北京NOW (B)    
  第21号 2006.11.25発行 by 江原 規由
    11月のある日の中国各紙の一面記事から
走馬看花した中国
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 今年11月のある日の中国新聞10紙の第一面の主要記事を以下に書き出してみた(下記表を参照)。共通項を括ると、①全人代常務委員会24回会議関連(マネーロンダリング「資金洗浄」対策法等の採択など)、②第3回中国―アセアン博覧会開幕関連、③中国・アフリカ協力フォーラム関連となる。巨象のほんの一部に触れただけでその全体像を認めるなど出来ないに決まっていることは十分承知しているが、第一面記事(掲載された新聞記事内容とは一致しないところ<筆者の視点>もある)から、今中国で起こっていること、中国の関心ごとの一端を「走馬看花」してみたい。

<外交と法制度が話題の中心>
 まず共通項からはじめたい。中国は今年を「外交年」と位置づけているが、5月末のアラブ22カ国・地域との北京閣僚会議の開催、6月上海協力機構首脳会議(メンバー国の中央アジア4カ国、ロシアのほかイラン、パキスタン、アフガニスタンの元首が参加)、10月末、南寧でのASEAN 首脳会議、そして、中国・アフリカ協力フォーラム関連(アフリカ諸国48カ国の元首・首脳が出席)と、特にアジア・アフリカ外交には精彩があった。

 第3回中国―アセアン博覧会開催時開催された「中国ASEAN首脳会議」では、2010年中国・ASEANのFTA完成の確認、双方の貿易拡大(2008年2000億ドル超、2005年は1300億ドル)の提案などが行われた。2000億ドルとは、現在の日中間貿易額にほぼ匹敵する。中国・アフリカ協力フォーラムでは「中国・アフリカ関係発展史上重要な一里塚」との認識で「北京サミット宣言」、「行動計画」が発表された。同宣言では、「ひとつの『中国』の立場を堅持する」としてアフリカ諸国と台湾との接近を牽制したほか、中国アフリカ発展基金(50億ドル)の設立、一部債務免除、そしてアフリカ諸国で1500人の各種人材育成が提案されたことが注目される。今回のフォーラム開催の背景には、台湾問題のほか、中国のエネルギー資源の安定確保、国連などでの発言権拡大など、中国が抱えている政治・経済問題が大きく意識されている。同フォーラム期間中、北京では、アフリカ48カ国の元首・首脳等移動を最優先するため激しい交通規制(空港へ向かう有料道路の封鎖、公用車49万台の使用禁止など)を実施するなどの力の入れようであった。

 外交同様に、今年極めて活発な動きがあったのは、法律制定の動きであった。マネーロンダリング対策法はその殿といってよい。施行は、来年1月1日からだが、金融犯罪、テロ集団や暴力団資金の流れなどの抑止、汚職摘発(官僚などが賄賂で得た巨額資金の海外移転)などが期待されている。このほか、株式交換による中国企業のM&A(合併・買収)を可能とするなどの「外国投資者による国内企業のM&Aに関する規定」が9月8日、「破産法」が8月27日、義務教育法が20年ぶりに修正され9月1日から施行されている。また、「独禁法」や私有財産や土地などの強制収用とも関連のある「物権法」等も極めて熱心に審議されており、近々の施行が期待されている。今年は、近年になく各種の重要な法規の環境整備や制定が華やかな年であった。

   中国の積極的な外交攻勢(中国企業の海外展開を含め)と法制度整備は来年も大いに進展すると思われるが、安倍総理の訪中(10月8日)で日中関係改善ムードが高まったというものの、関連記事がそれほど多くないのはやや気になるところである。

<見出しからみた現代中国>
 そのほかの見出しでは、①新農村、②東北振興、③中国企業の海外展開、④資源・エネルギー、環境、⑤IT、インターネット関連、⑥外資関連、⑦不動産、⑧中国企業、⑨党16期6中全会、⑩株式企業、⑪中米関係、⑫社会(腐敗、労働、社会保障)、⑬プロジェクト、⑭景気などが指摘できよう。

新農村:現政権は「三農問題」(都市部<主に沿海地区>と農村地域<主に内陸部>の所得、生活、環境面での格差問題などを指す。三農とは農業、農村、農民のこと)の是正を緊急課題としているが、今年秋の新学期より1.6万人の大学卒業生が内陸西部地区の260余県2850余の農村学校に教師として派遣されるという。日本も教育基本法の見直しが話題となっているが、中国では、今年から「農村義務教育段階学校教師特設職場計画」(教育部、財政部、人事部主管)を5年計画で始める。農村地区における基礎教育の普及で三農問題の是正に貢献すると期待されているようだ。また、12月31日から700万人余の調査員を動員し2億余の農家を調査する世界最大規模の農業センサスを実施し、農村を一層発展させ、農民によい暮らしを提供するための情報を収集する予定にある。

