北京NOW (B)    
  第27号 2008.12.17発行 by 江原 規由
    中国経済に棲む干支(2008年) <目次>へ戻る
 中国にとって2008年はどんな年といわれたら、近年になく世界の目が中国に向いた年、世界経済における中国のプレゼンスが上昇し、チャイナパワーが大いに発揮された年と総括できるのではないだろうか。
 中国にとって2008年は実に多くの出来事があった。5月の四川大地震の発生、8月の100年来の願望とされた北京五輪の開催、そして、北京五輪直後には一昨年来のサブプライムローン問題が悪化し100年に一度とされる金融危機が世界経済を揺すぶった。その金融危機の影響が比較的に軽いとされた中国がどう対応するのか、北京五輪並みに世界の目が中国に向いた。
 重要な国際会議も多かった。9月には天津でダボス夏会議(一昨年の大連に続き第2回目)を開催、10月にはASEM会議第7回首脳会合で議長国を務めた。そして、11月には、米国での金融危機への主要国の対応を話し合う金融サミットに参加、さらに、12月には、第5回中米戦略経済対話が北京で開催されるなど、中国のリーダーシップが発揮される機会が少なくなかった。このほか、タジキスタンでの上海協力機構首脳会議への参加(8月)、ペルーでのAPEC首脳会議(11月)への参加と、中国の胡錦涛国家主席と温家宝総理はさぞ忙しかったと思われる。
 金融危機下で世界経済における中国のプレゼンスは着実に向上しつつある。2008年に中国はドイツを抜き、世界第3位のGDP大国になったといわれる。チャイナパワーがさらに発揮される環境は整いつつある。

<干支から見た中国経済>
 中国経済には実に多くの動物が棲んでおり、いろいろな場面でチャイナパワーを支えている。2008年は改革開放30周年、そして2009年は中華人民共和国建国60周年と、中国は2年連続して国家としての節目の年を迎える。中国経済の時々の動向はよく動物に喩えられるが、改革開放30年はまさに中国の象徴である「龍」のごとく中国経済を昇天させる威勢があったといえよう。
 次の30年はどうか。中国経済が今までどおり「龍」のごとく高成長を続けるというわけには行かないのではないだろうか。世界の経済環境が大きく変わろうとしつつある今日、中国経済には、世界から愛される「パンダ」的愛嬌を発散させてほしいものである。
 さて、2008年の中国経済に棲んだ動物たちはどんな役割を与えられたのであろうか。以下に干支を中心に12匹の動物が2008年の中国経済でどんな役割を演じ、今年はどう演じようとしているのか走馬看花してみたい。


 2008年に最も頻繁に中国経済に登場した干支は牛(相場が強気のこと)と、干支ではないが熊(弱気)であろう注1。両者の出番の多さは、中国株式市場が中国経済で大きくクローズアップされたことを如実に物語っている。
 人民は強気の牛の株式市場での長居を期待し弱気となる熊の出現を避けたいと思ったことであろうが、牛が幅をきかせていたところに、米国発のサブプライムローン問題の影響もあり、あたかも冬眠から覚めた熊が急に出現したかのように、2008年の中国の株式市場は乱気流並みの変化だった。
 今年は干支は丑(牛)だ。牛には大いに株式市場の顔役として中国経済を活況にしてほしいと思っている人民は少なくないであろう。



<子(鼠)> 
図版:子(鼠)
子(鼠)

 2008年の干支だったネズミは繁殖力が強い。北京五輪の開催年であった昨年は、おめでたい年イベントにあやかろうと出産を目指した夫婦は多く約1800万人新生児が誕生したという。少子高齢化が目先に迫り成長の担い手不足が懸念される中国にとって出産ブームだった2008年は金メダル年というところであろう。
 「老鼠倉」(老鼠はネズミ)の三字がマスコミを賑わせた。株式のインサイダー取引のことだ。俺々詐欺の「網絡老鼠」も登場した。こちらは網絡(電話・インターネット回線)を利用した知能犯だ。地下に張り巡らされたネズミの通路と巣窟をイメージしての命名のようだが、中国経済ではネズミは悪役にされるケースが少なくない。



