北京NOW (B)    
  第25号 2008.1.1発行 by 江原 規由
    十二支からみた2007年の中国経済の回顧と2008年の展望 <目次>へ戻る
 2008年は子年(鼠=中国語:老鼠)です。8月には北京五輪も開催されるなど世界の目がさらに中国に向く年といえるでしょう。以下に、干支から見た2007年の中国経済を回顧し2008年を展望してみたいと思います。
<2007年の豚、2008年の子>
豚の図案
 2007年の干支は猪(イノシシ)でした。中国では豚年になります。単なる豚ではなく、60年ぶりに豚と金が出会う大変おめでたい「金豚」の年です。金に縁があったようです。膨大な貿易黒字(2007年1月~11月は1.43兆ドルで昨年末の1.065兆ドルを3650億ドルも上回って過去最高を記録)を背景に中国の外貨準備が増え続け世界第二位の日本にさらに大きく水をあけました。その結果、人民元の対ドルレートは年初水準から5%以上の元高となりました(2007年12月21日の対ドル人民元為替レート:7.3572元)。
 また、2007年には米国経済のみならず世界経済をも揺すぶったサブプライム問題が発生しましたが、中国への影響は少なかったようです。結果、人民元への信用が高まり人民元高に拍車がかかったとみる識者もいるほどです。2008年も2007年に続き国家による積極的な輸入促進策などにより貿易黒字は今年より若干減ると見られるものの、人民元の対ドルレートは上昇するでしょう。
 もう一つ、縁起のよい「金豚」年には子供を生もうとする新婦が多いといわれます注1。今、中国ではブライダル産業が急成長していますが、このところ新生児男女比率で男性の割合がかなり高まっており、20年後には5人に1人が結婚出来ないのではといわれます。中国は既に世界一の老齢人口を抱えていますが、未婚層が増え少子化が進むと、中国の経済発展や社会保障体制に影響が出かねません。
 このほか、豚に絡むことでは、2007年の物価上昇に一言触れなければならないでしょう。12月21日に今年6回目となる金利の引き上げ12月21日(預金準備率は今年10回目となる引き上げが12月25日)より実施されました。高
子の図案
成長(2007年は11.6%成長と予測)を続けている中国経済に物価上昇の兆しが濃厚になってきました。消費者物価の上昇に大きく貢献しているのが食料品とされますが、中でも豚肉の上昇幅が大きいといわれます。人民の食生活がより肉食嗜好になっているようですが、豚肉は中華料理、家庭の味にはなくてはならない存在です。2008年の豚肉価格が安定することを願う人は多いはずです。
 今年の干支である鼠も子沢山です。一人っ子政策は2008年で30年を迎えようとしています。今後、男女比率がどうなるのか、2008年はその試金年になるのではないでしょか。鼠には本稿の最後にまた登場してもらいます。

<丑> 
丑の図案

 2007年に一番目立った干支は何と言っても牛でしょう。牛といっても株式用語のブル(Bull)のことです。株価の総合指数が年初水準(上海株式市場の平均株価指数:2400ポイント)から一時約2.5倍(6000ポイント超)となるなど、株式市場は超活況でした注2。最近、中国の「三種の神器」の一つが株式(ほかの2つは、マイカー、マイホーム)の保有となったほどです。人民の蓄財は貯金が主役ではありますが、最近では株式ブームで株式投資に重点が移りつつあるようです。株価の急上昇を中国経済のバブル化の象徴とみなし、2008年には株式市場は調整期に入るとみる向きが多いようです。株券はそろそろ売り時なのかもしれませんが、その一方で国有非流通株が大量放出(流通)される日 が間近との観測もあるなど、株主のみならず、国内外で中国の株式市場の行方から目が離せなくなる人が増えることは間違いないでしょう。
<寅>
寅の図案
 鼠、牛の次は寅(虎)です。中国に生息する虎で最も有名なのが東北虎でしょう。2007年はこの東北虎の棲む中国東北地区に衆目が集まる場面がいくつかありました。10月24日、将来的には月面着陸を目指す月探査衛星「嫦娥1号」が打ち上げられました。研究開発から設備製造のすべての過程で外国の手を借りていないという壮大なプロジェクトには中国東北地区の産業の貢献が大きく、東北の技術注3がなかったら、「嫦娥1号」の打ち上げは難しかったのではといわれます。東北地区経済の発展は宇宙産業という中国の未来産業に大きく関わっているわけです。
 また、2003年に打ち出された「東北振興策」を具体化する「東北振興規画」注4が発表されたのも2007年11月13日でした。中国東北地区は中国を代表する重化学工業の集積地であり食糧生産基地でもあります。中国経済の重化学工業化が進み、食糧問題がとり立たされる今日、同規画が出たことの意義は少なくないと思います。この地域に対し、既に外資の関心が高じており直接投資が急激な伸びを示しています。成長スピードと注目度という点で、この地域は中国経済にあって大いにプレゼンスを増してきています。
 さらに、2007年には、大連で初のダボス夏会議が開催され、この地域に対する世界の企業家の関心を集めたようです。2008年には華南、華東、渤海地区を上回って内外の関心が集まるのではないでしょうか。東北虎は絶滅の危機にあるといわれますが、中国東北地区経済は内外資の注目を得て発展の時を迎えているといえるでしょう。