東北振興:中共中央政治局常務委員の羅乾氏が東北振興の中心省である遼寧省を訪問し、胡錦濤総書記の後継者の一人とされる李強克遼寧省書記らと会ったことなどが報じられている。東北振興策が世に出て3年余が経過したが、中国東北地区には外資の進出が目立って多くなってきている。特に、遼寧省は李書記が提唱する「5点1線」注1計画が始動しつつあり、中国第4の経済圏(東北経済圏)形成が期待されている。

中国企業の海外展開:商務部の発表によると、2005年の中国の対外投資(金融関係を除く)は122億6000万ドル(前年比2.2倍)と初めて100億ドルを超え過去最高を記録した(対内投資のほぼ5分の一)。2005年末までの累計では572億572億7000万ドル(同約12分の一)。また、国連貿易開発会議の報告書の統計を基準にすると、世界の対外直接投資に占める中国のシェアーは1.7%(フローべース、2004年単年度)、2004年末までの累積ベースでは0.6%だが、2005年の中国の対外投資が急増したことから、中国のシェアーは高まったと予想される。2005年にはM&A方式による対外投資注2が全体の53%(65億ドル)と急増した点が特筆できる(出典:ジェトロ通商弘報)。今年10月温家宝総理は国務院常務委会議を召集し「中国企業の対外投資協力を奨励・規範することに関する規定」(9原則)を審議・制定するなど、中国企業の対外展開はいよいよ本格化する情勢にある。

資源・エネルギー・環境:国家発展改革委員会の馬凱主任(大臣)は急増する中国の消費需要が世界の原油価格を押し上げているとの中国脅威論に対し、①中国のエネルギー自給率は90%以上を維持していること、②一人当たりエネルギー消費は日本の4分の一(米国の7分の一)であること、③原油の純輸入は世界全体の5.5%で米国の25%、日本の10%を大きく下回っていることなどを指摘し、反駁した。今後は、太陽エネルギーや風力発電など利用・強化し、再生可能エネルギー比率を2020年までに現在の7%から16%に引き上げるとした。中国はリサイクル型経済、節約型社会の建設を標榜し国家、企業、人民の三位一体で資源・エネルギー問題に対応しようとしているが、原油の対外依存を低めることはかなり困難な状況にあることは、上記中国・アフリカ協力フォーラム開催の背景によっても明らかである。

外資関連:1978年以来の改革開放政策の下、外資が中国に設立した企業は累計で57万社を超え、投資資金が6650億ドル超。2005年でみると、外資系企業の工業生産額(付加価値ベース)は11.9兆億元(約1.5兆ドル)で中国の工業生産額全体の29%、輸出入額(8317億ドル)は同58.5%、納税額(9349億元、約1100億ドル)は同中国の税収全体の21%、外資企業の直接就業者は2500万人超で同11%に達したと発表した(商務部馬秀紅商務副大臣)。外資よる対中投資はM&A方式が主流になっており、中国の戦略的企業が外資に買収されるケース注3に危機感を抱いた中国は、9月8日より「外国投資者による国内企業のM&A(合併・買収)に関する規定」を施行した。この規定は、外資による中国企業のM&Aが経済安全に重大な影響を与えると認められた場合は当該M&Aの見直措置を講じる。また、株式交換による中国企業のM&Aが可能とするなど、M&A方式による対中投資を奨励しつつ規制するといった二律背反的な内容となっている。11月には、海外からの投資に関する初の5ヵ年計画を発表、外資の受入分野・地域として、これまでの加工製造業中心から脱却し、ハイテク、サービス、研究開発、内陸部に重点を置くとした。

株式企業:中国の株式市場がBear(弱気)からBull(強気)へ向かっているようだ。10月30日までに上海、深圳両株式市場の時価総額が昨年同期で2倍近く(6.1兆元、約7700億ドル)達した。これは、中国銀行、工商銀行など国有商業銀行や大秦鉄道といったブルーチップ株(中国本土優良企業株)の上場や株価上昇が背景にあるとされる。中国では株式分離改革が最終段階を迎えており、株式市場の信頼回復などで投資価値が急速に高まっているといわれる。今後、資金調達を銀行借入から株式市場での調達に頼る(間接金融から直接金融へ)中国企業が急増すると予想する向きはすくなくない。また、国内上場に加え海外上場も着実に増えていることは注目に値する。この点、日本の株式市場に上場している中国企業は数社しかなく、香港は言うに及ばず、NY、シンガポール、ロンドンなどの株式市場に大きく水をあけられている。

