第51号 2009.12.15発行 by 矢吹 晋
    「金正雲後継情報の読み方」三論
[追記]池上彰「新聞のななめ読み」の大誤解
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 池上彰の「新聞のななめ読み」(『朝日』12月14日付夕刊)は、一知半解のように思われるので、敢えて苦言を呈しておきたい。
 このコラムは、『朝日』(6月16日付)スクープをNHK(12月4日)が報道したことに触れて『朝日』(12月5日)が自慢した「ジョンウン氏極秘訪中、NHKが報道」を踏まえて、「金ジョンウン氏訪中、他社の報道がお墨付き?」と解説したものである。
 このコラム全体の趣旨に問題があるわけではない。おかしいのは最後の部分だけだ。しかし、ここが分かっていない池上(に象徴される識者)には朝中関係の真実は見えないのである。池上はこう書いた。――なぜ中国は朝日の記事を否定したのか。NHKによると、「中国政府が訪中を否定しているのは、北朝鮮が事実を伏せるよう要請しているためとみられます」とのこと――。
 池上は、「北朝鮮が事実を伏せるよう要請している」ことを理由として、中国外務省が「007もどきの荒唐無稽」と否定したのだと解釈した「NHKの見方」を、追認しているわけだ。
 ところが、中国の否定は北朝鮮の要請を受けたもので「信義のために秘密を守る」態度だ、と解したNHKの解釈、それを肯定した池上の解釈は、事実に合わないのだ。
 というのは、このニュースは3回リークされているが、リークしたのはいずれも北朝鮮側なのだ。まず、『朝日』(6月16日付)スクープのネタ元が金正日の長男金正男であることは、いまや知る人ぞ知る常識だ。だからこそ、臆病な『朝日』がトップ記事として掲げたのだ。
 次に6月28日付英『フィナンシャル・タイムズ』が朝日の報道を裏書するような報道を行った。これも情報源は北朝鮮、そして韓国筋であり、中国サイドではない。では三度目の情報源はどこか。矢吹の「再論」(12月5日付)で書いたように、これもまた在北京の北朝鮮・韓国大使館らしいのだ。三度ともに、北朝鮮がリークしていることになる。
 では、北朝鮮は中国に対しては「秘密を守ってほしい」と懇願しつつ、自らはリークを繰り返しているのか。金正日はそういう男だ、といいなす半可通もいるであろう。しかしこれはありえない話だ。
 こうして金正雲秘密訪中を「吹聴し、リークしたい北朝鮮」と、これを「ひた隠しにしたい中国」という対立の構図を描くのが自然な受けとり方になる。
 事柄は単純なのだ。北朝鮮は金正雲を中国に認知してもらいたい。中国は(いまは)認知したくない。この静かな認知騒動は、「政治の文脈で私生児にも似た金正雲」を「認知させたい側」と「認知をしぶる側」との攻防なのだ。ジャーナリストも研究者も「藪の中の真実」を見極める努力を怠ってはなるまい。

(2009年12月15日朝執筆)
 

               
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