<卯>
 2007年10月打ち上げられた「嫦娥1号」は中国の月面着陸計画の大きな第1歩となったわけですが、日本の言い伝えでは、その月に棲むのは卯(ウサギ)です。そのウサギは中国をどう見ているのでしょうか。2007年10月、第17期中国共産党全国人民代表大会が開催され、科学発展観と和諧社会の建設が党規約盛り込まれました。科学発展観は以人為本(人間本位)に基づくとされておりますが、人民に暮らしやすい居住空間を提供していこうというのもその精神の一つといってよいでしょう。
うさぎの図案
 日本が高度成長を遂げマイホームが「三種の神器」であった1970年代の頃であったともいますが、ある先進国から日本のマイホームは「ウサギ小屋」と陰口を叩かれたことがありました。目下、中国もマイホームブームとなっており、地価や住宅価格がうなぎ上りの都市が少なくありません。住宅金融ローンなどを利用して住宅を購入した人も多いわけです。物価上昇やら度重なる金利や預金準備率の引き上げ(2006年のCPI1.5%、2007年は4.5%前後と予測、預金準備率の引き上げは2007年内に10回引き上げられた)などから、中国経済にバブル化の兆候が出てきつつあるのではと懸念されている折、2008年に米国のプライムローン的事態が発生し中国経済がおかしくならないようないようにと、月でウサギは願っているのではないでしょうか。

<辰>
 中国では辰(竜)は水と大いに関係があります。2007年は水質汚染が大きな社会問題となりました。例えば、江蘇省の太湖、安徽省の巣湖・滇池で藻が大発生するなど住民生活に大いに影響が出たようです。
辰の図案
生産活動や天候異変など天災、人災の両面が関係しているようですが、水の問題は中国経済の成長と人民生活の向上にとってボトルネックとなりかねない状況が増えてきていることは確かです。中国の長江(揚子江)は竜に喩えられることが多いのですが、この中国最長の大河に生息するアオウオ、ソウギョ、ハクレン、コクレンの「4大家魚」の漁獲量が、2003年以前の10%に激減していると報じられています(中国経済時報 2007年9月17日)。また、絶滅したのではないかと危ぶまれていた揚子江イルカが猟師に撮影されたという明るいニュースがあったものの、中国各地の河川湖沼の水質が悪化しつつあるのは事実です。中国政府は、「流域限批」(水質汚染の深刻な一部の河川湖沼流域の汚染工場や汚水処理場を厳しく監督すること)を行うなど、環境対策に大いに注力しています注5
 竜は皇帝になぞらえられてきました。中国では、古来より治水(ストップ・ザ・洪水)は国家の最重要事項でした。現代はストップ・ザ・環境(水質)汚染です。竜の棲みよい河川湖沼を維持するのは、人類にとって住みよい生活環境の構築そのものであるわけです。2008年は「環境にやさしい」生産体系や生活様式の構築に向け大きな一歩が記されると期待したいものです。