<丑(牛)>
図版:丑(牛)
丑(牛)
 株式市場関連以外では、粉ミルクにメラミンが混入された事件が想起される。乳幼児に健康被害が出て世の中が騒然とする中、粉ミルクの原料たる牛乳を生産する牛はさぞかし肩身の狭い思いをしたであろう。事の発端は三鹿社の粉ミルクであった。件の社名に鹿の名が混入していたのは、牛にとってやや救われた思いであろうが、中国の食の安全を世界が大いに疑問視した2008年であった。注2
 伊利集団、杭州娃哈哈(ワハハ)集団、三元集団など中国食品大手による三鹿社の買収話が出るなどメラミン混入問題には尾ひれがついたが、販売難に見舞われた乳牛農家に対し補助金を出したり、蒙牛など大手乳製品メーカーに牛乳供給を確保すべく資金を供給したりと頭を痛めた地方政府は少なくなかったはずだ。
 黄牛も頻繁に出没した。黄牛とは元来「あか牛」のことで役用種だが、2008年の黄牛は、人民元とドルを兌換する闇ブローカーのことだ。2008年後半、対ドルレートが人民元高傾向から人民安傾向にふれた。人民元がこのまま下がり続けるのを恐れてドルを手持ちにする人民が増えたようであるが、これまでドルを売って設けてきた闇ブローカーは商売にならなくなってきているという。世界経済における中国のプレゼンスが高まっている中、人民元の価値が下がり気味なのは皮肉ではある。
 牛にとって救いは北京パラリンピックのマスコット(福牛)となったことだろう。必ずしもマイナスイメージの代表というわけではない。


<寅(虎)>
図版:寅(虎)
寅(虎)
 猛獣のトラは人間界では檻に入れられているが、中国経済では籠に入れられているケースが多い。例えば、「老虎不出籠」(虎籠から出ず)、「籠中虎」(籠の中の虎)、「猛虎出籠」(猛虎籠を出る)など。上場国有企業株の約3分の2の非流通株を流通させる株式改革が進められているが、いざ流通株となった時、市場がどう反応するか見極められないでいるのが現状だ。株式市場の発展には、虎(非流通株)にもうしばらく檻の中にいてもらったほうがいいのか、外に出て(流通株となって)もらったほうがいいのか、社会主義中国の株式市場ならではの悩みである。
 また、「虎照門」3語も紙面を賑わせた。ある農民が撮った華南トラの偽写真をめぐって、大いに世間を騒がせたが、当事者が法的制裁を受けたことで決着した。水滸伝には、「武松打老虎」(武松、トラをたたき殺す)という当時の庶民の喝采を浴びた事件があったが、今日、華南トラの偽写真を撮った当事者は人民から大いに失笑を買ったことになる。民衆の話題に上るトラは、打ちのめされたり、スナップされたりと、時代は変われど大変な目ににあっているわけだ。


<卯(兎)>

図版:卯(兎)
卯(兎)
 2008年8月、3人乗り有人宇宙船の「神舟7号」が打ち上げられ中国初の宇宙船外活動に成功し世界の衆目を集めたが、中国には月面着陸を目指す「嫦娥(ジョウガ)計画」もある。40年ほど前に月面着陸(アポロ11号)に成功した米国に続けということだが、今のところ、兔と亀の競争といってよい。ただ、兔の米国はサブプライムローン問題で傷ついており、宇宙事業を積極推進する余裕などない。この隙に、亀は宇宙事業だけでなく世界経済におけるリーダーシップの発揮においても米国との差を縮めたいのが本音であろう。なお、中国は2020年までに宇宙ステーションの建設を目指している。2010年末にドッキングの目標となる「天宮1号」を打ち上げ、2020年には宇宙ステーションの形態をほぼ整える計画だ。
 余談だが、人民の蓄財でも兔と亀は競争している。蓄財には株式投資か基金投資か。目下、中国人民は上げ下げが速い株式(兔)より堅実な基金(亀)のほうを贔屓にしているようだ。
 ウサギは食品安全でも槍玉に上がった。中国では定番のミルクキャンディーに有毒なメラミンが含まれていたことがわかり、中国のみならず輸出先国で回収騒ぎがあった。その定番ミルクキャンディーの名前が「大白兎」だった。2008年10月には、「メラミンは含まれていません。安心してください」と書かれたラベルが貼られてリニューアルされたが、一件落着となってほしいものだ。


<辰(龍)>
 
図版:辰(龍)
辰(龍)
龍は架空の動物だが、古来より中国を代表してきた。中国経済では引っ張りだこだ。例えば、ビル建設。上海の浦東新区に中国最高となる高さ(580m )のビルが建設される予定であるが、龍型外観の方案に確定したという。浦東にまた一つ名所が加わることになるが、不動産バブルが懸念される昨今、その象徴にならないことを願いたい。
 中国は2008年から官公庁の職責、機構、編成を明確に定める「三定規定」が発布・実施されるなど、行政管理体制改革が全面的に推進された。これにより「九龍治水」の弊害を改めるという。九とは数の多いこと、龍とはお役所、治水とはここでは業務のこと。各役所の業務分担を明確し行政効率化を図り「為人民服務」(毛沢東の『人民に奉仕せよ』)のお役所を目指しというわけだ。龍の縄張りがしっかり決められたといってよい。
 「龍象之争」、「龍象合作」、「龍象共舞」などもよく目にする。象とはインドを指す。経済成長著しい両国の経済・ビジネス活動を中心とした競合と協力はアジアはいうに及ばず世界の各所で展開中だ。犬猿の仲だった時代もあったが、「龍象共舞」のよきライバル関係の構築を望みたい。


