第12号 2005.7.4発行 by 矢吹 晋
    「反日」と中国ビジネス
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  ジェトロ (日本貿易振興会) は、六月初めに「日本企業の対中国ビジネス展開に関する緊急アンケート調査」(五月二七日締切り)の結果を発表した。会員企業を対象として、いわゆる「反日」デモの一カ月後に行った調査である。対象企業六三六社中、有効回答企業は四一四社、有効回答率は六五・一%であった。その結果を考えてみたい。
 反日デモにより中国での事業活動に現在「影響が出ている」とした企業は、アンケート回答企業(四一四社)の約一割(四〇社、九・七%)であったが、二〇〇五年度中に影響が出ることを「懸念している企業」は三六・五%(一五一社)であり、懸念を抱いている企業が三割強あることが分かった。他方、「現時点で影響はなく、今後も影響はない」と楽観している企業は五三・四%であり、過半数を超えた。この数字が重要であろう。「心配か」と問われると、「心配でない」と言い切ることはむずかしい。しかし、今年度中と時期を限定して、この予想期間内に、具体的に何か問題がありうるかを点検してみると、「今後も影響はない」と見る企業が過半数なのだ。これは会員企業がマスコミ報道だけではなく、現地での取引先や従業員の反応などを踏まえたうえで判断したものと見てよい。
 
中国の反日デモの日本企業の対中国ビジネス展開への影響

中国の反日デモの日本企業のビジネス展開への具体的な影響

 ところで、具体的な影響の内容については、現時点で「影響が出ている」と回答した企業のうち六割が「買い控え」による販売減を指摘している。反日デモの影響は、「買い控えによる販売減」(四一四社の一九・一%)、「日本製品のイメージダウン」(一六・四%)、「労使関係の悪化」(九・七%)、「工場の一時停止など生産活動への影響」(八・五%)、「人材確保の困難化」(八・〇%)などである。今回のデモのスローガンには、常任理事国入り反対や靖国参拝といった政治スローガンのほかに、「日貨ボイコット」という時代錯誤的なものが加わった。日本企業名や日本のブランド名を列挙して、「日貨ボイコット」を呼びかけるビラも撒かれた。中国のチェーンストア協会が日本製品の陳列拒否を指示した奇怪な文書も流れた。これらの事実に基づいて「販売減」や「イメージダウン」を危惧したのは当然であろう。
 他方、中国に生産拠点を構築している企業について見ると、「労使関係の悪化」(一五・一%)、「人材確保の困難化」(一二・二%)などを懸念している。また今後の投資については、「対中国投資案件の延期あるいは中止」は七・五%(三一社)に及び、さらに「中国の既存の生産拠点の縮小もしくは第三国への移管」も五・六%(二三社)と中国事業の縮小を視野に入れている企業も報告された。
 半年前、すなわち二〇〇四年一二月に実施したアンケートでも、中国における「今後三年程度の事業展開方針」を質問しているので、前回調査と今回調査の両方に回答した企業四一四社をベースにして比較してみよう。前回調査で「既存ビジネスの拡充、新規ビジネスを検討している」と回答した企業は八七%であったが、今回調査ではその比率が五五%となり、三二ポイント低下した。しかし「既存のビジネス規模を維持する」が一三・三%から三九・四%に二六ポイント上昇した。ここから「積極派」がいわば「現状維持派」に転換したことがわかる。「縮小・撤退派」は、「既存ビジネスの縮小・撤退を検討している」は〇・二%(一社)から四・一%(一七社)に微増にとどまる。
 さてこの調査結果を全体としてどう読むべきであろうか。今回の反日デモが中国ブームに冷水をかけたことは事実である。しかし、中国事業の規模拡大を図る企業が依然として半数を超えている点に着目したい。これが東アジア経済の潮流ではないのか。
 中国当局はすでにインターネット規制をも含めて断固たる措置に転じて、「経済発展のための秩序維持」に取り組む方針を鮮明に打ち出している。反日デモの衝撃を最小限にとどめようとする姿勢は明らかであろう。「抗日戦争勝利六〇周年」は、まだ半年を残しており、火種は消えたわけではないが、関係悪化を放置するのではなく、少なくとも悪化をこれ以上拡大してはならないとする判断は、両国政府によって共有されているように見える。
 アンケート結果とその後の事態を以上のように見てくると、日本企業の中国市場に対する基本的な見方は、反日デモを通じてそれほど大きく変わっているわけではないことが読み取れる。すなわち中国市場の将来性に対する確信はほとんど揺らいでいないようだ。このような見方の根拠を最もよく示すのは、国際協力銀行開発金融研究所が二〇〇四年一一月に行った「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告)」である。この調査から「中国の経済成長はいつまで続くか」を業種別に見ると、電機電子・化学・一般機械などは、北京五輪の開かれる「二〇〇八年までは続く」と見ており、自動車は上海万博の開かれる「二〇一〇年までは続く」と見ている。五五五社のうち一二五社は「二〇一〇年以降も続く」と見ている。これは反日デモが起こる数ヶ月前のものだが、「中国経済の可能性」に対する見方はそれほど揺らいでいないわけだ。むろん中国リスクがないというのではない。直面しているリスクとして、当時は電力不足やエネルギー、原材料価格の高騰をあげ、将来のリスクとして人民元切上げをあげた企業が多かった。しかし温家宝首相によるマクロ・コントロールの調整成果はしだいに現れ、過熱経済は安定化の局面に転じつつある。
 日貨ボイコット騒ぎに過度にナーバスになり、「日本色を消して日本製品を売る」話も聞くが姑息ではないか。一方で経営の現地化、土着化を進め、中国人幹部の才覚を活用し、同時に日本発のブランド力を育成してこそ、中国の消費者ユーザーから理解され、支持される日系企業イメージを構築できるのではないか。禍を福に転ずる知恵が求められている。[原載は『世界週報』2005年7月12日号、より詳しくは『中国ハンドブック2005』を参照されたい]




               
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