北京NOW    
  第34号 2016.08.03発行 by 江原 規由
    伙伴関係(パートナーシップ)と一帯一路戦略の行方 <目次>へ戻る
 一帯一路戦略注1への関心が、にわかに高まってきている。その関心の多くは、一帯一路戦略の行方を悲観視している。果たしてそうであろうか。
 “世界的関心になりつつある”いう視点から見ると、一帯一路戦略は、1978年に鄧小平氏が提起し、世界経済の発展に大きく貢献してきた改革開放政策より、世界の関心形成の時間的スピードははるかに速いといえよう。中国を取り巻く環境は今と当時とでは大きく異なっているため単純には比較できないが、それでも速いといえる。なぜか。いくつもの要因が考えられるが、特に、首脳外交による、①一帯一路戦略に対する積極的なコンセンサスつくり、②伙伴関係(パートナーシップ、後述)の構築・再構築による一帯一路関係国との関係強化策が指摘できる。
 伙伴関係の構築・再構築については、あまり知られていないが、中国の特色ある外交戦略であり、一帯一路戦略の行方をみる極めて重要な視点を提供しているといえる。本稿では、伙伴関係の構築・再構築を軸に一帯一路戦略を考察する。
 なお、伙伴関係については、本誌21世紀中国総研21ccsMONTHLY WATCHING(中国の新たな外交戦略 -ピンポン外交~パンダ外交~伙伴外交- 第33号 2014.09.04)で紹介しているが、それから2年経っている。本稿では、その2年間の伙伴関係の変化の過程や今後の発展方向、さらに、伙伴関係が当時まだ世界の関心が薄かった一帯一路戦略とどうかかわってきたのか、といった点を紹介している。読者には、両レポートを比較しつつご一読いただければ何よりである。
最近、目立つ伙伴関係の構築・再構築
 筆者が整理したところによれば、伙伴関係は16種類ある(表1)。前回レポートより1つ増えている(2016年7月末時点、スイスとの創新戦略伙伴関係の構築が最新)。伙伴関係とは、中国とすでに一定の信頼関係を構築しており、重大な問題について、基本的には意見を異にしない関係を指す。もう少し具体的にいうと、お互いに対立せず、共通点を求めて相異点を保留(大同小異)し、特定の第3国を攻撃対象としない関係を指すとされる。総じて、現在の両国関係を評価し、今後のあるべき両国関係を謳ったものといえる。その最大の特徴は、条約や協定でなく元首の共同声明をもって構築されるという点である。そのうち、一帯一路関係国との共同声明(伙伴関係の構築・再構築)では、一帯一路戦略に関わる文面が多くを占めるのが常である。その中で、特に注目すべきは、インフラ整備や投資交流など経済交流の強化・発展に関わる内容が少なくない点と、共同発展、ウインウイン、ひいては運命共同体の建設といった、“共に”の姿勢が強調されている点である。この点は、TPP、RCEPなどメガを意識しているともとれよう。