不動産:10月31日、北京で「不動産経営営業規則」が公布されたと報道された。不動産紹介業者が不誠実で消費者の利益を侵害しているケースが多く、同規則は主にこれを規制するための措置だ。マイホームは現代の三種の神器の一つとされ、中国人にとって「高嶺の花」ではなくなりつつある。業者による住宅建設は花盛りだが、投機的購入も少なくなく、経済のバベル化の一因や腐敗の温床ともされている。不動産ブームで「砂上の楼閣」を築かないよう、中国政府が各種措置をとりつつあるのが現状だ。

社会(腐敗、労働、社会保障):上海市書記が腐敗で解任されるなど、腐敗現象は社会の隅々に浸透しており、目下最大の社会問題化しているといっても過言ではない。経済参考報は、中国が腐敗に手を染め国外逃亡した政府高官などの引渡しに関する国際ネットワーク(既に20余カ国と引き渡し条約を締結済)を構築していることを紹介しているが、中国経済の国際化で腐敗の国際化も進んでいることは明らかだ。また、国営の新華社発行の「瞭望」は、公務視察を名目とした公費観光や公費接待の実態を報じているが、それによると、2004年の公費飲食費は3700億元(約5兆2000億円)に達し、さらに出張先での接待費(高級な贈り物、記念品を含む)、虚偽の領収書を使った財政資金の不正使用などが後を絶たないことから公務員の腐敗現象に警鐘を鳴らしている。中国経済の高成長にはバブル面があるとされているが、腐敗もその一因であることは確かなようだ。なお、3700億元は2005年の国防予算(約2800億元)を上回っている。

   膨大な養老年金基金の運用は国家の最大関心事項であるが、目下中国では社会保障制度改革が急ピッチで展開している。現在、中国は世界最多の高齢人口を抱えており、人口の高齢化が進展しているほか少子化の問題にも直面しようとしている。少子高齢化の「人口問題」が先鋭化しつつある日本と同じ問題を抱えつつあるわけだが、和諧社会(各地域、各階層間で調和の取れた社会)の実現を公約している当局にとって、社会保障制度の整備・充実が急務となっている。

 経済参考報によれば、一部地域で労働者・職員の雇用に際し「見習い」の名のもとに彼らの権益を侵害(最低賃金、社会保険費の未支払いなど)しているという。中国では高齢化の進展などにより、既に労働人口の伸び率が鈍化しており2020年前後にはマイナスに転じるとの見通しが出ている状況だ。沿海部を中心に労働コストは上昇傾向にある。天津市では出稼ぎ農民向け訓練施設を30ヵ所を整備し延べ50万人を訓練していく方針にあるなど、労働力確保に余念がないが、その一方で労働者の権益を侵害する地域も依然あるということになる。こうした状況に、労働保障部門は法に基づいた賃金の支払いや社会保険の納入を求めていると、同紙は報道している。

党16期6中全会:中国経済時報は第一面全面で「和諧社会の建設と国内外環境」と題する論文を掲載した。1978年の党11期三中全会以来、中国は改革開放の社会主義現代化建設を推進してきたが、現政権が目指す中国社会主義建設のあるべき形として和諧社会の建設が提唱されたといえる。和諧社会とは中国社会主義の現代版「ユートピア」といってよい。論文では、21世紀初頭5年間に毎年1700万人の農業人口の非農業産業人口化が進み都市化が進展していることや2010年には中国の輸出総額が世界全体に占めるシェアーが10%以上(現在6.5%)になることなどが具体的に紹介されている。

 第一面には掲載されてはいないものの、人民元がじわじわと切り上がりあること(2006年2月に日本を抜いて中国は目下世界一の外貨準備保有国)や外貨準備が急速に積み上がっていることから、外貨準備の適正水準やその使い方などに関する専門家の意見などを、各紙とも競って第二面以下で紹介している。総じて、政治、外交関連より経済、とりわけ社会関連記事が多くなってきているといえる。


