第05号 2004.11.4発行 by 矢吹 晋
    「中国豊かさへの挑戦」をどう読むか
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  NHKスぺシャル「63億人の地図、中国豊かさへの挑戦」(2004年10月24日放映)というタイトルが気になったので、ビデオだけをセットしておいた。しかし、その後忘れていたところ、学生から中国の地域格差はひどいですね、と問いかけられた。私が「いつも話している通りでしょう」と応じたところ、学生は納得してくれない。私から聞かされた話よりも、実情はもっとひどいという。さて、どんな番組なのか、気になったところへ、新聞への投書が載った。

 「はがき通信(04.11.01掲載)にいう。中国国内の貧富の差は、想像を超えるものだった。先進国の大都会をもしのぐ一部の都会と、穴居時代さながらの農村。民衆の不満が限界に達した時に革命を起こした歴史をもつ国だ。農民が7割を占めるだけに、速やかに貧富の調整が行われることを期待する(名古屋市・潮田茂・81歳)」。
 「穴居時代さながらの農村」という書き方を見て、なるほどこれは窑洞(ヤオトン)の話だと見当がついた。窑洞(ヤオトン)を見て、弥生式住居や縄文式住居を想起するのは、ほとんど日本人のビョーキである。実は、夏涼しく、冬は温かく、30年しかもたない手抜きの鉄筋コンクリート建てよりは、はるかに優れた住居であり、数千年にわたる歴史の試練を経た住まいなのだ。といった西北黄土地帯の住宅事情を理解せずに、画像を見ただけで、弥生時代のイメージを刷り込まれるのは、日本人のどうしようもないビョーキである。

 とはいえ、「民衆の不満が限界に達した時に革命を起こした歴史をもつ国だ」「農民が7割を占めるだけに、速やかに貧富の調整が行われることを期待する」となると、やはり気になる。中国について、「民衆の不満が限界に達した時に革命を起こした歴史をもつ国だ」と認識するのは、おそらく間違っていないが、現状についてもしかすると、「民衆の不満が限界に達した」と認識しているとしたら、大問題である。さらに「速やかに貧富の調整が行われることを期待する」てなどと老人に期待させる番組とはなにか。いよいよ気になるので、休日を待ってビデオを眺めた。

 番組は上海黄浦公園まで出向いた上田早苗アナと、NHK上海支局関則夫記者との掛け合いで、話が進む(二人を責めるつもりはない。脚本を書いたディレクターの観察眼の問題である)。まずは上海の貴族学校「金林檎バイリンガル学校」で入学金50万円を親に支払わせたちびっこは教室で英語の特訓中であり、頭のいい子供が行くのがハーバード大学だから、私はそれを目指すときっぱり言う(私は前日にエズラ・ウォーゲルハーバード大学アジアセンター研究教授と会って、ケ小平論を3時間語り合ったばかり。こういう中国の子供たちの話を聞いたら、彼はどんな顔をするか、おかしくてならなかった)。

 さて番組は中国のGDPが世界7位であることを指摘したあと、「一人当たりGDP地図」を示す。これはおそらく全国2000強の「県レベル所得マップ」であろう。一人当たり所得が最高の深圳と最低の甘粛省礼県とでは、171倍格差だと説明する。まずは浦東地区富人区のニューリッチの生活を映し、10億円を超える家、ゴルフ場ありと説明する。テレビを見た者は驚くかもしれないが、なぜか見たことのある風景だと思ったら、トムソン(湯臣)ガーデンの一角であり、わが中国の友人は(研究者の分際で生意気にも?)そこのマンションに住んでいる。昨年、部屋を見せてもらったから間違いない。ただし、友人L夫妻と子供の住む4LDKは「戸建て」ではなく、4000〜5000千万円のマンションであった。東京ならばおそらく億ションの末端である。われわれはゴルフ場のなかのレストランでお茶を呑み、中国的中産階級の(上層)を垣間見た。
 番組では5億円や10億円の戸建てを映すのみで、その周囲にある数千万円程度のもの映さないのは、やはり貧しい農村との格差を強調するためと思われるが、いささかミスリーディッグだ。1000万円から10億円まで、価格帯は連続している。連続面を指摘しておかないと、「富人区」(俗称)のみが突出してしまう。