<巳(蛇)> 
図版:巳(蛇)
巳(蛇)

 2004年、中国のPC大手の聯想がIBMのPC部門をM&Aした折、中国では「蛇呑象」(蛇が象を呑む)と形容されたが、2008年には、中国家電大手のハイアールが米国GEの家電業務(80億ドル)の競売に名乗りをあげると報道された(結果、断念した)。昨今、経営危機に陥っている米国三大自動車メーカーを中国企業は買えるかなどといった記事が紙面を飾っているが、実際、中国は、中国企業の海外進出を国家戦略として推進する構えにあり、中国企業による海外大手企業のM&Aが今後増えてくることが確実な情勢だ。いずれ、「龍呑象」といわれるようになろう。
 因みに、2007年の中国の対外直接投資(FDI、非金融類)は248.4億ドルだった。一般的に、FDIの30~40%がM&A方式によるとされるが、年々その比率は増加傾向にある。


<午(馬)>
図版:午(馬)
午(馬)
 株式市場では黒馬がよく登場する。ダークホースのことだ。予想外に値上がりする株などを指すが、牛から熊が優勢になりつつある中国の株式市場(2008年10月末時点、総合株価指数が一年間に最高値の3分の一までに下落)で、黒馬の出現を待ちわびる投資家は少なくない。
 今年1月、米国新大統領にオバマ氏が就任するが、オバマ氏の中国語標記は奥巴馬(O・BA・MA)である。馬は民族の生命力を代表する動物として中国人に大いに好まれている。黒人初の大統領には大きな期待がかかっているが、株式市場だけでなく、世界経済の行方に大きく影響しつつある中米経済関係においても、オバマ氏に黒馬となってほしいものだ。
 馬に関してもう一点。昨年初より、公営競馬が復活するとのニュースが全国を駆け巡った。まだ実現していないが、今年、武漢で開催される見込みが強いと西安晩報(2008年 11月 25日)が報じている。既に、武漢東方馬城では、全国最大の電光掲示板が完成間近で出走を映す準備は出来ているとのこと。最終的なGOサインは、財政部の許可が必要だが、中華人民共和国建国(解放)60周年となる節目の年でもある今年、60年ぶりに復活する催事もあるわけだ。2009年は馬の出番が増えそうである。

<未(羊)>
図版:未(羊)
未(羊)
 羊肉泡莫一筋の老舗「同盛祥」の羊肉泡莫が国家級無形文化遺産に登録されたという。羊肉泡莫はちぎったナンの上から春雨入りの羊肉スープを注ぐ西安名物のスナックで起源は紀元前11世紀にさかのぼるとされる。
 羊肉では、シャブシャブ(火鍋)が有名だ。昨年中国チェーンレストラン10強入りした蒙古火鍋「小尾羊」が、9月銀座にオープンした。中国企業の対日展開が増えつつあるが、日本の毎日大入り満員という。同盛祥」の羊肉泡莫には柳の木の下の2匹目の鰌を求めて対日展開してもらいたいものだ。



<申(猿)>
図版:申(猿)
申(猿)
 中国で猿といえば、西遊記の孫悟空であろう。その西遊記の白眉である「大閙天宮」が中国初の4Dの立体映像として映画化されるという。遼寧省瀋陽渾南新区国家アニメ・漫画基地などが制作中で2009年に公開予定という。現在、中国でアニメ産業の発展に期待をかけている都市は少なくない。2009年には中国のアニメ界のスターである孫悟空の出番は確実に増えてこよう。
 因みに、2008年末時点、中国には国家アニメ産業基地が18箇所、国家アニメ教学研究基地が8箇所設立されている。





