北京NOW    
  第35号 2017.03.06発行 by 江原 規由
    伙伴関係を軸とする一帯一路FTAの機は熟した <目次>へ戻る
本稿は、本誌前号「伙伴関係(パートナーシップ)と一帯一路戦略の行方」(北京NOW 第34号2016.08.03発行)の続編であり、そちらを参考にしつつご一読いただければ何よりである。 
 トランプ米大統領が、選挙公約通り、環太平洋連携協定(TPP)からの正式離脱 に関する大統領令に署名したことで、アジア太平洋地域(以後、ア太地域)におけるメガFTAは、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の構築からアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築へ至るルートが注目されている。
 米大統領選の結果が判明した直後の11月20日、ペルーのリマで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席した習近平国家主席(以下、習主席)は、重要講話で「我々は揺るぎなく経済のグローバル化を先導し、あらゆる形態の保護主義に反対し、FTAAPを早期に構築する必要がある」と明言した。FTAAPの早期実現のための北京ロードマップは、2014年11月に北京で開催されたAPEC首脳会談において習主席が提案したものである。そのFTAAPへのつなぎ役として、RCEPTPPか、あるいは、両者の融合かが期待されていたが、“TPPが終わる”となると、RCEPが残ったことになる。
 TPPRCEPはア太地域におけるメガ FTAの、いわば2枚看板であったが、TPPの先行きに不透明感が漂う中、RCEPの存在が急浮上したとみる向きが少なくない。RCEPの構築への関心が高まったということは、その中心的メンバー国である中国が、RCEPの構築でどうリーダーシップを発揮するのかといった関心の高まりと同一線上にあるといっても過言ではない。
ポストTPPは一帯一路FTA
 果して、中国はRCEPの構築を強力推進し、リーダーシップを握ろうとするのであろうか。その答えは、ある状況が出現しない限り、『否』であると考えられる。
 RCEPに対する中国の姿勢についてであるが、中国商務部(日本の経産省に相当)は、2016年12月2日の定例記者会見で、「RCEPは実質的な交渉の段階に入った。ASEANはRCEPの軸であり主導的存在だ。中国はRCEPの積極的な推進者として、ASEANの核心的地位を十分に尊重した上で、各国と力を合わせ協力し、一日も早い交渉の終了を目指す」(人民網2016年12月5日)と表明している。
 中国は、2015年12月31日にASEAN経済共同体を発足させたASEANをRCEPの軸(ASEAN ファースト)としているのである。中国は、RCEPの構築でリーダーシップを握ろうとする強力な第3国が出てこない限り、当面これに深入りせず、一帯一路戦略の推進で、関係各国からコンセンサスと支持をとりつけつつ、一帯一路FTA(下記参照)構築の道を探ることに尽力するものとみられる。TPPからの米国の離脱は、中国に一帯一路FTA構築への時間的余裕と機会を提供したといえる。
一帯一路FTAについて
2015年12月、中国国務院は中国のFTA戦略のバイブルというべき「FTA戦略の実施を速めることに関する若干の意見」(以下、『FTA意見』)を公布している。その中で、一帯一路FTAについて、次のとおり、明記している。
「一帯一路」と国家の対外戦略を密接に結びつけ~中略~周辺国・地区(関係国、以下同じ)に足場を築き、一帯一路に輻射する高水準のFTAネットワークを早急に形成させる(『FTA意見』の指導思想のところで言及)。
FTAなど各種区域貿易協力に全面的に参与し、周辺国・地区、一帯一路沿線国・地区~中略~地域経済集団とのFTAを重点的に構築する(基本原則のところで及)。
中長期:隣国・地区、一帯一路沿線国家および5大陸重要国家を含むグローバルなFTAネットワークを構築する(目標任務のところで言及)。
「一帯一路」FTAを積極推進する。周辺のFTA建設と連携させ~中略~積極的に一帯一路沿線国家とのFTAの構築を図り、一帯一路大市場を形成させ、一帯一路を「自由通行の道」、「ビジネス・交易の道」、「開放の道」とする。
