第50号 2009.12.05発行 by 矢吹 晋
    「金正雲後継情報の読み方」再論
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 2009年12月4日朝、食卓で紅茶を飲み前夜の焼酎の渇きを癒している脳味噌にテレビ・ニュースが飛び込んだ。「ジョンウン秘密訪中が明らかになった」という。ようやく出たか、と納得しつつ、インターネットで確認する。報道の骨子を文字で確認できるのは、実にありがたい。さもないと、二日酔いの幻覚かと私自身が思い込むおそれが強いような話題なのだ。


 NHK on Lineをそのままペースト・アンド・コピーすると、以下のごとくである。
 NHK on Line(2009.12月4日 6時10分)
北朝鮮の最高幹部の一人、チャン・ソンテク国防委員がことし6月、中国を秘密裏に訪れて胡錦涛国家主席と会談し、その際、キム・ジョンイル総書記の後継者として有力視される三男のジョンウン氏を紹介していたことが明らかになりました。これは、北京の複数の外交筋がNHKに明らかにしたものです。それによりますと、北朝鮮は、ことし6月10日ごろ、キム・ジョンイル総書記の義理の弟で、最高幹部の一人として知られるチャン・ソンテク国防委員を、キム総書記の特使として秘密裏に北京に派遣し、チャン氏は胡錦涛国家主席と会談しました。中国側は当時、その前の月に北朝鮮が強行した核実験に強く反発しており、会談でも胡主席はチャン氏らに不快感を示したということです。一方の北朝鮮側には、キム総書記の後継者として有力視されている三男のキム・ジョンウン氏が同行しており、チャン氏はジョンウン氏についての詳しい説明はしなかったものの、胡主席らに紹介し、胡主席とジョンウン氏は簡単なあいさつを交わしたということです。北朝鮮としては、中国指導部に友好関係を重視する姿勢をアピールし、核実験に対する中国の反発をやわらげようというねらいがあったものとみられます。ジョンウン氏の中国訪問は、北朝鮮国内でまだ表舞台に登場していないものの、ジョンウン氏がキム総書記の有力な後継者であることをうかがわせるもので、中国政府が訪中を否定しているのは、北朝鮮が事実を伏せるよう要請しているためとみられます。(下線は矢吹)