表1 中国が構築している伙伴関係一覧表
伙伴関係の種類
(以下の11種類はランク付けではない)
国・地区など
戦略伙伴関係 ASEAN、アラブ首長国連邦、アンゴラ、タジキスタン、トルクメニスタン、ナイジェリア、カナダ、チリ、ウクライナ、アフリカ連合(AU:54ヵ国、世界最大の地域機関)、モンゴル、キルギスタン、カタール、チェコ、モロッコ、
全面戦略伙伴関係 EU、英国、イタリア、フランス、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、デンマーク、ベラルーシ、ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、ベネズエラ、カザフスタン、インドネシア、マレーシア、南アフリカ、アルジェリア、オーストラリア、ニュージーランド、ペルー、エジプト、サウジアラビア、イラン、ラオス、モザンビーク、セルビア、ポーランド、ウズベキスタン、コンゴ、
戦略合作伙伴関係 アフガニスタン、韓国、インド、スリランカ、トルコ、バングラデシュ(更加緊密的戦略合作伙伴関係)
全面戦略合作伙伴関係 タイ、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー
全面戦略協作伙伴関係 ロシア
全天候戦略合作伙伴関係 パキスタン
全方位戦略伙伴関係 ドイツ
互恵戦略伙伴関係 アイルランド
創新戦略伙伴関係 スイス
合作伙伴関係 フィージー(重要合作)アルバニア(伝統合作)、トリニダードトバコ、アンティグア・バーブーダ
友好合作伙伴関係 ハンガリー、モルディブ、セネガル
全面合作伙伴関係 コンゴ共和国、ネパール、クロアチア、タンザニア、オランダ、東ティモール、エチオピア、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC:33ヵ国)
全面友好合作伙伴関係 ルーマニア
全方位友好合作伙伴関係 ベルギー
友好伙伴関係 ジャマイカ
伙伴関係 日中韓
出所:筆者が各種資料から作成
 最近の伙伴関係の構築・再構築をみると、総じて、2015年は、伙伴関係の深化、強化、発展などが中心で、伙伴関係の新規構築・再構築は多くはなかった。これに対し、2016年に入ると、その構築・再構築が相次ぐ(表1の赤字、表2参照)。
 注目すべきは、一帯一路沿線国との伙伴関係の構築・再構築が増えていることである。習主席は、1月、中東3国(サウジアラビア、イラン、エジプト)、3月(チェコ)、6月、中・東欧3国(セルビア、ポーランド、ウズベキスタン)注2と、相次いで一帯一路沿線国を訪問したが、その折、チェコと新たに戦略伙伴関係を構築、また、サウジアラビア、イラン、セルビア、ポーランド、ウズベキサタンを戦略伙伴関係から全面戦略伙伴関係へ再構築するとの共同声明を発表している(エジプト:2015年12月に全面戦略伙伴関係へ再構築)。
 一帯一路沿線国との伙伴関係の構築・再構築が増えていることは、中国の一帯一路戦略の強化策であると同時に、当該国の一帯一路戦略への期待・協力姿勢の現れと見られる。このことは、例えば、6月のセルビアとポーランド訪問時に発表された伙伴関係の再構築に関する共同声明に明らかである。両国での伙伴関係の構築に関わる共同声明で一帯一路戦略に言及されているところをみると、
セルビア: “セルビアは中国が提起した一帯一路戦略を高度に認識し積極的にこれに応じる。両国政府が署名した一帯一路了解備忘録を基に一帯一路戦略が重要なチャンスをもたらすことを十分把握し双方のそれぞれの発展戦略を連結させ実務協力を深化させ協同発展と繁栄を実現することとする。”
ポーランド: 双方は中国が提起した一帯一路戦略とポーランドが提起する“持続的発展計画”の「枠組み」のもと協力を共に推進する。双方は「中華人民共和国政府およびポーランド共和国政府が“一帯一路戦略の共同推進に関わる了解備忘録を基に一帯一路戦略と「持続可能な発展計画」の連結を強化させ協同して中ポ協力計画綱領を作成し相互協力を展開・深化させ平和持続可能発展と共同繁栄を実現する。”
 2016年に入ってから全面戦略伙伴関係へ再構築となったのは、セルビア、ポーランドに限らないが、この関係は、全面(包括的)の付かない戦略伙伴関係(協力が高次元で、その領域が広く、核心利益と将来の発展方向が一致している関係)に比べ、協力領域(政治、経済、軍事等に限らず、文化、環境保護、社会など)がより広い関係にあると総括される(中国共産党新聞網 2015年10月8日など)。
伙伴関係で一帯一路戦略を世界の公共財へ
 なお、16種類の伙伴関係は、戦略、全面、合作、全天候、全方位、友好、創新、互恵の8の言葉の組み合わせから成り立っている。それらの概意は表3のとおり。