<酉(鳥)>
 
図版:酉(鳥)
酉(鳥)
トリもいろいろ、中国経済にも多くの鳥が顔を出す。2008年の鳥といえば、なんといっても、北京五輪のメイン会場となった通称 鳥の巣(北京国家体育場)が思い浮かぶ。北京五輪以後は北京の新しい観光名所になっているようだ。昨年10月のブライダルシーズンには、北京の警察官208組が鳥の巣の外で集団結婚式をあげたという。中国ではブライダル産業が成長産業として期待されているが、鳥の巣は愛のキューピット役としてブライダル産業の発展にも一役買っているわけだ。
 同じくめでたいのが、国際的鳥類保護団から絶滅危惧種に指定されている「東方コウノトリ」27羽が福建省福州で確認されたことだ。少子化に向かう中国では、子供を運んでくるといわれるコウノトリの飛来はありがたいであろうが、さらに多くのコウノトリの飛来にはいっそうの環境保全が求められよう。
 歓迎されないのが、西遊記に出てくる火焔山のある新疆ウイグル自治区のトルファンで発生した鳥インフルエンザだ。昨年年初に家禽5000羽が死亡、3万羽が処分されたという。2003年には同じ感染症のSARSが中国を襲ったが、鳥インフルエンザには人に感染して欲しくはないのは世界共通の願いであろう。
 自然災害の多い中国に昨年7月上陸し甚大な被害が出した8号台風に命名されたのが「鳳凰」だった。鳳凰は架空の鳥だが、古来より皇后のシンボル(皇帝:龍)とされてきた。台風名になるとは時代も変わったと、草葉の陰で歴代の皇后は思ってはいまいか。


<戌(犬)>
図版:戌(犬)
戌(犬)
 狗不理集団(天津の肉まん老舗店、狗は中国語で犬のこと)が中国のビジネス拠点である北京、天津エリアで10店目となる直営店を昨年10月天津濱海新区に開業した。マクドナルド・ハンバーガー、ケンタッキー・フライドチキンにも匹敵する老舗だ。狗不理とは犬も食わないほどまずい味ほどの意味があるとされるが、奇をてらう店名がうけたのか、肉まんといえば狗不理といわれるほどの人気店となった。
 大都市では犬と散歩する人によく出会うようになった。中国は今ペットブームだ。近い将来、「三種の神器」(直近の三種の神器:マイホーム、マイカー、もう一つは海外旅行とも株券と言われるが流動的だ)の一角を担うかもしれない。犬との散歩は豊かさのシンボルでありファッションとなった。天津では狗不理で犬と肉まんを頬張る紳士淑女が出てくるかもしれない。


<亥(猪)>
 
図版:亥(猪)
亥(猪)
中国では猪でなく豚が干支のしんがりだ。2008年にはタトゥー入りの8頭の子豚が話題になった。内、2頭にはルイ・ヴィトンの「LV」デザインが施されているとのこと。
ベルギーの芸術家が北京近郊の農場に欧州産の輸入豚の飼育を依頼し、その子豚に施したタトゥーは今も成長を続けているとのことだが、昨年の上海の現代アート展にお目見えしたようだ。以前、豚にシャネル・マークのタトゥーを施した際、シャネル側と知財権訴訟に発展しそうに成ったこともあったが、シャネル側がこのタトゥー入り皮を買い取り、絶版の手袋を作り上げたという。「LV」入り子豚は紫外線によるお肌の変色を防ぐため日焼け止めクリームを塗るという気の遣いようとのことだが、皮を剥がれないか大いに気になるところだ。
 殺猪榜というのもある。「屠殺番付」という意味になろうか。近年、中国では富裕層が急増中で、毎年長者番付が発表されるが、長者とされた人があっという間に没落したり汚職、贈収賄などの犯罪に手を染め監獄入りとなる人が多いという。長者番付のことを中国語で「富豪榜」というが、豪邸から刑務所へといった流れも社会現象になっているということであろう。昨年11月には中国第一の富豪とされた国美の黄光裕主席が資本操作の疑いで公安当局の取調べを受けたと報じられている。
 昨年、5月に発生した四川(汶川)大地震で倒壊したビルの瓦礫の下で、木炭と雨水で36日間生き延びた豚がいた。この美談には尾ひれがついている。不況の波をかぶりつつある不動産業界はこの豚に見習いがんばれば救いは必ず来ると励ましているという。実際、将来性があるとされる養豚場の経営を始める不動産業者は少なくないという。タトゥーを施されたり、日焼け止めを塗られたり、賛美されたり、期待されたりと、2008年は、豚はたいそう忙しかったわけだ。



 干支の活動はまだまだ多彩で紹介しきれない。干支以外にも中国経済によく顔を出す生き物は極めて多い。例えば、狼、熊、象、猫、パンダ、鯨、ワニ、蚕、蝶、そして架空の鳳凰、鬼など多彩だ。それらはまた別の機会に紹介したい。



注1 株式用語のBull & Bearの訳
注2
衛生部は2008年末時点、三鹿ブランド粉ミルクおよびその他各メーカーが製造した問題の粉ミルクで被害のあった子供は累計で29万人あまりに達したと発表




    
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