 『FTA意見』によれば、中国のFTA戦略は一帯一路FTAを核心としていることになる注1。因みに、2016年12月現在、中国とFTA締結国との対外貿易は中国の対外貿易総額の38%を交渉 中の国家・組織とのFTA(昇級協議を含む)が締結されると同50%まで高まる。

表1 中国が締結・関係しているFTA関係国・地区・組織(2016年12月現在)
締結済
(15国・地区・組織)
ASEAN、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ペルー、コスタリカ、パキスタン、スイス、アイスランド、香港/マカオ(CEPA)、台湾(ECFA),韓国、オーストラリア、“ASEAN+1(ACFTA)”昇級版(グレード・アップ)
交渉中
(10国・組織)
日中韓、スリランカ、湾岸協力会議(GCC)、ノルウェー、RCEP、“パキスタン第二段階、モルディブ、ジョージア(旧グルジア)中国-ニュージーランドFTA昇級協議、中国‐チリFTA昇級協議
研究中(7国) インド、コロンビア、モルドバ、フィージー、ネパール、モーリシャス中国-ペルーFTA昇級協議
準備(筆者追加) EU、カナダ、BRICS、上海協力機構(SCO)、一帯一路(65ヵ国),16プラス1(16:中・東欧諸国 1:中国)等
各種資料から作成
 蛇足ながら、中国は、一帯一路戦略を世界の公共財とか、朋友圏(友人の輪)などと呼ぶことが少なくない。中国は、発展途上国と共有できるFTAの構築を希求しており、この点で、一帯一路FTAは、TPP、RCEPなどのメガFTAとは一線を画しているといえる注2
伙伴関係に基づく一帯一路FTAの構築
 一帯一路FTAの構築は、中国が世界的規模で構築している伙伴関係の行方にカギがあると考えられる。伙伴関係とは、中国とすでに一定の信頼関係を構築しており、重大な問題について、基本的には意見を異にしない関係を指すとされる。その 特徴は、①条約や協定でなく元首の共同声明をもって、2国間、多国間の協力・連携関係を構築・格上げする。首脳同士の信頼関係がベースとなっている。②経済連携の用件となる内容が少なくない。例えば、地域経済一体化、一帯一路戦略と関係国との発展戦略を連携させるなど。③伙伴関係の構築は、妥協と譲歩による交渉の成果として構築されるFTAとは一線を画している。入口を伙伴関係の構築、格上げとし、出口をFTAとすることも考えられる。
 なお、伙伴関係の一覧は公式には発表されていない。筆者がまとめたところでは、16種類(9文字<下記表赤字>の組み合わせ 詳細は本誌第34号参照)ある。中国との関係の進展などにより格上げされたり、新たに構築されたりする。
 日中伙伴関係については、1998年、江澤民国家主席(当時)訪日した折、“平和・発展友好協力伙伴関係の構築を目指そうと宣言されているが、今なお、“伙伴関係”の構築にいたっていない(大公報 2014年8月18日、第一財経日報 2014年11月24日など)。2008年訪日した胡錦濤国家主席と、福田総理(当時)との間で確認された日中「戦略的互恵関係」は、伙伴関係とされていない。
伙伴関係の構築・格上げを軸とする習外交路線の始動
 2017年1月、今年初の外遊先となったスイスで、習近平国家主席は、国際連合ジュネーブ事務局を訪問し、講演(テーマ:人類運命共同体を共に構築しよう)したが、その中で、こう言っている。“中国が、伙伴関係を構築するという決意は決して変わらない。中国は、独立自主外交政策を堅持し、平和5原則の基礎の上に、すべての国家と友好協力を発展させてゆく。中国は、何よりも伙伴関係の構築を国家間交流の指導原則と定める。現在、90余ヵ国・地区と伙伴関係を構築している。中国は、世界規模の『朋友圏』(友人の輪)の輪を拡げて行く。中国は全体的に安定、均衡発展の大国関係の『枠組み』を構築する。米国とは新型大国関係を、ロシアとは全面戦略協作伙伴関係を、欧州とは平和・成長・改革・文明(全面戦略)伙伴関係を、BRICSとは発展・団結・協力伙伴関係を積極的に構築する。中国は引き続き正しい義利観を堅持し、発展途上国との実務協力を深化させ、呼吸と運命を共にし、共に発展することを堅持する。中国は、親・誠・恵・容の理念に照らし、周辺国とウインウインの協力深化させ、アフリカ諸国の発展を共に謀り、中国とラテンアメリカの全面協力伙伴関係を推進し、新たな発展を実現する”。 