表2 それぞれの伙伴関係の概意
伙伴関係
(枕詞)
概意
戦略 政治関係レベルが高く、中国にとって政治、安全等でカギとなる国家関係。
全面 政治、経済、文化、文化等を含むすべての国際協力の領域で一致している関係
互恵 互恵戦略伙伴関係にあるのはアイスランドのみ
合作 政策面で相互協調、相互支持にある関係。戦略の2語を伴わない場合(例:友好合作伙伴関係など)は主に経済協力に重点
全天候 んな時でも政治、経済、安全面等の各種国際的事務において密接な関係にあること。最高水準の友好関係にある国。パキスタンのみ全天候を有した伙伴関係(全天候戦略合作伙伴関係)
全方位 協力領域が多く範囲が広い。“全面”と比較すると、さらに包括的で協力領域が広い関係
友好 政治関係が良好であること
創新 この2語を有するのは、スイスとの伙伴関係のみ(創新戦略伙伴関係)
中国雑誌、中国各種報道、ウィキペディアなどから筆者が整理
 16種類の伙伴関係の中身は、共同声明で明らかにされるわけであるが、同じ分類(例えば、全面戦略伙伴関係となったセルビアとポーランド)でも内容は同じではない。中国は、伙伴関係という運用が極めてフレキシブルな関係を構築することで、当該国との関係強化を図ろうとしているとみられる。“同盟せず、友人の輪を拡げる”のが伙伴関係構築のあるべき姿と、中国は言って憚らない。伙伴関係の構築が、「特色ある中国外交」といえる所以である。
 現在、80余ヵ国・機関と伙伴関係が構築されている注3。ただ、機関(EU、AU<アフリカ連合>、ASEAN、 ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体<CELAC>など)との構築もあることから、こうした機関加盟国を加えると、日本と米国などごく一部の国を除く、ほぼ世界的規模で伙伴関係が構築されている注4
 なお、伙伴関係の構築、再構築は、中国首脳の外遊時にとどまらず、中国国内で、外国元首が訪中した折にも合意される。参考までに、2016年に入ってから構築・再構築(外国要人の訪中時)された伙伴関係は以下のとおりである。ここでも、一帯一路関係国との伙伴関係の構築、が目立つ。

表3 2016年に入ってからの「伙伴関係」の構築・再構築
年月日 伙伴関係の種類 (署名場所)
2015年12月24日 エジプト 全面戦略伙伴関係 北京
2016年1月19日 サウジアラビア 全面戦略伙伴関係 リヤド
        23日 イラン 全面戦略伙伴関係 テヘラン
3月29日 チェコ 戦略伙伴関係 プラハ
3月 8日    スイス 創新戦略伙伴関係 北京
    5月 3日 ラオス 全面戦略伙伴関係 北京
5月11日 モロッコ 戦略伙伴関係 北京
        18日 モザンビーク 全面戦略伙伴関係 北京
6月18日 セルビア 全面戦略伙伴関係 ベオグラード
        20日 ポーランド 全面戦略伙伴関係 ワルシャワ
        22日 ウズベキスタン 全面戦略伙伴関係 タシケント
出所:各種資料から筆者作成
 伙伴関係を構築している外国の要人が訪中し、習主席と会談すると、決まって伙伴関係の確認、今後の展望(深化、強化、発展、再構築など)につき、主に中国側から提案される。2016年上半期では、例えば、
3月22日 ドイツのガウク大統領訪中時、全方位戦略伙伴関係を強化することで合意
4月19日 ニュージーランドのジョン・キー首相訪中時、全面戦略伙伴関係をいっそう発展させることを望む(習主席)
5月 3日 ラオスのブンニャン・ウォーラチット国家主席訪中時、戦略的協力(全面戦 略伙伴关系)を拡大、深化する必要がある(習主席)
5月26日 インドのムカジー大統領訪中時、戦略合作伙伴関係を新たな高みへ押上げることで合意
6月25日 ロシアのプーチン大統領訪中時、全面戦略協作伙伴関係を深化させることに尽力することで合意など
 また、伙伴関係が構築されていない国の要人の訪中時、多くの場合、伙伴関係の構築が提案されてきている。“仮に”の話であるが、今後、日本の総理が訪中した時、伙伴関係の提案があれば、中国側が日中関係を改善させようとしている方向にあるということになる。
伙伴関係を構築し、その深化を図り、再構築してゆく。こうして中国は、「友人の輪」を拡大し、世界におけるプレゼンスの向上と発言力の強化を図ろうとしている。中国は、一帯一路戦略は「世界の公共財」であると強調する。世界における伙伴関係の拡大は、現存の世界のガバナンス、経済、貿易等分野における既存ルールの形成に影響がないとはいえないのではないだろうか。
伙伴関係の構築・再構築は一帯一路FTA構築への入り口
 中国による伙伴関係の構築・再構築は、近年際立って増えている点で、世界からの支持が広がっているとみられる。このことは、首脳の共同声明(協定の形式をとらず、国家の承認も必要としない、拘束力は伴わず信頼関係に基づく)をもって形成され、当事国の事情、都合をより反映できる融通性があることが、その大きな根拠となっているのではないか。一帯一路戦略の要点(注1)に“一帯一路FTAの構築”とあるように、今後の中国の対外発展戦略、その要に位置づけられるFTAの構築においても、伙伴関係には新たな吸引力となる可能性が秘められていよう。この点については後述するが、“一帯一路FTA”は、一帯一路戦略の最大の目的の一つといっても過言ではない。

