第36号 2007.9.1発行 by 矢吹 晋
    中共新トップ7の人事内定、ポスト胡錦濤は李克強か
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 中共中央人事を決める17回党大会が10月15日開催
 香港『明報』(8月16日)が伝えた旧聞だが、中共中央政治局常務委員会と中央書記処書記たちからなる会議は、8月7日に終わった。胡錦濤以下の主な幹部たちは、8月1日中共建軍80周年慶祝活動を北京で終えたあと、ただちに避暑地北戴河に向かい、いわゆる「碰頭(ポントウ)会議」を行ったという。「碰頭会議」とは、党規約等に規定された正式の会議ではなく、正式会議のための「根回し会議」である。人事案件など利害が対立し、意見の割れる可能性の高い議題については、事前に根回しで調整工作を行ってから正式会議にかけるやり方は、日本などのやり方と酷似している。
 今回は、新規すなわち17期中央委員会・中央候補委員のメンバー表、および17期政治局常務委員・政治局委員の候補者リストを検討したものと推測される。これらのリスト作成事務は、中央書記処書記たちの仕事であり、そこで作られた「人事案」について、八名の政治局常務委員(現行常務委員は9名だが、黄菊が病死したので、現在の定員は8名)が了承するための会議が、今回の「碰頭会議」であったと推測してよい(日本風にいえば、いわば持ち回り閣議で重要事項を内定する、といった形だ。もっとも、日本の安倍内閣改造は単独決定の由なので、より独裁的だが)。
 10月28日新華社は、秋の党大会は10月15日開会と正式に報道した。この大会にかける各種議案の準備のための16期最後の、すなわち7中全会の10月9開催も正式に報道された。
 過去5回の党大会のうち、事前の準備が比較的順調だったのは、12回と15回であり、これは9月に開かれている。13回は胡耀邦の失脚がカゲを落としていた。14回は天安門事件の後遺症がまだ残っていた。16回党大会が11月まで延びたのは、単に江沢民の名誉欲の結果である。メキシコAPECに合わせてブッシュ農場の訪問計画があり、それらの場に現職のまま出席したいというわがままのために、党大会を遅らせるという前代未聞の愚挙を行ったのだ。「前総書記・前国家主席」として自由な立場から米中首脳会談を行ったほうがより実りあるものとなるという決断ができなかったわけだ。それは江沢民の劣等感を絵に書いたような構図と読める。
 〔過去5回の党大会記録〕
歴次大会 開催時期 代表数 党員数 備考
12回党大会 1982.9.1~11 1545名 3965万 胡耀邦総書記
13回党大会 1987.10.25~11.1 1936名 4600万 趙紫陽総書記
14回党大会 1992.10.12~18 1989名 5100万 江沢民総書記
15回党大会 1997.9.12~18 2048名 5800万 江沢民総書記
16回党大会 2002.11.8~11.14 2120名 6636万 胡錦濤総書記・江沢民軍委主席
17回党大会 2007.10.15~10.22 2217名 胡錦濤総書記・李克強中央書記処書記
 私自身は、ちょうど1年前に胡錦濤が陳良宇上海市書記の処分を断行したとき、これによって江沢民以下の上海閥すなわち抵抗勢力の圧力は無視できるものとなり、胡錦濤のリーダーシップによる人事構想が行われるはずと見通しを語ってきたが、春から初夏にかけて、抵抗勢力の蠢動が目立っていた。
 たとえば江沢民長男・江綿恒(中国科学院副院長・党組書記)や江沢民のボディガード由喜貴(中共中央弁公庁警衛局長、上将)の留任説がしばしば流された。これらは江沢民残党の居残り作戦の象徴であったが、党大会の代表2217名が新華社8月2日電で発表されたとき、この2人の名は候補者リストになく、引退が確定した。当然の成行きと見るべきである。
 胡錦濤、温家宝、曽慶紅が留任し、王兆国、王剛、李克強、張徳江が新任
 さて、日程が発表されたからには、指導部人事(案)も基本的に固まったはずだ。
果たして、新華社日程報道に先立って、香港ケーブル・テレビ、多維新聞網、香港『明報』『リンゴ日報』などが8月25日に一斉にリーク報道を行った。第17回党大会で選出されるトップ7、即ち政治局常務委員会メンバー候補は、つぎのように内定したという。
写真:胡锦涛 写真;温家宝 写真:曾庆红
胡錦濤 温家宝 曽慶紅
 現行9人の政治局常務委員のうち、留任は、胡錦濤、温家宝、曽慶紅の3人だけ。常務委員の定数は9から7に削減され、上記3人のほかに王兆国、王剛、李克強、張徳江の4人が昇格する。
 写真:王兆国  王兆国(政治局委員、全人代副委員長)が全国人民政治協商会議主席(参院議長に相当)に昇格して、賈慶林と交代する。
王兆国 
 写真;王刚  王剛(政治局候補委員、中央弁公庁主任)は中央紀律検査委員会書記となり、呉官正と交代する。
王剛 
 写真:李克强  李克強(遼寧省書記)は、中央委員から2階級特進して、政治局常務委員となり、中央書記処を率いる。
 李克強
 写真:张德江  張徳江(政治局委員、広東省書記)は、国務院常務副総理(筆頭副総理)として、温家宝を補佐する。
 張徳江
 引退するイデオロギー担当・李長春と中央政法委員会書記・羅幹の任務を誰が引き継ぐかは不明だが、おそらく前者は李克強、後者は王剛であろう。
 新規常務委員会の平均年齢は63.1歳となる。16期のそれは66.8歳であったため、5歳若返りである。
 李克強はポスト胡錦濤の最有力候補
 この報道で特に注目されるのは、李克強の2階級特進であろう。1955年生まれの李克強は、1942年生まれの胡錦濤よりも13歳若い。それは、秋の党大会が磐石な胡錦濤体制の構築と将来の「ポスト胡錦濤」体制への準備という意味合いを持っていることから、今回の人事が胡錦濤の強いイニシャチブの下に行われることを象徴的に物語る。
 李克強は共青団第1書記を務めた時以来、胡錦濤の後継者として胡錦濤自身によって養成された人材とみられてきたが、その後河南省書記を経て、現在は遼寧省書記を務めている。今回、中央書記処書記担当として政治局常務委員会入りすることになれば、5年後の第18回党大会でポスト胡錦濤の最有力候補となる。
 2012年に第18回党大会が開かれる時には、57歳になる李克強と66歳になる張徳江を除けば、70歳を超える他の常務委員はすべて引退するはずだ。今回、政治局常務委入りする4人の新人のうち、王兆国と李克強はともに共青団育ちであり、胡錦濤にとっては、最も頼りになる盟友となろう。
写真:李克强
李克強
 他方、王剛と張徳江は、元来江沢民系とみられてきたが、曽慶紅が胡錦濤体制を支えるにふさわしい人物として抜擢したものであろう。こうして、新たな7人からなる指導部は、胡錦濤のリーダーシップを曽慶紅と温家宝とが支える形になる構図がくっきりと見えてきた。
 [補足]
 最後に重要な補足を付加しておく。今回の人事予測は8月25日香港発である。3日後の28日現在、日本のマスコミはどこも、この人事予測を無視している。安倍内閣改造に紙面をとられたのか。それとも、このニュースをガセネタと見たのか。結果が明らかになる日は近い。そのときに読者の採点を期待したい。

               
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