<巳>
 辰の次の干支は巳(蛇)です。「蛇呑大象」の話をしましょう。中国企業(蛇)が国内外の大手企業(大象)をM&Aすることの喩えです。その代表例は、2005年の中国パソコン大手レノボによるIBMパソコン部門の買収、中国
巳の図案
海洋石油による米石油大手ユノカルの買収(未成立)などが指摘できます。2007年は、中国工商銀行による南ア・スタンダード銀行の買収など海外金融機関の買収が目立ちましたが、むしろ「大象呑蛇」のケースが世間を賑わせたといえるでしょう。例えば、米ファンド大手カーライル社による中国建機最大手徐工機械の買収騒動(2007年になっても未決着)などが指摘できますが、長年来施行が待ち望まれていた独禁法が採択されたことから、気になる外資による中国の戦略的企業のM&Aについて基準が示されたことの意義は大きいと思います。
 因みに、対中直接投資に占めるM&A 方式の割合(外資系企業による中国企業のM&Aに限定)は、2.5%、「走出去」におけるM&Aの比率は40%となっています。中国政府は対中直接投資の新たな形態としてM&A方式を歓迎する一方、外資企業によるM&Aの制限域を明確に示す努力を結晶させたといえます。「M&Aなき対中ビジネスはない」といってよいほど、中国経済におけるM&Aのプレゼンスが大いに高まっていますが、2008年はこの威勢はさらに加速されるでしょう。

<午、申> 
申の図案

 中国で申(猿)というと、真っ先に「西遊記」の孫悟空を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。「西遊記」には、干支が3つ登場します。即ち、猿(孫悟空)、豚(猪八戒)そして三蔵法師の乗る午(馬)(竜の化身とされる)です。60年に1度のめでたい金猪年お株を取られたのか、2007年馬と猿の存在感が薄かったようです。ただ、孫悟空のアニメ映画(中国初の伝統の木彫り人形と3D技術を駆使したアニメ映画)がオーストラリアで開催されたアジア太平洋映画賞の最優秀アニメーション賞にノミネートされたことは、今後アニメ大国を目指す中国にとって大きな成果といえるでしょう。
午の図案

 2008年の中国経済はますます先鋭化するのではと懸念されるエネルギー問題や環境問題、そして物価上昇などバブル現象を抑えつつ持続的高成長を維持する上での試金年といわれます。中国の成長は世界経済の発展に直結しており、中国経済の問題は世界課題です。先の党大会で「科学発展観」が打ち出されましたので、中国経済が「馬脚を露す」ことも「猿も木から落ちる」こともなく、「又快又好」注6の成長を遂げることが期待できるでしょう。


<未、酉>
未の図案
 2007年には中国の未(羊)が日本にやってきました。中国のシャブシャブ店が渋谷に開店しました。中国ではシャブシャブといえば羊の肉です。これに舌鼓をうつ人は多く、店には長蛇の列が出来ているとのことです。中国のシャブシャブ店の日本上陸もさることながら、2007年は中国企業の対日「走出去」では目立った動きがありました。例えば、中国の環境ソリューション企業である中国博奇環保科技公司が中国企業として初めて東証1部に上場したことなどが指摘できます。2008年は中国企業の対日展開はさらに続くこと間違いなしです。中国製品、中国人観光客、そして中国資本の対日展開の時代が来ているということです。
酉の図案


 次の酉(鳥)ですが、2008年の北京五輪のメイン会場は「鳥巣」と呼ばれています。米タイムズが選ぶ「2007年世界10大建築奇跡」にこの「鳥巣」が入選しています。これまで鳥インフルエンザなど白い目で見られがちだった鳥族にとって、これは汚名返上のうれしい選定であったわけです。

<戌>
 さて、干支のブービーである戌(犬)ですが、まず、肉まんで有名な老舗ブランドである「狗(犬)不理」注7の商標が日本から中国に買い戻されました。「狗不理」の商品商標は1997年に日本で登録されていましたが、狗不理集団は2007年10月、日本の「狗不理」商標登録者から商標を譲渡されたとのこと。中国は、目下「老舗ブランド」の保存に注力しています。その10月、中国浙江省から中国老舗ミッションが日本にやってきました。東京の池袋で展示商談会(レストランの対日展開、中国酒、中国茶、食品など伝統産品の紹介・売込みなど)を開催しましたが、行く行くは日本に販売拠点や店舗を設置したいとの意向もあるようでした。製品ばかりでなく、ブランド、味といった無形のMadein Chinaが対日展開する時代でもあります。近い将来、日本のどこかに「中国老舗街」が誕生することを期待したいと思います。
 
