第38号 2007.11.5発行 by 矢吹 晋
    新中共中央常務委員会の権力バランス
――胡錦濤の腹心は李克強だけ――

<目次>へ戻る
 
写真:10月20日 記者会見(人民網より)
10月20日、記者会見における中共中央総書記胡錦涛(中央)と中央政治局常務委員呉邦国(その右)、
温家宝(その左)、賈慶林、李長春、習近平、李克強、賀国強、周永康。(人民網より)
 
 党大会が開かれ、指導部メンバーが決定された。任務分担は、次のごとくであろう。
 
1 胡錦濤・国家主席 写真:胡錦濤
10月15日,中国共産党第十七次全国代表大会で報告する胡錦涛(新華社)
2 呉邦国・全人代委員長 写真:呉邦国
3 温家宝・国務院総理 写真:温家宝
4 賈慶林・全国政協主席 写真:賈慶林
5 李長春・宣伝担当 写真:李長春
 ここまではいずれも留任者がこれまでの任務を引き継ぐ。
6 習近平・中央書記処書記 写真:習近平
7 李克強・国務院副総理 写真:李克強
8 賀国強・中央紀律検査委員会書記 写真:賀国強
9 周永康・政法委員会書記 写真:周永康
 以上4名が新人で、9名のうち上位5名が留任だ。
 5年前には、9名中8名が新人であった。この顔ぶれは安定感を与えるが、新味を感じさせない。新政権に、第1期の延長以上のものを期待できないのは残念だ。政治改革へ第1歩を踏み出すことが期待されていたのだが。
 曽慶紅が68歳定年で引退したことが目立つ。この年齢制限は、前回の李瑞環引退のケースが慣行として尊重されたものという。ただし、前回の李瑞環引退は、彼が全国政協主席を「2期10年」務めたためだ。問題は年齢以外には、人物の「身体検査」や「業績評価」がきわめて甘く、年齢が事実上唯一の基準に見えることだ。これが中国共産党の官僚化と退嬰化を象徴するのでなければ幸いだ。
 これまでは、曽慶紅が胡錦濤に協力して政権を支えてきたが、曽慶紅は静かに引退したわけではなく、代理人を残した。序列第6位の習近平だ。5年後の党大会で、彼は胡錦濤の後を襲って総書記・国家主席に昇格しよう。
 では胡錦濤が養成してきたプリンス李克強の役割はどうなるのか。「党務の習近平に対して、政務の李克強」であり、李克強には「習近平の補佐役」が与えられよう。
 54歳と習近平と52歳の李克強を「競い合わせる」といった解釈が行われているが、これはおかしい。すでに結論は出ている。習近平が中央書記処を率いる以上、李克強に残されたポストは国務院常務副総理しかない。「党務の習近平、政務の李克強」という役割分担が5年後に交代するとは、想定しにくい。
 胡錦濤は念願かなって李克強を常務委員会に送り込むことには成功したが、曽慶紅は、習近平を李克強より序列を上におくことに成功した。
 一方で長老たちの同意をとりつけ、他方で「党内世論」を盛り上げ、イメージ作りに成功した。自らの引退をテコとした曽慶紅のどんでん返しであり、胡錦濤は、土壇場で曽慶紅の狡智に敗れた感がある。
 曽慶紅が残したもう一人の代理人は、序列9位の周永康だが、元石油派の彼は近年公安部長を務めており、政法委員会書記担当として昇格することは、予想通りだ。
 江沢民の「代理人のその後」を見ると、2位呉邦国、4位賈慶林、5位李長春の3名は健在だ。このうち、呉邦国の評判はまずまずだが、賈慶林は福建省書記時代の夫人に大汚職事件は主犯が海外に逃亡し、いまだにあとを引いており、今回の中央委員選挙でも、賈慶林はかろうじて当選する始末であった。汚職にまみれた、評判の悪い指導者を更迭できないことは、胡錦濤のリーダーシップの限界を感じさせる。これでは腐敗退治のスローガンが宙に浮く。同じく李長春の評判もよくない。中央宣伝部担当として采配を奮ってきたが、その右往左往は、胡錦濤の親民政治、和諧社会作りには、貢献していない。そのうえ、李長春は河南省書記時代にエイズ問題を隠蔽して、今日のような悲劇をもたらした直接的責任者でもある。この留任は、胡錦濤人事の不徹底さを象徴する。
 もう一人の新入りの賀国強は、これまで中央組織部長を務めてきた。その任務を継承して今回は中央紀律検査委員会書記を担当する。彼は湖南省出身、同郷の朱鎔基前総理が彼を支えてきた。国務院総理のポストを温家宝に譲ったのも朱鎔基であり、温家宝と賀国強の庇護者は、朱鎔基とみてよい。
 こうして、曽慶紅人脈、江沢民人脈、朱鎔基人脈を除くと、胡錦濤の腹心は、李克強だけであることが分かる。これが常務委員会レベルでの権力の分配結果にほかならない。権力バランスにいかに腐心したかがよく分かる布陣である。常務委員会枠を9名から7名に削減する構想は、結局実現しなかった。(原載は『国際貿易』2007年10月30日号)
 
 最後に、一連の常務委員人事によって、その空白を埋めるための玉突き人事が目下進行中である。  10月末時点で、決定したのは以下のような人事である。
(1)賀国強の常務委員昇格(中央紀律検査委員会書記就任)に伴い、彼が務めていた中央組織部長には李源潮57歳が就いた。共青団出身で胡錦濤の腹心である。
(2)李源潮が務めていた江蘇省書記には梁保華(前江蘇省長)が昇格した。
(3)周永康の常務委員昇格(政法委員会書記就任)に伴い、国務院公安部長には孟建柱(前江西省書記)が就任した。孟建柱は政治局にポストをもたない。ちなみに前任の公安部長周永康は政治局委員であった。
(4) 孟建柱が務めていた江西省書記には、吉炳軒(前中央宣伝部副部長)が就任する見込みである。
(5)習近平の常務委員昇格にともない、彼が務めていた上海市書記には兪正声(前湖北省書記)が就任した。
(6)上海市長には袁純清(前陜西省長)が就いた。
(7)兪正声の上海市書記就任に伴い、彼が務めていた湖北省書記には、羅清泉(前湖北省長)が昇格した。
(8)李克強の常務委員昇格にともない、遼寧省書記には、張文岳(前遼寧省長)が昇格した。
以上のうち(2)江蘇省、(7)湖北省、(8)遼寧省は、いずれもナンバーツーの省長がナンバーワンの書記に昇格したケースである。
(4)は、党中央の副部長(ナンバーツー)が省レベル書記に昇格したケースである。


               
<目次>へ戻る