 2015年5月、国務院は中国のFTA戦略のロードマップともいうべき、「対外貿易競争力の向上に向けた若干の意見」(以下、『意見』)を公布した。この中で、“一帯一路沿線国・地区とのFTA構築を積極化すること、および、周辺国・地区との関係を軸に一帯一路に輻射する世界的高水準のFTAネットワークを早急に形成させる”としている。さらに、2015年12月には、国務院が中国のFTA戦略のバイブルというべき「FTA戦略の実施を速めることに関する若干の意見」を公布し、その基本原則のところで、“FTAなど各種区域貿易協力に全面的に参与し、 周辺国・地区、「一帯一路」沿線国・地区、および国際産能合作(国際産業協力、対外投資を含む)重点国・地区と地域経済集団とのFTAを重点的に構築する”としている。一帯一路沿線国・地区は、宗教、民族、経済の発展段階の異なる国・地区によって構成されており、利害や価値観の相違が少なくなく、共同発展(ウインウイン)の道のりはそう簡単ではない。ただ、伙伴関係を軸とした一帯一路FTA構築ともなれば、拘束力の強いFTA(例えば、2015年9月、難産の末ようやく大筋合意に達したTPP)の構築などに比べ、“当事国の事情、都合をより反映できる融通性があること”は、時代の要請にかなっているところが少なくない。この点、伙伴関係の構築を入口として、その関係を発展させ、出口をFTAの構築とするということは十分考えられよう。
 「一帯一路」FTAの構築では、「伙伴関係」を軸にこれまでの水準や常識にこだわらない新たな発想に基づいたFTAの構築が希求されるのではないだろうか。

 最後に、図1についてふれておきたい。本稿で言及していないところもあるが、ここにある地域協力の「枠組み」は、中国の対外発展戦略の布陣であり、囲碁に例えれば、碁盤上の陣地である。その中心に一帯一路戦略があることがわかる。ここには、TPPはないが、これらを碁盤における中国の仮想相手と見たらどうであろうか。一帯一路戦略、とりわけ、一帯一路FTAの構築の「決め手」ともいえる伙伴関係の構築・再構築が、この「未完の対局」の行方にどう関わってゆくのか、大いに気になるところである。

出所:筆者作成

注1 一帯一路戦略の要点(筆者作成)
経緯: 習近平国家主席が2013年9月(一帯)と10月(一路)に、それぞれ、カザフスタンとインドネシアにおいて提起。
主旨 沿線国・地区のインフラ整備をテコにウインウインの『運命共同体』の建設
範囲 アジア太平洋地域、ユーラシア、欧州、アフリカの一部含む65国・地区
経済規模(2013年): GDP:約21兆ドル(世界全体の29%)、人口:44億人(同63%)
中国との貿易総額(2014年、以下同じ):1.12兆ドル(中国の貿易総額の約26%)
中国からの直接投資額:125億ドル(中国の対外直接投資の10%強)
中国の対外工事請負営業額:643億ドル(同営業額の45%強)
一帯一路戦略を提唱した中国側の事情
人民元の国際化外貨準備の有効活用、
国内過剰設備の軽減、
国際産能合作を中心とした走出去(対外投資)の展開
その他 改革開放の対外発展版、
雁行型経済発展の継続版、
新型大国関係構築への布石
欧州への隘路なき通商交易路の確保(欧州との経済交流時間の縮小)
AIIBなど国際金融機関の設立・活用
新経済圏の形成・一帯一路FTAの構築  など                                                  
注2 習主席は、上記チェコ訪問後、ワシントンで開催された第4回核安全保障サミットに、また、ウズベキスタンでは同国の首都タシケントで結成15周年を迎えた上海協力機構(SCO)首脳会議に出席している。
注3 伙伴関係の構築図は正式に発表されているわけではない。各種資料から整理したのが表2である。80余ヵ国としたのは、星島環球網(2016年4月30日)からとった。
注4 日中間では、1998年、江沢民国家主席(当時)が訪日した折、“致力于和平与展的友好合作伙伴关系”(平和および発展の友好協力伙伴関係の構築に努める“との共同声明が出されている。1998年の共同声明で使われてた『致力』には『努力をしているが、まだ達成されていない』との含意がある。その後、両国関係は政冷経熱から戦略互恵関係に入ったものの「伙伴」をもつ関係に至っていない。

    
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