 習主席は、90余ヵ国・地区と伙伴関係を構築済としているが、国際組織(EU、AU<アフリカ連合>、ASEAN、 ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体<CELAC>など)との構築もあることから、こうした国際組織の加盟国を1国としてカウントすれば、中国は、日本、米国などごく一部の国を除く、ほぼ世界全域で伙伴関係を構築している。また、習主席は、伙伴関係の構築を通じ、世界と“新たな発展を実現する”としているが、新たな発展とは、新たな国際経済秩序の構築、習主席がよく口にする発展途上国の参加する新たなグローバルガバナンスの構築を念頭に置いていると考えられる。
 なお、筆者は、米国との伙伴関係は構築されていないとしたが、国際連合ジュネーブ事務局における講演で、真っ先に、既に伙伴関係にあるロシア、欧州(EU)、アフリカ(AU)、ラテンアメリカと同列で新型大国関係としていることから、中国は、同大国関係を特別な伙伴関係と見られる。
 習主席の外遊時や外国首脳の訪中時の首脳会談では、一帯一路戦略と伙伴関係の構築・格上げに関わる案件が主要テーマとなってきているが、伙伴関係について、複数の国との伙伴関係に言及し、その意義を表明したことは、筆者の知るかぎり、国際連合ジュネーブ事務局訪問時の講演がはじめてであった。習主席は、国際連合ジュネーブ事務局訪問時の講演で、“中国は、何よりも伙伴関係の構築を国家間交流の指導原則と定める”と明言している。このことは、今後、一帯一路FTA構築や新たな国際経済秩序の構築、さらに、新たなグローバルガバナンスの構築に向け、伙伴関係の構築・格上げを軸とする習外交路線が本格始動しつつあることを意味しているといえよう。
なぜ、中国は一帯一路国際協力トップフォーラムを開催するのか
 2017年1月にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラム2017年度年次総会(ダボス会議)に、国家主席就任以来初めて出席した習国家主席は、その開幕式で、今年(2017年)5月に北京で、一帯一路国際協力トップ・フォーラム主催すると発表した。
 同フォーラムでは、協力の①大計を協議し、②プラットフォームを構築し、③成果を共有し、現在世界と地域の経済が直面する問題の解決策を探り、各国の発展を実現のため、新たなエネルギーを注入し、一帯一路戦略で各国の人々がより良い幸福を得られるようにしたい、とした。
 この習主席のスピーチの背後には、一帯一路戦略を、このところ中国が執拗に強調するようになったグローバルガバナンスの改革への『矛』とし、さらに、最近の反グローバリズム、保護主義の風潮に対する『盾』としようとしている姿勢が読み取れよう。5月のフォーラムは、そこで習主席がどんな提案をし、参加国がこれにどう対応するか、一帯一路戦略の行方、一帯一路FTAの構築の可能性を見る試金石になるのではないだろうか。
 
注1 中国は関係している一帯一路沿線の主要な『協力の枠組み』は、以下のとおり。カバーエリアでは、一帯一路がそのすべてを包括していることがわかる。これに、表1の「中国が締結・関係しているFTA関係国・地区・組織」を重ねると、中国が描く、FTA戦略の全体像が見えてくる。
 
 
注2 伙伴関係とは、パートナーシップのことである。この点、メガFTA とされるTPP、RCEP、TTIPの最後のP(Partnership〈パートナーシップ〉、経済連携協定)と同じである。
一帯一路FTAというより、一帯一路伙伴関係といった方が的を得ているともいえる。蛇足ながら、一帯一路は、英文では、The One Belt & One RoadとかNew Silk Road とされるケースが多いことから、Belt と Road、あるいは、New Silk Roadの頭文字に、PartnershipのPを付け、TPP、RCEP、TTIPのように、一帯一路FTAのことを『BRP』とか『NSRP』とするのも一考かと考える。

    
<目次>へ戻る