第42号 2008.9.2発行 by 矢吹 晋
    さて北京五輪が突出させたもの
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 写真:五輪後、元の木阿弥となった北京の大気汚染
 五輪後、元の木阿弥となった北京の大気汚染
 北京オリンピックが終わって5日目の8月29日付北京《法制晚報》はこれまで操業を禁止されていた建設現場や製造工場における生産再開を伝えると共に、早くも大気汚染は元の木阿弥とするニュースを伝えた(【明報專訊】2008年8月30日「奧運後北京首現污染天 數千建築地盤開工 企業恢復生產」)。
 中國環境監測總站が発表したデータによると、北京の大気汚染指数は110であり、これは「軽度汚染」の段階である。ちなみに、天津市は87、河北省石家莊市は98であった。オリンピックを控えて北京市は7月20日からモーターバイクやマイカーのナンバー規制(単数・複数に応じて、日替わり乗り入れ制度)を行い、排気量を規制し,160工場に対しては移転や操業停止を命じるとともに、北京市周辺の5省市(天津、河北、山東、山西、內蒙古)に対しても、「高污染企業」に対する生産停止を命じてきた。このような必死の努力によって、大気汚染物の濃度は平均して前年度よりも4割方減少し、07年8月1~18日の大気汚染平均指数81に対して今年のそれは56まで低下し、さらに19日~24日、すなわち競技中のそれは、36~60まで引き下げることに成功していた。ところがこれらのオリンピック規制が解除されるとともに、大気汚染も本に戻りつつあるという。この文脈で、たとえば首都鉄鋼など曹妃甸地区への移転がどこまで進むのか、注視したい。諸侯経済体制のもとでは、曹妃甸はやはり「河北省のもの」であって、「北京市のもの」ではない。北京市としては自前の工場がどうしても手許におきたいのだ。それゆえ、移転には総論賛成だが、各論となると、大気汚染に直結しない部分は、やはり北京市に残しておきたいのがホンネであろう。最終的にどう落ち着くのか、注目を要する所以である。
 さて、これは一例だが、オリンピックが中国に残した功罪の一覧表を作るには、時期尚早であろう。これだけ大きなイベントであるから、その影響も多岐にわたり、予想外の因果関係、波及効果が現れることもあろう。一つ、一つ具体的に点検するのが望ましいことはいうまでもない。
 印象批評をすれば、北京五輪が突出させたもの、それはナショナリズムによる中国統一の大作戦である。それは世界一のメダル獲得という実績から見ると、ひとまず大成功に終わったといってよい。だが、同時にそれは、ナショナリズム宣揚による統一作戦の限界(あるいはその破綻)をくっきりと浮かび上がらせることになったのも、もう一つの真実であるといってよいのではないか。なによりもまず、チベット人やウィグル人は、中華民族に包摂されるかを拒否して、明確に独立を唱えた。現実政治の場では、実際に独立が可能か否かは、難しいが、少なくとも彼らが中華民族による包摂を拒否する意思表示をした事実は、歴史に刻まれた。開会式のパフォーマンスでは和諧の象徴とされた「民族服の子供たち」が実際の少数民族ではなく、過半が漢民族の子供たちであったというのは、小さな事実にすぎないが、象徴的な意味をもつとみてよい。つまり、開会式の舞台上では和諧社会が実現したが、現実にはそれが課題として残されていることをくっきりと浮かび上がらせたのだ。
 中国当局がかねて最も意を用いてきたのは台湾問題であった。ところがこれは陳水扁政権の自滅によって、大きな争点ではなくなった。加えてこれは所詮、漢民族同士の争いであり、長い眼で見ると、解決は時間の問題にすぎまい。しかし、言語も宗教も文化も漢民族とは異なるチベットやウィグルになると、話は別だ。中国当局は事実上「戒厳令下のオリンピック」に近い路線を選択し、少数民族に対しては中華民族への包摂強行路線で突っ走る方向を選んだ。これでは、真の和諧社会の建設は遠のき、中国は今後長きにわたって、批判にさらされよう。