 次のトピックは上海の建設現場を支える出稼ぎ労働者の「民工」大軍である。上海市区のの人口1000万弱の3割に当たるほどの出稼ぎ部隊というから、概算300万と見たのであろう。これは文字通り「流動人口」であるから正確な数はつかみにくい。近年は「暫定居住証明」を発行するようになったが、登録にもカネがかかるから、未登録部分は推計するほかない。テレビが映した民工家族は、夫が建設労働者、妻は縫製工場で製品のアイロン掛けが仕事で、月収は夫婦合わせて1.8万円だが、これは出稼ぎ前の農村における年収と同じ額である。出稼ぎ労働はつらいが、農村にとどまったとしたら、1年かけてようやく得る賃金を1カ月で手にできるから、やはりやめられない。一人息子は「民工学校」に通う。上海市の公立学校は民工を差別して入学させない。民工たちはやむなく、民弁学校という私立学校をつくり、子弟を学ばせるが、もとより授業料だけで経営する学校だから、パソコンは1台のみ、体育用具はマット1枚である。民工学校については、すでにいくつかのドキュメントがあり、今回の番組はそれをなぞった程度だ。上海市閔行区に住む出稼ぎ夫婦の息子は小学6年を終えたが、民弁中学はなく、また公立中学には入れてもらえないので、田舎に帰り、郷里の中学に進学するほかない。

都会の美女に目を見張る民工
http://photo.163.com/openpic.php?user=onionlau&pid=5460899&_dir=%2F608919

 中国における農民差別、あるいは都市市民優遇は、このところ、「農村戸籍vs.都市戸籍」の差別政策として割合知られるようになってきたが、画面は「農民」の赤いゴム印を捺した戸籍謄本をクローズアップで映すので、差別の不合理さを印象づける。こうして、5億円の邸宅に住む経営者家族と民工家族を対比するのは、いわばお決まりのパターンだが、番組はさらに豊かな上海と対比する材料として、寧夏回族自治区の貧しい中庄村を描く。村の青年村長は教育問題に取り組むが、授業料を払えなくて退学する子供に対して打つ手なしだ。ある村娘は幸運にも大学に合格したが、授業料は8万円で、その家族の年収の7倍に当たる。なぜ大学か。大学を出ると都市戸籍が得られる。すなわち貧困村からの脱出の唯一の手段が大学進学だという。娘の父親は耕牛を売る決意をするが、2万円で売り、その他かきあつめても5万足りない。結局は村が保証して、足りない分は借金することにして、大学卒業後に本人が返済することになった。教育投資の原型を見る気分である。村長は教育に力を入れようとするが、それは出稼ぎのためにも、教育程度が問われるからだ。

 こうして所得格差に焦点を当てたこの番組は、都市内部の所得格差、都市と農村の格差を最も格差の大きい典型例に即して描いた。中国の所得格差の大きいことは事実であり、それを分析するのは意味のあることであろう。しかし、問題はその取り上げ方ではないか。

 中国社会科学院の社会学研究所のチームの階層分析によると、中国ではいま15〜16%の人々が中産階級の定義にあてはまるという。マイホームをもち、マイカーをもつ。この2条件で定義した相当にアバウトな定義である。現在のような経済成長が続くならば、この比率が2割を超えて、3割に迫るのも、10〜20年後には期待できよう。この推計は、現実に中産階級に分類できる者の話だが、自分を中産階級と思うかどうかという質問には、5割近くが「中産階級と思う」と答えている由だ。私はこの数字に驚いた。「いまは中産階級とはいえない」が、「いずれは確実に中産階級になれる」と信じている善良な中国人が人口の約半分を占めている事実のもつ意味はきわめて重い。

 私は2002年のNHK/BS正月番組で「中国・中産階級が国を変える」という番組を作るお手伝いをして、キャスター役を演じたことを想起する。あの番組と比較すると、今回の番組は似て非なるものである。番組では中国社会科学院経済研究所の所得格差問題の専門家李実教授を登場させて、「格差の拡大はいまや臨界点に達した。このまま放置すると社会不安が起こる」という趣旨を繰り返させている。冒頭の老人の投書は、「臨界点に達した」という誇張に触発されてのものと思われる。

