第33号 2007.5.9発行 by 矢吹 晋
    中国の高度成長はどこまで続くか
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 中国の高度成長はどこまで続くか。この問いに対して私は「2008年の北京オリンピックまでは問題なし」と、これまで答えてきた。このような答え方を始めたのは、むろん北京五輪の開催が正式決定される前後のことだが、当時はだいぶ先のイベントに見えていたオリンピックもいよいよ来年に迫った。北京オリンピックのあとには、2010年の上海万博があるが、単に2年先延ばししただけでは芸がない。そこでこの課題を改めて考えてみたい。
 「2008年の北京オリンピックまでは」と当時から答えてきたのは、その後直ちに問題が生ずると予想していたのではない。「少なくともそこまでは高度成長の軌道は変わらない」という意味であり、そこまでもちこたえることができるならば、「その過程で形成された新たな条件」が次の成長を牽引するであろうことを、当然想定していた。しかし、先のことを語ると、あまりにも「希望的観測」と誤解されかねないので、未来を語ることを避けて、「少なくとも北京五輪までは」と若干の留保を込めて語ってきたわけだ。
 ここで改めて、これからの中国経済を語るに際して、やはり最も根拠とすべきは、これまでの実績であろう。未来の姿の片鱗は過去の姿に見出すほかはない。『中国統計年鑑2006』(59ページ)に基づいて、中国の成長率をGross National Incomeでとらえてみよう。これを中国語では「国民総収入」と訳している。英文のコンセプトは正確に訳せば「国民粗所得」であろう。Gross National IncomeとNet National Incomeの差はさしあたりさておいて、これを「国民所得」とみて、グラフを描くと、第1図になる。
 二つの大きなピークがあり、80年代半ばには年率16%台に迫り、90年代前半のピークは14%を超えた。天安門事件前後のボトムは4%に落ちた。成熟した先進国経済から見ると、4%台でも立派なものだが、中国では改革開放期の約30年間の最低レベルがこの数であることが、このグラフから読み取れよう。このグラフで目立つのは、21世紀に入ってからの安定的成長とともに、80~90年代の中国経済が大きな山と谷を繰り返しつつ成長してきた姿である。
 第1図 中国国民所得の成長率(1978~2005)
グラフ:中国国民所得の成長率(1978~2005) 
 このグラフを少し修正してみよう。山あれば谷あり。大きな山あれば深い谷あり。これが現実の姿であるが、山を削り、谷を埋めて、山と谷を均すことによって、平均的な高さのレベルを知ることができる。それには5カ年移動平均を用いるのがよい。3カ年移動平均もよいが、これではあまりなだらかにならないので、当該年前後の5カ年(前2年と後2年)を平均したものを、その年の数字と見て、グラフを描くと第2図のようになる。
 第2図 5カ年移動平均でみた中国経済の成長率変動(1980~2003)
グラフ:5カ年移動平均でみた中国経済の成長率変動(1980~2003) 
 このグラフから読み取れるのは、80年代半ばと90年代前半の二つのなだらかな山だが、そのピークは両者ともに、約12%である。他方、グラフから読み取れる三つのボトムも8~8.5%の水準である。こうして中国経済の平均的体力は8~12%の成長力をもつ、発育盛の経済であることが明確にとらえられる。中国市場経済にも明らかな循環がある。これが確認すべき第1点であり、第2点は循環の過程でボトムが8%であり、ピークは12%である事実だ。
 このようにナマのデータを少し加工しただけで、中国経済の体力が一目瞭然となる。この加工過程で1980年の前2年、2003年の後2年の数字が消える。これを補うためには、それぞれの前の数字、後の数字を補えばよい。
 さてこの第2図を眺めていると、中国経済全体の発育盛りの体質とともに、 現在の景気の局面が1999~2000年のボトムからの回復過程にあることも一目瞭然だ。経験的にえられるピークは12%前後であり、ここから推論すると、北京五輪以後の「反動不況」は予想できず、上海万博あたりまでは上げ潮であろうとする予測が成り立つ。
 この問題を考えるために、各5カ年単位ごとの平均成長率を計算すると、第3図のようになる。

 第3図 中国経済の平均成長率
(2001-05、1996-2005、1991-2005、1986-2005、1981-2005)
グラフ:中国経済の平均成長率(2001-05、1996-2005、1991-2005、1986-2005、1981-2005) 
 直近の5年(2001~2005)間の平均成長率(単純平均)を見ると、9.9%であり、直近10年(1996~2005)のそれは、9.3%である。ここから今後の年平均成長率は9.3%から9.9%の間にあると見るのが消極論者の見方である。現在の局面が第3のピークを目指した、大きな上昇局面にあると見る立場からすれば、むしろ過去15年(1991-2005)の年平均成長率10.2%という実績に目を向けるであろう。これが積極論者の見方である。
 以上の考察から分かるように、第2図の5カ年移動平均成長率のグラフは、さまざまのことを教えてくれる。

               
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