化も急ピッチで展開している。注目すべきは、北朝鮮とロシア国境沿いを走る東北東部鉄路通道(東辺道)建設工事が来年着工されることである。黒龍江省の牡丹江から大連までの1389㎞(中心通過都市:牡丹江、トモン、通化、丹東、庄河、大連)の一大鉄道網が完成すれば、東北地区は2大鉄道幹線をもつことになり経済効果は決して少なくないはずだ。中国第4の経済圏の確立を窺うのに十分資格ありということになる。

<黄河以北広域経済圏の確立に向けて>
 東北地区経済の比較優位性とは何か。以下の3点が指摘できよう。

重化学工業拠点であること。即ち、今後、東北振興策や外資導入の積極策で重化学工業の近代化が達成されれば、南の軽工業を吸収してフルセットの産業構造を構築・発展させることが可能である。
陸路(ランドブリッジ、シベリア鉄道)で欧州に通じていること。即ち、将来的には、大連から欧州までのユーラシア流通ネットワークの確立に期待がかけられる。ロシアとの関係が大きく前進している現状が今後こうした流通ネットワークを機能的かつ有効にしていくものと期待できる。
現在最も内外の関心を集めている環渤海経済圏と隣接していること。即ち、天津濱海新区が深圳、浦東に継ぐ第3の経済圏の極として開発することが、今年3月開催の全人代で採択された第11次5カ年計画に盛り込まれたことや中国3大鉄鋼企業のうち、首都鋼鉄集団が唐山へ、鞍本集団が営口へと渤海沿岸に移転する予定にあることなどから、東北地区と環渤海経済圏の連携が進み、広域な「黄河以北経済圏」確立への可能性が高まってきている。

 大連の夏徳仁市長が、2005年5月天津で開催された「環渤海区域経済振興および発展座談会」の席上、環渤海地区都市間の協力強化を提案するなど、広域経済圏の確立を見据えている指導者は少なくない。環渤海の両翼を担う遼寧省(大連)と山東省(煙台)には渤海湾を跨ぐ列車フェリーが通じる予定である。東北地区の出番がようやく回ってきたということである。

    
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