 台湾がらみの話題を一つ指摘しておきたい。台湾を一時「中国台北」と呼ぶ表記が大陸メディアに現われ、台湾側の猛反発を受けた。最終的には台湾側が主張する「中華台北」に落ち着いた。過去10年、台湾海峡の危機は海峡両岸によって意図的に宣伝・煽動合戦が行われ、一時は日系外国メディア関係者、さらに台湾の記者までもが、「中国はオリンピックまでに武力を使ってでも台湾を吸収合併するだろう」と断言する一幕もあった。しかし馬英九が中国の招聘を受けて訪問し、胡錦濤と会談するなどの政治ショーのあと、ムードは一変してオリンピックを迎えた。顧みると、1989年に香港で行われた中台双方のオリンピック委員会関係者による話し合いでオリンピックにおける台湾の英語名「Chinese Taipei」を「中華台北」 にする取り決めにより、オリンピックに限らず、多くの世界舞台で 「中華台北」を公式参加名として扱ってきた。ところが国務院台湾事務弁公室のスポークスマンは、『中国台北』も『中華台北』 も、どちらも『Chinese Taipei』の中国語訳であるから、中台のオリンピック委員会間の協議は、協議にかかわっていないその他の団体、グループおよび人々が『中国台北』という訳文を使う権利を制限するものではない、とまで強弁した。
 この強弁はまったく通らない。Chinese Taipeiは国際オリンピック委員会が決めたものであるから、一見「原語は英語」であり、漢字表記は「英語のあと」に見える。しかし実はその表記をめぐって海峡両岸が中国語をまくしたてて激しく争い、その結果としてChinese Taipeiおよび中華台北に落ち着いたものだ。この経過からして、漢字表記は訳語の問題とするのは、強弁のそしりをまぬかれない。両者は英語の表記を争ったかきに見えて、実は双方ともに中国語で語り合っているのであり、ここでは建前と本音が交錯しているのだ。
 さらに、これらの表記に拘束されるのは、中台のオリンピック委員会間の協議にかかわるものだけというのは、もっとひどい強弁である。これは由来、「台湾独立問題にかかわる最も高度な政治問題」として争われていたのであり、その枠外にある組織は、少なくとも中華人民共和国においては存在しない。それゆえ、かりの大陸の一部の組織が民間の名において、別の呼称を使うとすれば、それは中国当局の示唆に基づく観測気球以外のものではありえない。これらの事情は天下周知の事実であり、その間の事情を最もよく知るものがこのような詭弁を弄するのは、まさに「愚にあらざれば、誣なり」、聞き手を愚弄する言い分なのだ。つまりはこの機会を悪用して「中国台北」を少しでも押し出してみたい下心丸出しなのだ。およそ大国の作風にふさわしくない。
 私はこのコラムの第14号(2005年09月02日号)において「ナショナリズム熱中症の中国バブル大学教授」と題して、台湾問題についての理性を欠いた論説を批判した。そのとき俎上に上げた閻学通教授が自己批判したので、以下にコピーしておく。これが真に過ちを認めた深い反省の上でのものなのか、それとも口先だけの反省なのか、見守りたい。
 
閻学通教授の写真
著名学者阎学通就预测08“台海战争”公开道歉
http://www.huanqiu.com 来源:环球时报 2008-06-11
  环球时报记者王文报道 6月11日,中国著名国际问题专家、清华大学国际问题研究所所长阎学通在《环球时报》发表文章,就2000年来“一直预测台海发生军事冲突不会晚于2008年”一事,公开向读者道歉阎学通早年毕业于美国名校加州柏克莱大学,回国后一直倡导国际研究的科学方法论和预测国际形势,其代表作《中国国家利益分析》等被公认为研究国际问题的必读书目。多年以来,阎学通的研究成果以其观点尖锐、逻辑清晰著称于中外学界,被一些国际舆论称为中国的“新保守主义者”或“新共产主义者”的代表人物,今年美国著名期刊《外交政策》列举的“全球100名公共知识分子”中,中国有5人入选,阎学通是其中之一。在11日《环球时报》国际论坛版题为“台海和平是谁维护的”一文中,阎学通讲到“2000年陈水扁上台后,我一直预测台海发生军事冲突不会晚于2008年。然而,2008年台湾举行的“入联公投”和领导人选举,不但没有引发军事冲突,反而伴随的是更加稳定的和平前景。在此,我先要为我预测的不正确向读者道歉”。在文中,阎学通还表示不同意“国民党上台,马英九接受‘九二共识’才有了台海和平”的观点,他认为“台海和平始于1979年大陆宣布和平统一政策而非马英九赢得2008台湾大选。……台海长期和平的直接原因是大陆实行了和平统一政策。……深层原因是大陆以经济建设为中心的政治原则。”
 

               
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