党大会において、中国共産党のトップ人事が決定されて1カ月、その内幕が少しずつ明らかになりつつある。
先の党大会における最大のサプライズ人事は、常務委員会の新任メンバーのうち、習近平の序列が6位、李克強が7位と、予想されていた順位が逆転したことであった。5年後の第18回党大会では、9名中7名がすべて年齢制限により引退し、習近平と李克強だけが留任し、それぞれ総書記と国務院総理に就任する計画はすでに確定している。
両者の順位逆転の背景説明として、「党内の予備選挙の結果による人気度を反映したもの」とする説明が行われてきたが、その具体的内容がいまひとつ曖昧模糊としていた。両者の序列を決定したいわゆる予備選挙とは、全国31からなる「1級行政区」党書記によって行われたものだという。中国大陸の地方行政は、4大直轄市(北京、上海、天津、重慶)、22省(河北省、河南省など最も一般的な行政区画)、一定比率以上の少数民族を含む5自治区(内蒙古、広西、西蔵、寧夏、新疆)、都合31地区からなる。各地区の党委員会書記を束ねているのが中共中央組織部であり、大会前は賀国強(現、常務委員)が部長を務め、大会後は李源潮(現、中央書記処書記)が部長に就任した。この「省級書記全国会議」における人気投票において、習近平の得票が李克強を上回ったことが序列逆転の理由とされている。
全国の省級書記を集めて現場の声を聞くやり方は、毛沢東が人民公社運動、大躍進運動をやったときに、しばしば用いた方法であり、この種の会議自体は、特に珍しいものではない。ただし、その結果を「そのまま追認した」と説明するのは、きわめて珍しい。
胡錦濤は「党内民主主義」を強調し、各人が一票をもつ「票決制度」により、多数決で決定するよう提案した。このような「委員会による集団指導的決定」制度を「制度化」することに力を入れ、今回、それを実行した結果が、習近平、李克強の序列に反映されたと説明されているわけだ。これはまさに胡錦濤の党内民主主義論を逆手にとられた形だと見るほかあるまい。
人事を決めるもう一つの基準である「68歳定年制度」については、説明を要しない。68歳定年制度を守るためには、任期5年を前提として、63歳前後を候補者選考の基準とする考え方も説明を要しないであろう。
こうして胡錦濤流の人事決定システムは、まず(1)定年制で候補者をしぼり、次いで(2)票決制により、多数決で決定するやり方だ。この種の制度化は、毛沢東や鄧小平が決定し、江沢民が模倣してきたやり方と比べて、いくらか民主的なことは明らかであり、評価できる面もないわけではないが、手放しで褒めるわけにもいかない事情がある。
ちなみに、「省級書記の声」を聞いて人気度を調べるやり方は、小泉首相が選ばれた当時の自民党総裁選挙を想起させる。小泉は、独特のパフォーマンスにより、自民党地方支部すなわち各県レベル選挙で「選挙に勝てる顔」の声を盛り上げ、両院議員総会の空気をみずからに有利な方向に導いたことは記憶に新しい。
さて、中国共産党の場合、省級書記会議の手順を決めて、具体的に執行したのは、中央書記処書記として党大会の準備を一手に引き受けた曽慶紅である。策士として知られる曽慶紅は、自らの引退というフリーハンドを巧みに使いながら、習近平人気を盛り上げることに成功した「その経緯」が問題なのだ。ここで上海市書記に就任してわずか半年の習近平が胡錦濤のプリンスとして10年来、下馬評の高かった李克強を一夜にして飛び越えてしまった、隠された真の理由が問われなければならない。
習近平人気を支える条件として、(1)父親習仲勲の功績と人柄、(2)習近平本人の人柄と能力、(3)夫人彭麗媛が解放軍所属の有名歌手であること、の3条件が挙げられることが多い。 |