第63号 2011.07.18発行 by 矢吹 晋
    ウォルター、ホーヴィ共著『レッド・キャピタリズム』を読む
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RED CAPITALISMの表紙


 友人スチーブン・ハーナーの勧めで、この本をアマゾンに注文。234ページのハードカバー本が確か2000円ちょっとで買える。もし翻訳ならば、定価はこの2倍程度のはず。英語と日本語では、印刷部数は異なるから一概にはいえないが、日本の物価高は明らか。
 ウォルターは80年代に北京大学で中国語を学び、その後、中国の国有企業(央企)を化粧直ししてニューヨーク証券取引所に上場する際の、いわゆる「幹事証券」の役割を果たす投資銀行(あるいは証券会社)で働いてきた人物である。このような金融・証券界のウラを知る人物の書いた本だから、面白くないはずはない。本書6章の表6-6を眺めて見よう。ここには代表的な「央企」の上場の面倒を見た「Lead Underwriter(s)」(幹事証券)の名が担当企業ごとに明記されている。ウォルターの所属先は明らかにされていないが、この種の業務を担当したことから判断して、彼はゴールドマンサックスやモーガンスタンレー、あるいはその子会社に勤務しているものと私は推定している。金融・証券ギョウカイはとりわけ、外部から見えにくい世界であり、私はかねてこの分野の真実を知りたかったが、本書は私の好奇心をかなり満たしてくれた。しかも2000数百円だから、コストは小さい。

TABLE 6.6 The National Team: Overseas IPOs, 1997-2006
中国代表企業の海外上場1997-2006
公司 業種 幹事証券 上場日順 規模IPO Size
Company Industry Lead Underwriter(s) IPO Date (US$billion)
1中国移動 通信1/ 移動* Goldman Sachs 1997年10月23日 4.5
China Mobile
2中国石化 石油ガス1 Goldman Sachs 2000年7月7日 2.9
PetroChina
3中国聯通 通信2/ 移動* Morgan Stanley 2000年6月22日 5.1
China Unicom
4中国石化 石油ガス2* Morgan Stanley 2000年10月19日 3.3
Sinopec
5海洋石油 石油ガス3* Merrill Lynch/CSFB 2001年2月28日 1.4
China National Offshore Oil
6中国鋁 鉱業精錬 Morgan Stanley 2001年12月12日 0.5
Aluminum Corporation of China (Chalco)
7中国電信 通信3/固定線* Merrill Lynch/ Morgan Stanley 2002年11月8日 1.4
China Telecom
8中国人寿 保険1 Citi/CSFB/Deutsche Bank 2003年12月18日 3.4
China Life Insurance
9平安保険
Pin An Insurance
保険2 Goldman Sachs/ HSBE/ 2004年6月24日 1.8
10国際航空 航空* Merrill Lynch 2005年6月15日 1.2
Air China
11中国神華 エネルギーと電力* Deutsche Bank/ Merrill Lynch 2005年6月15日 3.3
China Shenhua Energy
12交通銀行 銀行1 Goldman Sachs/ HSBE 2005年6月23日 2.2
Bank of Communications
13建設銀行 銀行2 CSFB/Morgan Stanley 2005年10月27日 9.2
China Construction Bank
14中国銀行 銀行3 Goldman Sachs/UBS 2006年6月1日 11.1
Bank of China
15工商銀行
ICBC
銀行4 Merrill Lynch/ CSFB/Deutsche Bank 2006年10月21日 21.9
資金調達計 73.2
Total Capital Raised
Source: Wind Information
Nοte:*denotes company parent Chairman is on the central nomenklatura list of the Organization Department of the Communist Party of China


 本書からもう一つのグラフ8-2図を紹介したい。これは欧米の公的債務の大きさがGDPの7~8割に相当することを示す、有名なグラフである。日本の債務はGDPの約200%でその借金漬けはかなり有名だが、これに対して中国の公表統計では、図8-2に示されたように、4割弱であり、国際的にはかなり健全だというのが公表統計である。



 しかしながら、著者たちの実証研究によれば、ここで想定されている債務は債務の一部にすぎない。隠された地方政府レベルの債務と、不良債権の規模を合わせて示すと、次のような表が描ける。すなわち表8-1の通りである。この表によると、公表されている中央政府債務34%のほかに、地方政府の債務28.1%および推計不良債権15.3%を加えて、公的債務は「GDPの77.3%程度」と見るのが妥当だという結論が得られる。つまり、中国の債務は、日本と比べればはるかに少ないが,欧米とほぼ同じと著者たちは見ているわけだ。

中国の公的債務
項目 2009年実績 GDP 2011年予想 GDP
GDP 335353億元 100 420667億元 100
中央政府の債務
1 中央政府 6,471 19.3 6,471 15.4
2 財政部受取り、工商銀、農業銀行 807 2.4 807 1.9
3 財政部1998-2007特別国債 1,820 5.4 1,820 4.3
4 中国開発銀行債券 3,200 9.5 3,200 7.6
5 農業銀行債券 438 1.3 438 1
6 輸出入銀債券 810 2.4 810 1.9
7 鉄道部債券 396 1.2 396 0.9
8 4大銀行裏書債務 345 1 345 0.8
中央政府・小計 142890億元 42.6 142890億元 34
地方政府債務
1 current o/s local debt 7,800 23.3
2 4兆元による新債務(見込み) 11,800 28.1
地方政府債務・小計 78000億元 23.3 118000億元 28.1
不良債権
1 資産管理公司残高 2,730 8.1 2,730 6.5
2 不良債権率20%の場合 0 0 3,200 7.6
3 現存の不良債権 504 1.5 504 1.2
不良債権・小計 32340億元 9.6 64340億元 15.3
債務のGDP 75.5 77.3
出所、Wind Information

 最後にも一つ。上海の証券取引所の時価総額が東京をいつ超えるか、が話題になっている。中国経済の活力からして、東京を追い抜くのは時間の問題であることは明らかだ。ただし、中国のいわゆる「時価」には、一つのウラがある。それは中国の国有企業の場合、発行株式のすべてが流通しているわけではないことである。むろん日本にもそのような、株式の一部を国有としている企業がないわけではない。ただし、中国の巨大国有企業の場合、市場で流通し売買できるのは、総発行株数中3~4割にすぎない。これら流通部分について形成された、いわば「部分時価」をもって、これを総株数に乗じて、時価を計算するのは無理が伴うが、流通部分の比率を明示した資料は少ない。そのような点も見落とさないのが本書の価値であろう。




FIGURE 2.4 Comparative share floatation of listed banks, FY2008
銀行名 発行株中、市場で売買される株の比率 %
工商銀行ICBC 29.3
建設銀行CCB 34
モルガンJPM 100
中国銀行BOC 24.5
交通銀行BoComm 41.8
チャイナモバイルCMB 10.1
Citic 32.5


 この本の結論は、第1章のむすび「CHINA IS A FAMILY BUSINESS」に要約される。その要約の核心の一語は、「強欲資本主義」である。Greed is the driving force behind the protectionist walls of the “state-owned” economy “inside the system” and money is the language. この「強欲Greed」は、リーマンブラザーズが破産したとき、アメリカ資本主義について語られたキーワードだが、この文脈ではまったく同じだ。違いは、ただ一つ、それが中国流のもので、中国チームによって導かれる点だ。これは中国版ノーメンクラツーラの話なので、別稿で書きたい。
以上 

               
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