表 各紙の第一面記事
人民日報  
为全面充分深入生动地报道中非合作论坛北京峰会(特刊)(中国・アフリカ協力フォーラム関連特集)
四部委联合启动农村学校教师特岗计划(新農村関連)
表达通过反洗钱法农民专业合作社法等(マネーロンダリングなど関連)
第三届中国-东盟博览会在南宁开幕(アジア-アセアン博覧会関連)
政法机关要适应构建和和谐社会新形势为振兴老工业基地创造和稳定社会环境(東北振興関連)
同海外版  
中国出台首都反洗钱法(マネーロンダリング関連)
搭建互利共赢合作发展平台(アジア-アセアン博覧会関連)
中非风雨同舟五十年(中国・アフリカ協力フォーラム関連)
国際商報  
开展合作领域 提高合作水平(アジア-アセアン博覧会関連)
第三届中国-东盟博览会盛装开幕(アジア-アセアン博覧会関連)
中土集团创新对外承包工程纪录(中国の海外進出関連)
一网撒遍天下(インターネット関連)
中華工商時報  
“第四次石油危机”是否过去(資源・エネルギー関連)
温家宝建议中国东盟扩大贸易规模(アジア-アセアン博覧会関連)
《反洗钱法》昨日高票通过(マネーロンダリング関連)
执业新规整顿房产经纪(不動産関連)
直销牌照再添新丁(外資への営業許可関連)
华为拿下阿联酋3G大单(インターネット関連)
买的起马就该配得起鞍(環境保護関連)
第一財経日報  
反洗钱法:金融机构违规加重处罚(マネーロンダリング関連)
新华富时败诉 称不排除上诉WTO可能(訴訟関連)
加速投资东盟 中国年内落实50美元贷款(アジア-アセアン博覧会関連)
重新审视潮商伦理(潮州企業関連)
中国経済時報  
和谐社会建设与国内外环境(党16期6中全会関連)
経済日報  
十届全国人大常委会第二十四次会议在警闭会(全人代常務委員会24回会議関連)
辽宁社会救助体系多层次广覆盖(遼寧省社会保障関連)
第三届中国-东盟博览会在南宁开幕(アジア-アセアン博覧会関連)
政法机关要适应构建和和谐社会新形势为振兴老工业基地创造和稳定社会环境(東北振興関連)
21世紀経済報道  
社保基金将代管九省市部分个人养老金(社会保障関連)
上海地产50强:60%“国资”渊源(不動産関連)
饮食男女(景気関連)
适时扩大对东盟油气的参与度 (アジア-アセアン博覧会・エネルギー関連)
中国証券報  
泸深大盘收市登上五年新高(株式市場関連)
A股市场演绎方向性嬗变,是终点,更是新起点(株式市場関連)
人大常委会通过反洗钱法等,企业所得税法草案年底请审议,百家公司仍被占用262.54亿元(全人代常務委員会24回会議関連)
経済参考報  
老人在家孤独去世 凸显社会养老缺失(社会保障関連)
50年5000倍:中非经贸快车疾行(中国・アフリカ協力フォーラム関連)
156,三峡工程新“考题”( 三峡ダムプロジェクト関連)
中美存在较大贸易差额(中米関係)
我国立法鼓励发展农民专业合作社(新農村関連)
我国编织国际引渡网力截外逃贪官(腐敗関連)
警惕以“学徒工”为名侵犯职工权益(労働問題関連)

『脚注』
注1 「五点一線」戦略の「五点」とは、①遼寧丹東産業園区、②大連庄河花園口工業園区、③大連長興島臨港工業区、④遼寧(営口)沿海産業基地、⑤遼西錦州湾沿海経済区(錦州西海工業区・葫蘆島北港工業区)5拠点のことで、「一線」とは、この5拠点を結ぶ1443㎞(東端の丹東市東港から西端の葫蘆島市綏中県まで)の沿海高速道路ネットワークを指す。総面積は6.5万Km2、遼寧省総人口の約50%、GDPの約65%。)。「五点一線」とは、日本で言えば、規模はともかく京浜工業地帯とか阪神工業地帯を5つつくるようなものといえる。
注2 2005年の代表的事例では、中国石油天然ガス社がカザフスタンにあるカナダ企業の「ペトロカザフスタン」を買収(41.8億ドル、中国企業最大の海外企業買収案件)、南京汽車(自動車)が破産した英国のローバー社の資産を買収したケースなどがある。
注3 米国企業が中国を代表する工事機械メーカーである徐工科技の85%の株式を取得しようとしたケース、仏企業(SEB)が中国のクッキング関連機械メーカーの蘇泊爾をM&Aしようとしたケースなど。

    
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