戌の図案
犬に関してはもう一点、中国は、目下、ペットブームです。ペットの多くが犬で、大都市などでは愛犬家がブランド犬を連れて散歩する姿がめっきり増えました。中国は内需(消費)拡大による成長を希求していますが、ペット産業は今後、消費の伸びが期待されています。犬が景気を引っ張るといったら言い過ぎかもしれませんが、中国には富裕層が増え消費構造が多様化してきています。こうしてみると、犬は豊かさの象徴でもあるわけで、現代の「三種の神器」の一つがブランド犬になっている初夢を見たとしてもなんら不思議ではないでしょう。
 残念なことに、2007年は中国製品の安全性が大いに問われました。ペットフードから始まったこの一大事は沈静化しつつあります。問題の所在は中国側だけではなかったわけですが、中国側の信用回復にかける努力は並々ならぬものがありました。2008年はこうした問題の発生はないと願いたいものです。

<ネズミの嫁入り>
 最後に、今年の干支の子(老鼠)に戻りましょう。「ネズミの嫁入り」という話があります。ネズミの両親が年頃の娘のために最良の嫁入り先として太陽をと思うのですが、太陽は雲に隠され、雲は風に蹴散らされ、風は壁に遮られ、結局壁に穴を開けるネズミが最も強いということで嫁入りするというストーリーです。
 2007年は日中国交35周年で、両国は戦略的互恵関係を構築することで合意しています。要は、より深く、もっと幅広く、末永くお付き合いしていこうということでしょう。あるべき夫婦関係にも当てはまります。2007年12月27日に福田総理の訪中が実現しましたが、日中友好条約締結30周年の2008年、日本には壁に穴を開ける鼠になってほしいと思います。



注1 金猪年に生まれた子供は「金猪宝宝」と呼ばれもてはやされるためベビーブームとなった。
注2 A株市場の時価総額が30兆元を超え、時価総額で世界第4番目の規模となった。また、中国の証券化率(GDPに対する各種証券時価総額の比率)が150%を突破し先進国並みのレベルになったとされる。また、株や基金に投資する人が増え、また、不動産、や収蔵品などが値上がりしたことなどから、中国人民に財テク意識が育った。
当面、制限的ではあるものの中国人個人による海外(当面香港が対象)の株式市場などへの投資が解禁されたこと、中国政府が外貨準備を元手にその有効活用を意図したファンド会社を設立したり、中国企業(特に、金融機関)の海外市場の上場が増えたりと、海外においても、2007年は「牛」が「Bull」であった年であった。
なお、12月21日時点、上海株式市場の総合株式指数は4957.18ポイント。
注3 例えば、黒竜江省のハルビンからは、研究機関と生産企業を合せて5機関・企業(ハルビン東北軽合金有限公司、ハルビンベアリング集団公司、ハルビン液晶管廠、黒竜江省石油化学研究院、ハルビンガラス鋼研究院)が「嫦娥1号」の打ち上げ工程に関係している。
注4 今後10年から15年をかけて東北地区を、①国際競争力をもった装備製造業基地、②国家新型原材料および資源エネルギー保障基地、③国家重要商品食糧および農牧業生産基地、④国家重要技術研究・イノベーション基地、⑤国家生態安全重要保障区、に建設することを目標としている。
注5 2007年に国家環境保護総局は2006年度の「全国環境統計公報」を公式サイトに発表、同年の環境汚染対策費はGDPの1.23%を占め過去最高を記録したとしている。
注6 中国経済は高い成長率のみ追求するのではなく、環境保護や省エネなどにも多くを配慮しなければならない、すなわち、経済成長は量から質へと転換しなければならない。「好」を「快」より重視していこうとする姿勢。2007年の流行語の一つといえる。
注7 「犬も食わない味」と逆説的表現でおいしさを強調している。




    
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