 顧みると、6月に「金正雲後継情報の読み方」を書いて以来、半年もこのコラムを休んでいた。他の雑事に紛れていたのである。8月に寧夏回族自治区を国際善隣協会の仲間とともに訪問し、回族農村のあまりの貧困に絶句した(『東方』11月号に書いた林燕平著『山村的守望』の書評を参照されたい)。その後、10月には、朝河貫一に英語を教えたネイティブ教師ハリファックスの墓参の旅に参加してソウル楊花津外国人墓地やキョンジュを訪問した。10月末には霞山会の講演で、ポスト胡錦涛を論じた。といった事柄のためにコラム更新を怠った次第である。
 さてコラム復活は、やはり金正雲である。6月にこの話題がにぎやかになったあと、正雲は当て字らしいという話になり、いまでは「ジョンウン」とカナ表記になったが、むろん同一人物だ。この情報(朝日6月16日および18日とFinancial Times 6月28日)は、コラムの前号に全文引用してあるので、ご参照願うとして、これら二つの報道機関の特ダネを半年後に、NHKが三たび確認したしたわけである。
 ではNHKは、どの筋から確認したのか。私がアンダーラインを引いたように、「北京の複数の外交筋がNHKに明らかにしたもの」である。北京の外交筋であり、かつ複数だという。私は二日酔いの頭で、まず中国外交筋を想起した。と言っても「007もどきの荒唐無稽」と否定した外交部ではなく、中聯部(部長王家瑞)あたりを想定してのことだ。これは、後半のもう一つの引用箇所に着目してのことである。「中国政府が訪中を否定しているのは、北朝鮮が事実を伏せるよう要請しているため」と解説してある。ここを私は中国政府(外交部)は否定しているが、党中央、すなわち中聯部が肯定した、と読んだわけだ。さもなければ、天下のNHKが後追いすることもあるまいと予想していたからだ。
 ところが、である。複数の友人たちに打診して見ると、今回もまたニュース・ソースは北京の北朝鮮大使館であるらしい。そしてこのニュースを確認したのは、同じく北京の韓国大使館であるらしい。絞り込むと、結局そこへ行き着く。北京当局は外交部はもちろんのこと、党の中聯部も軍も依然黙秘したままらしい。
 この黙秘理由を忖度して、NHK記者は「中国政府が訪中を否定しているのは、北朝鮮が事実を伏せるよう要請しているため」と解説した。この一文は読み方がむずかしい。北朝鮮が「訪中は秘密にしてほしい」と望んだから、中国政府は「この秘密訪中を否定した」と文面からは読める。しかし、6月の朝日、FTの記事といい、12月のNHK報道といい、元来のネタ元は北朝鮮筋、あえていえば北京の北朝鮮大使館なのだ。北朝鮮筋は、中国政府に対しては「秘密厳守」を懇願しつつ、他方でなぜ西側記者に三度もリークしたのか。ありえない。北朝鮮は西側記者に繰り返しリークすることで、中国側に「認知」を迫っていると読むのが自然である。私は6月に朝日の記者が書く前から、そのように想定していたのだ。だから、いまのところ、すべては私の想定通りである。
 この文脈では、「秘密を公然化したい北朝鮮筋」と「秘密を厳守したい中国」という構図と読むのが常識であろう。つまりは、金正雲後継を一歩一歩、内外に認知させたい北朝鮮と、その認知を容易には認知できない中国との間で、この事実が、虚構になったり、真実になったりしていることが分かる。10月4日、金正日は温家宝を平壤国際空港まで出向いて暖かく迎えた。この異例のサービスの裏には、「特別の謝意」が隠されている。金正日は何を感謝したのか。今回、北朝鮮筋が改めて「6月の金正日秘密訪中」の公然化を図ったのはなぜか。敏腕記者の追加フォローを期待したい。
 なお、張成沢(チャン・ソンテク)の訪中自体は、すでに報じられていることを念のために付記しておく。朝日が自慢げに特ダネを確認した短い記事も掲げておく。

 2009/08/19-18:31 金正日氏義弟、6月に訪中?=軍事誌

【香港時事】カナダの中国語軍事専門誌『漢和防務評論』(9月号)は北京の外交筋から得た未確認情報として、北朝鮮の金正日労働党総書記の義弟で国防委員の張成沢氏が6月に中国を訪れたと報じた。訪問の目的には触れていない。金総書記の三男、金正雲氏が同月訪中したとの説について、同誌は否定も肯定もしていないが、中国外務省が「尋常ではない態度」で正雲氏訪中の報道を何度も否定したのは、中国が北朝鮮の権力世襲を否定的に見ているからだと指摘した。(了)
 ジョンウン氏の極秘訪中、NHKが報道2009年12月4日22時8分

NHKは4日、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記の三男で有力後継者とされるジョンウン氏が今年6月、金総書記の特使に同行する形で秘密裏に中国を訪問し、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席と面会したと報じた。ジョンウン氏の極秘訪中については、朝日新聞が6月に報道している。これに対し、中国外務省の秦剛副報道局長は当時、「承知していない」などとしていた。NHKの報道について、鳩山由紀夫首相は4日夜、記者団に「報道は把握している」と述べつつ、「事実関係に関して政府として、北朝鮮問題は大変微妙な問題であるので、そのことに関してみなさまに申し上げることは差し控えたい」と答えた。また、「これからもいわゆる後継者問題などは関心を持って見つめていくテーマだと思っている」とも述べた。


(2009年12月5日朝執筆)
 

               
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