 所得格差が臨界点に達したから、社会不安だ、暴動だ、打ち壊しだというような乱暴な議論をまともな経済学者がするとは思えないので、念のために、李実教授のプロフィールを調べてみたが、同教授は経済研究所の趙偉人所長などと共同で、実証的な研究を積み重ねてきた研究者である。1994年に「孫冶方経済学奨」を授与され、1996年には「中国社会科学院優秀科学研究成果奨」を授与されている。格差問題について、研究に裏付けられた発言はしているが、「臨界点に達した」と煽動するような人物とは思えない。この発言はおそらく、インタビュー者側による、ほとんど誘導尋問ではないかと私は疑う。老人は「速やかに貧富の調整が行われることを期待する」と書いたが、そのような「貧富の調整」が行われる可能性はまったくない。番組で上海市の女性経営者が喝破したように、「賃金格差が大きいからこそ」、出稼ぎ労働者を都市に引きつけ、その賃金を利用して、Made in Chinaが世界を席巻しているのだ。日本人の大好きな安易なセンチメンタルで中国経済を説くのは、百害あって一利なしである。格差は、毛沢東時代においても、国民党時代においても途方もなく大きかった。

 ずばり結論を急ごう。中国は国内に植民地を抱えており、それを搾取することによって沿海地域は高度成長を続けている。中国の格差問題とは、本質的に南北格差であり、「北の中国」が「南の中国」を激しく搾取することによって、資本の原始的蓄積を強行している。怠惰な中国共産党指導部が「社会主義市場経済」などと、強弁している実体は、まさにwild capitalism にほかならない。この文脈では、『女工哀史』の明治日本との対比が最も分かりやすい。

 最後に一言。国際的には「南北問題」だが、中国の南北問題は地理的「東西問題」として現象する。すなわち東部沿海地域による西部内陸地区の搾取である。これは戦後長らく「東西問題」によって隠蔽されてきた虚飾がはぎとられただけの話なのだ。第1次5カ年計画期の資本蓄積構造も大差はない。ケ小平の先富論を諸悪の根源とみるような解説は、実情を無視したものであり、分析の名に値しない。


教授简历

195610月〜山人,研究19789月至19827月在南京大学经济系学获经济学士学位;19829月至198412月在北京大学经济系学获经济士学位。19765月至19789月在江198412月至今在中国社会科学院经济研究所工作,任助理研究、副研究、研究、研究室主任、博士生导师;在此期19868月至198710月在荷伊拉斯姆思大学修;19908月至19916月在美国哥大学作访问学者;19942月至12月在英国牛津大学经济系作访问学者;20011月至12月在英国牛津大学经济系作客座研究20021月至9月被日本一大学聘教授。

主要兼职 状况:1コ国劳动研究所  研究2北京天研究所特邀研究,学3大学经济学重点研究室  研究1999得国颁发的政府特殊津

从事经济学和劳动经济学研究,主要学术专长经济分析和经验研究。

 术专
《中国居民收入分配的实证分析》(著,合著)中国社会科学文献出版社2000年;
《中国居民收入分配再研究》(著,合作)中国财经出版社1999年;

 术论
 青海省公共政面的挑
  Expenditures on Education and Health Care and Poverty in Rural China.

 中国个人收入差距的最新
(:此篇文是.pdf格式)
 中国个人收入差距变动的新趋势与相政策
 中国城教育收益率的变动趋势
 九十年代末中国城市困的揄チ及其原因
 我国城市困的状及其原因
 中国个人收入分配研究回与展望
  How Does Firm Profitability Affect Wages in Urban China?

主要代表作:
《中国女的就与收入》(文)《中国社会科学》2001年第3期;
《中国村女劳动力的流》(文)《上海经济研究》2001年第3期;
《中国城居民财产分配的经验研究》(文,合作)《经济研究》2000年第4期;
《中国居民收入分配再研究》(文,合著)《经济研究》1999年第4期;
《中国劳动力流与收入分配》(文)《中国社会科学》1999年第4期;
《中国经济转程中的收入分配变动》(文,合著)《经济研究》1998年第4期;
《中国收入差距大及其原因》(文,合著)《经济研究》,1997年第9期;
《中国经济转型中的劳动力流模型》(文)《经济研究》,1997年第1期;
《八十年代末中国模和程度的估》(文,合作)《中国社会科学》1996年第6期;
《中国政分体制的激励和再分配效》(文,合著)《经济研究》1996年第5期;

