第70号 2012.09.05発行 by 矢吹 晋
    核心利益――中国の主張v.s.日米の拡大解釈 <目次>へ
「核心利益」が「人民日報」に出た回数
グラフ:「核心利益」が「人民日報」に出た回数


 「人民日報」に「核心利益」(core interests)が初めて現れたのは2002 年2 月28 日の王緝思論文(「求同存異 穏定大局̶紀念中美《上海公報 》発表30周年)であった。
研究者ではなく、外交部の役人が用いたのは、丁剛記者「唐家璇会見美国務卿」( 人民日報2003 年1月21日)が初めてであり、「唐家璇は台湾問題は中国の核心利益に関わる」と述べた。これは国務長官Colin Powellの訪米1カ月前で、対米スタンスを明らかにしたものであった(“Foreign Minister Tang Jiaxuan Held Talks With Powell,” Ministry of Foreign Affairs of the People’s Republic of China, February 25, 2003)。
 「核心利益」を 「主権と領土保全」(sovereignty and territorial integrity) の文脈で語る言い方は2004 年1月1 日に現れた(外交部発言人孔泉就美决定向台湾出售遠程預警雷達系統答記者問)。
「国家安全」(national security) のキーワードと結合して核心利益を語ったのは李肇星外相である(「 新時期外交工作的宝貴精神財富̶̶学習江沢民同志外交思想的体会」 人民日報 2006 年9月30日)。「米中戦略対話」の冒頭で戴秉国国務委員がこれを語ったのは、2009 年7月であり、「①維護基本制度和国家安全、②国家主権和領土完整、③経済社会的持続穏定発展」の3カ条を核心利益とした(「首輪中美経済対話: 除上月球外主要問題均已談及」 中国新聞網、2009 年7 月29 日)。これ以来、中国当局は「核心利益」を強調し続けている。
 尖閣については、2010 年11月2日、漁船衝突で日中が対立した当時、洪磊外交部スポークスマンが質問を受けたが、“Foreign Ministry spokesperson Hong Lei neither confirmed nor denied that the disputed islands were part of China’s core interest.”と答えている。彼は「肯定も否定も」しなかった。これが当時の現状である。
 南シナ海はどうか? これを中国は核心利益と主張したと初めて書いたのはニューヨークタイムズのEdward Wong記者電で、“In March, Chinese officials told two visiting senior Obama administration officials, Jeffrey A. Bader and James B. Steinberg, that China would not tolerate any interference in the South China Sea, now part of China’s ‘core interest’ of sovereignty, said an American official involved in China policy.”と書いたが、これは誤報であった。
 この記事が世界中をかけめぐったが、最も頻繁に書かれた国の一つは日本で、「Kyodo, October 22, 2010 」電がその代表だ。この誤報について米国の研究者はこう書いている。
 「よく検証してみると、中国当局は南シナ海が核心利益であるとは主張していない」(However, a close examination of the official Chinese sources consulted for this study failed to unearth a single example of a PRC official or an official PRC document or media source that publicly and explicitly identifies the South China Sea as a PRC “core interest.”)。
 中国当局は「それを肯定することを避けた」「たとえば外交部姜瑜の2010 年9 月21 日記者会見を見よ」(In fact, when given the opportunity to clarify the official record on this issue, Chinese officials have avoided doing so. For example, see “Foreign Ministry Spokesperson Jiang Yu’s Regular Press Conference on September 21, 2010”)。
 この検証を行ったのは、米カーネギー国際平和研究所のMichael D. Swaine博士である(China Leadership Monitor, No. 36, Winter 2011)。
(矢吹晋編『一目でわかる中国経済 第2版[201年までの展望]』第9章 軍事力Column9-1より抜粋)
以上 

               
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