1.China's Retreat from Equality: Income Distribution and Economic Transition ( edited with Carl Riskin and Zhao Renwei). M.E. Sharpe: New York, 2001;
2.'Introduction - The Retreat from Equality: Highlights of the Findings' (with Carl Riskin and Zhao Renwei), in China's Retreat from Equality: Income Distribution and Economic Transition (edited by Carl Riskin, Zhao Renwei and Li Shi). M.E. Sharpe: New York, 2001;
3.'A More Unequal China? Aspects of Inequality in the Distribution of Equivalent Income' (with B. Gustafsson), in China's Retreat from Equality: Income Distribution and Economic Transition (edited by Carl Riskin, Zhao Renwei and Li Shi). M.E. Sharpe: New York, 2001.;
4. 'A Spatial Analysis of Wages and Incomes in Urban China: Divergent Means, Convergent Inequality' (with J. Knight and Zhao Renwei), in China's Retreat from Equality: Income Distribution and Economic Transition (edited by Carl Riskin, Zhao Renwei and Li Shi). M.E. Sharpe: New York, 2001.;
5.'Economic Transformation and the Gender Earnings Gap in Urban China' (with B. Gustafsson), in China's Retreat from Equality: Income Distribution and Economic Transition (edited by Carl Riskin, Zhao Renwei and Li Shi). M.E. Sharpe: New York, 2001;
6.'Labor Migration and Income Distribution in Rural China', in China's Retreat from Equality: Income Distribution and Economic Transition (edited by Carl Riskin, Zhao Renwei and Li Shi). M.E. Sharpe: New York, 2001;
7.'Chinese Rural Poverty Inside and Outside the Poor Regions' (with Carl Riskin), in China's Retreat from Equality: Income Distribution and Economic Transition (edited by Carl Riskin, Zhao Renwei and Li Shi). M.E. Sharpe: New York, 2001;
8.' Rubles and Yuan: Wage Functions for Urban China and Russia at the End of the 80s' (with B. Gustafsson, L. Nivorozhkina and K. Katz), Economic Development and Cultural Change. October 2001.;
9.'The Anatomy of Rising Earnings Inequality in Urban China' ( with B. Gustafsson), Journal of Comparative Economics, 29, 2001; 10.'Economic Transformation in Urban China and the Gender Earnings Gap' (with B. Gustafsson), Journal of Population Economics, July, 2000;
11.'Changing Income Distribution in China', in China: Twenty years of economic reform, eds. by Garnaut, Ross and Ligang Song. Development Issues, no.14. Canberra: Asia Pacific Press, 1999;
12.' Effects of Labor Out-migration on Income Growth and Inequality in Rural China ', in Development and Society, June 1999;
13.'Fiscal Decentralization, Redistribution and Reform in China' (with J. Knight), Oxford Development Studies, Vol. 27, No. 1, 1999;
14.' Structure of Chinese Poverty 1988' (with B. Gustafsson ), in Development Economics. December, 1998;
15.' Changes in Poverty Reduction in China', Research Report prepared for UNU/WIDER Project : Well-being in Asian During the Transition, 1997;
16.'Inequality in China at the End of the 1980s: Locational Aspects and Household Characteristics' , (with Bjorn Gustafsson), in Asian Economic Journal, March 1998;
17.' Types of Income and Inequality in China at the end of the 1980s' (with B. Gustafsson), Review of Income and Wealth, June 1997; 18.' Cumulative Causation and Inequality among Villages in China' (with John Knight),Oxford Development Studies, Vol. 25, No. 2, 1997;
19.' Educational Attainment and Rural-Urban Divide in China' (with John Knight), Oxford Bulletin of Economics and Statistics, Feb. 1996;
20.' The Determinants of Educational Attainment in China ' (with John Knight), in The Distribution of Income in China, edited by Keith Griffin and Zhao Renwei,,The Mcmillan Press, London, 1993;
21.' Development of Family Industry in Wenzhou', in Market Forces in China, edited by Peter Nolan and Dong Fureng , London: Mcmillan, 1989;  




               
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